6.ルーナ×フレイム×○○○
―大分盛り上がっているようですね舞踏会は...それで、一体どうしたんですか?皆さん―
舞踏会の会場から響く音色や人間の声が外に響いてくる。
ルーナは花壇のそばの芝生に座り、中から聞こえてくる音に葉を揺らしながらジョルジュが用意していた肥料の入った水を一口グラスから飲んだ。
『どうしたもこうしたもねぇよ!!ウチのご主人、自分の準備だけしてオイラの餌なんて忘れてるんだぜ!!やってらんねぇよ!!』
そう叫ぶと、キュルケの使い魔フレイムは口から火の粉を二度三度吐き出した。
飛び散った火の粉がルーナの足に付着し、先端を軽く黒くした。
ルーナは黙って腕に巻きついている蔓を動かすと、フレイムの頭に高速で振り落とした。
風を切る音と共に、『ヒデブっ!!』とフレイムの鳴き声が響いた。
芝の地面にはいつもより四つん這いになって地に伏せるトカゲの姿が残った。
―それを私に言ったトコロでどうにもならないでしょうフレイムさん。それに、どうやらあなたのような方は沢山いらっしゃるようで―
フレイムをのした後、ルーナは周りに目を移しながらフレイムに答えた。
ルーナがいる花壇の周りには、舞踏会にいった主人の帰りを待っている使い魔達が、それぞれ気の合ったモノ同士で話していた。
ルーナのすぐ傍の花壇脇では今年の使い魔では最も大きいであろう風竜のシルフィードが地面に頭を下げ、モグラのヴェルダンデに話しかけている。
『キュイキュイ!!おねえさまったら「今夜は自給自足」だなんて酷いのね!!って、ヴェルちゃんはちゃんともらえたのね!?』
『僕のご主人はミミズ用意してくれたんだけどね...ちょっと量が少ないんだな今日は...なんか慌ただしく部屋飛び出しちゃったし』
壁の傍に植えられた木の枝では、鳥の使い魔が数羽、中央に止まっているフクロウのクヴァーシルを囲んでいる。
『どうしたのよクヴァーシル?元気ないじゃない』
『あの太った主人にセクハラでもされたの?』
『私...もうマスターの部屋の臭いに耐えられなくて...ほら私そんな鼻が利く方じゃないでしょ?でも部屋の中にいると時々「ウッ!!」ってなるのよね』
話している内容は様々であるが、やはり使い魔の生活がある程度過ぎたタメか、各々人間には分からない不満が出てきているようだ。
―皆さん色々とご不満をお持ちなようですね...使い魔も楽じゃないってことでしょうか―
ルーナはクスクスと笑うと、グラスに入った水をまた一口飲んだ。
それをじーっと見ていたフレイムは、まだ揺れている目の焦点を合わせ、火の粉を飛ばさないようゆっくりとした口調でルーナに尋ねた。
『お前、何でわざわざそんな飲み方しているんだ?人間みたいな真似なんぞして』
フレイムの問いに、ルーナはグラスをクルクルと揺らしながらまた笑い、
―いえ...今日は舞踏会なので、私も人間の様に真似て飲んでみようかと―
そう言った後、ルーナはグラスの水を一気に飲み干した。
フレイムはフーンっと軽く唸るが、足もとで「ゲコゲコ」とカエルの鳴き声に気づき下を向く。
泣き声に気づいたルーナも目を下に下げると、黄色い皮膚にリボンが巻かれたカエル、モンモランシーの使い魔ロビンが喉を鳴らしていた。
『やあやあルーナ嬢にフレイム氏。あなた方も今宵の舞踏会の熱に誘われて花壇に?』
―あら、ロビンさん―
『ロビン、そういうお前はあの巻き髪ご主人に放り出されたのか?』
フレイムはチロチロと舌を出してクェェと低く鳴いた。
ロビンはゲコッと一つ鳴くと、ピョンとフレイムの鼻の先に乗り、中央によるフレイムの目を見ながら饒舌に語り出した。
