ロングビルが学院の外で見かけた明かりの残る部屋の中では、
一人の少年がいつになく頭をグルグルと回し、自分の過去を振り返っていた。
人生においてモテ期は三回あると誰かが言ってた気がする。
あれは高校を上がる前の正月の時、親戚の伯父さんが手相が見れると言ったから見てもらった。
その時丁度、モテ期がいつなのかって話になって見てもらったけど...
『え~と...サイトのモテ期は~幼稚園と8歳の頃だね。後一つはもう少し後じゃね?』
どうやら俺のモテ期の内2回は、誰も知らないところでひっそりと終わってたらしい...
てか幼稚園と8歳がモテ期ってなによ?そんなとこでモテ期が来ても意味ないって。
レベル1の時にス○イム相手にマダ○テ使うぐらい意味ないと思うね俺は(まあどっちかってゆうとFF派だけどね俺は!!)
そんな手相を本気で信用しながらの高校生活、今思えば彼女を作りたくて何とも必死だった一年間だったと思う。
「オレ、女の子にはそんなに興味ねーから」みたいな感じを装ったり...(その作戦を一緒に実行した友達の中島には彼女が出来た)
高校の遠足で一緒の班になった女子にそれとなくアプローチしたり...(その作戦を一緒に実行した友達の本宮には彼女が出来た)
体育祭でイイ所を見せようと頑張ったり...(その作戦を一緒に実行した友達の小杉には彼女が出来た)
文化祭の準備で素敵な出会いを探してみたり...(非常勤講師のミハイル先生と保健の先生がデキてることが話題に)
いろいろやったけどダメだった甘酸っぱくも涙でしょっぱかった一年間...その年度の総決算でもあるバレンタインは、母から貰った森○の板チョコでシーズンを終えた...
しかし!!
オレのモテ期は!!
オレの時代は今やって来たんだ!!
しかし時代は来たんだが「世界」は俺の居たトコじゃないけどね!!
そんでいきなりボス戦だけどね!!!!
そう頭の中が迷走する少年、平賀才人の現在の状況を言えば、
目の前には褐色の肌が透き通るほど薄手の服を着た、豊満な肉体をもつ女性がベッドで手招きをしている状況であった。
遡ることおよそ数時間前~
決闘の傷もようやく癒え、サイトは軽い足取りで厨房へと食事をもらいに行った。
サイトはここしばらく厨房へは行っておらず、食事はルイズの部屋に持ってきてもらったモノを食べていた。そのためマルトーの親方たちには久しぶりの再会となる。
厨房へと来た途端、給仕やコックの人たちがサイトの顔を見るなりワァっと大きな声を上げ、サイトの方へと寄ってきた。
サイトの周りはあっという間に人だかりができる。
「えっ?何なにナニ...」
「サイトさん!!」
その人だかりを突破し、一人のメイドがサイトの近くへと来た。
ブロンド等の髪色が多い中で、まるで漆を思わせるような黒髪をボブカットに切った少女シエスタはサイトの眼を見つめながら声を出した。
その様子は、さながら夫の帰りを待ちわびてた妻のようである。
「みんなサイトさんが来るのを待っていたんですよ。貴族と戦って勝利したサイトさんにぜひみんな会いたいって...」
「え、そうなの?いやもう傷もほとんど治ったから厨房で食べようと思って来たんだけど」
「もちろん歓迎しますわ!さ、サイトさんこちらへ。マルトーさんがサイトさんに会いたがっていますから」
そう言うとシエスタはサイトの手を握り、厨房の中の方へと歩きだした。
それと同時に厨房の中から
「オラお前ら!!とっとと手を動かせ!!もうすぐ夕食の時間なんだ急げ急げ!!」
とまるで獣の唸り声かと思うほどの声が部屋に響いた。
サイトの近くに集まった給仕たちやコック、メイド達は声が響くと同時にそこらかしこと散り、自分の仕事へと戻って行った。
「おう『我らが剣』よ!!良く戻ってきたな!今貴族のガキどもの食事の時間だから少し待っててくれ!!終わったらとびきり豪勢な飯作ってやっからよ!!」
サイトはあまりの歓迎ぶりに少しばかりうろたえた。そんなサイトのそばで、シエスタが顔を近づけてこう呟いた。
「マルトーさん。サイトさんが決闘で勝ったって聞いて一番喜んでたんですよ。『生意気な貴族のガキをのしちまうたぁスゲェじゃなぇか!!』って。マルトーさんサイトさんのファンになっちゃって、部屋の持っていく食事もマルトーさんが作っていたんですよ」
それを聞いてサイトはハッとここ最近の食事を思いだした。
