みなさん。どうもおはようございます。
初めて方もいらっしゃると思うので、自己紹介をさせていただきます。
私の名はステラ。ステラ・テルノーピリ・ド・ドニエプルと申します。この春にトリステイン魔法学院に入学しました。
私の姉や兄も、魔法学院に在学しており、これからは私も、上の兄妹たちと同様、メイジと貴族に必要なことを学んでいきます。
さて、いつもならまだ寝所でまどろんでいる時間なのですが、今朝はそんな時間はありません。
実は昨夜、急に兄様が私の所に来まして、
「ステラ!さっき母さまから手紙がきてな。ターニャちゃんが結婚するって便りが来たんだよ!!オラ、家の代表ッつーわけで結婚式に出なきゃなんねぇ~から、今から実家さ帰るんだども、オラがいねぇ間、花壇と、ルーナお願いするだ」
と言われたのです。どうやら兄は村の結婚式に呼ばれたようですが...その人物がターニャさんということなので、兄様の顔色もすぐれない様子でした。
お祝い事なのに兄様の心の中は複雑なのでしょう...全く、あの人はいつも兄様を困らしますから腹立つのです。結婚なり離婚なりなんなり勝手にすればいいのです兄様を巻き込まないでほしいのですよホント胸や体にばかり栄養がいってるせいか頭の中身は1ドニエ並みすらも働かないのですからあの乳牛は........
というわけで、今朝は私が早起きをして、花壇の手入れをしに行くのです。
ちなみに、兄様の口から「ルーナ」という聞き覚えのない名前が聞こえてきましたので、私が尋ねたところ、今日の使い魔召喚の儀式で呼び出したマンドレイクの名前だそうです。「花壇に埋まってるから、他のと一緒に手入れ頼むだよ」と兄様は言ってましたが、マンドレイクは普通、山や森や墓場に生えているものです。採取はともかく、マンドレイクの世話なんてしたことない...というよりも使い魔が花壇で生えてるというのは聞いたことありませんし、非常にシュールだと思うのですが...おや、もうこんな時間ですか。
さて、必要な道具を持って出ますか...
・・・ふぅ、やはり早朝はひんやりと冷えていて気持ちのいいものですね。実家で兄様の手伝いをしていた頃を思い出します。
兄様の畑は無事に管理されているでしょうか...お父様は「心配すんな!!畑のこたぁオラに任せておくだよ!!」と言っていましたが、やはりいささか不安です。兄様を悲しませるようなことになってなければいいのですが...っとここですね。さすが兄様です。学院の花壇でこれだけの花や野菜を育てるなんて...なにしに学校来ているのか疑問に思うくらいです。
それで...ああ、あれですね。いやにバカでかい葉っぱがあります。
「おはようございます。ルーナさん?」
あっ、葉っぱが動きました。
―...おやっ?あなたは...―
ッッッ...これは奇妙な感覚ですね。頭に直接響いてくるようです。
「申し遅れました。あなたの主人であるジョルジュの妹でステラと申します。兄のジョルジュが急用で実家へと戻りましたので、代わりにあなたの世話をするよう言われてきました」
しかし...葉っぱに向かって喋りかける私はどれだけ奇妙なのでしょうか...
―主の妹様ですか。このような姿で失礼します。昨日、使い魔として召喚された「アルルーナ」のルーナといいます。よろしくお願いしますわステラ様―
「アルルーナ?マンドレイクとは違うのですか?」
―人が民族によって分けられるのと同じく、私たちの世界にもいくつかの集団があります。あなた達は我々を「マンドレイク」とひとまとめにしていますが、マンドレイクは我々の中の一つでしかありません―
そうだったのですか...知りませんでした。ところで、ルーナさんの周り(葉が出ている付近)には幾つも芽が出ております。一体何の植物なのでしょうか?兄様からは何かを撒いたとは聞いてないのですが...
「ルーナさん。あなたの葉っぱの周りになにやらたくさんの芽が出ているのですが、兄様から何か聞いておりませんか?」
―あっ、それは私の頭からこぼれた種が発芽したせいですわ。この時期は繁殖の時期なので、頭から種がポロポロ零れてくるのですよ全く―
「フケですかあなたの種は!?そこいらで繁殖させないでください」
―すみません。芽が邪魔でしたら引っこ抜いても構いませんわ。この主の育てた土はとても住み心地がいいので、そのままにしてたら勝手に成長していきますわよ―
なんて面倒なことを言ってくれるのですかこの植物は。
それに人に物事を言う時にはちゃんと顔?を見せて...とにかく兄様も知らないようですし芽は抜いておきませんと...っといけませんね。早く作業しないと...朝食に遅れてしまいます。
―ああっ、それとついでなのですがステラ様、肥料を溶かした水をまいて下さりませんか?―
・・・・・・・燃やしたろか
・・・・なんとか朝食には間に合いそうですね。まさかあれほど手間取るとは思いませんでいたわ。
芽を抜くたびに「ギャァ!!」とか「キーッ」とかいちいち悲鳴を上げますからうるさくって仕方ありませんでしたわ。それにルーナさん。私が水をやらないでいると土から出てきて勝手に飲みだしますし...出来るんなら自分でやればいいでしょうにあの植物は...そういえばルーナさんも植物のくせにかなり胸が大きかったですね...
