−−−−これまでのリリカルなのはは
『あなたは全ての魔法使いを破壊しなければならない』
『ここどこ?』
『法皇テムオリン! ここであったが三周期目え!!』
『こんにちはなのです。にぱ~』
『フェイトおばあちゃん?』
『これが! 俺の! 自慢の拳だあ!!』
『フェイトちゃんお腹の子どうしたの?』
『変身!』
世界の破壊者高町なのは、いくつもの世界を巡り、その瞳はなにを見る?」
「妙なナレーション止めてね、はやて」
二日酔いでガンガン痛む頭を抑えながらフェイトはつっこむ。
現在六課は恒例となったなのは召喚の儀式を始めている。
「じゃあ、フェイトちゃん、ユーノくんと頑張ってね!」
なのはは手を振りながら賢者の石が生み出したゲートを潜る。
フェイトはユーノのそばでなのはに手を振って見送る。
そして、光が収まると……
ピッチリとしたボディスーツのような装備を纏ったなのはがいた。
「フェイトちゃん、ユーノくん困ってるから……」
そこでなのはは首を傾げた。
さっきまで自分は横浜基地のシミュレーター室に向かってた筈なのに、いつの間に屋外に出たんだろう。
そして、さっきまで意中の相手に体を擦り寄せていた部隊の仲間がいない。いや、いることはいるけど見たことない制服に身を包んでいる。
「あれ?」
A−01部隊所属、ポジション、砲撃支援の高町なのは中尉は首を捻った。
「どうも、なのはちゃん、でいいんやよね?」
「あ、はやてちゃん、どうしたの? 今日は確か新型OSのテストだったよね?」
なのはは困惑しながらはやてに問いかける。
「うん、そのこと含めてお話しよか」
そして、六課隊舎内ではやてに説明を受けるなのは。自分が別の世界にやってきてしまったこと。魔法のことに驚く。
なにより、自分が教官をやっていることにも。神宮寺教官、あなたのような人なのでしょうか? と、なのはは考えたが、この世界に狂犬はいないのである。
「ま、魔法ですか……そんなのがあるなんて」
「うんうん、そのリアクション、私は嬉しいで」
満足げに頷くはやて。
「はやてちゃん、なにか違うです」
思わずリインが突っ込む。
「あ、リインフォース大尉……あれ? 小さい……」
まるで妖精のようなリインフォースツヴァイを見て、自分の知る相手との違いに違う世界ということを強く認識するなのは。
「あ、リインフォースもいるんか?」
「はい、副司令直属の研究チームのメンバーです」
衛士ではないリインフォースの意外な役職に驚くはやてたち。
余談だが、リインフォースは香月副司令の元で衛士を補助するAIシステム、『インテリジェントシステム』を開発し、なのはは『レイジングハート』と呼ばれるタイプのAIのテストを任されることとなる。
一方フェイトはなのはの強化装備に戦慄していた。
あの水着のようにぴっちりと身体にフィットし、どこか艶めかしい印象を与えるデザインは、薄さで勝負のフェイトにとって寝耳に水だったのだ。
「バルディッシュ! なのはのあの装備を参考にソニックフォームデザイン変更! それと、ラバー部分は半透明に!! ふっふっふ、これなら例えフェレットも狼に!!」
『サー、落ち着いてください』
フェイトの暴走を諫めるバルディッシュ。
「てか、ソニックフォームの方がお色気って感じやないか?」
「私、わかったんだよ! ただ肌を晒すだけが戦い方じゃないって!!」
はやての言葉に高らかに唄うフェイト。どうやら彼女は新たな境地に目覚めてしまったようである。
「お、おいしい」
涙を流しながら料理を頬張るなのは。
「そ、そんなにおいしいんですか?」
スバルの問いかけに頷くなのは。
「三食食べられるから贅沢言えないの。それに、おばちゃんの料理はおいしいけど、やっぱり合成食材って不味くて……」
世界の差に複雑な心境になる六課メンバー。
「そっか、リインフォース元気なんか」
違う世界とはいえいなくなった大切な家族が元気に生きているそのことにはやては純粋に喜んだ。
できれば、会いに行きたいが、なのはみたいになったら笑い話にもならないので止めておくが。