口の中がずたずたになっている自分にも食べれるような料理や、いかにも栄養がありそうな食事はこのマルトーが作ってくれていたのだ。
そう思うとサイトの胸にジーンとこみあげるものがあった。
「おうシエスタ!!イチャついてるとこワリィけどお前も持ち場に戻ってくれ!!サイト!!オメェさんはしばらくあっちの方でゆっくりしていてくれ」
「マルトーさん!!」
マルトーへ茶化されたシエスタの顔は、カーッとみるみる赤くなり、シエスタは慌てて「じゃ、じゃあサイトさん...また」というと慌てて食堂へと戻って行った。サイトはそんなシエスタがとても可愛く感じた。
その後、学生たちの食事が終わった後にサイトの前には豪勢な料理が並んだ。
マルトーが気合いを入れて作ったとみられるいくつもの料理は、サイトの食欲をこれでもかと増進させた。
サイトはその料理をガツガツと食べながらマルトーやシエスタ達にいろいろ質問攻めにあった。
そしていつの間にか出されたワインに口をつけ、サイトは至福の時間を過ごしたのであった。
「いや~食った食った~。ワインも飲んじゃったし、俺未成年だけど別にいいよね?ここ日本じゃないし」
少し顔を赤く染め、サイトはルイズの部屋へとつながる廊下を歩いていた。
そして自分と同じ黒髪の少女、シエスタの事が頭に浮かんできた。
(あのコおれと同じ髪の色だったなぁ。聞きそびれちゃったけどもしかして同じ日本人だったりして?しかし優しいコだよなぁ...可愛いし胸でかいし、優しいってうちのご主人様と段違いだよ。あんなコと仲良くなれてもしかして俺の時代が来たのかも!?)
そう思いながら、この世界に来て以来最高の気分に浸りながら部屋へと戻っていると、クイクイと足のズボンをひっぱるモノに気づいた。
サイトが下を見ると、赤い肌に覆われた大きなトカゲがズボンの端を加えて引っ張っていた。これだけ大きいトカゲも珍しいが、尻尾の端がメラメラと燃えている生物をサイトは知らない。
かろうじてゲームでは見たことはあるが、今目の前にいるこのトカゲは2足歩行ではなく4つ足で歩いている。
「あれ?お前って確か・・・ってちょ!?うわっ」
サイトが何かを言う前に、大きなトカゲはズルズルとサイトを引張っていく。
サイトも抵抗するが、酔いでふらつく体でサラマンダーの力に勝てるはずもなく、問答無用に引っ張られていく。
そして自分の寝床のある、ルイズの部屋の隣の部屋の中に引きずり込まれると、バタンとひとりでに扉が閉まってしまった。
「ちょっ、えっ何コレ?一体な・・ん・・・・」
サイトは辺りを見回しながらこのオオトカゲに文句を言おうかと口を開いたが、目の前の光景を見たとたん、言葉は出なくなった。
蠟燭でかすかな明かりの灯る部屋の奥、高級そうなベッドの端に女性が一人座っていた。
褐色の肌に一枚覆っているシースルーの服が余計その女性の肉体を強調させている。
「さあこっちにいらして...」
湿った声でその女性、キュルケは細い指を動かしながらサイトへと声を掛けた。
OKOK...状況を確認しようぜ平賀才人
「ようこそ。こちらにいらっしゃい」
今俺の目の前にいるこのグラマーな女性は確か...そうキュルケって言ってたっけ。
オレがこの世界に召喚された翌朝にばったり会ったな。
めっさルイズが怒り狂ってたけど。
サイトはうろたえながらもキュルケの待つベッドの方へと歩いていく。
先程までの軽い足取りがうそのように、まるでロボットのようにギクシャクしている。
「あなた、あたしをはしたない女だと思ってるでしょうね。」
やばいよあんな透け透けの服まともに見れねぇよ。逆にエロい、裸でいられる方がまだ...いや、やっぱりそれもダメだ
ベッドに腰掛けたサイト心臓は、瞬く間に高速に動いていく。
「でもね...あたしの二つ名は『微熱』」
これはもうあれだよね。よく大人のビデオで見たあのシーンだよね?
これから「じゃあ...やろうか?」てな感じで始まるあれだよね?
サイトはキュルケに目を合わせないよ少し下を向きながら聞いている...風に装い、頭の中では目まぐるしくゴチャゴチャに混乱していた。
「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんなふうにお呼びだてしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
ムリムリムリムリムリィ!!いくらモテ期だからって、いくら勢いがあるからって無理だッッてー!!
