「高町なのは帰還できるかクーイズ!」
「いえー」
はやてに付き合いめんどそうに右手を突き出すフェイト。
「①なのはちゃんが帰ってくる ②別のなのはちゃんがくる ③なのはちゃんじゃない子がくる。さあ、どれ?!」
「①で」
当たり前だが彼女は親友の帰還を信じているのだ。答えは?しかない。
「それではなのはさん答えお願いします!」
「にゃはは、じゃあねー」
なのはは手を振りながらゲートを潜った。
そして、出てきたのは、携帯を持ったかわいい女の子? だった。
「あれ? お兄ちゃんどこ?」
兄を探すの人物の名はノキア。
カラミティステップ、デスマキナ、二つの異名を持ちつ携帯使いの男、カシオの弟妹だった。
「はじめまして。君の名前はなんて言うの?」
フェイトはノキアに話しかける。
「あ、ボクはノキアです。はじめまして。あの……ここはどこなんですか?」
「うん、今から説明するから」
フェイトはノキアを隊舎に案内する。
その間、ティアナは「疼くな私の右手!」と必死に自制していた。
簡単に今の状況をノキアに説明したはやて。
「へえ、ボクたちの魔法とは違うんだ」
ノキアはデバイスを使った魔法に興味を示した。
「にしても携帯で魔法なあ?」
はやてはノキアの携帯を見る。
ノキアの世界では魔法は携帯を通し、ゼノリアルネットワークから落として使う。
高い魔法に至っては情報量は絶大でとてつもないパケット代が発生し、使用限度額まであるという。
「ノキアちゃん、一緒にお風呂入らない?」
はあはあと、荒くなりかける息を力尽くで抑えつけながら、ティアナはノキアを連れてシャワーを浴びようとした。
なにせノキアは普段はホームレス生活。実はここ数日水でしか洗ってないという。ヴィヴィオとスバルもそれに付き合う。
そして、ご満悦の様子でティアナはシャワー室にノキアを連れ込んで……悲鳴を上げた。
「ティ、ティアどうしたの?!」
悲鳴を聞きつけ、外に待機していたスバルは慌ててシャワー室に入る。
ティアナは尻餅をついたまま霰もない姿で、ノキアを指差して、
「ぞぞぞ、ぞうさん、ぞうさんがついてた!」
はあ? とスバルはノキアを向いて、同じように悲鳴を上げた。
「あはは、やっぱりびっくりする?」
実は、現在のノキアは男の子だったのだ。
そして、シャワーについていったヴィヴィオが証言した。
「ノキアちゃんのぞうさん、エリオくんのより大きかったよ」
「ああ、そうなの」
ヴィヴィオの言葉に真っ赤になるエリオだった。
そして、出撃時に、
「ボクも行く」
と、ついていくノキア。
曰わく兄カシオが「恩も売り物。売れる時に売る」という考えだからであるそうな。
−−ぐらびてぃれんず
光学系の攻撃をねじ曲げる魔法を使用し、ガジェットの攻撃を防ぐノキア。
だが、ガジェットの攻撃の余波で飛んだ石つぶてが命中してひっくり返ってしまう。
「ノキアちゃん!」
慌ててフォワード陣が援護に入ろうとして、全員の背筋に悪寒が走る。
ゆらりと幽鬼のように立ち上がるノキア。フォワード陣は彼女の正面から全力で離れる。
そして、
「うちに逆らって、ただで済む思うなこのあほんだらどもーー!!」
携帯を向けた方向に太陽のような輝きの魔法が解き放たれる。
ころなばーすと。地上に太陽のコロナを召喚する魔法。ひらがなで可愛らしくしてるが凶悪な魔法である。間違っても水平及び地上に撃ってはならない。
一瞬で、ガジェットは消し炭も残さず消滅した。
「ノキア、ちゃん?」
ノキアの豹変に戸惑うフォワードメンバー。
「うちはな、頭に衝撃を受けると表と裏が反転するんや」
と説明する。余談だが性別まで変わるのだが、この特性は、カシオのミスが主な理由である。
『えっと、ノキア、ちゃん?』
戸惑いがちにノキアに話しかけるはやて。
「あんたがうちらをここに呼んだ狸やな。魔法のパケット代とうちをここに呼んだ分の慰謝料払ってもらおか」
と言ってノキアはパケット代を見せようとして……一機だけ残ってたガジェットに叩き潰された。
「ノキアちゃん!」
スバルとティアナがガジェットを破壊する。
そして、ノキアを助けようとするスバルたち。そこに大怪我を負ったノキアが……いなかった。
「あー、びっくりした」
そう言って普通にパンパンと埃を払って立ち上がる表ノキア。
