※前篇
「なあギーシュ、お前今誰と付き合ってるんだ?」
学生が食事を楽しむ食堂、そのとある席に数人の男子学生が座っている。その中の一人が、自分の前の席に座っている少年、ギーシュにそう話しかけた。彼はギーシュとは入学してからの付き合いであり、彼が幾人もの女性を口説いていることを知っている。もちろんその幾人とも付き合っていることも。
「つき合う? 僕にはそのような特定の女性はいないよ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
その質問に対して、青銅で作られた造花のバラを顔の前にかざしながら、ギーシュはそう答えた。
なんともない食堂での会話、ギーシュは外見上は学友の他愛もない会話に参加しているように見えるのだが、内心は密かに想う金髪縦ロールの少女の事でいっぱいであった。
(ああ…モンモランシー。僕の愛しの蝶よ…いったいなぜ、僕にとまってはくれないのだい?君の事を想うだけで僕は何も考えられないというのに…)
ギーシュは、これまで全く自分に振り向いてくれない想い人への思いを心の中で呟いていた。そして当然、後にはその想い人のそばにいる少年に嫉妬と恨みを募らせる。
(くそっ!!ジョルジュめ!!いつもモンモランシーに纏わりついて!!しかも僕のモンモランシーを「モンちゃん」だと!?羨ま…けしからん!!貴族の女の子になんて言い方をするんだ!!)
そうギーシュは頭で密かに怒りつつ、自分の前にあるグラスからワインを一口含んだ。食事が終わったからそろそろデザートが運ばれてくる頃であろう。
彼はデザートが運ばれるまでの間、今日の授業でのことを思い出した。
それは彼が昨日の夜に拾った香水瓶から始まる。
ギーシュは夜中にケティと女子寮で会った後、寮に戻る際に入口の近くに何かが落ちているのに気づいた。手に取ってみるとそれは紫色の液体の入ったガラス瓶であった。
ギーシュは瓶の形状からして、どうやら香水が入っているなと思った。
ギーシュはそれがモンモランシーが作った香水だとすぐに分かった。
彼は知り合いの女の子を通して、モンモランシーが作っている香水は全て揃えている。(それぞれ保存用、実用、予備の3つを購入している)
その香水を入れる瓶の形状が似ていることもあって、すぐにモンモランシーのものであると分かったのであったが、紫色の香水はまだ出ていないはずであった。
(これって新作なのかな?なんでこんな男子寮の近くに…!!!もしかしてモンモランシー!!!これは……これはもしかして「僕」にッッッ!?)
夜中でテンションが上がっていたためか、彼の頭の中には「モンモランシーが僕に渡そうとして寮の入口まで来たのだけど、恥ずかしくて帰ってしまった。その際にこの香水の瓶を落としてしまった」という今までのことからではあり得ない妄想が広がったのだった。
しかし、今日の朝の授業で彼の妄想は見事に吹き飛ばされてしまう。
その日の朝、ギーシュは教室の席に腰かけながら愛しの想い人が来るのを待っていた。
(フフフ、愛しのモンモランシー…この香水は一旦君に返すとしよう…やっぱり君の手からこの香水を受け取るべきだ…さあモンモランシー、僕のところにおいで。麗しの蝶…)
朝になっても妄想全開のギーシュであったが、当のモンモランシーは中々教室には来なかった。しかし、授業が始まる少し前にモンモランシーはやってきた。
ギーシュは後ろから声をかけようとしたが、モンモランシーが隣の席のルイズに何やら話しかけていたので、話かけずにそっと聞き耳を立てた。
―おはようルイズ。ねぇ、ジョルジュ見なかった?朝からいないみたいなの…アナタ、ジョルジュに会ってない?-
(ジョルジュ?モンモランシー..あんなやつの事なんていいじゃないか。それよりも僕と一緒に今後のことについて…)
―やっぱりルイズも会ってないのね…もう、どこ行ったのかしら。昨日あげた香水の感想、聞こうとしてたのに…-
(今後のこと…香水!?)
