ノエルが動いたと同時に、タバサの横っツラを風が掠めていく。
それが引き金となったのか、タバサにまとわりついていた何かが消え、体が自由に動くようになった。
ノエルとレオンの距離はおよそ10メイル。
タバサはすかさず「ウィンディ・アイシクル」の詠唱を唱えた。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
タバサの周りに十数本の氷の矢が浮かびあがり、ノエルの後ろから高速に発射されていく。
氷の矢はノエルの体ギリギリを飛んでいき、レオンともう一人の人物がいる空間へと突き刺さっていく。
なんとか先手はとれた。
魔法を詠唱し終えた後、タバサはすぐに動き出した。
相手は吸血鬼なのだ。油断は禁物だ。
タバサはノエルの後ろから近づきながら、再び新たな詠唱を始めた。
その間、ノエルとレオンの間合いは後2メイル程までに縮まっていた。
先程の援護は成功したようで、レオンの体に氷の矢が何本か刺さっているのが見えた。
しかしレオンはそのままノエルに襲いかかろうとする。
そしてノエルとレオンが重なった瞬間、レオンの腕が木々の間を飛び跳ねた。
「グアアアアアアッ!!!」
森の中を獣のような叫び声が響き渡る
レオンは地面に体を打ちつけながら森の中を転がった。
しかしそれを後ろにして、ノエルはそのまま前へと地面を蹴った。
恐らくレオンはタバサに任して、もう一人の敵へと襲いかかったのだろう。
タバサはすぐにレオンへと杖を向ける。
「ラナ・デル・ウィンデ」
唱えたのは「エア・ハンマー」。「ウィンディ・アイシクル」程の威力はないが、詠唱が短い分早く魔法を撃ち込める。
レオンが起き上がるよりも先に、風の塊がレオンの体をノエルのいる方向へと吹っ飛ばした。
魔法の連撃を全て受けたレオンはそのままぐったりと地面に倒れた。
肩腕は切られ、体には数本の氷柱が刺さっている。
タバサはレオンが動けない状態であることを察すると、止めを刺そうと再度魔法を詠唱しようとした。
その時、
「ストップ~♪」
タバサの背筋が凍りつく。
あの声・・・・・
タバサがすぐに振り向くと、タバサとレオンから少し離れた場所、地面が盛り上がって小高くなった場所に、あの声の主と...
「・・・・っ!ノエル...」
声の主のすぐ下には、膝を地面についてこちらをじっと見ているノエルがいた。
そのノエルの首筋には、30サント程の刃物が付きつけられており、首筋からはうっすらと血が流れている。
「動かないでね~。もう...こんな夜遅くにどんなウサギさんが来たのかなと思ったら...ホント、どっちも可愛らしい子供だったのねぇ~」
声の主はひとりでに喋っている。
しかしその声は、一言毎にタバサの心臓を握るような圧迫感を生み出している。
木の陰になっているため、タバサの方からは声の主の顔が分からなかった。
しかしその時、雲が動いたために月明かりが木の間をするりと抜け、タバサのいる辺り一帯を大きく照らし出した。
そしてノエルに刃物を当てている、声の主の顔も照らし出された。
その瞬間、
「...うそ」
思わずタバサは握っていた杖を落としそうになってしまった。
目の前にいる女性、その姿はよく知るドレスを着ており、
「どうしたのかしら~?私の顔になにか付いている?」
その顔はタバサの最愛の人、タバサの母であった。
◆
唇が震える。
どれだけ冷静になろうと思っても、体が言う事を聞かずに震え始める。
(お母様!!?何故...!!?違う!お母様がここにいる筈がない!お母様は今...)
絶対にありえない。
タバサの頭の中では叫ぶかのように自分の母がどういう状態なのかを思い返した。
そう、どうしたってここに母がいるだろうか?
しかし今、タバサの目の前にいる女性の顔は、タバサの母そのものだった。
タバサの頭の中は未だにぐしゃぐしゃに混乱している。
目の前の母の顔をした女は、ニッコリと笑いながら横の方を向くと、
「そこにいるお嬢ちゃ~ん?出てきておいで。隠れてもお姉さんにはお見通しよ~」
女が向いた方は、タバサやノエルが隠れていた方向である。
何故エルザの事がわかる?
