「ジョルジュ、あなたは今年の春に、お兄さんのノエルと一緒にトリステイン魔法学院に入ってもらいます」
「いやださ」
ナターリアの言葉にすぐに拒絶の言葉を返したジョルジュを見たナターリアの視線は、実の子に向けるようなものではなかった。
ジョルジュはその視線に一旦はひるんだが、すぐに母に向け口を開いた。
「だって母さま。オラ15だよ?魔法学院に入るのに年齢は関係ねぇって聞いてるけど、別に今でなくてもよくねーか?オラ今忙しいだよ。来月には麦の刈り入れがあるし...せめて来年からいきてーだよ」
ジョルジュはナターリアにビクビクしながら自分の思っていることを話したが、ナターリアはジロリと睨んで、小さい頃、ジョルジュに魔法を覚えろといったあの時のような声で話した。
「ジョルジュ、あなたはひとりの男として立派に育ちましたけど、貴族らしさはさっぱりです。食事のマナーも出来ていないではないですか。この間も食事で出てきたフィンガーボールの水飲んでましたでしょ。あれは手を洗うものだと何回も教えてるではないですか。それに来年にはステラやサティも魔法学院に入れるつもりです。それなのに兄であるあなたが行かないでどうしますか?これからの将来のためにも、少しでも早く学校で貴族として必要なことを身につけにいくのがあなたにとって一番なのです」
「えっ、ステラやサティも入るんだべか!?ステラは頭がいいからともかく、サティは早過ぎるだよ。あの子さ、まだ10になったばかりでねーか!?あっ、それとこの前メイド長のアン婆ちゃん(79)達がグラスで入れ歯洗ってるの見ちまってな。とてもグラスで飲む気はしねーだよ」
「マジかよ!?あんの糞ババアァァァ!!今度あいつの脳みそ洗ってやる!!」
「母さま落ち着いて。口調が荒れているだよ」
「おっといけませんね。貴族たるもの常に紳士であるべきなのに。それはさておきジョルジュ、妹達の件ですがあなたも分かっている通り、ステラは14歳と幼いですが、非常に頭が良く、今ではあなたと同等、若しくはそれ以上の魔法を使えるのです。魔法学院に入れても問題ないでしょう。サティは・・・もう「特別」です。言わなくても分かるでしょ?あれが10歳の女の子に見えますか」
「母さまの言いたいことは分かるだよ。だどもそれって半ば育児放...」
「黙らっしゃい!!そんなものではありません。私は常にあなた達のためを思って行動をしているんですよ。決して「手に負えねー」だとか「もう子育て面倒」とかでは決してあり得ません。ええ違いますとも」
母の本音がちらちら見えている会話ではあるが、確かに母の気持ちも、ジョルジュには理解できるのだ。下の妹であるステラとサティは、ジョルジュから見ても変わり者だと思えるぐらい変わっているのだ。
次女であるステラ・テルノーピリ・ド・ドニエプルは、ジョルジュと一つ違いの14歳であるが、ドニエプル家では一番の秀才である。
ジョルジュと違い、幼いころから本の虫になっており、彼女が読んだ本の中には、父バラガンが頼み込んでもらってきた王立研究所の研究論文もあった。そして兄妹の中で一番早く魔法を使えるようになったのはジョルジュであるが、一番「強力」に魔法を使えるのはステラなのだ。例えるならば、ジョルジュが魔法でひとつだけ持てるような物を、ステラは二つほど持ち上げるような感じである。ステラの魔法の威力は、初めて見た人は皆、トライアングルクラスの魔法なのかと思われる程であるが、彼女が使えるのは未だに火の一系統のである。
実はステラ、通常のメイジと比べ遙かに魔力の放出が多く、単なるドットレベルの魔法でも通常の2倍3倍の威力を出すことが出来るのだ。
しかし、それゆえコントロールはかなり困難であり、しかもドットスペルの魔法でさえも莫大な魔力を消費する。当初はその魔力が暴走することが度々あったが、生まれついての類まれなる頭脳によって、様々な実験を経て、着々と制御を可能にしている。現在、使える魔法の「数」ならばジョルジュが優っているが、同じ魔法の強さとなるとではステラなのである。
ジョルジュのことは「兄様」といって慕っており、夜中での魔法の練習では、共に練磨し合い、畑や牧場での作業も手伝うぐらい仲がいいのだ。
時折見せる鋭いまなざしはバラガン曰く、「ありゃあ間違いなく母の血を受け継いだ」と言わせている。
家では一番幼い、サティ・オデッサ・ド・ドニエプルは、ジョルジュと5つ違いの10歳であるが、ドニエプル家では一番の巨体である。