「あ、え?」
「大丈夫なの?」
戸惑いがちにティアナが問いかける。すると、ノキアは笑いながら言った。
「ボクはお兄ちゃんの魔法だから」
そう、ノキアはカシオが作り出した『魔法』だったのだ。
ちなみに、頭部に衝撃があると、ノキアの人格や性別が変わるのは、カシオがノキアの設定時に好きな属性を全部入れた上で、性別の項目をチェックし忘れたためである。
そして、彼女の具現化の月額パケットは六千万円である。これが、二人の極貧生活の理由の一つだったりする。
そして、戦闘終了後、
「これ、もう一人のボクが言っていた請求書です」
はやてはふーんと請求書を見て固まった。
予想よりゼロが多かったのだ。
「あ、な、ノキアちゃん。これマジ?」
はやては震える指で請求書を指差す。
「はい! それにお兄ちゃんも世の中金って言うから、びた一文負けません!」
その後、街の一角を吹き飛ばしたことを理由になんとか、請求書の金額を値切ることはできたが、それでも八神家は手痛い出費をする羽目になった。
「なのはちゃん帰ってきたくないんかな?」
「そんなことないと思うよ……」
はやての呟きをユーノは否定する。
だが、いい加減帰ってきてほしいものであるのは全員の共通認識である。
「それでは、お世話になりました」
ぴょこんとお辞儀するノキアを全員で見送った。
そして、ノキアの代わりに光から出てきたのは姿はなのは。
だが、彼女は膝を抱えてボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「な、なのはちゃん?」
「なのは?」
いきなり泣いているなのはの出現に戸惑うフェイトたち。
そして、しばらくして異変に気付いたのか、なのはは顔を上げた。
「なのは、どうしたの?」
フェイトに声をかけられると、再びなのはの表情が崩れる。
「うわあああああああん! フェイトちゃーん!!」
なのはは泣きながらフェイトに抱きついた。
「な、なのは?」
突然の親友の行動に戸惑うフェイト。
「ごめんね。ごめんねフェイトちゃん。私フェイトちゃんのことちゃんと理解してあげられなくて……」
そこまで言ってなのはは再び慟哭する。
フェイトは、ただ静かになのはが泣き止むまでその背を撫で続けた。
「なのは、もう平気?」
「うん、ごめんねフェイトちゃん」
まだしゃくりあげながらもなのははフェイトから身体を離す。
そして、周りを見る。
「えっと、なんでみんないるの?」
そこでやっとなのはは首を傾げる。
「なのは、よく聞いてね。この世界は……」
そして、なのはにフェイトは現状を説明した。
「平行世界、そうなんだ……」
戸惑いがちになのはが口を開く。
「うん、今ユーノに協力してもらいながらなのはを連れ戻そうと頑張ってるんだ」
ユーノの言葉になのはの肩がぴくんと反応する。
そして、ゆっくりと人ごみの中からユーノを見つける。
「ユーノ、くん」
「やあ、なのは」
と、いつも通りの柔らかな笑顔を浮かべるユーノ。
なのはは立ち上がり、ユーノに向かって走り出し、そして……
「ユーノくん…………ばかあああああああああ!!」
涙を流しながら強烈な右ストレートを食らわせた。
「きゅーーーー!!」
貧弱なフェレットはそれに耐えきれずに倒れる。
だが、なのははそれだけで止まらなかった。マウントポジションをとると、その顔と叩き始める。
「ユーノくんのバカ! 浮気者! 女ったらしい!!」
いくつもの罵詈雑言をびんたとともに叩きつける。
「お、落ち着いてえななのはちゃん! このユーノくんは違うんや!」
「離して! 今のうちに罰を与えるのお!!」
はやてが慌てて救出したが、すでにユーノは気絶してしまっていたのだった。
そして、シャマルにユーノを治癒させながら隊舎で話をする。
「私の世界では……私はJS事件の後、ユーノくんと結婚しました。フェイトちゃんは、なぜか辺境の世界に言って音信不通でした。クロノくんたちもたまに連絡が来る程度だったらしいの」
ぽつぽつとなにがあったか語るなのは。
「でも、私はユーノくんとヴィヴィオにアルフさんで幸せな家庭を作ったの。そのうち、私もユーノくんとの子供ができたの」
なんか一人違う人が混じっていたが全員スルーした。
