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No.21602の一覧
[0] 田舎の貴族は土を嗅ぐ(ゼロ魔 オリ主転生)[黒いウサギ](2013/09/05 10:50)
[1] 1話目 ある婦人の悩みごと[黒いウサギ](2011/05/08 16:45)
[2] 2話 変人ジョルジュ[黒いウサギ](2011/09/24 22:50)
[3] 3話 彼が彼であった頃[黒いウサギ](2010/09/01 10:11)
[4] 4話 彼がジョルジュになってから[黒いウサギ](2011/09/15 17:57)
[5] 5話 母の説得、ステラの乱入[黒いウサギ](2011/09/15 17:57)
[6] 6話 それぞれ思うこと(前篇)[黒いウサギ](2010/09/02 11:25)
[7] 7話 それぞれ思うこと(後篇)[黒いウサギ](2010/09/05 20:27)
[10] 8話 春は始まり、物語も始まる[黒いウサギ](2010/09/05 02:00)
[11] 9話 召喚の儀式[黒いウサギ](2010/09/05 20:24)
[12] 10話 新しき仲間、友達、使い魔[黒いウサギ](2010/09/06 22:09)
[13] 11話 儀式は終わり、月は満ち[黒いウサギ](2010/09/10 17:47)
[14] 12-A話 ステラ、早朝、会話、朝食[黒いウサギ](2010/09/10 23:21)
[15] 13-A話 朝食での一騒動[黒いウサギ](2011/09/15 17:58)
[16] 14-A話 ステラ、ルイズ、登校、授業[黒いウサギ](2011/09/15 18:00)
[17] 15‐A話 授業でのひと騒ぎ[黒いウサギ](2010/09/19 07:46)
[18] 16‐A話 ギーシュ、不幸、決闘 (前篇、後篇)[黒いウサギ](2011/09/15 18:03)
[19] 17‐A 話 戦いの終着点は...[黒いウサギ](2010/10/01 08:18)
[20] 18-A話 決着をつけるは誰か[黒いウサギ](2010/10/31 04:57)
[21] 12-B話 ジョルジュの帰省[黒いウサギ](2010/09/11 02:54)
[22] 13-B話 花嫁が頼むのは[黒いウサギ](2011/09/16 15:24)
[23] 14‐B話 森での思い出、森の試練[黒いウサギ](2010/09/18 21:35)
[24] 15-B話  三つ首の黒犬[黒いウサギ](2010/09/23 00:13)
[26] 16‐B話  過去を知るのは二人[黒いウサギ](2011/09/16 15:25)
[27] 17‐B 話 一晩だけの誓い[黒いウサギ](2010/10/03 21:09)
[28] 18-B話 笑ってありがとう[黒いウサギ](2010/11/03 02:41)
[29] 19話 それぞれその後(前篇)[黒いウサギ](2010/11/07 19:09)
[30] 20話 それぞれその後(後篇)[黒いウサギ](2010/11/16 08:42)
[31] 21話 明日は休日[黒いウサギ](2010/11/19 22:19)
[32] 22話 サイトの試練は夜中に[黒いウサギ](2010/11/23 22:02)
[33] 23話 目的も行き方もイロイロ[黒いウサギ](2010/12/01 03:03)
[34] 24話 母はお客を選ばない[黒いウサギ](2010/12/13 00:59)
[35] 25話 アニエスが店に来たワケ[黒いウサギ](2011/01/07 19:32)
[36] 26話 母の接客術[黒いウサギ](2011/01/27 22:05)
[37] 27話 外と中の激しい温度差[黒いウサギ](2011/01/23 19:25)
[38] 28話 さらに激しい温度差[黒いウサギ](2011/01/30 22:25)
[39] 29話 いろいろヤッてしまった人たち[黒いウサギ](2011/02/06 01:02)