「にゃはは、そうかも。それにこの前なんかPXで、訓練生の子が正規兵の人に殴られた時なんかね『貴様等は私の大切な人になにをした?!』ってすごく怒ったんだ。大尉があんなに怒ったの見たの初めてかも」
「そうなんか?」
リインフォースの意外な発言に驚くはやて。
どうやら祝福の風は恋愛原子核に射とめられたらしい。
出動について行くなのは。
一人ヘリから下りずに、後部ハンガーで借りたデバイスを構え、スコープを覗き込む。
「シュート!」
対AMF用のヴァリアブルバレットがないが、それでも、はるか遠くの標的を見事に撃ち抜きフォワード陣の援護に貢献してみせる。
その狙撃は、そばで見ていた本職のヴァイスも唸らせたと言う。
「なのはの世界で私ってどんなことしてるの?」
さすがに半透明は許されなかったフェイトだが、それでも衛士強化装備を纏えてご満悦のようすだった。
「えっと、フェイトちゃんは私の部隊の仲間で、強襲前衛のポジションで、部隊の先陣を切る役で、それと、私とユーノくんをかけたライバル」
その言葉に、フェイトはなのはの肩を掴む。
「なのは、そっちの私に頑張ってって伝えてね」
「うん」
「ええ加減帰ってこないんかなあ……」
「きっとなのはも頑張ってるよ」
零式強化装備に似たバリアジャケットを纏ったフェイトが笑う。
そして、再びなのは帰還のための儀式が始まる。
はやてはこれでも帰ってこなかったら風水師やイタコ、とにかく考えられる限りのオカルト関係の力を借りようと誓った。
「それでは、お世話になりました!」
光の中に消えるなのは。
そして、七度目のなのはの召喚。光の中から表れたのは……地に伏しながら、必死に手を伸ばすなのはだった。
「フェ、フェイトちゃん、ご……」
そして、そこで最後の力を使い尽くしたのかパタッとその手が落ちた。
「衛生兵ーー!!」
はやての叫びに慌ててシャマルはなのはの体を見ようとして……
ぐぎゅるるるるげるぐぐ~……
盛大な腹の音が響いた。
乙女が発したと思いたくない音に、その場の全員が気まずげに押し黙る。
そして、
「食堂に連れて行き」
やっと、はやてはそう指示を出したのだった。
「はあ、助かったの」
スバルたちに負けないぐらいの量を食べてなのはは一息ついた。
「よく食べたね……」
呆れ気味にフェイトが呟く。
「にゃはは、食べれる時に食べないとね」
と笑うなのは。それから、あれっと、首を捻る。
「フェイトちゃん、今日は「働けよ」ってお説教なし?」
「……さてなのは、少しお話しようか」
なのはの発言にいろいろと戦慄するフェイト。
「平行世界なんだ」
「そうなんよ」
はやての説明に納得するなのは。
なのはの世界にも系統は違うが魔術はあるためにあっさり受け入れられる。
「まあ、二日で帰れるからって、どうしたの?」
「ユーノ、くん?」
ユーノが話しかけるとなのはは目をパチパチと瞬かせる。
そして、
「成長したらこんな感じになるんだ! うう、こっちも捨てがたいけど、ちっちゃい方も……」
と驚いてから、妙な葛藤を始めるなのは。
ちっちゃい方もという発言からフェイトはエリオたちに、「いい、あのなのはにはあまり近づいちゃだめだよ」と言い含めたそうな。
「僕ってそっちではどんなのなの?」
つい、葛藤するなのはに問いかけるユーノ。
「魔道書の化身で私のパートナー」
ついに本になったかと唸る一同。ユーノは少し落ち込んでいた。
フェイトも聞いてみる。
「私は?」
「教会でシスターしてて、孤児院の真似事みたいなことしていて、いつも私にご飯たかられてるかな」
余談だが、このなのはの世界のフェイトはシスター以外にも、夜な夜な謎の正義
の味方としてスカリエッティの破壊ロボ撃退に勤しんでいる。
「そうなんだ、ってなのは何してるの?!」
「探偵」
たかるだの、働けって説教されるだの、親友の数々の発言からまさかのニートかと思いフェイトは尋ねるが、とりあえずニートではないことに安心する。
「なら私は?」
「八神財閥の総帥で、私の雇い主だよ」
他、シグナム、ヴィータ、シャマルはメイドである。
「あれ? ザフィーラさんは?」
