「じゃあ、こうしましょう。自分の名前が呼ばれた人から順に、これを飲んで行くってことで...」
「嫌よそんなの!!そんなの飲んだら召喚どころか、立っていられるかも疑わしいわ!!」
「ルイズは大げさだよ。マー姉は臭いがきついほど名酒だって言ってただ。きっと味はいいだよ」
「無理よムリムリ!!そんなの無理よ!!絶対飲めないわ!!」
召喚の儀式は順調に進み、既に半分の生徒が使い魔を召喚していた。召喚された使い魔は、生徒一人一人によって様々であり、尻尾に火が付いているトカゲや、中には風竜を召喚した者もいた。
ちなみにジョルジュの兄であるノエルも召喚に成功し、体長10メイルはあろうかという巨大な蛇、紅鱗のコアトルを召喚した。
そんな彼は現在、隅っこの方でコアトルに巻きつかれている。
そんな中、ルイズ達3人は、マーガレットから渡されたお酒をどうしようかと話していた。
「せっかくマー姉からもらったものだし...オラ、ためしに飲んでみるだよ」
「ちょっと本気で言ってるのジョルジュ!?こんなの飲んだら死ぬわよ!!」
「死ぬんだか!?」
「ちょっとルイズ落ち着きなさいよ。いくらキッつい臭いがするからってたかがお酒?よ。いくらなんでも死にはしないわよ。それにジョルジュが飲みたいって言ってるんだから飲ましてあげましょう」
「あんたも何言ってるのよモンモランシー!!あんたの恋人が死ぬかもしれないのよ!?」
モンモランシーは顔を赤くし、「バカッ!!」と言いながらルイズの背中を押して、ジョルジュと少し離れた場所までいき、ヒソヒソ声でルイズに話し始めた。
「だ、だ、誰が恋人よ!!そ、そんな...そんなんじゃないんだから。ってなに言わせんのよ!!いいルイズ。あんた、なんだかんだ言ってるけどあなただってあの瓶の中身に興味はあるでしょ?誰かしら毒味すればどんなお酒なのか分かるんだからちょうどいいじゃない。仮に死ぬほど不味かったとしても、私たちは安全だし...」
「モンモランシー...あんた結構腹黒いトコロあるのね...まあ、確かにあのお酒を持ってきたのはジョルジュだし...そうね。本人に味見してもらいましょう」
「二人とも~。オラに隠れてなにコソコソ話ししとるだよ?」
「な、何でもないわ!!そ、そ、それよりジョルジュ!!いいわッ!!あんたソレ飲んでみなさいッ!!」
「そうするつもりだよ。どしたんだ急にルイズ?...ああ、だどもいざ飲むとなると、なぜかドキドキしてきただよ」
ジョルジュは若干震える手でその小瓶の栓を開けた。
開けた瞬間、瓶の口から紫の煙がでたように見えたが、ジョルジュは気のせいであると思いこんだ。不思議と、栓がされていた時でさえも尋常ではなかったあの臭いは、ふたを開けた瞬間には何も感じなくなった。実際はあまりの異臭に、ジョルジュ本人の嗅覚が麻痺してしまったのだが...
「あれっ?なんかなんにも臭いがしねぇだよ...さっきまでアン婆ちゃん(80)の口の臭いがあんだけしたのに...慣れちまったのだかなぁ?だども...いざ蓋を開けてみると、やっぱり怖いだなぁ...」
ジョルジュは若干躊躇したが、女の子に行ってしまった手前、止めるわけにもいかず、エイヤと目を瞑り、瓶の中の液体を三分の一程度、口に流し入れた。その光景を、ルイズ、モンモランシーの二人は心配そうに見つめている。
「ジョ、ジョルジュ...どうなの?大丈夫?」
「ちょ、ちょっと。あんたなにか言いなさいよ...」
2人の少女は、中身を飲んでから全く反応のないジョルジュに声をかけたが、ジョルジュ本人には何も届いていなった。彼は飲んだ酒のあまりの味のキツさに、彼の魂は遠い昔にトリップしていたのだ。
あ、あれは...オラが高校ん時の...ああ、あの時も~進級試験で~苦労しただ~っけ~な~ぁ~~~...