ギーシュの頭の中で昨日作った妄想がガラガラと崩れた。そして自分の持っている香水は自分のためではないことにやっと気付いたのであった。
モンモランシーの会話はまだ続いていた。ついでにルイズの声も聞こえてきた。
―アンタ、ジョルジュに香水あげたの?アイツに香水あげても使うとは思えないんだけど…-
(そうだよモンモランシー!!なんであんな田舎者にあげたんだ!?ゼロのルイズもたまにはいいこと言うじゃないか)
―あら?ジョルジュって結構そういうトコ気にする方だと思うけどな…-
(・・・・なんでそんな嬉しそうな顔で話すんだいモンモランシー…)
その後、ジョルジュが実家に戻った話になり、誰かが「モンモランシー!!彼氏がいないからって落ち込むなよ!」と言ったのでギーシュはそれを否定したが、モンモランシーに「黙ってなさい」といわれて大いにヘコんだ。
そして爆発に異臭騒ぎをくぐり抜け、今に至る。
(ううう…何でだいモンモランシー…なんでジョルジュなんだい?あんな田舎者のどこがいいんだ)
「おいギーシュ。どうしたんだお前?」
ふと、同席した仲間の一人が、先ほどから喋っていないギーシュを不審に思ってか、話かけてきた。ハッとギーシュは気付いて顔をあげた。
「フッ、なんでもないさレイナール。僕もたまには考える事だってあるということさ」
「くだらないこと聞くなよレイナール。どうせ次は誰を口説こうとか考えてたんだよ」
その言葉に、テーブルにいた生徒達はハハハと大声で笑った。そんな彼らを尻目に、ギーシュは今度はいまだに持っている、香水の事についてどうしようかと考えを巡らせた。
授業が中止となった後、ギーシュは結局モンモランシーに香水を返すことが出来なかったのだ。
(モンモランシーもなんであんなやつに香水なんか…使うどころか落しているじゃないか!?それなのにこの…ってあれ?懐に入れていたはずだけどドコにいったんだ?)
懐にしまったはずの香水瓶がなくなっていた。
ギーシュはポッケなども探し始めたが、ゴトリとテーブルに何かが置かれた。
見てみるとそれは紫色の液体の入った瓶であり、ギーシュが探していたものであった。
「落しモンだぞ色男」
声がした方を見ると、トリステインではあまり見られない黒髪に、非常に変わった服装をしている少年が立っていた。デザートも配っているのだろうか。少年の左手にはケーキが乗ったトレイがあった。
その少年は昨日、ルイズが召喚した平民だとギーシュは気付いた。
ヤバいッ…こんなトコでモンモランシーの香水なんか見せたらこいつら絶対何か言ってくるぞ。見せたくなかったのに…なんとか誤魔化せないかな
ギーシュはこの黒髪の少年に自分のではないと言おうとしたが、突然横から生徒の一人が大声でいった
「おいギーシュ!それはモンモランシーの香水じゃないか!お前彼女と付き合っているのか!?」
その男子生徒がいった突拍子もないコトで、周りの生徒も感化されて口々に言いだした
「まじかよギーシュ!!とうとうあのジョルジュに勝ったのか!?」
「なんだって!?ギーシュがとうとうモンモランシーを攻略したのか!?」
「だってあれはまだ出ていない色の香水だぜ!?新作だろ?それをギーシュにあげるってことは…」
なぜ香水一つでそんなに話が飛躍するのか…話が大きくなってしまって焦ったギーシュは、慌てて友人たちに香水のワケを話そうとした。
「な、何を言っているんだい君たち。それは(ホントに)違うよ。いいかい、彼女の名誉のために言っておくが・・・」
そう言っている時、ドサッと何かが落ちる音が聞こえてきた。その音に反応してギーシュが振り返ると、ギーシュが良く知っている栗色の髪の色をした女の子が立っていた。心なしか体が震えているようにも見える。
「ケ、ケティ…」
「ギ、ギーシュ様…や、やっぱりミス・モンモランシと….」
ケティは両肩を震わしてポロポロと涙を零していた。彼女の足もとにはギーシュにあげるはずであったクッキーのバスケットが落ちており、そこからクッキーが何枚か床に散らばっていた。