「分かる?恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね」
キュルケはギュッとサイトの手を握り胸元へと寄せた。
サイトの両手に、キュルケの体温の温かさが伝わり、さらに胸の感触と併せて余計サイトの心を混乱させた。
サイト心臓は今にも口から発射されそうな勢いでドクドクドクドク動いている。
もっとこういうのは段階を踏んでからでしょ?デートしたり、一緒に弁当食べながら喋ったり、買い物したり、そんでムードの高まったある瞬間に挑むもんでしょ?
ダメだよムリだよそんなぶっつけ本番なんてできねぇよ...いきなりボス戦なんてクリア出来ねぇよぉ...
いうなればバスターソードでセフィ○スに挑むようなもの、
いうなれば銅の剣でダーク○レアムに挑むようなもの、
いうなれば骨でクシャ○ダオラに挑むようなもの、
いうなればサンダースプリットアタックでDI○に挑むようなものだよコレ!!
オレにはまだレベルと経験値と武器がないんだよ~ッッッ!!
予想以上の展開に、既にサイトの酔いは完全に消え失せ、頭にはいかにこの状況を逃れるかでいっぱいになった。
そうとは知らないキュルケは、さらにサイトに寄ってアプローチをかける。
花のような香りがフワッとサイトの鼻をくすぐった。
「あなたがギーシュのゴーレムと戦っている姿、とってもかっこ良かったわ!それに乱入してきた女の子を助ける姿に私の胸の炎は一気に燃え上がったの...あの剣さばきどこで身につけたの?」
ふとしたキュルケの質問に、サイトの頭に一筋の光が見えた。
しめた!!ここで話に乗じて何とか誤魔化そう!!
サイトはキュルケの方へ視線をあげると、乾いた唇を舐めて話始めた。
「そんな大層なことじゃないんだ。実際に身につけたっていうより少しかじった程度なんだよオレ」
サイトの頭の中に、幼き頃に剣術を学んだ光景が浮かび上がってきた。
中学校の頃に引っ越すこと同時に止めてしまったけど、その時の先生とは連絡を取り合っていた。
与作先生、元気かな・・・
「まあ、それなのにあんなに強いのね...サイトの国ではみんなあんな風に強いの?」
キュルケが話に乗ってきた。
サイトはこの時、丁度いいかなと自分も聞きたかったコトをキュルケに尋ねてみた。
「いや、オレの場合は...なんでだろう?剣を握った瞬間ルーンが光ってさ、凄い体が軽くなったんだ。使い魔ってそんなもんなの?」
キュルケは少し首をかしげながら、ウーンと少し唸るように考えてから言った。
「ふーんそうね。使い魔の中には何かしらの能力が付くっていう話を聞いたことがあるけど...たぶんサイトにはたまたま付いたんじゃないかしら?」
「へぇ、そうなんだぁ」
サイトは占めたとばかりに動き出した。
今の会話でキュルケに隙が出来た。これに乗って「じゃあお休みキュルケ」って言いながら部屋を出れば大丈夫だ。
「逃げる」は成功する!!