『いやいやいやフレイム氏。私の主がそんな使い魔泣かせなことをしませんよ。私は自分の意思で出てきたのですよ自分の意思で。我が主は夕方から鏡の前でずーっと指を動かしてると思いきや、時折独り言をブツブツと。「もしかしたら今日...」とか「や!それはまだ早いって!!」など呟いているんですよ。しまいにはせっかく着たドレスもまた選び直したり髪型を変えたり...そんな主に「すみません。今日の夕食はなんでしょうか?私としてはいつものハエはいささか飽きたところなのですが...」などと言えますかフレイム氏?言えないでしょ?ああ、あなたなら言いそうですねあのツェルプストー嬢に。とにかく、そんな主の傍に居ても御力になれませんからね。私、そっと部屋のドアを閉めて庭へと来たワケですよフレイム氏。池の赤虫を捕まえて食事を楽しんでる所、このような皆さんの集まりに気づいて...』
『おーい長ぇよ!!どんだけ喋れば気が済むのこのカエル!?』
フレイムは鼻の先で喋り続けるロビンに我慢できなくなり、振り落とそうと首を横に激しく降った。
ロビンはその勢いと共に跳ねると、今度はルーナの指の先に付いた。
『おや、すみませんルーナ嬢。全く、話は最後まで聞くのが紳士の嗜みじゃないですか?そもそもあなたは...』
『やめやめ!!また長くなる!!それに紳士も何もオイラは只のサラマンダーだからね!?』
フレイムは大きな声を出し、ロビンの呪文のような長くなる会話を止めた。
ロビンはまたピョンと地面に跳ねると、一回喉を鳴らし、黒い眼玉をルーナ、フレイムの両方に向けるとまた一回喉を鳴らした。
『さてさて、どうやらフレイム氏が私の会話に付き合って下さらないようなので、ここは失礼させていただきますよ。ではルーナ嬢、我が主のコトまたよろしく頼みます』
―こちらこそロビンさん―
ルーナはロビンに向かって丁寧に頭を下げて言った。
ロビンは満足そうに喉を鳴らすと、規則正しいリズムで跳ねながら離れていった。
フレイムはルーナのいない方に火の粉を吐くと、うんざりしたような目をルーナに向けて一声鳴いた。
『まったく、あのちっこい体でどんだけ喋るんだか』
―あら、そういうフレイムさんも良く喋る方だと思うのですが―
『オイラはあんなにうっとおしい程喋ってる覚えはないよ』 プチッ ゲコッ!!
―あ、ロビンさん今、シルフィさんに踏まれましたね―
『え?』 キュイー!キュイー!
振り向いたフレイムの先には、シルフィードの足に注目する使い魔達と慌ただしい鳴き声があった。
月はまだ上に登ったまま照らしている。
主人の舞踏会と同様、使い魔の舞踏会(?)もまだまだ続くようだ。
7.モンモランシー×○○○
よし、大丈夫。
髪も十分整えたしドレスも着たし...一体何度着直しただろう
香水はこの日のために作った新作を使ってきたし...大丈夫よね?変なにおいしてないよね?
本でしっかりと予習したし...「彼氏と甘い夜を過ごす100の魔法」(シュヴァリンヌ著)
モンモランシーは事前確認するかのように小声で呟きながら会場への階段を昇っていた。
―モンちゃん。今年のフリッグの舞踏会だけどオラと踊ってくれないだか?―
アレはジョルジュが耳かきをしながら真面目そうな声で尋ねてきたのが始まりだった。
モンモランシーは去年の舞踏会もジョルジュと踊っていたのだが、なんの気なしに会場でいたジョルジュと踊っていた去年とは違い、今年は向こうからのリクエストだ。
モンモランシーもそりゃ慌てる。
(まあ、あれから1年経って?その...ジョルジュとは..ホラ...友達以上に...仲良くなったし?やっぱりこういう日ってそのぉ...思い出に残るじゃない?やっぱアレかな?男女がこう...イヤ、嫌じゃないけど、こういうのはムードが大事だし!?だから私としても、ろ、ろ、ロマンチックにね?)