「ち、違うんだよケティ。ホント違うの。マジで。付き合ってないのホントに…だからそんなに泣かないでくれ…」
ギーシュは自分が泣きそうになっていた。
なんてタイミングの悪い時に来たのだろう彼女は。
しかもホントにモンモランシーとは付き合ってない(そこまでいけない)のに周りの言葉を信じてしまっている。なんとか誤解を解きたいのだが…
(くそー!!なんでこんなことになってしまっているんだ!?僕がなにをしたって言うんだ!??この前ブルドンネ街の占い屋に行ったとき、今週は良いことが起こるって・・・)
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『ど、どうかな?僕は近い将来に運命の人(モンモランシー)と結ばれるかな?』
『そうですね…ウワッ…い、いいんじゃないんですか?ええ…とても「スゴイ」が運気が巡ってくると思いますよ…』
『そ、そうかい!?じゃ、じゃあ今週あたりにアタックをかけようと思うんだがね…成功するかな占い師君?』
『……ヤベェ….えっ?そ、そうですね…今週は凄いですよアナタ…今年一番ではないでしょうか』
『ホントかい!?いやぁ今週の虚無の曜日に彼女をデートに誘ってみようかなって思ったんだけどね。大丈夫かなぁって心配だったんだよ。そしたら最近いい占い師がここにいるって聞いて来たんだけど…いやぁ良かった良かった!!』
『ハハハハ…ドウシヨ…えーと…「赤」と「紫」ですね。この二つの色がとてもあなたの運を動かします…あと「迂闊な発言」には注意してください。私から言えるのは…それだけです』
『分かったよ占い師君!!いやぁ来てみるもんだね!!また来させてもらうよ!フフフッ・・・』
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(あの占い師めぇーーーー!!逆の意味での「スゴイ」かよ!!あの占い師は今度文句言いに行くとして…不味いぞ。なんとか彼女に僕の想いを伝えなければ)
ギーシュは時間にしたらほんの数秒の間に、あまり使っていない頭をフル回転して彼女の誤解を解く言葉を探した。そしてふと、コレだ!!という言葉が浮かび、ギーシュは早速使おうと席を立ってケティのそばに寄って行った。彼女は下を向いてグスッグスッとまだ泣いているようであった。
「ケティ、聞いてくれ」
ギーシュはそう彼女に語りかけて、ケティの両肩にそっと手を置いた。いつもとは違う真剣な声に、ケティは泣くのを止めてギーシュの顔を見た。泣いたせいか、若干目が赤くなっていた。
「いいかい、ケティ。僕は・・・・」
「僕は」? ケティはあとにに続く言葉を待った。そして少し沈黙していたギーシュはようやく口を開いた。
「僕は…「今は」君を一番に愛しているさケティ」
「「今は」ってなんですかー!!ミス・モンモランシと付き合いだしたらお払い箱ってことですかギーシュ様!??」
ギーシュが言った言葉に、ケティはまたも目に涙を浮かべながら大声でギーシュを問い詰めた。
ギーシュは「会心のセリフを言ったのになぜ!?」という表情を浮かべ、全く良くならない状況にパニックになりかけていた。
「私だけとおっしゃってくださったのに…」
ケティは床に落ちていたバスケットを手に取り、そして止まらない涙を流しながら右手を振りかぶった。
「ち、違うんだよケティ。お願いだからそんなに泣かないでおくれよ。僕まで悲しくっていうか泣きそうなんだけど?今のは言葉のあやだよ。君のことをフベラッ!!!」
瞬間、ギーシュの左ほほに鋭い衝撃が走った。ケティが振りかぶった右手のひらは、的確にギーシュの顔面左部分をとらえたのであった。
「ギーシュ様の金髪バカッッ!!」
彼女はそれだけ言うと、泣きながら食堂を出ていってしまった。
あまりの光景に、ギーシュと一緒に座っていた友人はもちろん、周りの生徒の大半も声が出なかった。
「ウウッ…ホントに「今は」何もないのに…痛いというか重い…頭がグラグラする」