ジョルジュと違い、幼いころから体が大きく、6歳の時には身長は180サントに達しており、当時既に父バラガンの身長を抜いてしまっていた。そして兄妹の中で一番早く魔法を使えるようになったのはジョルジュであるが、一番「強力」に体術を使えるのはサティなのだ。例えるならば、ジョルジュが魔法でひとつだけ持てるような物を、サティは素手で持ち上げるような感じである。サティの体術の威力は、初めて見た人は皆、トライアングルクラスの魔法かと思われる程であるが、彼女が使えるのは未だにコモンマジックのみなのだ。
実はサティ、他人よりも成長が著しいことに加え、ジョルジュが前世で習っていたソ連の格闘術、「システマ」を護身術として教わり、単なる護身から自らが使える魔法と合わせることで独自の格闘術へと作りあげたのだ。
しかし、実戦への投入はかなり困難であり、しかも体を動かしながらの魔法の使用は莫大な体力を消費する。当初は兄ジョルジュに敗北することが度々あったが、生まれついての強靭な身体によって、様々な実戦を経て、着々と戦闘スタイルを完成させている。現在、戦闘自体ではジョルジュが優っているが、接近戦のみの強さとなるとサティなのである。
ジョルジュのことは「兄さん」といって慕っており、早朝での鍛錬では、共に練磨し合い、クマやオーク鬼の退治も手伝うぐらい仲がいいのだ。
時折見せる鋭いまなざしはバラガン曰く、「ありゃあ間違いなく闘神の生まれ変わり」と言わせている。
そんな個性が強い妹達は、確かにナターリアには手には負えないだろう。実際、教育を一手に担ってきたナターリアには、ジョルジュを含めた下の3人には早く独立してもらいたいという心境になっていた。
「とにかく、あなたたちには早く一人前の貴族として立派になってほしいのです。ヴェルやマーガレットも来年、再来年には学院を卒業するでしょう。きっと一人前の貴族になっているはずです。ジョルジュにもそうなってほしいのです。母の願いを聞いてはもらえませんか?」
目を潤ませながらじっと見つめられて言われたナターリアの言葉に、ジョルジュは反対の言葉を言うことは出来なかった。
「母さま、そんなにオラの事を思って...分かっただ!!オラ魔法学院さ行って一人前の貴族になってくるだよ」
「よっし・・・ああっ、分かってくれたのですね。それでこそドニエプル家の子供です。」
「今「よっしゃ」って言おうとしてなかっただか?でも母さま、学院には行くとしてもその間、誰がオラの畑や牧場見てくれるんさ。あとターニャちゃんとこの麦の刈り入れの約束も・・・・」
その時、ジョルジュの後ろのドアがバンッ!!と開いて、紅い髪を編み込んだ、黒いドレスを着た少女が舞い込んできた。
肌は健康的に程よく焼けており、160サント程の背丈でたってちいさいメガネをかけているその少女には、黒のドレスと燃えるような赤い髪がより一層彼女の存在を際立たせいた。
ドニエプル家次女、ステラであった。
「そのことなら大丈夫です兄様。兄様が学院へ行った後は私が責任を持って管理します。もちろん私が学院に行く前にはお父様に引き継ぎしますが...」
「ステラいきなり後ろから現れねーでくれさ!!オラこの年で出ちゃいけないもん出そうになっただよ」
「心配いりません兄様。この部屋は別に兄様や私の部屋ではないんで・・・」
「おい娘よ。それはどーいう意味だコラ」
「しかしオメェいつから部屋の外にいたんだ?」
「兄様が「いやださ」って言っている時からです。あっちなみに学院のことは既にお母様から聞いていましたので、ターニャさんへはキャンセル入れておきました」
「おおおうぅい!!オラの返事さ聞かねぇでもう言っちゃったの!?先読みしすぎだよ」
「ターニャさん宅は快く了承してくれました。「ジョル坊頑張れって」伝言頼まれましたよ」
「お、おぅぅぅ...なんて良い人たちなんだべ~。よし、オラ頑張ってくるだよ!!ステラ、畑の事さ頼んだだよ」
「てかお前そこら中に泥落とすんじゃねえよ!!入って来た時から泥つきの作業着のまんまでいやがってこのヤロー。私の部屋だぞ」
「大丈夫です。この部屋は別に兄様や私の部屋ではないんで・・・」
「この小娘がーッ!!あの婆共もろとも地獄に落としてやるわ」
その後、ナターリアの部屋はいろいろ汚れてしまったが、ジョルジュがこの春、トリステイン魔法学院に行くことが決まったのである。
「そういやステラ、サティはなにしてるだべか?」
「サティならお父様に魔法(挌闘)の訓練を受けてると思いますが…そういえば、先ほどお父様の声が聞こえてたのですが、今は何も聞こえませんね...」