実は、八神家とフェイトとユーノ以外、アルフはユーノの使い魔と思っているので半分はおかしいということにすら気づいてない。
「ユーナって名付けたその子は元気に育ってくれて、十六で局に入った」
その時にはなのはは教導官を止めて、ユーノの秘書のようなことをしていた。
「それで、あの子が局入りして一年くらいかな? 友達って言って一人の男の子をうちに連れてきたの」
なのは曰く二人は友達という雰囲気ではなく、明らかに恋人のような雰囲気を漂わせていたという。
なのははそのことを祝福した。なによりも、
「その子の名前はユート・T・ハラオウンって名前だったんだ」
えっ、と全員が声を上げてフェイトを見る。
「えっと、もしかして……」
フェイトの問いになのはは頷く。
「その子は、フェイトちゃんの子だったの」
なのははそこから歯車が狂ったと言う。
久しぶりにあったフェイトは明らかに動揺し、二人の交際に反対したという。ユーノもどこか様子がおかしかった。
そして、なのはは色々と調べたのだった。フェイトのこと、ユートのこと。わかったのは、ユートはフェイトが辺境の世界に住居を構えて、すぐに産んだこと。ユートは私生児だったということ。
ここまできて、全員まさかとその答えを想像する。その想像を助けたのは以前この世界にやってきた、自分だけでなく、フェイトと一緒にユーノと結婚したなのはさんのこと。
「そのことから、まさかと思ったの。でも、二人を信じたかった」
そして、なのははユートのDNAを調べた。結果、ユートの父親は、
「ユーノくんだったんだ」
じとおっとユーノに視線が集まる。
頬を引きつらせるユーノ。
「それって、まさか……」
「ユーノくん、フェイトちゃんと浮気してたの」
なのはの言葉にユーノに対する非難の視線が集中する。
痛い。視線がすごく痛い。特に女性陣。
「フェイトちゃんは自分がユーノくんに迫ったっていってたけど、それも本当なのか……」
フェイトも頭を抱えていた。まさか未来の自分にそんな結末が待っているなんて……
フェイトが二人の前からいなくなったのは、二人に迷惑をかけないためだったのだ。
「別にね、ユーノくんが浮気してたのはいいの。まあ、前からフェイトちゃんが少しユーノくんを気にしてたの知ってたから」
だけど、と前置きする。
「これじゃあユーナとユートくんが可哀そうなの。だって、好きな相手が知らなかったとはいえ兄妹だったなんて……」
まず、結ばれない。重婚は認められてるが、近親婚は従兄弟からである。
そして、なのはは立ち上がるとユーノに迫った。
「わーん! ユーノくんどうするのお!!」
「ぼ、僕に言われても!!」
胸倉を掴まれながら弁解するユーノ。
それから、誰も助け舟を出さなかったため、ユーノはなのはをなだめるのに苦労したという。
~おまけ~
ユーノはやせ細りながら廊下を歩いていた。すると、目の前になにかが現れた。
それは、真っ黒なローブに身を包み、どこかで見たような仮面を付け、そして、その手にS2Uとデュランダルを携えていた。もう、隠す気ないだろうといいたくなる。
「……君は本気だな」
「わかってるようだな」
くぐもっているが聞きなれた声が聞こえ、ああやっぱりとユーノは思った。どこから聞きつけたかは知らないが、彼がここにいるということはそういうことなのだろう。
だが、その殺る気満々な殺気も、今のユーノにとってはそよ風同然だった。
そして、黒尽くめの男、クロノが構える。
「妹を傷つけるものには、然るべき報いを……」
そうの呟きとともに、クロノは飛び出した。
そして、十分後、クロノは涙を流して地面に倒れていた。
数々の魔法を防ぎ、バインドで避けながらユーノが行ったこと。それは、
「ありがとうフェイト」
『ううん、気にしないでユーノ。これでクロノが頭冷やしてくれたらいいんだけど』
フェイトと通信を繋げ、モニター越しに『クロノのバカ! もうお兄ちゃんって呼んであげない!』が決め手だった。
シスコンを倒す最終兵器は、護りたいものである妹なのだった。
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グリードパケット∞の主人公カシオの妹であり弟のノキアです。
別の世界なのに、ゼノリアルネットワークにアクセスできるのか? という突っ込みはできたらなしで。