その時はどう返事したのか記憶にはなかったのだが、部屋に戻ってからひっそりと本棚にしまってある本「彼氏と甘い夜を過ごす100の魔法」(シュヴァリンヌ著)を広げた。
朝になってフーケが出たとか、捜索隊にジョルジュが入ったとか、夜更かしして眠いなどいろいろあったが、無事ジョルジュも戻り舞踏会も始まった。
階段を上りきると、扉の前に立つ使用人が重そうに会場への入り口を開いた。
会場への扉が開いた瞬間、少し静まり返った会場内の空気が彼女に押し寄せてきて金髪のロールをなびかせた。
「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ嬢のおなぁ~りぃ~!」
会場内へと入ると衛士の声が響き、視線が一斉にモンモランシーに集まる。
そんな視線も気にせずにモンモランシーは会場の中へと進んでいくと、次々と男子学生がダンスを誘いに来た。
私と踊っていただけませんか
ぜひ私とダンスを
普段は喋ったこともない男子生徒もやって来るが、モンモランシーはやんわりと断りをいれ、会場内をぐるっと見回した。
先に来ている筈なのだ。
先ほどの衛士の声もあったから気づいていると思うのだが...
モンモランシーはしばらくキョロキョロと辺りを見渡していたが、後ろへ振り向いた時、見覚えのある声が聞こえてきた。
「モンちゃん!」
声がする方へと顔を向けると、少し離れた所から近づいてくるジョルジュが視界に入った。
整えられた紅い髪と黒い服が、いつもの彼にない雰囲気を醸し出している。
モンモランシーは内心ドキッとしながらも、迎えに来たジョルジュを見ながら言った。
STEP1.最初はいつも通りに振る舞って♪特別なイベントだからって気合いを入れすぎてるとヒかれちゃうよ?(第1章「がっつき過ぎて男にひかれる」より)
(お、落ち着いてモンモランシー。いつも通りよ、いつも通りにふるまうのよ)
「あ、ジョ、ジョルジュ。遅くなってゴメンなさい。待った?」
「んにゃ、大丈夫だよモンちゃん」
ジョルジュはそう言ってモンモランシーにほほ笑んだ。
するとモンモランシーが会場に入ったのが合図であるかのように曲が流れ始めた。
STEP2.相手が困っていたらそれとなくリードしてあげよう!!(第5章「寒空の下のお見合い」より)
モンランシーは横で辺りを見回しているジョルジュを見てニヤッと笑うと、ジョルジュの肩を指で小突き、
「あら?ダンスに誘ってくれないの?ジョルジュ」
モンモランシージョルジュを見ながら意地悪そうに尋ねた。
誘ってくれなかったらせっかく気合いを入れて準備した意味がないのだ。
しかしジョルジュはそんなモンモランシーの心情を知ってか知らずか、急にモンモランシーの頬を手でそっと撫でた。
(な、なな、ななな!?ななななななななんあななななぁ!!?)
突然の行為にモンモランシーの顔はカーッと熱くなってくる。
ジョルジュはケロッとした表情で、
「モンちゃん急いできただか?顔もの凄い熱いだ。ダンスの前に少し休むだよ」
ジョルジュはそう言ってモンモランシーの手を掴んだ。
その行為にモンモランシーはボンっと顔を赤くする。
(ちょ、え、なに?今日のジョルジュなんか積極的な様な...)
モンモランシーはブツブツと小声でつぶやきながら、手に伝わるジョルジュの力を感じながらバルコニーへと出た。
(モンちゃん...顔赤くしたり独り言呟いたり...どっか調子悪いんだか?)
