注.後篇が長くなりすぎたので二つに分けました
4.マーガレット×○○○
舞踏会も中盤に差し掛かり、会場の所々では始まった時よりも男女のペアが目立つようになってきた。
また、諦めていない男子生徒が必死にアプローチを掛ける場面や、誘ってもらおうと会場を歩く女子の姿も目立ってきた。
そんな慌ただしくなってきた生徒間での喧騒から離れた場所にマーガレットはいた。
室内の隅にいるのだが、真紅のドレスが赤い髪と合わさり、彼女特有の朗らかさに加え、妖艶さも漂わせている。
彼女自身が用意したのか、窓の前に椅子が二つ、小さなテーブルを挟んで置かれ、テーブルには幾つもの瓶とグラスが、そして左側の椅子には彼女が座っている。
隣の席を確保しようと舞踏会が始まってから何人もの学生が彼女に詰め寄ってきたが、マーガレットはその度にいつもとかわらずケラケラと笑い、そして撃沈していった。
20人目の生徒が撃沈した後、マーガレットは少し赤くなった顔で鼻歌を口ずさみながら手紙を読んでいた。
羊皮紙に書かれたその手紙の内容は分からないが、上機嫌に呼んでいる限り彼女にとって吉報なのであろう。
マーガレットはテーブルに置かれたグラスを掴むと、口元で傾けた。
「・・・・あら、もうないの?」
マーガレットは残念そうな表情を浮かべ、空になっているグラスをそっとテーブルに置いた。
テーブルを埋め尽くすワインやエールの瓶が、空になった瓶の中で光を反射させて輝いている。
「ま~だかしら?一体いつまで待たせるのかなぁ~?」
マーガレットは誰にでも言うわけでもなく独り言を漏らすと、持っていた手紙を丁寧に畳んで封にしまった。
そして新しい飲み物を取りに行こうと椅子から立ち上がろうとした時、彼女の後ろから声が掛った。
「スマン。遅れた」
彼女は声のした背後へクルッと振り返った。
顔を確認すると一瞬笑いかけたが、すぐに表情を変えた。
「あら・・・どちらさま?ボーイの方かしら」
「悪かった‘メグ’...今回は完ぺきに舞踏会に遅れた自分が悪かった」
「そう思うならなにか誠意を見せて欲しいわね」
「あ~これでいいかな?」
男は背中に回していた手をマーガレットの前に差し出した。
その手には紫色の瓶に、大きな猫の絵が描かれたボトルだった。
マーガレットは満足そうな笑みを浮かべ、窓の方に向けられた椅子に座りなおすと、右手で空いている椅子の方を指した。
男は察したのか、ホッと一息吐くと、予約されていた席へと腰掛けた。
「で~?‘婚約者’待ちぼうけさして~何やってたのかなぁ?」
マーガレットは訊ねながら、男が持ってきたボトルの栓を開けようと、刺したコルク抜きに力を込めた。
ん~というマーガレットの声の後、ポンッと音が鳴って辺りに葡萄の香りが広がった。
男はクスリと笑うと、具合が悪そうな表情でマーガレットの方を見た。
「ホント悪かったよ‘メグ’。まぁ...正直に言えば...今日、実家から本が届いたんだ」
「それでそれで?」
「それで?あ~...その中の一冊にひどく興味を惹かれたんだ」
「からの?」
「からの!?え~...まだ舞踏会が始まるまで時間もあったし、ちょっと読むくらいならいいだろうって本を開いたんだ」
「からのぉ~?」
「・・・・いつの間にか夜になってました」
男はそこまで言うと、チラリとマーガレットの方を見た。
マーガレットはグラスにワインを注いでいるが、顔が下を向いているため男の方から表情が見えない。
しかし彼女の肩が小刻みに震えたと思うと、眼頭を抑えながら上げた口元は緩んでいた。
「プププッ...全く...らしいというか何というか.....」
マーガレットはワインを注いだグラスをスーッと男の方へと動かす。
男はグラスを受け取ると、いつの間に用意したのか、マーガレットは手に持っていたグラスを男の方へ軽く上げた。
「乾杯♪」
「乾杯‘メグ’」
テーブルの上で、二つのグラスが軽く合わさって音を鳴らした。
マーガレットはそれを一息で飲むと、急に椅子から立ちあがった。