ありがとうキュルケ。だけど今の僕じゃあなたと戦えません...今度はもう少しレベルが上がってから誘って下さい。
心の中で別れを告げ、サイトはベッドから立ち上がろうと足に力を入れた。
「じゃあおやす...み?」
しかしそれよりも早く、キュルケはサイトのパーカを掴むと、器用に体重を預けながらサイトを後ろの方へと倒した。
ボスンと、柔らかい感触のベッドにサイトが少し沈む。
サイトは慌てて上がろうとするが、すぐ目の前には熱っぽい目を潤ませたキュルケの顔があった。
「わたしサイトのこともっと知りたいわ...もう少し語り合いましょう?そうすればきっとあなたも私の事を知ることが出来るわ...」
キュルケが四つん這いになりながら少しずつサイトへとにじり寄ってくる。
サイトの頭はパニック状態、心臓は高鳴りすぎて、目の前になぜだか戦場に行く兵士が家族に敬礼しているシーンが浮かんでいた。
兵士の顔はサイトであり、今は遠い家族に向かって「行って参ります」と敬礼している。
キュルケとサイトの唇が合わさろうとするその時、部屋の窓がバンっと開いた。
二人して窓の方へ向くと、男が苦い表情をしながらこちらを見ている。
制服を着ているとこを見ると学院の生徒のようだ。
「キュルケ…待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……誰なんだその男は!!」
「あらスティック。ええと...じゃあ2時間後に」
「話が違うじゃないか!!」
「もう、煩いわね...」
キュルケは煩わしそうに胸から杖を引き抜きスッと振ると、火球が窓の男子学生に飛んでいった。
火球に当たった男はあああああと叫びながら落ちていった。
「キュルケさん...今の誰でしょうか?」
サイトは少し間をおいてからキュルケに尋ねた。
なんというか先程までテンパッテた気持ちもスーッと落ち着いてきた。
「....友達よ」
キュルケはそれだけ言うとガバッとサイトへ抱きついた。
「とにかく今、あたしが一番愛してるのはあなたよ、サイト」
そして口づけしようとキュルケは顔を寄せてきたが、再び窓が開かれる音がした。
サイトが窓の方へ視線を向けると別の男が窓の外に浮かんでいる。
「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は俺と夜中のデートをしてくれる約束じゃなかったのか!?」
「ジョナサン!?ええとじゃあ4時間後に」
「恋人はいないって言ってたじゃないかキュルケ!!」
ジョナサンという男は怒りながら窓から部屋へと入ろうと手を窓枠に掛けた。
キュルケはまた杖を振り、火球をぶつけてまた外へと落した。
「今のも友達?」
「そうそう今のも友達ってサイト!!とにかくあなたとの時間が欲しいの私は!!夜の時間は無限じゃな...」
「「「キュルケ!!」」」
キュルケがサイトに何か言う前に、三度窓から声が掛る。
今度は三人の男がいっぺんに押し掛けていた。
「「「その男は誰だ!!恋人はいない...」」」
「フレイム~」
キュルケが自分の使い魔に声をかけると、テコテコと窓の前に歩いていったキュルケの使い魔フレイムはゴーッと火を噴いた。
ギャーッという叫び声と一緒に窓の視界から男達は消えうせた。
サイトはもう帰ろうとベットから立ち上がると、扉の前まで近づきドアノブを回した。
後ろからキュルケが何か言っているがもう駄目だ。
もう今日は帰る。
てか逃げさせてお願いだから。
サイトはガチャッとドアノブを回しながらドアを開けた。
目の前には青筋をピクピクと額に浮かべたご主人様が立ちふさがっていた。
ああ...リアルボス...
「さて犬、夕飯食べに行って帰りが随分遅いと思っていたけど、まさか隣でツェルプストーと逢引してるなんてねぇ」
場所は変わってルイズの部屋の中、ベッドのそばにはルイズが口をヒクヒクと吊上げながら下に座る使い魔を見降ろしていた。
その小さい体に似合わない怒りのオーラを漂わせ、見る人が見れば彼女の後ろに黒い何かが浮かんでいるのが見えるかも知れない。
サイトはルイズの前に正座で床に座り、出来る限り彼女の怒りを納めようと口を開いた。
「あの・・・ご主人さま?違うんだってコレ、俺だって予想外の事態でね?帰ろうと思ったら急にボスと戦うことになって...」
「お黙り!!」
「ワンッ!!」
思わず犬の鳴き声で反応してしまったサイトを尻目に、ルイズはタンスの方にトコトコと歩いてタンスの上段を開くとごそごそと漁り始めた。
サイトは何が召喚されるかとドキドキしていたが、ズルッとタンスから出てきたのを見た瞬間、固まった。
「じゃあ犬。今からアンタを躾けようと思います。覚悟はいいですか?」
そうサイトに尋ねたルイズの手には、よくマンガやアニメで見るような鞭、しかも先端が何本にも分かれてるモノが握られていた。
サイトは立ちあがって両手をプルプルと前で振ると、必死にルイズに説得しようとした。
「ちょっと待ってルイズなんで敬語なの!?てかホントオレも何もしてないって信じて...」
「うるさい!!深夜に帰ってくるだけじゃなくよりにもよってツェルプストーと...二度とそんなこと出来ないように体で覚えさせてあげるわ!!」
そう大きな声で叫ぶとルイズは鞭を振りかぶってサイトへと向かってきた。
サイトはルイズを説得しながら鞭を避け、部屋中を駆け回ったのであった。
既に虚無の曜日となった夜、ルイズの部屋は空が明るくなりかけるまで騒がしかったとキュルケは後に語る。
「待ってルイズ!!ホントオレ何もなかったんだって!!レベル1のオレにはお前が思うようなコトは出来ないって!!頼むから鞭振り回さないで!!そんな高度なプレイは俺には無理ってあああああああっ!!」