STEP3.何よりも冷静になることが大事!浮かれすぎてると失敗しちゃうよ!(第3章「調子に乗っていたら財布の中身がなくなった」より)
「いけないわモンモランシー...冷静に冷静に...」
モンモランシーはそう自分に言い聞かせながら、ジョルジュが持ってきたシャンパンのグラスを傾けた。
曲が始まった所為かバルコニーには人はいなく、会場内では曲に合わせて踊る男女が多数見える。
空になったグラスを見つめながら、モンモランシーはほぉっと息を吐いた。
シャンパンでさらに火照った顔にやさしく風が吹いてくる。
モンモランシーはロールの先端を指でクルクルと回しながら、会場の中をチラッと見た。
飲み物を取りに会場に戻ったジョルジュを探してみるが、人が多すぎて分からない。
「全く、せっかくなんだからもっと一緒にいてほしいのに...」
「?なにが欲しいだか?」
「ウヒャオォォッ!!!?」
モンモランシーは奇声を発して横へと飛び跳ねた。
会場から帰ってきたのか、モンモランシーを心配そうに見つめるジョルジュの両手にはグラスが二つある。
「ジョ、ジョルジュ!?ちょ、驚かさないでよ!びっくりしたわ!」
「びっくりって...どこに驚く要素があったか分かんないだよモンちゃん」
ジョルジュはワインの入った一方のグラスをモンモランシーに差し出した。
「ハイ。モンちゃん喉が渇いてるだか?今日は良く飲むだなぁ」
ジョルジュの言葉にモンモランシーはウッと言葉が詰まる。
彼女の背後にあるテーブルには、今まで彼女が飲んで空になったグラスが10数個置かれている。
「そ、そうね!?いや~なんだろ今日は?すっごい喉が渇くわ~」
しどろもどろになりながらワインを一口飲むと、モンモランシーはジョルジュをじっと見つめて言った。
STEP4.二人きりになったらまずは軽い会話を。今日の出来事から話すのがベストかな♪(第8章「結婚匂わせたら逃げられた」より)
「きょ、今日は大変だったわね。フーケの所為で花壇が酷いことになっちゃって。それに捕まらなかったんでしょ?」
花壇が壊されたのを彼女が知ったのはジョルジュが捜索へと向かった後であった。
それまでは「フーケが現れた」という事しか知らず、現場を見ようと花壇へ向かって初めて知ったのだ。
ジョルジュは少し苦い表情を浮かべると、
「んぅ~でも盗まれた「破壊の杖」は戻ってきだし、誰もケガがなくて良かっただよ」
「でもジョルジュ、大切に育ててた花壇だったじゃない」
「壊れたらもうしょうがないさ!!いつまでも悔やむよりも次に挑むことが大事だよ。それより...」
ジョルジュは急にモンモランシーの額に手を当てた。
(ちょ、急になあああああばばばばば...)
またしても不意の急接近に、モンモランシーの顔が赤く染まる。
それとは裏腹に、ジョルジュは目を細めて尋ねる。
「モンちゃん大丈夫だか!?なんか顔がものすごい熱いだよ!?熱でもあるだか?」
「い、いやいや!!全然大丈夫よジョルジュ!?ちょっと飲み過ぎたかしら?ホホホホ・・・」
モンモランシーは笑いながらワインをぐっと飲み干すと、空になったグラスをテーブルに置き、手で顔をパタパタと扇いだ。
(やばいやばい!!なんでこんなことで慌てまくってるの私は!!?来る前に読んだあの本(彼氏と甘い夜を過ごす100の魔法)の所為!?)
内心慌てふためく彼女を見てジョルジュは小さくほほ笑むと、飲んでいたワインのグラスをテーブルに置いた。
モンモランシーはキョトンと見ていたが、振り向いたジョルジュの顔はいつになく真剣な面持ちを浮かべていた。
「モンちゃん。オラ、モンちゃんに言いたいことあるだ」
モンモランシーの顔が驚きに染まった。
モンモランシーはあうあうと口を動かしながら本に書いてあった内容を思い出した。
STEP5.相手が普段とは違く見えたり、急にタッチしてきたり、お酒を勧めてきたりした時は気をつけて!!向こうは‘ソノ’気だよ!!(第6章「酔わされて惑わされて騙されて」より)
(ぜ、全部当てはまってるー!!!?何‘ソノ’気ってどんな気!?)
「モンちゃん...」
ジョルジュが一歩踏みだしてモンモランシーへと迫る。
混乱する頭の中でグルグルと思考が駆け巡る。
目の前にいる少年に目をやる。
傷だらけの顔…でも優くて暖かい。
いつも見せる土だらけの顔も好きだけど、偶に見せるこういう表情にグッと来てしまう。
STEP6.一回相手を突き離そう!!その後に見せる優しさに相手はメロメロ!! (第2章「優しさに溺れた末路」より)
(あ...そうだ。突き離さないと...でも)
モンモランシーは律義に本の内容を行おうとしたが、目の間にいるジョルジュを見るとそんな思考は止まってしまう。
「モンちゃん!あの...」
「だ、ダメよジョルジュそんな、イヤジャナイケド...」
モンモランシーは顔を横にして弱弱しく断ろうとするが、前に出した手をそっと掴まれる。
「あッ...」
モンモランシーは顔を前に向きなおすと、ジョルジュの顔が目前にある。
掴まれた手首から彼の体温が伝わってくる。
(ジョルジュ...)