ギーシュはとりあえず席に座ろうとテーブルの方へ体を向け、イスに近づいていった。しかし、彼はその途中で声をかけられた。
「ギーシュ」
その声は彼が良く知っている声であった。そして一番好きな声であったが、今ほど聞きたくないと思ったコトはないだろう。
彼はその声のする方へ顔を向けた。ギーシュは声の主を確認した時、サーッと血が下がる音が聞こえた。
次に彼の目の前に立っていたのは縦ロール髪が特徴的な少女、モンモランシーであった。
※後篇
「モ、モ、モンモランシー…」
ギーシュはそう彼女の名を口から漏らした。いや、それだけしか言えなかったというべきか。今の彼には最も会いたくない人物がそこに立っているのだから無理もないだろう。
モンモランシーはそんなギーシュの心境など関係なく、すたすたと彼に近づき、スッと手を出した。
ギーシュには最初、その差し出された手が何を意味するのか分からなかった。
「モ、モンモランシー…いったい「香水」え?」
モンモランシーは再びギーシュに向かって言った。その声はいつも聞きなれているはずなのに、ひどく冷たく感じられた。
「あれ、私の香水でしょ?なんだかそっちの席の方ら「モンモランシーの香水」とか「新作」とか聞こえてくるから気になって来てみたけど、確かにアレは私の香水ね。なんでギーシュが持っているのかしら?」
「いや…それはだね。昨日の夜に男子寮の入口のあたりで落ちていたんだ。それをね、ぼ、僕が拾ったんだよ…ハハハハ…いや返そうと思っていたところだったんだよ?ホントに…」
「そ、ありがとギーシュ。じゃあせっかくだから今返してくれないかしら?」
「えっ、あ、ああ…それはそうだけど…」
「…ま、いいわ。勝手に持っていくわよ」
モンモランシーはそれだけ言うと、テーブルに置かれてある香水の瓶を手に取り、ギーシュには一瞥もしないで戻ろうとした。ギーシュは思わず彼女を引き止めた。
「ま、待ってくれモンモランシー!!」
モンモランシーはギーシュに呼ばれ、足を止めて振り返った。
「なにかしらギーシュ」
「その香水は彼に、ジョルジュにあげたというのはホントなのかい?違うよね?落としちゃっただけだヨネ?」
モンモランシーはギーシュのその言葉を聞いて、フゥとため息を吐いた。そのあと、少しだるそうな目でギーシュを見ていった
「ええ、そうよ。これはジョルジュにあげたの。男子寮の入口にって言ってたわね。まあどうせ実家に帰る時に慌てて落したんでしょアイツ…全く、人から貰ったモノなんだと思ってるのかしら。帰ってきたら怒んないとね」
ギーシュには今はいないジョルジュに対して愚痴を言っているモンモランシーの顔が、どこか楽しそうに見えた。
何でそんな顔をするんだいモンモランシー?
ギーシュはいよいよ我慢できなくなった。そして自分の心の中で思っていたことをモンモランシーにぶつけた。
「モンモランシー!君はそんなにジョルジュの事が良いのかい!?あんな田舎者の農民のように土臭い彼を!!君からもらったその香水でさえ、落としていくような奴だ!?女性に対する心遣いなんてもんはないんだよ!?それでも君は彼が良いって言うのかい?」
ギーシュが言い終ったとき、周りの生徒はシーンと静まりかえっていた。
終りまで聞いていたモンモランシーは、ホントにだるそうな顔でギーシュを睨み、そして口を開いた。
「そうね…確かにジョルジュは粗野なトコあるわね。いつも私を困らせるし、アナタみたいに奇麗にめかし込むこともないし、テーブルマナーもいいとはいえない。魔法が使えなかったら貴族であるか疑問に思うくらいだわ…」
モンモランシーは「でもね」と言葉をつなげてこう続けた。
「アンタみたいに女を泣かすようなことは絶対にしないわ」
グサッ!!!
ギーシュの胸に、言葉のジャベリンが刺さった。そしてモンモランシーは尚も続ける。
「アンタと違って上辺だけの優しさじゃないし」
グサグサッ!!!
さらにジャベリンが突き刺さった。
「自分の家のことを鼻にかけてもいないし」
ドスッ!!
さらに突き刺さる。
「口先だけじゃないし」
ズドンッ!!