森の中に、山彦のように声が響き渡る。
しばらくすると、木々の間からエルザが顔を出した。
しかし出てきたエルザの顔は、隠れていたのがバレた焦りや恐怖よりも、驚きの感情が浮かんでいた。
「お、おお、お母さん?...なんで?」
「え?」
タバサの口から声が漏れた。
(どういうこと?彼女の母?しかしあそこにいるのはお母様の顔をしている...どういうこと?)
二人の驚いた顔を見た為か、女は観察すようにキョロキョロとタバサとエルザを交互に見た後、フーンっと自分で納得したかのように声を上げた。
「うん、やっぱりこういうのが普通よね~」
タバサには女の言う事が分からなかった。
「あ、あ、そんなに驚かなくていいのよ~?今ね、貴方達にはどんな風に見えるか分からないんだけど~『一番心に思っている』人の顔が見えている筈だから」
女は先ほどとは打って変わったように、軽い口調で話し始めた。
「私が掛けている魔法はね~?あなたちの心の奥にいる人が私に見えるようになってるの~。普通は両親とか恋人なんだけどね~そういう風に戸惑うのが普通なのよね~」
まるで二人に説明するかのように女は喋る。
つまりその話が本当であるならば、タバサとエルザが見ている者は互いの母であるということだ。
タバサはわずかな間に、頭の中の引き出しをすべて開けてみたが、そんな高度な魔法、知っている人も、使える「人間」も見つけられなかった。
「だけどこの坊やさ~私を見た瞬間、戸惑うどころか逆に私に襲いかかって来たのよ~?
珍しい・・・普通、心の奥には「安らぎ」や「最愛」を象徴する人がいるんだけど~坊やの場合には「憎む」べき人がいるのね~」
女の言葉にノエルがギリッと歯を噛みしめたのが分かった。
ノエルにも自分の母が見えたのか?しかしそれだと明らかに矛盾する。
彼が殺したい程の人とは...一体?
タバサがそんなコトを考えていると、ふいに女がタバサに尋ねてきた。
「さて...お嬢ちゃん?私の名前はメアリ~、メアリ~・ステュア~トって言うの~。あなたのお名前は~?」
のんびりとした様子で、メアリーと名乗った女はタバサに尋ねてきた。
タバサはごくりと唾を飲み込むと、少しためらったが短く答えた。
「・・・タバサ」
メアリーはフゥっとため息を吐くと、ゆっくりと手をタバサの前に出し、
「森の精霊よ・・・飛べ」
メアリーがそう呟いた瞬間、彼女の足下にあった枝が宙に浮かび、タバサめがけて飛んできた。
突然の事にタバサは避けきれず、枝はタバサの頬を切り裂いて後ろへ消えて行った。
タバサの頬からドロリと血が垂れる。
「私に~嘘の名前を言うなんていい度胸してるわ~だけど?次はないわ」
タバサの背中に汗が流れおちる。
しばらくの間黙っていたが、やがて観念して本名を言った。
「シャ、シャルロット・・・・シャルロット・エレーヌ・オルレアン」
「そう、シャルちゃんね~♪私の事もメアリ~って呼んでね~っとそれで、そこのちっちゃい吸血鬼のお嬢ちゃん?お名前は」
「エルザ・・・」
「そう♪エルザちゃんね♪まさか仲間がいるなんて思わなかったわ~。どう?お姉さんと一緒に来ない?」
メアリーは嬉しそうにエルザに話しかけるが、エルザは怖がった表情を浮かべて、無言のまま顔を横に動かした。
メアリーは残念そうに眉を寄せた。
「そう...残念だわ~。さてっと、シャルちゃん?お願いがあるんだけど~シャルちゃんの足下に転がっているその袋?お姉さんに渡してくれないかしら?」
メアリーはニコニコと笑みを浮かべながらタバサの足下を指差した。
レオンが置いていた革袋はそのままの状態で放置されてあり、中になにが入っているのかは分からない。
タバサはゆっくりと言葉を返した。
「彼を放して...そうしたら渡す」
「それは駄目よ~。私この坊やの事気に入っちゃったんだもの~♪無事におうちに帰りたかったらぁ~、お姉さんの事ちゃんと聞いて欲しいなぁ~」
メアリーは拗ねるように口を細めると、先ほどと変わらない口調でタバサに言いかけてくる。
母の顔で、全く異なった声がタバサの耳に届いてくる。
目の前の吸血鬼はまるで女神かなにかの様にタバサに語りかけてくる。
しかしタバサにはそれが悪魔の囁きにしか聞こえない。
心臓が高鳴っているのが分かる。