私を困らすのは常に胸がデカイ人(と植物)と決まっているのでしょうか?
では身支度も済んだことですし、そろそろ食堂の方へ向かいますか。その前に鏡で確認と...うん。今日も髪型がバッチリ決まってます。去年は髪を編み込んでいましたが、今では背中の中ほどまで伸びましたので少しカールを入れてみました。自分でも言うのもなんですが...私の紅い髪の色に合ってますね。マーガレット姉様みたいにあそこまで伸ばそうとは思いませんが、しばらくはこれで過ごしましょうか...さて、では行きますか。
ドアに「ロック」の魔法をかけてと...おや?
「おはようございますケティさん。お隣同士とはいえ、一緒に部屋を出てくるなんて奇遇ですね」
「おはようステラちゃん。ホントに奇遇ね...ねぇ、もし良かったら一緒に食堂までいきましょう?」
この子は私の隣の部屋に住んでいる同じクラスのケティさんという方です。私と同い年で、栗色の髪が特徴的な女性です。私が入ったクラスで声を掛けてきて以来、お付き合いしています。
「燠火」の二つ名を持つ彼女とは時々お菓子などを作ったりするのですが、彼女が作るようには上手くはいきませんね...
一通りの調理本には目を通して見たのですが、それでも彼女の腕には敵いません。
「ええ、よろしいですよ。それにしても昨日は大分遅くに帰って来ましたが、どちらへ行かれていたのです?」
おや、急に顔を赤らめましたが...
「き、昨日の夜ね...ギーシュ様とお会いしてたの。それでつい話し込んじゃってね、遅くなっちゃったの」
ギーシュ様?どこかで聞いたことが...ああっ、あのグラモン元帥の息子の金髪ナルシストノンセンス馬鹿ですね。かなり女漁りが激しいとは噂で聞いていますが、なぜケティさんとお会いしているのでしょう?
二人は付き合ってるのでしょうか。
「それでね、それでね、ステラちゃん。私、ギーシュ様に「愛してるよケティ」とか「君というグラスだけに、僕の愛を注ぎたい」なんて言われちゃったんだぁ~~エヘヘ」
いやいやいやケティさん...あなた「言われちゃったんだぁ~」じゃありませんよ。なんですかそのダサいを通り越した臭いセリフは...大体ケティさんはあの金髪バカのどこに惚れてしまったのでしょう?口からバラが生えてるトコロでしょうか?
「しかしケティさん。あなたあの金髪バ・・・ミスタ・グラモンのどこがよろしいのですか?私から見たら、あの方の良いところなんて、バラが口から出てるぐらいなものですよ」
「そ、そんなこと言わないでステラちゃん。それにバラなんて出てないもん。銜えてるだけだし...確かにね、時々「うわぁ」って引くときもあるけどね、優しい方だし、あれだけ情熱的な人って私、初めてなの...」
「・・・まあ人の好みはそれぞれですし、これ以上は何も言いません。上手くいくとよいですね」
「うん。ありがとうステラちゃん。あっ、もう食堂に着いちゃった。喋りながらだと早く感じるね」
「そうですね。では私はあちらの席なので...ではまた、ケティさん」
「またねステラちゃん」
しかし、まだ数える程しか食べてはいませんが、この学院の朝食は無駄に豪華ですね...
実家では朝食はいつも魚料理とパンと野菜料理だけですのに...マーガレット姉様が「あんな重い朝食は飾りでしかないわ」なんて言ってましたけど、あながち間違いではありませんね...
「どうしたのよぉステラ。朝から重い顔して。こっちまで辛気臭くなっちゃうじゃない」
「毎朝こんな無駄に豪勢な食事を見てれば気分だって悪くなりますよララ。」
今、私の席の隣から話しかけてきた子はララといいまして、私と同じ学年で、ゲルマニアから留学してきた子です。元々は平民の身分だったそうですが、彼女の父が賞金稼ぎとして財をなし、領地を買い取って貴族となったそうです。彼女の母がメイジであったため、彼女にも魔法の才が備わったらしく、15歳になった今年の春にこちらへ留学しに来たというわけです。
「キャハハ。確かにね。あたしも初めて見た時にはびっくりしたわ。トリステインの貴族はこんなに豪勢な朝食を食べれて幸せね~。実家じゃ考えられないわ。食べるけど...」
「ドニエプル家も一緒にしないで下さいな。こんな無駄に豪華な食事なんて、見栄を張っているだけです。食べますけど...」
彼女もケティさん同様、初めてクラスで知り合って以来、お付き合いをしています。‘煤煙’の二つ名であるララは、私と同じ火のメイジです。
ケティさんといい、火のメイジというのはお互い相性がいいのでしょうか?って指で脇腹を突かないでくださいな。何ですか?ララ。
「いやぁ、アンタって上の学年に兄ちゃん2人いるじゃない?昨日の召喚の儀式の事について何か聞いてるかなぁ?って」
「聞いているも何も。兄様達がそれぞれバカでかい蛇とイラッとくる植物を召喚したことは聞いてますが...」
「いや、そうじゃなくてぇ。アンタ聞いてない?なんか昨日の儀式で、人間を召喚した人がいるんだって」
・・・心底どうでもいい話です。