度重なる想い人からの口撃に、既にギーシュはグロッキー状態になっていたが、次の言葉が決定的となった。
「まあ、私からしたらジョルジュはアナタとは比べ物にはならないくらい男前よ。話はこれでいいかしら?じゃあねギーシュ。あの子にちゃんと謝っておきなさいよ」
そう言って立ち去った彼女の後には、床にうつ伏せにダウンしているギーシュだけが残った。彼は倒れながらブツブツと「モンモランスィ~」とかなんとか呟いていた。
周りの生徒はもうギーシュの事を見ていられず、デザートに集中して見えないふりを決め込んだ。
「・・・・・・」
事の始終を見ていたサイトも、「なんかヤバい…」という雰囲気に負け、ここから立ち去ったほうがいいなと感じた。
しかしサイトがその場を離れようとした時、床で倒れている貴族?の少年から声を掛けられてしまった。
「フフフッ….待ちたまえそこの平民」
そうギーシュの口から出てきた声は、若干涙ぐんでいた。
なんでこんなことに…
ルイズの使い魔として召喚された少年、平賀才人は事の一部始終を見てそう思った。
爆発した教室を片づけて、ルイズが「アンタの昼食は話しつけたから、厨房に行って食べてきなさい」って言ったから教室から出た後にルイズと一旦別れた。
ウン…ここまではイイ。
厨房に入ったら、食事の準備のせいか皆凄い勢いで動いていて、話しかけづらかったんだけど、おれと同じ黒髪のメイドさんが「もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」って声を掛けてくれた。シエスタっていったっけあのコ。優しい子だよな~胸もデカイし…
そしてすんげぇ上手いシチューを食べさしてもらった。
ウン…これも間違ってない。
んで、食べながらシエスタにこっちの世界の事をいろいろと聞かせてもらった。
どうやらこの世界では貴族と平民の格差ってものが激しいらしい。んでもって俺のご主人さまであるルイズはその中でも有数の貴族ってんだから驚きだ。
ああ~ブルジョワジーブルジョワジ~
それはこの学院でも同じ様で、貴族の子供たちが生徒だからって多くの奴が威張り散らしているって言ってた。(中には優しい奴もいるってシエスタは言っていたな。「ドニエプル家の皆さまはとても私たちに優しくしてくれるんです」って。いったいどんな人たちなんだろう?)
そんでタダ飯もなんだし、何か手伝わせて欲しいって彼女に言ったら「ではデザートを配るのを手伝ってくれませんか?」って言われて食堂でケーキ配ることになった。
ウン、人として俺の行動は間違ってないぞ…
ケーキを配っていたらなんかやたらと大きな声で喋っている奴らがいた。「なあギーシュ、お前今誰と付き合ってるんだ?」って言う言葉が聞こえてきたと思ったら、「つき合う? 僕にはそのような特定の女性はいないよ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」って如何にも遊んでそうなヤツが、今時マンガに出てくるナルシストでも言わないようなセリフを言ってたんでムカついた。
けど、そいつの方に顔を向けていたら、足もとになんか落ちているのに気づいたんだ。ケーキ配るがてらに拾ってやるかと思ってその落し物を拾った。なんか紫の液体が入ったガラス瓶だった。ポーション?
これがどうやら間違いだったらしい…
その後は机に置いたポーション(周りの声を聞いていると、どうやら香水らしい)周りの奴らがそれ見て騒ぐやら、女の子が来て色男ががヒッパたかれるやら、なんか本命の子にもの凄い勢いでフラれるやらで、今そいつは俺の近くでダウンしている。
オレ、間違ったコトした?いいやしてないと思うよ。親切に香水の瓶を拾ってあげたじゃん?こっちの世界に呼ばれる前に見ため○しテレビの占いでも、「人には親切にしよう。凄いお礼が来るかも。ラッキーポイントは「中世風の建物」」とか言ってたし?
