こんにづは。はづめまして。
オラの名前はジョルジュ・チェルカースィ・ド・ドニエプルっていいます。
長い名前なんで、婆ちゃんたつからは「ジョル坊」って言われていて、子供たつには「ジョルジョル」なんて言われてるだ。
オラ、突然こんなこと言って信じてもらうのもなんだども、オラ、どうやら別世界で死んで、この世界で生まれ変わったらしいだよ...
オラは前世では「鳩村呉作」という名前で、日本のN県で農家やってただよ。家族はおかあと爺ちゃんと婆ちゃん、3人の妹に猫のシュレディンガー(妹が付けただよ)の7人家族、おとんは妹達が生まれてから癌で死んでしまっただ。婆ちゃんは「タバコを一日1カートン吸ってたらそりゃ死ぬわ」と笑ってたけど、おかあは悲しそうだった。
男手がオラと爺ちゃんだけだから、小さい頃から家の田んぼや畑では毎日朝早く働いてただ。力仕事はオラと爺ちゃんが引き受けて、農薬まいたり機械動かすのはおかあや婆ちゃんたつ。妹たつも手伝ってくれたし、隣の家で林業やってる与作のよっちゃん家も、よく面倒見てくれたから高校を無事卒業できただ。
だけどもオラにも青春時代があってだな~、よっちゃんと一緒に仕事が終わった夜中にはヤンチャばっかしてただよ。高校ん時には二人して「血まみれゴサク」、「人斬りヨサク」なんかって呼ばれて県内ではちょっと有名だっただ。(ある時、学校の帰りにスーツ姿のおじさんに呼び止められて「二人ともウチの組に入らねえか?」と聞かれた時には焦っただよ)
卒業した後はすぐに家の農家継ごうと思ってたけんども、おかあに「今の時代ちゃんと学問をみにつけてなきゃだめだ」って言って大学さ通わせてくれただ。おかあ、ありがとう。
大学に行ったオラは農業の事について必死に勉強しただ。特に肥料と農具に関しては人一倍勉強したし、卒業するころには自分で開発した肥料が商品化されてうれしかっただ。
そして大学から帰った後は、家の田んぼで農業に勤しんださ。「日本一のコシヒカリ」を目標に頑張った甲斐もあってか、1ヘクタールあたりの収穫量も味も、近くの農村の中じゃ
一番だっただ!!妹たつは、都会の大学さ行ったし、爺ちゃんも婆ちゃんも死んじまっておかあと二人だけだったけども、最近農業がはやってるんだか、ある日、大学時代の友人の美代ちゃん達が「社員として働かせてほしい」って会社辞めてやってきたんで、またみんなで農業やれてうれしかっただ。
そんな生活が10年ほど続いたのだども、みんなとのお別れは突然やってきただ。
あれは暑い夏の8月の終わり、大雨が降ってた時のことだよ。オラは大雨で田んぼの稲が倒れねえか心配になって外に出たんだ。
実はこん時、こ、こ、婚約指輪買っててな、家に帰ったら美代ちゃんにプロポーズしようと思ってたんだけんども、ダメだったぁ...渡せんかったよぉ...
ちょうど田んぼについた時に雷が落ちてきて、オラはピシャーンッ!!と雷に当たっちまっただ。もう溜まったもんじゃねえさ。なんだか眼がチカチカ白く光っていたし、勝手に体が倒れていうこときかねんださ。そん時なんとなくこんな考えがよぎった。ああ、オラ死ぬんだなって。少ししたら美代ちゃんやおかあがやって来て、何かオラに向かって喋ってるんだけど、雷で耳が馬鹿になっちゃんだろうな、全く聞こえやしねぇ。
段々眠くなってきてさ、もう駄目だとなんか悟っちまった。倒れている最中、婆ちゃんや爺ちゃん、おとんもこんな感じにだったんかなぁって考えてるオラと、まだまだみんなとコメ作りたかったなぁって後悔しているオラがぐるぐる体を廻ってたよ。
美代ちゃん。ありがとう。オラ、実は大学ん時からオメェのこと好きだったんだ。オラの家に来て「働きたい」って言ってくれたときホントうれしかった。
美代ちゃんと一緒に来たくれたシゲルやマナブ、八千代も来てくれてホント感謝してるだ。
妹たつはみんな大丈夫かなあ。
一番上の楓はよっちゃんとこに嫁いだっけな。
真ん中の紅葉はオラと同じ大学で研究員しとるんだっけ。「私の研究で兄さんの畑を日本一にして見せます」って言ってくれたときは兄ちゃん涙が出ただよ。
一番下の柊は都内のOLさんになってけど、悪い奴に騙されてないべかなあ。なんか心配事があったら家族さ頼れよ。オラはもういなくなるけど、おかあやよっちゃんもいるからな。
よっちゃん。悪いけどおら先に行くよ。楓のことヨロスク頼むな。いままでオラのこと面倒見てくれたのにゴメンな...
おかあ、そんなに泣くなよ。オラのほうがつらくなるでねえか。ちゃんとおとんに「おかあは元気でやってるよ」と言ってくるから。
みんな。ほんとにありがと。ちょっと早かったけど、おとんと婆ちゃん達のところに先行ってるだ。
そして、オラは目を閉じただ。少しすると体がふわっと軽くなって、体の感覚がなくなってきただ。雷に打たれてから体の感覚なんてなかったんけども、今は手や脚が初めからなかったような気持ちだ。
天国にむかってるんだかなぁ?と考えてたんだけど、さっきまでなんも感じなかったのに、急に周りが暖かくなった。
どうやら水につかってるんだなと分かるんだけども目が開かんさね。でもなんだろう、この懐かしい感じは...遠い昔に味わったことのある、だども思い出せねえべさ。
そこで長いこと眠っていたように思えただ。おとん達には会えねえのかなあと少し諦めかけてた時、急に今まで浸かっていた水がなくなって、なんかいやに狭いところを通らされただ。通ったら体にひんやりとした風があたってきただよ。
やっと天国さについただろか?と思っていると、またオラの体に水がかけられた。そのあとふんわりとした毛布にくるまされた感覚があって、何かの入れ物に乗せられたようだっただ。周りはがやがやと何か喋っているようで、向こうの人たちが迎えにきただべか?と思っただ。
その頃には段々と瞼が開くようになってきて、初めて来る天国の景色はどんなもんかなぁとワクワクして目を開いたんだども...
そこにはおとうたちはいなかった。代わりに青い目や赤い髪、金髪の婆ちゃんたつがオラをまじまじと見つめてただ。
ありゃぁ~天国って随分と外人さんが多いなぁ。やっぱり天国でもグローバル化の波が打ち寄せてるんだろうかぁ。
オラは挨拶しなきゃと思い、起き上がろうとしたんだども、どうも起き上がることができねぇ。そういやあいやに頭が重いな。あれっ、なんか手がちっちゃくねぇだか?これじゃまるで赤ん坊...
そして気づいただ。オラ、赤ん坊さになってる。
後で母さまから聞いた時、オラが生まれたのはニイド(8月)からラド(9月)に変わった日の夜、外ではまるで誕生を祝福するかの様に、二つの月が屋敷の外で見えていたんだと。まるで「この世界にようこそ」と言っていかのように...