数々の過酷な任務をこなしてきたタバサには、目の前に立つメアリーという吸血鬼が酷く恐ろしい物に感じられる。
タバサはサッと杖を横に向け、地面に倒れているレオンに杖の先を当てた。
「・・・・それはあなたの仲間も同じこと・・・彼を放せば袋とレオンを渡す」
タバサの杖の周りを風が回っている。
彼女はメアリーが話している時にひっそりと詠唱を唱えていたのだ。
地面に倒れていたレオンも気が付いたらしく、痛々しい体を引きずってうめき声をあげるが、それをすかさずタバサが止める。
「メアリー、あなたにとって大事なものが袋にあるのは分かった。彼を放せば袋を渡す。もし彼に何かすれば、こちらもタダでは済まない」
タバサは険しい表情でメアリーを睨んだ。
しかしメアリーの方は、まるで関係ないと言わんばかりに、フーンと声を漏らすと、また言い聞かせるようにタバサに話し始めた。
「あのね~シャルちゃん?なにか勘違いしていると思うんだけど~別にお姉さん「交渉」してる訳じゃないの」
メアリーはゆっくりと手を上にあげると、小指だけを上に向け、
「森の精霊 数多なるその命を断罪と化して 彼の者を処刑せよ」
次の瞬間、レオンの体がガクンと起き上ったと思うと、
「ブファ!?」
なんと地面から急激に生えた木の枝が次々とレオンの体を突き上げる。
わずかな間に無数の枝がレオンを突き刺していき、背中はハリネズミのように枝を生やしている。
余りに突然の事に、タバサも動けずにそれを見ているしかなかった。
「彼は~私の仕事を手伝ってくれただけで~別にどうでもいいんだ。袋の中身もそんなに大事じゃないし~。これは~私の「優しさ」」
メアリーが話し終わったとき、タバサの横には無数の枝に突き刺されたレオンが木の中に「浮かん」でいた。
「もう一度言うね~?「無事に」帰りたかったら~お姉さんの言うこと聞いて欲しいな♪」
◆
「彼は・・・・同じ吸血鬼じゃ・・・」
タバサは横で事切れたレオンを見ると、メアリーの方をキッと睨んだ。
しかしメアリーは手をヒラヒラとさせると「もう~シャルちゃんったら~。分かってないないなぁ~」と言った。
「あなたたちに貴族がぁ~平民から搾取するように、吸血鬼にも優劣はあるのぉ~。貴方達がなんのためらいもなく平民を殺すようにね~」
タバサはすぐに杖をメアリーに向け直す。
その時、ノエルの杖を持つ手がぴくりと動いたが、
「だめよ坊や?おいたはダ~メ」
メアリーはそう言うとノエルの首筋にあてているナイフを強く押しつけた。
ノエルの首筋から流れた血の筋がさらに広がった。
「いたずらする悪い腕は~こうしとこうか?」
メアリーは一言二言詠唱を唱えた。
するとノエルの持つ杖の周りに風が発生し、ノエルの杖を一瞬にして切り刻んだ。
ポロポロとこぼれる杖の破片を満足そうに眺めた後、メアリーはタバサの方を向き直った。
「いい?貴方達二人はこのまま家にお帰りなさい?私は追わないしなにも危害は加えないわ~それにシャルちゃん?あなたはそこのレオンを捕まえに来たんでしょ~?任務も達成できて一石二鳥ね~♪」
好き勝手言ってくれる。
タバサは奥歯を噛むと、今の状況を打開出来ない自分の非力さを呪った。
「・・・彼をどうする気?」
「ん~?そうね~屍人鬼にするのはもったいないかな~?でも素直に言うこと聞いてくれそうにないし~・・・・・・「牧場」で飼おうかしら」
「(牧場?)・・・・・断ったら?」
最後に呟いた「牧場」という言葉が気にかかったが、タバサはなるべく冷静さを装って、メアリーに問い返す。
今は出来るだけ時間を延ばす。彼女に隙が出来るまで。
メアリーはフフフと笑うと、急に表情を変えた。
「なにもない。全員殺して坊やと袋を持って帰ってそれで終わり」
その声は今までに聞いたことない、底冷えするような威圧感を伴っていた。
「別にこの坊やだって特別欲しいってわけじゃないの。シャルちゃん?あなたこう思ってない?「出来るだけ時間を延ばす。もうすぐ朝日が昇って強い光が森にも射してくる。その時隙が出来る」って」
タバサの頭からサーッと血が引いた。
考えていたことが見破られていた。
森の木に隠れて見づらいが、先ほどよりも空は明るくなっている。
このままでいれば突破口が出来ると思っていた。しかし...