だけどなんかヤバそうだな…ここはもう退散「待ちたまえよ平民君」ほらオレのバカ…なんか話しかけられちゃったよ~
そう思っているとそいつはフラリと立ち上がってオレの方に顔を向けた。さっきまでとは別人のようにやつれてる…
「フフフッ…君が軽率に、香水の瓶を拾い上げたおかげで、二人のレディが傷ついてしまった…ホントに…ホントにどうしてくれるんだ!?」
言葉に無駄に迫力があるなこいつ…だけど、
「いや、どうもこうもオマエの責任だと…」
そういうと金髪の色男(ギーシュって言われてたな)はいきなり大きな声で俺に詰め寄ってきた。
「うるさい!!君が香水の瓶を拾わなければああもレディ二人の名誉を傷つけるようなことはなかったんだ。なんでわざわざテーブルに置いちゃうんだよ!!僕に直接渡せば良かったじゃないか!!」
んなムチャ言うなよ。負けじと反論をする
「んだよ。仮にテーブルに置いた俺が悪かったとしてもだ。二人目はともかく最初の子には他に言えることがあったろ?さすがにアレはねぇよ…」
そう言うと周りの奴らも「うん。確かに」「あのセリフはダメだろ」「ギーシュらしいけどダメだろ」とか聞こえてきたが、ギーシュは肩を震わせてまた俺に詰め寄ってきた。
「平民の君にドーコー言われる筋合いはない!!僕が言いたいのはこの責任をどう取ってくれるんだ!!」
平民ってお前…要は俺に振られた責任をなすりつけたいだけか…
「だから責任も何もお前のせいだよ。好きな子がいるのに他の子と付き合ってたからこんなことになったんだろ平民も何も関係ないね」
「フフフッ…さすが「ゼロ」のルイズの使い魔だ…貴族の僕に対してそんな口を聞くなんて…ルイズは平民でさえも満足に教育出来ないようだ…」
….マジうるせえなぁコイツ。もう我慢できねえ!
「ウルせぇよ平民平民って…そんなに貴族様が偉いのかよ!!女の子を泣かすような奴に言われたくねぇな!!」
「フッフッ…どうやら「ゼロ」のルイズは君に貴族への礼儀を教えていないようだな…ならば僕が教えてあげよう!! ヴェストリ広場まで来たまえ!!君には特別に「礼儀」というものを教えてあげよう」
「上等だ!!やってやるよ!」
かくして、ギーシュのこの言動により、平民と貴族が戦うという事態が発生した。それは生徒の間に瞬く間に広まり、事態は彼らが思うより大きくなっていった…
「ヒッグ、ヒッグ…」
そんな対決騒ぎが始まる少し前、女子寮近くの花壇にケティがいた。花壇はジョルジュに管理されており、一面に白い花を咲かせている。
そんな白い花を見つめながらケティは目を潤ませていた。
「ふええええぇぇぇん…ギーシュ様のアホ~バカ~女たらし~」
そんな、かつての恋人に向かって言っている彼女に、二人の少女が傍に近づいてきた。ケティがハッとして顔をあげると、そこには友であるステラとララが立っていた。
「全く、だから言ったのです。あんな口からバラ生やしたナルシストはやめておきなさいって…」
溜息をつきながらステラは、ケティに向かってつぶやいた。
「ス、ステラちゃん…」
そしてステラの横に立っている、少し日に焼けた顔のララが、明るい声でケティにいった
「まあ、ゲルマニアでも失恋の一度や二度は誰だって経験するもんよぉ~。今回はたまたま変な男に引っ掛かったって思えばいいのよ。元気出しなさい」
「ララちゃん…」
2人の声に、ケティは再び涙を流した。そしてララに抱きつくと、エンエンと泣き始めた。
「ふええぇぇ~ん! ステラちゃん、ララちゃ~ん」
「よ~しよしよし。今日は一緒にいてあげるからね~。そうだ!いっそ夜は3人で飲もうか!」
ケティの背中をポンポンと叩きながら、ララはケティを慰めた。ステラは二人の様子を見ながら、大丈夫そうな友人を見てホッとした表情を浮かべた。
そんな時、食堂の方向から大きな声が飛んできた。
「ギーシュが決闘するぞー!!相手はルイズが召喚した平民の使い魔だ!!」
その声が聞こえた後、ステラは自分の袖に仕込んでいた杖を取り出した。そしてララとケティの方へ顔を向け、ララにいった。
「ララ…ケティさんのことよろしくお願いします」
そう言うとステラは食堂の方へと足を向けた。
「うん分かった..ってステラ?あんたどこに行くつもりよ?」
急な友人の行動に、ララは思わず尋ねた。ステラは足を止め、再び顔をララに向けると、ララがある程度予想していた答えを返してきた。
「なんでもありません。ちょっとあの金髪バカを焼いてくるだけです」