「さて、相手も来たことだし、せっかくの舞踏会なんだから踊ってもらおうかしら♪」
男は驚いたのか、飲みかけのグラスの中で軽くむせたように「ゴホッ!!」と声を出した。
せき込みながらグラスを置くと、
「飲むの早っ!!というか自分まだ飲んでないんだけど!?」
「それは遅れてきたのが悪いんでしょうが。ホラ♪丁度新しい曲演奏されそうよ」
マーガレットが嬉しそうにケラケラと笑った。
彼女の言葉通り、会場の奥に座る音楽隊は次の曲を演奏しようと準備しているところだ。
男はマーガレットをジッと見たあとクスッと笑うと、椅子から立ち上がりマーガレットの前に立った。
そして右手を彼女の前に差し出すと、恭しく彼女に尋ねた。
「私と一曲踊ってくれませんか?姫君」
マーガレットは男が差し出した手に自分の左手を重ねた。
「喜んで」
5. サイト×ルイズ
「まじっすか!?」
「うん。そうだよ」
サイトはジョルジュの口から出てきた言葉に思わず大きな声を出してしまった。
ジョルジュはサイトの動揺も構わずに言葉を続ける。
「オラは以前、「鳩村呉作」っていう名前で農業やってただ。「あっち」の世界では雷に打たれて死んじまったけど、どういうワケかこうして生まれ変わってハルケギニアにいるだよ」
「オレの世界で死んでこっちでまた生まれてって...いわゆる「転生」ってやつすか?」
「まあ...難しい事は分かんねけど、実際こうやって「ジョルジュ」として生きてるんだから不思議なもんだよホント」
「ハァ~」
サイトは長い溜息をしながら空を見上げた。
異世界に来ただけでも信じられんのに、魔法や喋る剣に加えて転生も...
何でもありだなこの世界。
サイトの真上には双子の月が浮かんでいる。
まるでこちらをジッと見ていて笑っているように感じられた。
サイトは顔を下げてジョルジュに向き直った。
目の前にいるジョルジュは首を左右に動かしている。
「じゃあ呉作さ「ジョルジュでいいだよ」ジョルジュさんみたいな人って他にもいるんですか?」
サイトはふと思いついた疑問をジョルジュに聞いてみた。
ジョルジュは首を横に振ると、
「いや、少なくともオラみたいな人がいるってことは分からないだよ。それにオラだって昔と全然違うんだから外見なんかで見分けなんて付かないだ」
そう言ってジョルジュは自分の頭を指差した。
サイトはジョルジュが言わんとしていることを察し、軽くうなずいた。
確かに、純日本人であった彼もこんな紅い髪になっている。
これじゃ近くに彼のようなヒトがいても簡単に分かる筈がない。
サイトは頭に手をやってクシャクシャと髪を掻いた。
フーケにロケットランチャーに転生者。
昨夜からいろいろあり過ぎて頭がパンクしそうだ。
頭から軽く蒸気が上がりそうになった時、背後の会場から、盛大な声が上がる。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなぁ~り~!」
サイトが声のした辺りを眺めると、入口の大きな扉を取り巻くように人が集まり、彼の主人であるルイズが立っていた。
いつものお転婆な様子は制服と共に捨てられたのか、少し桃色が掛った白いドレスが彼女を輝かせるかのように彩り、気品と可愛らしさを備えた彼女の様子にサイトは思わず声を失う。
「あら~っ!!ルイズもえれぇ別嬪さんになってるだなぁ!!」
サイトの後ろからジョルジュの驚きの声が聞こえてきた。
その声にサイトはハッと我に返った。
ジョルジュはサイトの前に立つとポンと肩を叩いた。
「サイト君、今日は難しい事は考えねぇで楽しく過ごしなよ。オラとしても出来ることがあれば協力するだし、また何かあれば聞きに来てくれだ」
ジョルジュはそう言うと、ニコッと笑って会場の方へ歩き出した。
サイトは慌てて止めようとする。
「ちょ!!待ってくれよジョルジュさん!!まだ聞きたい事があるんだよ!!」