「小娘が舐めるなよ。せいぜい10年ちょっとしか生きていない時間の中で、数百年生きている私に勝てると?そこのレオンやエルザのお嬢ちゃんと私が同じだと?」
先程までのおっとりとした表情はすでに無くなり、言い知れぬ雰囲気を漂わせ始めた。
メアリーは手に持っているナイフをさらにノエルに押し付けた。
ノエルの首から小さくプシュッと血が噴き出す。
「3つ数える...その間に答えられなかったら終わり。この坊やも殺して、シャルちゃんもエルザちゃんも殺して帰る。嫌なら大人しく背を向けて去りなさい」
メアリーがタバサにも聞こえるくらいの声で数え始める。
タバサはじっと黙ったまま動かない。
エルザは既に涙を流しながらこちらを見ている。
メアリーが「二つ!」と言った時、タバサは後ずさった。
「わ、分かった...私たちは」
ボトッ
何かが落ちる音が聞こえた。
一瞬、辺りが静まる。
タバサも、エルザも、メアリーでさえも地面に落ちたものに目をやった。
地面に落ちたのはナイフを持っていたメアリーの腕であった。
◆
「え~なん...」
メアリーが何か言おうとするより早く、膝をついていたノエルが動き出した。
体を捻って最小限の動きでメアリーの方へ体を向かすと、首に向かって腕を突き立てる。
その数瞬後、メアリーの首が宙を舞った。
首は放物線を描きながらタバサの方へと飛んでいき、袋の隣にドスンと落ちた。
あっという間の出来事、圧倒的絶望な状況からの逆転、
「なぜ・・・・」
タバサには分からなかった。
杖を壊されたノエルに魔法を使える手段はなかった筈。
それなのに何故・・・
「・・・・・るな」
ノエルがゆっくりとタバサに近づいてきていた。
タバサは顔を上げてノエルを見た時、彼の腕の周りがゆがんでいることに気づいた。
恐らく風の魔法を腕に纏わせ、それで彼女の腕や首を落としたのだと思われる。
ノエルの体はぼろぼろで、切られた首の傷は致命傷ではないが、流れた血がシャツを真っ赤に染めていた。
しかしノエルはそれを気にすることなくメアリーの首に近づいていくと、
「その顔を俺に見せるな!!!!」
と叫んで首を力いっぱい蹴り上げた。
しかし首が宙を舞った瞬間、何もなかったかのようにふっと消え去ってしまった。
「「!!!!?」」
ノエルとタバサはすぐにメアリーの居た場所を振り返った。
小高くなった地面には、メアリーの体も、ノエルが落した腕も跡形もなく消え、泣きじゃくるエルザがいるだけだった。
「・・・・彼女は?」
「...偏在か・・・あるいはそれと同じような」
その時、森の中にフフフフと先程から聞きなれた声が響き渡った。
―なぁ~んだ。お姉さん一本取られちゃったよ~♪まさか坊やにそんな隠し技があるなんてね~―
タバサは杖を構えて辺りを見回す。
しかしメアリーの姿はどこにも見当たらない。
―ああ~ムリムリ。貴方達じゃ私を見つけることは出来ないわ~―
タバサとノエルはエルザの元へと掛け寄った。
―このまま貴方達を消していくのも考えたけど~坊やの頑張りに免じて今回は見逃してあげるわ。良かったねシャルちゃん♪―
「待ってっ!」
―大丈夫よ~焦らなくてもまた会えるわ~。貴方達が私を見つけたのが運命であれば、再び巡り合うのも運命。また会うのは明日か、それとも数年、数十年後?楽しみだわ~―
言葉とは裏腹に、タバサの体からは力が抜けてくるのが分かる。
頭はそれを拒否しているが、体が恐怖からの安堵を取ろうとしている。
タバサは詠唱を唱えようとしたが、それを拒むかのように膝から崩れ落ちてしまった。
―そうそう...坊やの名前は?そう言えば聞きそびれちゃってじゃない?お姉さんに教えてよ―
ノエルはしばらくの間黙っていたが、ぼそりと、口から零すかの様に答えた。
「..ノエル・ホロドモール・ド・ドニエプル」