[40] 30話 馬車は片道?それとも往復?[黒いウサギ](2011/02/13 23:08)
[41] 31話 血塗れの魔法[黒いウサギ](2011/09/15 18:04)
[42] 32話 アルルーナ→フーケ←黒のゴーレム[黒いウサギ](2011/03/27 15:50)
[43] 33話 学院に帰るまでが捜索です[黒いウサギ](2011/03/27 23:03)
[44] 34話 おしおきのち舞踏会[黒いウサギ](2011/04/11 19:32)
[45] 35話 各々の舞踏会(前篇)[黒いウサギ](2011/04/20 08:35)
[46] 36話 各々の舞踏会(中篇)[黒いウサギ](2011/04/30 22:31)
[47] 37話 各々の舞踏会(後篇)[黒いウサギ](2011/05/01 06:23)
[48] 38話 タバサの007イン・ガリア 他人を巻き込むな!![黒いウサギ](2011/05/17 02:15)
[49] 39話 タバサ少女の事件簿イン・ガリア 「顔ナシ」ノエル[黒いウサギ](2011/05/22 23:27)
[50] 40話 探偵タバレオ,イン,ガリア 探る[黒いウサギ](2011/06/04 22:30)
[51] 41話 心霊探偵タバサ,イン,ガリア 蒼い瞳は知っている[黒いウサギ](2011/06/19 07:23)
[52] 42話 吸血鬼Eの献身.イン.ガリア[黒いウサギ](2011/06/27 23:29)
[53] 43話 危ないタバサ.イン.ガリア  追跡[黒いウサギ](2011/09/15 18:06)
[54] 44話 交渉人タバサ.イン.ガリア 封鎖するモノはない[黒いウサギ](2011/09/07 13:22)
[55] 45話 使い魔サイトの日常、使い魔レミアの憂鬱[黒いウサギ](2011/07/24 01:55)
[56] 46話 自覚がないのが一番タチが悪い[黒いウサギ](2011/08/11 21:18)
[57] 47話 ついていない時ってトコトンついてない[黒いウサギ](2011/08/16 21:08)
[58] 番外編 フレイムの奇妙な学院生活(前篇)[黒いウサギ](2011/09/03 23:28)
[59] 番外編 フレイムの奇妙な学院生活(後篇)[黒いウサギ](2011/09/15 18:07)
[60] 48話 当日には大抵アクシデント[黒いウサギ](2011/09/15 18:07)
[61] 49話 危険なものほど身近にいる[黒いウサギ](2011/09/25 19:09)
[62] 50話 欲望と愛が渦巻く品評会[黒いウサギ](2011/10/05 00:01)
[63] 51話 一難去ればまた一難どころか二、三難[黒いウサギ](2011/10/23 23:32)
[64] 52話 内容は違うけど方向性は大体一緒[黒いウサギ](2011/11/23 20:45)
[65] 53話 旅の始めはテンションが上がるモノ[黒い?ウサギ](2011/12/30 15:29)
[66] 54話 ミシェル・インポッシブル[黒い?ウサギ](2012/01/02 22:53)
[67] 55話 ミシェル ゲームオーバー[黒い?ウサギ](2012/03/07 19:51)
[68] 56話 人の噂も49日[黒いウサギ](2013/08/25 16:02)
[69] 57話 夜の飲み会ではチームワークが大事[黒いウサギ](2013/09/16 16:49)
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[21602] 17‐B 話 一晩だけの誓い
Name: 黒いウサギ◆3eb667ce ID:258374a3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/03 21:09
―ねぇ、覚えてる?ゴっちんと私が初めて出会った時のこと…-