サイトは声を上げたが、聞こえたのか聞こえなかったのか、ジョルジュは会場に入ると、人ごみに混ざってしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「はぁ~...楽しめって言われても...またケーキ喰いにいくか」
「「ケーキ喰いに行くか」じゃないでしょ犬!!」
ジョルジュを諦め、また料理でも食べに行こうとしたサイトの近くで声が上がった。
同時に頬に中々思い衝撃が走る。
「フベラっ!!」と思わずサイトは叫び、いつ間にか横にいる人物に叩かれたのが分かった。
ヒリヒリとする頬をさすりながら横を振り向くと、そこにはルイズが機嫌悪そうに顔を膨らまして立っていた。
「なんだルイズか」
「なんだじゃないでしょ!!アンタ、ご主人様が来たんだから迎えに来るとかなんかしなさいよ!!」
ルイズはいつも通りに声を張り上げてサイトにギャーギャーと文句を言ってきた。
遠くから見ていたら絵本の中の御姫様のような彼女なのに、目の前ではやはりいつも通りの彼女である。
「遠い場所から見ると奇麗で近いと荒れている...富士山ルールだな」
「何、訳の分からないこと言ってんのよ」
ルイズはジト目でサイトに尋ねたが、サイト無視して改めてルイズの方を見た。
会場の入り口にいた時は会場の明かりによって輝いて見えていたが、目の前で見ると...やはりフツーに可愛い。
サイトも元の世界でいろんな女の子を見てきたが、目の前にいる彼女は今までに見たことのないくらいの美女である。
サイトは自分の顔が熱くなってくるのを感じた。
「な、何でもねぇよ。そうだな。うん、まあ...馬子にも衣装ってトコロだなこりゃハハハ...」
サイトはテンぱりながらわざと皮肉を言った。
サイトの言葉にルイズは眉を小刻みに震わせたが、サイトの顔が赤く染まってきていることに気づき、得意げに笑みを浮かべた。
「ふ~ん、まぁいいわ。ところでさっきジョルジュがいたようだったけどなにしてたの?」
「あ~...何でもねぇよ。ただ今日の事で話してただけだ」
「そうなの?」
ルイズはサイトに近づき、目を細くしてサイトの顔を見つめた。
なにか疑っているのかどうかは分からないが、サイトとしては近づいてきたルイズの顔を見て、心臓がバクンッ!!と跳ねあがるのを覚えた。
(やっべ!!可愛くね?カワイクネ!!?いやいつも見てて可愛いなぁ~このドSご主人はって思ってたけど...!!今日はヤバいってコレ!!)
サイトの目の前が少しくらくらとしてきた時、会場の中が少し暗くなり、流れてくる曲がゆったりとした雰囲気に変わった。
どうやら新しいダンスの曲に入ったようだ。
ルイズはサイトの方にスッと手を差し出した。
「私と一曲踊ってくれませんこと?ジェントルマン」
サイトはルイズが何を言っているか数瞬理解出来ずキョトンとなったが、しびれを切らしたルイズがサイトの手を強引に掴むと会場へと入って行った。
サイトはそこでルイズの言った事を理解したのか、先ほどよりも焦り出してルイズに小声で話した。
「お、おいルイズ!!オレ、ダンスなんて踊れないぞ!?昔ダ○ス・○ンス・レ○リューションやってたけど...」
「知らないわよそんなコト。大丈夫、私に合わせて」
曲が始まり、周りの男女も優雅にステップを踏んで踊りはじめた。
サイトもルイズに合わせてぎこちなくステップを踏んでいくがやはり周りと比べると上手くない。
それにサイトもやはり思春期の男の子である。
女の子とこんな近くに寄り添って踊るのは林間学校のフォークダンス以来であり、しかも相手はかつての爬虫類のような女子
(当時好きだったコの一つ前で終わったのは苦い記憶である)ではなく、人生で会った美女暫定一位のルイズだ。
「ほらサイト!!なにボーっとしてるのよ!!ちゃんと私について来なさい!!」
「ちょ、まっ!!うわっ!!」
サイトの動きが固いのはルイズが相手だからか、はじめてのダンスだからかはたまた両方か。
しかしそんなぎこちないダンスを踊る中、ルイズは終始笑顔であった。