―・・・・・ああ~♪なるほどね~♪ノエルちゃんね~♪じゃあまた会いましょうか―
その言葉を最後に、メアリーの声は森の木に吸い込まれていった。
跡に残ったのは力が抜けきって起き上がれないタバサと血だらけのノエル、そして安堵から腰が抜けたエルザが森に残っていた。
空がみるみる明るくなる。
鳥の囀りも聞こえ始め、森の中にも光がはいりこんできた。
こうして、タバサとノエルの任務は終了した。
◆
「めでたしめでたし」モシャモシャモシャ
「いや、めでたくないから」
ガリアの王宮プチ・トロワ。
その中にある中庭のテーブルで、タバサは「ハシバミとハシバミとハシバミのサラダ(自称)」をもっさもっさと口に入れながら任務報告を行っていた。
テーブルの向かいにはイザベラが座り、サビエラ村での事を報告し終えるとハッと息を吐いた。
「し、しっかしよく生きて帰れたね!!そんな化け物と戦って生き残るなんざ、流石7号だ!」
「・・・彼の助けがなければ私は死んでいた」
「んで、その彼ってのはそこの芝生に膝抱えて縮こまって幼児に慰められている奴か?」
イザベラが目を移したその先には、文字通り膝を抱えて小さくなっているノエルと、それに抱きついてゴロゴロと転がっているエルザがいた。
「もうだもうだめもうだめもうだめ...学校をこんなに休んだら退学になっちまうドウシヨドウシヨドウシヨドウシヨ...生まれ変わりたい」
「大丈夫だよ~お兄ちゃん。エルザが付いてるから~それにお姉ちゃんも同じくらい休んでるだよ~?」
「ヒイイイイイイっ!!!!母様に殺されるうううウッ!!!」
二人の様子を見ていたイザベラは、呆れるようにタバサに尋ねた。
「なあ...あいつホントにそんな活躍したのかい?」
「彼は任務の時は学校の事を忘れていた・・・・終わった瞬間、単位と出席日数を気にし出した途端、ああなった」モシャモシャ
「いやいや...どんだけ心が弱いんだいあいつは」
タバサは傍に立っている使用人に、ハシバミサラダの追加を求めた。
彼女の横に積まれた皿を見て、何処に入っているのかなぁとぼんやり考えながら、自分の隣に立っていたメイドに声を掛けた。
「おい。あれを」
「はい」
メイドはイザベラの手にそっと金貨の入った袋を置くと、テーブルから立ち上がったイザベラは地べたを転がっているノエルに向かって思い切り投げた。
袋は丁度ノエルの頭に当たり、「アダパッ!」と変な声を出して止まった。
「なななん、何すんだよぉぉ!!?」
「成功報酬だよ!アンタとそこにいる娘がコイツを随分助けたんだろ!?私の人形が世話になったんだ。ちゃんと礼はしとかないとだな...とにかく貰っとけ!!」
イザベラはフンと鼻を鳴らすと、ぐったりとしているノエルを無視してドカっと椅子に座った。
それを見ていたタバサはフォークにハシバミ草を指しながらイザベラを見る。
「...なんだい?なにか言いたいことでもあんのかい?」
「・・・感謝する」モシャモシャモシャ
「んなっ!!!?」
急にタバサにお礼を言われ、イザベラはカ~ッと顔を赤らめた。
何かを言おうとしているのだが、「あうああうあう」と口を動かすだけで、何も言えない。
その後、イザベラが再起動したのはタバサがハシバミサラダを完食した後であった。
「あうああうああうあうあ~っっっ!!ふん!アンタに礼を言われる筋合いはないよ!!それより!!次はまた過酷な任務を与えてやるから覚悟するんだね!!」
「正直勘弁...ムシャムシャゴクン私の代わりにあの二人を起用することを推奨する」
「なんでアンタ抜き!?」
その後しばらくして、タバサ達は久々の学院へと戻ることになった。
「なぁ...タバサよぉ~無断で学校休んで...大丈夫かな」
「・・・・それは知らない」
彼らが出会ったのが運命であれば
彼女に出会ったのもまた運命である
そしてまた巡り合うのも...
タバサ編一時終了