「ねぇ、覚えてる?ジョルジュと私が初めて出会った時のこと…」


夜が更け、冷たい風が吹いてきた空に、ターニャの声が静かに響いた。声をかけられたジョルジュが振り向くと、彼の胸はキュゥと締め付けられた感覚を帯び、目はターニャの、一つ横の空間を向いた。
ターニャの隣には、同じ茶色の混じった髪をなびかせた女性が立っていた。忘れもしない、その女性は彼が呉作として生きていた頃に、心から愛した女性美代であった。



幻なのだろうか?
ターニャと美代は同時にジョルジュへと振り向いた。彼女たちの顔がジョルジュの方へと向き切る前に、美代の姿はスゥッと消えていった。


「ジョルジュ?」


ジョルジュの様子に疑問を持ったのか、ターニャは声をかけてきた。その声は、いつもとは違って少し、弱々しく感じられた。
その声に気づいたジョルジュは、ターニャの方へ視線を直し、少し苦笑いを浮かべながら言った。


「….ああ…覚えてるだよ…なんせ、初めて会った時に蹴られたんだから」


そう言ったジョルジュは、かつて彼女と知り合った、遠い過去を思い返した。


ジョルジュがジャスコの村で働き始めた頃、彼は自分が村に溶け込めないことに悩んだ。彼は転生した故、自分によそよそしい大人の雰囲気を、少年ながらに感じ取ってしまっていたのだ。

オラは邪魔なんだろうか…
ジョルジュはこの時ほど、貴族という地位が疎ましく感じたことはなかった。そしてある日、彼は重い心を引きずって村長の家に向かった。
家のドアを開いた瞬間、木靴の感触を持った蹴りが顔に刺さった。
蹴りの衝撃と、あまりの出来事に目を回して倒れたが、直後に大きな声が降り注いできた。


『遅いっぺさ!!領主さまの息子だからって、仕事に遅れてくるなんてなに様さぁ!?』


顔を上げたジョルジュの前には、髪を後ろでまとめた、幼い少女が手を腰に当てて立っていた。
ジョルジュはあまりの出来事に、まだ混乱していたが、おずおずと彼女に声をかけた。


『た、たすかぁ、オメェさん、村長さんの…』



『娘のターニャっさ!!今日からオメェさんの教育係になったさぁよ!!さあ立つだ!!やるからには容赦なくいくっぺよ!』






「あの時のターニャちゃん、怖かっただよ」

そういってジョルジュは腕を体に巻きつけ、身震いするマネをした。
その姿を見てターニャは微笑み、脇腹を指で突っつきながら言葉を返した。


「あら、それはアンタが時間に遅れてくるからじゃない?いくら子供だからって、時間は守らなきゃねジョル坊?」

ターニャは指で突っつくのを止めると、草が生えている畔に腰かけた。つられてジョルジュもターニャの隣に座った。
麦畑のために作られた畔には花がいており、黄色や赤色の花びらをつけた花が、夜の畑を鮮やかに彩っていた。

ターニャは横に置いた葡萄酒の瓶を持つと、ジョルジュの手にあるグラスに葡萄酒を注いだ。ジョルジュは一口飲んでからグラスをターニャに渡すと、ターニャは残りを一気に飲み干した。



「その言い方もターニャちゃんが初めてだっただなぁ…オラ、ターニャちゃんと同い年なのに「いつまでたっても半人前の坊やだっぺさ!」って理由でジョル坊って言うもんだからさ、村の人たちも面白がって「ジョル坊」、「ジョル坊」って言う様になったでねえか」


ジョルジュの言葉にターニャは目をキョトンとさせ、そのあと目を細めてフフフと笑い声を出した。笑い声がおさまると、指で眼尻を少し掻きながら言葉を返した。


「あら?そのおかげで村の人たちとも打ち解けたじゃない。感謝されど、恨まれることはしてないわ」


二人はその後も、葡萄酒を飲み合いながら、お互いに出会った頃の思い出を語った。それはジョルジュにとって、とても心地よい時間であり、このまま時間が止まってくれないかとさえ思えた。

やがて二人の思い出話は、13歳の頃の話になった。


「あの時のアンタ、おかしなこと言ってわよね~。「記憶」がどーのこーのだとか、「大切な人」がどーのこーのだとか…まだ子供のクセに変なことばっか言う様になったから、頭が変になっちゃったかと思ったわ」