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『オオ~ミスターゴサク。アナタノタンイハ、トッテモアブナイデ~ス。コノママデハシンキュ~ガアヤウィデ~ス』
『そ、そんな!?お願いだよミハイル先生!!何とかしてほしいだ!!』
『ソレデハワタシノ「システマ」カラノガレルコトガデキタラ、タンイヲアゲマショ~』
『えっ?ミハイル先生?何で急に軍服に着替えるだか?えっ、てか今から?ってちょっ!!待つだよミハイル先生~ッ!!!』
『ワガソコクノセントージュツカラノガレルコトハデキマセ~ン。オトナシクリューネンスルデ~ス』
『おおお~ッ!!ミハイル先生~ッッッ!!』
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「ミ、ミハイル先生ぇ...」
「ちょっとジョルジュ!!あんたこっちに戻ってきなさい!!誰よミハイル先生って!?」
「はッ!!お、オラは一体!!」
「あなた、それ飲んでから白目剥きながら立ってたのよ?大丈夫?なんかミハイルミハイルって言ってたけど...」
「す、少し昔に戻ってたような...あ、どうやらオラの番が来たようだよ。ちょっと行ってくるだぁ」
揺れる足取りでジョルジュは、コルベールのもとへ歩いていった。そんな様子を後ろから見ていた2人は、地面に置いてある兵器・・・もとい酒瓶の蓋を閉め、二人はその場から移動した。
「あれは、人が手を出してはいけない禁断の果実なんだわ...」
「そうねルイズ。きっと、あれは始祖ブリミルとかが飲むものなのきっと...私達ごときが手を出してはいけない代物なのよ...」
彼らがいた場所には、少し中身が減った瓶だけがさびしく置かれていた...
「さて、では次はミスタ・ドニエプル...ってジョルジュ君大丈夫ですか!?顔色が悪いですぞ!?」
「だ、大丈夫だよミハイ・・・コルベール先生ぇ...やれるだぁ」
幸い彼は飲んですぐにトリップしていたので、飲んだ量はそれほどでもなかった。それでも、まだ頭に残る虚脱感を振り払うと、彼は深呼吸を2.3回行ってから召喚のために呪文を紡ぎ始めた。
彼の周りでは、「あのジョルジュか...」「あんなやつが...」「失敗するんじゃないかい...」「くっ!!ジョルジュめ!!僕のモンランシーとあんなに...」などの声が聞こえてくるが、彼の集中力はだんだんと高まり、まるで水の底へ沈むかのような感覚で、やがて周りの声も聞こえなくなった。
「我が名はジョルジュ・チェルカースィ・ド・ドニエプル...」
そして彼独自の詠唱が後に続いていく
「五つの力を司るペンタゴン。我と出会い、そして我が運命と相対する者よ。我の導きに答え姿を現せ!!」
ジョルジュは召喚の時の詠唱に、「使い魔」を入れることをしなかった。それは「使い魔」としてではなく、これから同じ人生を歩む「仲間」を呼び出すという、彼の性格から出来た詠唱であったのだ。
詠唱が終わると同時、彼の前に空気が爆発する音と、緑色の光が発生した。その光はやがて消え、爆発の音が周囲に溶けていった頃には彼の使い魔が姿を現した。
「こ、こ、こりゃあ驚いただぁ~」
それはジョルジュと同じか、やや低いであろう一人の女性であった。しかし、その女性の四肢は茶色く、汚れており、まるで老樹に絡まる蔓のようなものが彼女の体に巻きついていた。何よりも彼女の眼は人間のそれではなく、紅く、まるでルビーのような色をしている。
そして彼女の頭からは、髪ではなく、緑色をした何枚もの大きな葉っぱが生えていた。
教師コルベールも、彼女を見て、口をあんぐりと開けて驚きを隠せなかった。
「こ、これは非常に珍しい...こんなに成長したマンドレイクは初めて見ましたぞ...」
彼女は魔術や秘薬の原料ともなる植物、マンドレイクであった。マンドレイクは地面から引き抜くときに悲鳴をあげ、引き抜いた者の命を奪う危険な植物である。マンドレイクはある程度成長すると自らの意思を持ち、地中から出てきて新たな繁殖先を探して移動するのだが、マンドレイクはどんなに大きくても20~30サント程度であるのだ。人と同等な大きさのマンドレイクは、現在では文献上のなかでしか存在していない。
ジョルジュが召喚したマンドレイクは正にそれであり、その希少さは竜すらも凌ぐのではないだろうか。
「し、しかしジョルジュ君。彼女は‘園庭’の二つ名を持つ君にはピッタリではないのかね?君は土系統の魔法が優秀であるし...土メイジとしては非常に立派な使い魔ですぞ」
「いやぁ、オラもほんとおったまげたぁ~。こんな大きいマンドレイクはオラ、見たことねぇだよ。オメェ、ホントにオラに付いてきてくれるだか?」
ジョルジュが少し緊張した声でそのマンドレイクに話しかけると、彼の言った言葉が分かるのか、コクンと首を縦に振った。
「あ、ありがとさ~。これからよろしくだよ!!」
そしてジョルジュは契約の呪文、コントラクト・サーヴァントを唱え、彼女の唇(らしきとこ)に唇を合わせた...