モンモランシーは覚悟を決め、スッと目を閉じた。
「や、優しく「いつもありがとうだよ」ってえ?」
モンモランシーが目を開けると、そこには少し顔を赤く染めたジョルジュがいた。
「その、学院に入ってからいつもオラの事助けてくれてホント感謝してるだ。こんな日だからってコトじゃないけど、ホントにありがと...ってモンちゃん?」
ジョルジュは言葉を止めてモンモランシーに尋ねた。
先程まで上がったテンションは急激に下がってしまったためか、モンモランシーの表情はどことなく疲れきってるようだった。
「いや、なんでもないわよ。何でも。ホホホ...」
STEP7.奥手の相手には気をつけて!! ヒトの気持ちを上げるだけ上げて落とすよ!!(第3章「幸福のレビテーションから急降下」より)
(ハァ...忘れてた。ジョルジュが自分からそんなことするような性格なんてしてなかったわ。一人で盛り上がってバカみたい)
目の前でジョルジュが何か喋っているが、気落ちしたモンモランシーの耳には何も聞こえてない。
もう帰ろうか。
そう思いながらふと手を見ると、先ほど掴まれた手の薬指に何かはめられている。
じっと見つめてるとそれは指輪、それも何かの植物で作られたような指輪で、宝石の代わりに小さな白い花がキラキラと月の光に照らされている。
「ジョルジュ...これって」
モンモランシーがあっけに取られてジョルジュを見ると、ジョルジュは軽くほほ笑んで、
「いつも渡してるのってハーブなんかの食べ物だろ?今回はちょっと工夫して花で指輪作ってみただ。あっ、「固定化」かけてるから当分は枯れないだよ?」
ジョルジュはハハハと軽く笑った。
モンモランシーはようやく状況を理解したのか、みるみる顔が熱くなってくるのを感じた。
嬉しさのあまり指輪が付けられた手が震え、眼尻から涙が出てくる。
「あ、ありがと...グス嬉しい...」
モンモランシーはにこやかにほほ笑むと、指輪がはめられた手を月にかざした。
月の光りを浴びた花は白く淡い輝きを放っている。
「奇麗...」
うっとりと指輪を眺めていたが、急にハッと何かに気づいたかのように固まった。
STEP8.指輪なんかもらったらクライマックス!!つかプロポーズじゃね?もう結婚しちゃえよ・・・(第10章「最後の止めは結婚指輪」より)
「じょ、じょ、ジョルジュ?これってププ、プロ、プロポー...」
モンモランシーはすっかりと赤くなった顔で尋ねるが、声が震えて上手く喋れない。
ジョルジュも下を向いて表情が見えないが、耳が赤くなっている。
曲が終わったのか、会場からの騒ぎが収まって静まった二人の間にぼそっと声が聞こえた。
そして彼女の耳にかすかに聞こえてきた。
「出来れば.....これからも一緒に...居てほしいです」
それはかすかに、しかし確かに彼女の耳に入ってきた。
「あ、あのそれって...」
モンモランシーが何かを聞こうとした次の瞬間、新しい曲が会場から流れ始め、ジョルジュはパっと顔を上げた。
「...そろそろ踊らないかモンちゃん?」
「え、ちょ、ジョルジュ、サッキノ…」
モンランシーは口を動かすが、幸福と驚きと緊張の所為か上手く声が出ない。
ジョルジュは手をすっと彼女の前に差しだした。
「お、オラと踊ってくれませんだか?姫君」
ジョルジュのダンスの誘いに、モンモランシーが既に返す言葉は決まっていた。
「あ...は、はい」
そして彼女は指輪が輝く手をジョルジュの差し出した手にそっと乗せた。
―最終的に幸せになった男女は死ねばいいと思う。バカップルは皆死すべし―
(「彼氏と甘い夜を過ごす100の魔法」最後まで読むと見える最後のページより)