そう言いながら、ターニャはジョルジュの肩をバシバシと叩いた。ジョルジュは「いや、あの時はあれだよ。特有の厨○病だよ。てかターニャちゃん痛いだよ」とターニャに弁解し、ターニャは「なによその胡散臭い病気は?」と語気を強めながら、今度はジョルジュの背中をはたき始めた。


ジョルジュは背中の痛みを感じながら、当時の事を思い返した。

夜も大分更けて、畔には、土の甘さと花弁の清涼とした香りが満ちていた。










あの時からだろうか―

前世の記憶が薄れてきたのは。

正確には友の顔が思い出せなくなってきたは。親の、妹の、そして愛した人の顔が思い出せなくなってきたのは…

呉作として、彼らと食卓を囲んだ記憶、大学のキャンパスを歩いた記憶、そして雷に打たれて倒れた時の記憶、それらの記憶にいる彼らの顔にうっすらと霧が出始めたのは。
その霧はやがて濃くなってきて、代わりにジョルジュとしての記憶が埋まってきたのは。


食卓には父バラガンや妹のステラ、サティが座っており、かつての親友の顔は白い霧に包まれた。
大学の風景は西洋風の村に変わり、ニッキーやエマン、そして村の子供たちが歩いている記憶に変わった。


ジョルジュはかつての記憶を忘れていくことに恐怖を覚えた。それはまるで、前の自分がいなくなるような感覚だった。
誰かに出会う度に、誰かの優しさに触れる度に、かつての記憶は隅に追いやられ、大切な人たちがいなくなっていった。

そんな恐怖と闘っていた時だった…


『あんたさあ~最近どうしたのよ?なんだか仕事にも集中してないじゃないさ。何か悩んでるの?』


畑仕事の手伝いが終わり、一人村のはずれにいた時であった。今と同じような、双月が昇った夜に、ターニャは話しかけてきた。


『タ、ターニャちゃん…ターニャちゃんはさ…大切な人のコトを忘れたってことはねーだか?』


『はあ~?アンタ私と同じ13でしょ!?もうボケでも来てるの?』


『いや…違うどもさ….だどもさ…例えばだよ!?例えば、親とか兄弟や、好、好きな人との思い出が段々となくなっていったら…ターニャちゃんは、どう思うだ?』


その瞬間、ジョルジュの背中に衝撃が走った。
その後、蹴られながら大きな声で怒られたコトを覚えている。


ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシッ….


『アホかあんたは!!そんなことこの歳で気にしてたら人生やってられんだっぺさ!!ええっ!』


『痛いだよターニャちゃん!!てか口調が元に戻っとるだよ!!せっかく訛りが取れてたのに』


『いい!!アンタの記憶力がどのくらいなのか知らねぇけどさ、忘れたことは気にすんなっぺよ!!ホラ!!行くだよ!』


『ううう…『それにね…』??』


蹴られたダメージで起き上がれなかったジョルジュに、彼女は手を差しのべながらいった。その声はどことなく、今までの彼女からは若干考えられない優しさを含んであった。



『もしアンタが…その大切な人を忘れてしまったなら、私がその大切な人になってあげるわよ。二度と忘れられないようにずっと隣にいてあげるから….』


『ターニャちゃん…』


その時からか、ターニャと美代の姿がダブって見えるようになった。
歳はかけ離れているにも関わらず…その茶色の黒髪が、その目が、そして彼女の動きが、かつて愛した女性と重なっていたのだった。


そしてそれは、ジョルジュに恋心を抱かせるコトとなった…


その後も二人は常に隣に立ち、畑作業をやっていた。ジョルジュが父バラガンから譲り受けた畑の作業にも、ターニャは手伝いにきてくれた。
やがてジョルジュは、かつての記憶を忘れることを恐れなくなった。代わりに彼の心には、ターニャが住むようになっていた。