ふとそのメンバーの中に知り合いが一人欠けていることに、なのはは気づく。
「ああ、ザフィーラならそこやよ」
とヴィヴィオを背に乗せた狼モードのザフィーラを指す。
「ザフィーラさん犬なんだ……」
「犬ではない!」
つっこむザフィーラ。
「ザフィーラが気になるの?」
「背中を任せた相手だからね」
その言葉に、自分の活躍する世界を知ったザフィーラが、仁王立ちしながら腕を天へと突き上げて目から魂の汗を流す姿を六課の何人かが見たという。
そして、出撃でも……
「クトゥグア、イタクァ!!」
二丁の拳銃で次々と敵を屠るなのは。左のリボルバーの弾丸が縦横無尽に走り、右の自動拳銃が多くの敵を粉砕する。
さらには、
「フォマルハウトより来たれ! 風に乗りて来たれ! クトゥグア、イタクァ、神獣形態!!」
神獣を召喚し、一瞬でガジェットの空中戦力を一掃した。
その姿にたった一日だけだが指導してもらうティアナがいたという。
ただ、さすがにイブン・ガズイの粉薬などの調合のために『二百年くらい前からあるお墓ないかな?』と探し始めたのは、ティアナも引いたという。
そして、ヴィヴィオ。
「はあ、かわいいなあヴィヴィオ……」
「えへへ、ママ~」
幸せそうにヴィヴィオを抱きあげるなのは。
そばでフェイトはなにもしないように見張っていた。すごく心配だから、ヴィヴィオの貞操が……
「ユーノくんとの子供できたらなあ、でも、魔道書って子供できるのかなあ……」
変な心配をするなのは。
だが、このなのはは知らない。
別の世界で神になった自分とユーノの間にできた子であるヴィヴィオが、セイクリッドハート・トゥーソードを駆って自分の前に現れることを。
~おまけ~
はやては妹のヴィータを連れて翠屋にやってきた。
「ここのシュークリームってすっごくおいしいんやよ」
「へえ? 楽しみだなあ」
嬉しそうなヴィータの手をひっぱり、お店の扉を潜る。からんからんと鈴が鳴った。
「やっほう、なのはちゃん!」
「あ、はやてさん」
友達の姿を見とめ、声をかけるはやて。
あれ以来、学校でもちょこちょこ一緒に話したり、遊びにいったりして二人は友達になっていた。
「あれ? その子は?」
なのちゃんははやての横の赤毛の女の子に気づいた。
「あ、私の妹、ほらヴィータ挨拶して」
「ヴィ、ヴィータです。はじめまして……」
ぎこちなく挨拶するヴィータ。その目はどこか、目の前の相手を品定めするような色があった。
「なのはです。よろしくねヴィータちゃん」
くしゃくしゃとヴィータの頭を撫でるなのちゃん。これが、この世界の二人の出会いだった。
元の世界に帰還したなのは。
彼女がいたのは、基地の裏にある高台だった。今、朝日が昇り始めている。
「あれ?」
なのはは首を捻る。戻ってきたんだろうけど、なんでこんな場所に……
そこで、気づいた、左右から一人ずつ誰かが近づいてくるのに。ユーノとフェイトだった。
いきなり現れた二人になのはは困惑する。いったいなにがあったんだと。
「あの、なのは、なんで僕を呼び出したの?」
ユーノが問いかけ、なのははこっちに来ていた自分がユーノを呼び出したことを知る。
そして、フェイトはなのはに歩み寄って、ユーノに聞こえないくらい小さく声をかけた。
「その、なのは、ここで決着をつけるって本当?」
フェイトの言葉を聞いた瞬間、なのはの中にこれまでの記憶がなだれ込んできた。
甲二十一号作戦、スサノオ弐式、桜花作戦、そして、その直前に生き残ったら決着をつけようとフェイトと交わした約束。
それらの記憶を得たなのはは一度目を瞑る。そして、
「うん、決着をつけよう」
フェイトにそう伝え、ユーノの方に振り向く。
「ユーノくん」
「ユーノ」
『私たちはあなたのことが』
そして、朝日の中、二人は告白した。
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マヴラブな世界と斬魔の世界からなのはさんです。
きっと、はやても恋愛原子核にやられているはず。
もう少し引っ張っていいって言ってくれる人もいたけど、もう数話くらい引っ張ろうかな?