「いや~。やっぱ契約のためだからって、女の子とキスするは、ちょっと恥ずかしかっただよ~」
―フフフッそうですか?私は主にキスされるのは嬉しかったですわよ―
「そ、そんなこというなよ~。オラ余計恥ずかしいだ...そういやルーナってどこで産まれたんだ?」
―私はゲルマニアの山奥で産まれました。私が生まれた場所は、幸い土壌が豊かで、人が入ってこないような場所でしたので、仲間たちよりも大きく育ちましたの―
「へぇ~そうなんだか。それじゃあ、改めてこれからヨロシクな。ルーナ」
―こちらこそお願いしますわ。我が主―
ジョルジュは召喚の儀式のあと、彼は、召喚した彼女と日の光が良く当たる場所に移動し、お互いの事について語り合っていた。
ちなみにルーナというのは、彼女の種族がマンドレイクではなく、その亜種といわれる「アルルーナ」というものであり(本人談)、ジョルジュはそこから取って「ルーナ」と名付けた。
コントラクト・サーヴァントの後、彼女とは会話ができるようになった。しかし、会話といってもルーナの声は口から出てくるのではなく、直接頭に響いてくる。半ばテレパシーの一種であろうか。
そんな彼らが喋っているところに、こちらも召喚の儀式を終えたモンモランシーが歩いてきた。彼女の肩には黄色い皮膚の、黒い斑模様をもったカエルが乗っていた。
「おお~。モンちゃんお帰りだよ。召喚上手く行ってよかっただなぁ~」
「これくらい普通よ。しかしジョルジュ。あなたすごいの召喚したわね~」
「ホントに、よくおらのトコに来てくれただよ~。ルーナ。この子はモンちゃんって言ってオラの大切な友達だよ」
―ルーナです。よろしくお願いしますね主のお友達のモンちゃん様―
「友達...ね。まあ今はね..ってじゃなくて!!なに今の!?頭に何か聞こえたけど...もしかしてこの子!?」
「そうだよ。ルーナは口では話せねぇけど、喋れるだよ」
「そ、そうなの?なんだかへんな感覚ね...よろしくルーナ。私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。モンちゃんでなくてモンモランシーって呼んで」
「ええぇ~。モンちゃんはモンちゃんだよ~」
「ウっさいアホ!!」
―マスター。少しは彼女の気持ちも察するべきですわ―
彼らが、召喚した新しき仲間たちと楽しそうに喋っている時、召喚の儀式もいよいよ最後の一人を残すだけとなった。
「次、ミスヴァリエール」
コルベールの呼び声に、多少上ずった声で「ハイッ」と答えると、ルイズは緊張した足取りでコルベールのもとへと歩いた。
「お、とうとうルイズの番だよ!!一体どんなの召喚するんだかなぁ?」
「まず召喚できるかが問題ね」
―彼女も主のお友達なのですか?随分と小さいですわね―
そんな彼らの声が聞こえてくる中、ルイズは意を決したかのような顔で、杖を持ち、詠唱を始めた。
「ふふ、ヴァリエールったら。ちゃんと召喚できるのかしら...ってタバサそれどうしたの?変な臭いするわよ?」
「・・・・そこで拾った」
「ちょ、ホント臭いわ!!何それ!?離れてるのに、暑い日の時のマリコルヌの臭いがするわよ!!」
「・・・けっこう癖になる味・・・・・・お母様?なんでココにいるの?」