そして、ターニャを美代と重ねながらも、彼女を一人の女性として好きになっていったのだった。










「私はね...アンタといろんなことしているのが楽しかったし、好きだった」


ターニャはそう言いながらグラスに葡萄酒を注ごうとしたが、中にはもう葡萄酒はなくなっており、2.3度便を振ってからグラスと瓶を地面に置いた。だいぶ冷え込んできたのか、ターニャの体がブルッと震えた。
ジョルジュは腰にさした杖を抜き、魔法を唱えた。休んだおかげである程度魔力が回復したのか、ターニャの周りを暖かい空気が包んだ。
ターニャに「ありがと」という言葉返され、しばらくの間、辺りは沈黙に包まれた。


しばらくして、彼女は再び喋り始めた。その声は、まるで泉に湧く水のように透き通っていた。


「それが普通だと思ってた…昔から、あの時も、そしてこれからもって思ってたわ…だけどね、あるとき気づいちゃったんだ…私はあなたの隣にいることが出来ないっ…てね。皮肉よね…願うほどに、それは出来ないことが分かってきちゃうんだから…」


「・・・・・」


「アンタが魔法学院に行くことが決まってからさ、確信したんだ…私はアンタの隣には入れない…アンタがいくら私達と同じことをしていても、私達とは世界が違うって」


ターニャの言葉に、ジョルジュは胸が強く締め付けられ、目の前が少し滲んだ。ジョルジュは大きな声を出して、ターニャの言ったことを拒否しようとした。


「そんなことないだよ!ターニャちゃんは、ターニャちゃんは…」


ジョルジュはその後の言葉が出てこなかった。言いたいことはあるのに、なぜだか口にはできない。
まるで、言わせんとばかりに、小人が彼の口を押さえているかのようであった。そんなジョルジュの口を、ターニャの人差し指が触れた。



「何も言わないでジョルジュ。アンタが一番分かってるはずよ。いくらこのドニエプル領であっても、貴族の息子が農民の娘と結婚できるわけないでしょ?」


ジョルジュの眼には涙が浮かんだ。学院に入る前には気づいていた。ターニャとは別れることになると、愛した女性がやがては結婚してしまうことも。だからこそ…彼には言いたいことがあったのだ。
しかしそれをジョルジュが口に出す前に、ターニャは再び口を開いた。




「私には分かるわ。アンタにはもう、いるはずよ…私じゃない…隣に立つべきヒトが…ちょっと変わったアンタを支えてくれるヒトが…」



そう言われたジョルジュの頭にふと、自分を見つめる女性が浮かんだ。
それは美代でもなく、ターニャでもなかった。
土のような茶色と黒の髪ではない、金髪の女性が立っている。
ジョルジュは知らず知らずのうちに涙を流していた。


自分は心のどこかで、彼女を諦めていたのかも知れない…好きになった女性を、自分から諦めて…


涙を流すジョルジュに、ターニャは両手をジョルジュの顔に当て、流れてくる涙を拭いた。ターニャはジョルジュの顔を見て微笑むと、やはり透き通った声でジョルジュにいった


「あなたが泣く必要ないわよ...それでいい…その人を大事にしてあげて…アナタが見つけたヒトだもの…イイヒトに決まってる。私は、あの人の支えになるわ…妻として…」


そう言うと、ターニャは腰を上げた。草の切れ端がついた部分をはたくと、顔をあげて月を見上げた。双子の月は、相変わらずお互いが寄り添いながら、二人を見つめていた。
しばらくして、ターニャは地面に置いたグラスと瓶を持つと、ジョルジュの方を向いた。
その目にはうっすらと、涙が見えていた。


「もう帰らなきゃ…明日、結婚式だもの…花嫁が寝坊したなんて…みっともな…」


ターニャは最後まで喋れなかった。彼女はジョルジュから顔をそむけると、村への道を静かに歩き始めた。
そんな彼女をみたジョルジュの頭には、ターニャとの思い出を再び思い返された。


―おめぇ違うっぺさ!!大鎌も使えちょらんのか!!―


―みんな、紹介するだ!!今、わたすが教育しちょるジョル坊だっぺさ!!みんなバシバシと仕込んでくれさ!―


―あの花を…私が結婚するときに、アンタがあの花を摘んできなさい!!あの花をドレスに着けて、アンタんトコロに嫁いであげるから―


―もしアンタが…その大切な人を忘れてしまったなら、私がその大切な人になってあげるわよ。二度と忘れられないようにずっと隣にいてあげるから…―








「ターニャちゃん!!!!」


ジョルジュは大きな声を出して立ち上がった。ターニャはその声にビクッと体を震わせ、振り向いた。
ジョルジュの目からは大量の涙がこぼれてきたが、ジョルジュはそれを拭こうともせず、自分が言いたかったコトを、彼女に伝えたかったコトをターニャへと振りしぼった。







「オラ!...オ゛ラずっとターニャちゃんの事がずきでした!!オラにいろいろ教えでぐれて...!皆の仲間に入れでぐれてッッッ!!隣にいでぐれて…ッ!!」





ジョルジュはすべてを言い尽そうとした。かつて思いを告げず、別れてしまった時のように…悔いを残したくなかった。






「ありがどおッ!!オラ、ターニャちゃんにいっぱい感謝しとるだよ!!結婚前の花嫁に、こんなコト言っちゃなんねぇどは思うけど…!!オラ、オラ!ターニャちゃんのコトあ…」





最後の言葉が口から出る前に、ジョルジュの唇をターニャの指が塞いだ。目の前にターニャは、ジョルジュと一緒で、大粒の涙を流していた。彼女の手にあったグラスと瓶は、地面に倒れて割れている。
しゃっくりが出そうになるのを我慢するかの様に、ターニャは一度噎いだ後、震える声を出した。




「アンタがそれを言っちゃだめ…それを聞かせるのは…私じゃなくて別の人…貴方の心にいる人に…言ってあげて…そうでしょ?ジョルジュ…」



お互いの顔は涙で濡れていた。
お互いが想いを押し殺していた。
ジョルジュも、ターニャも、互いにこれまで溜めてきた感情があふれ出てきた。
ターニャはジョルジュの唇を押さえた指を離すと、その指を頬にはわせ、手の平をあてながら言葉を続けた。





「ジョルジュ、約束して…明日の昼には結婚式は挙げられる…私はあの人に愛を誓うわ…少し頼りないけどとてもイイ人なの…だからこの結婚に後悔はない…だからこそジョルジュ、あなたには笑って見送ってほしいの…今みたいに涙を落とさず、笑顔で愛を誓わせて…」




既にジョルジュの顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。
彼の心には、様々な感情の波が、まるで嵐のように混ざり合っていた。

そんな彼が、涙を流しながら話すターニャの言葉に、コクリと一度だけ首を下げた。

ターニャはそれを見てまた涙を流した。そして一度、大きく深呼吸すると先ほどよりはしっかりした声をだした。


「ありがと…ジョルジュ…そして後一つだけ、私のお願いを聞いてくれる?」


ジョルジュは答えることは出来なかった。ただ「うん…うん」とだけ頷くことしか出来なかった。


「一晩だけ、一晩だけ私に誓わせて…ブリミルにも、精霊様にも誓わない…あなたにだけ誓う…あの月が沈んで、朝日が…朝日が昇るまでの間だけど、あなたに誓うわ......」



そしてターニャはジョルジュの頬から手を離し、流れてくる涙をぬぐった。いつの間にかジョルジュの顔からも涙は止まっていた。
くしゃくしゃになった顔を腕の袖で拭き、涙が出るのをこらえながらターニャの言葉を待った。
ターニャは大きく息を吐き、それからジョルジュの目を見つめ、




一晩だけの誓いを口にした。














「愛してます」


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