そして、再び再びなのはの召喚を試みる機動六課。
「さあて! なのはちゃんは帰ってくるのか!! 運命の瞬間です!!」
「わー、パチパチ」
だいぶツッコミも適当になってきたフェイト。
「ママ、じゃあね!」
「なのはちゃん、じゃあね!」
なのはちゃんに手を振るヴィヴィオ。
ティアナは「駄目だ私、落ち着け私」とぶつぶつ呟き、なのはちゃんのお持ち帰りをしようとする心を封じる。
「みんな、さようならあ!!」
そして、なのはちゃんは光の中へと消えていった。
なのはちゃんは扉だけがある白い空間にいた。
そして、その目の前に少し目じりに涙を貯めた高町なのはがいた。
「今度は帰れるのかなあ?」
と、とぼとぼと扉に歩み寄るなのは。
「あ、あの!」
そこで、なのはちゃんは慌ててなのはに声をかけた。
「ん? なに?」
「あの、高町なのはさんですか?」
「うん」
頷いたなのはに、なのはちゃんは、笑顔でなのはに抱きついた。
「おばあちゃん!」
なのはは娘のヴィヴィオより少し大きい子におばあちゃんと呼ばれたことに複雑そうな顔をする。
でも、すぐに気を取り直し、その頭を撫でる。
「あ、あの、おばあちゃん、お願いがあるの!」
「なに、なのはちゃん」
優しく笑いかけながらなのはちゃんと目線を合わせる。
「だっこしてください!」
「うん、はい」
そしてなのははなのはちゃんを抱き上げる。
なのはちゃんは嬉しそうになのはに体を預ける。
「えっと、おばあちゃん。なのはね、おばあちゃんの名前もらえて、すごく嬉しいよ」
「そっか、ありがとう。なのはちゃん」
なのはちゃんの言葉に嬉しそうにその頭を撫でるなのは。
『がんばってあなたのマスターのサポートをしてくださいよ』
『そちらこそ、私みたいにマスターを死なせないでくださいよ』
と、デバイス同士も言葉を交わす。
そして、なのははなのはちゃんを地面に降ろす。
「じゃあね、なのはちゃん」
「うん、なのはおばあちゃん」
そして、二人は扉をくぐった。
なのはちゃんが消えた後、そこに一人の女の子が立っていた。
「あれ? カズくん?」
弱肉強食が横行する大地、ロストグラウンドのインナー。その地で今日を生きる少女、かなみがそこにいた。
「また、なのはちゃんですらないのな」
「なのはって一体……」
「魔法ですか」
はやての説明にかなみは目を丸くする。が、それ以上の驚きを見せない。
「君も納得早いんやね」
何度もリアクションが小さい相手が来たせいか、はやても張り合いを感じずにいた。
「そ、その、私が住むところにも似たような力がありますから」
と、かなみはアルター能力を説明する。
「もしかして、かなみちゃんも持ってるのかな?」
冗談めかしてフェイトは聞く。
「な、ないです」
プルプルと否定するかなみ。
だが、本人は気づいてないが、一応彼女もアルター使いである。
余談だが、かなみの姿に再び「はう~」と暴走しかけたツインテールは即座にシャマル印の薬で眠らされたとか。
『夢を、夢を見ました』
そして、彼女はその晩、夢を見ていた。
見たこともない異形の腕を持つカズマ。
彼に対峙する、白い衣服と桃色の翼を広げる槍のような杖を持った女性。
かなみはすぐにわかった。それが六課の人が言う高町なのはだと。
「てめえ! かなみをどこにやった!」
悪鬼のごとき形相でなのはに殴りかかるカズマ。
なのははその攻撃を翼と同じ桃色の壁でカズマの拳を阻む。
「落ち着いて! 私はただ話を」
「うるせえ! かなみの声でムカつくことばかり言ってんじゃねえ!!」
それを阻み、カズマはさらに拳を振るう。
「どうしてかな、私はお話したいだけなのに」
カズマの攻撃の前にその音はあまりに小さい。だが、
「少し頭冷やそうか!!」
そして、カズマと激突するなのは。
シェルブリッドが大地を割り、なのはの魔法が空を撃ち抜く。
そして、互いに最後の一撃を決めようとして、だが、その時に確かにカズマには聞こえた。
「かなみ?」
困惑するカズマ。
かなみはアルター使いじゃないはずなのに。だが、それでも、彼がかなみを間違えるわけがなかった。
「ああ、わかったよ。もうやんねえよ」
そう言ってアルターを解除するカズマ。なのはもバリアジャケットを解除する。
「じゃあ、お話聞かせてもらえないかな?」
「なんでだよ」
なのはを無視しようとするカズマ。だが、なのはは諦めず粘り強くカズマに話し掛け、最後はしぶしぶだがお話することを許させたのだった。
そして、かなみは目を覚ます。
夢に出てきたなのは、それが本当になのはかわからない。カズマがあんな姿になるのも知らない。
だけど、と少しかなみは思った。自分が本当に彼女と同じ存在だったら、自分も少しは彼女みたいに全力で相手に自分の意思を伝えようとする人になれるのか? と。
なれるかはわからない。だけど、その未来が魅力的にかなみには思えた。
「それでは、みなさん、お世話になりました!」
かなみが綺麗にお辞儀をする。ティアナは「落ち着け私、落ち着け私」と右腕を押さえながら唱えている。
「かなみちゃん、元気でね」
「はい、キャロちゃんもがんばってね」
友達には近い関係になったキャロと握手を交わし、かなみは元の世界に帰る。
この六課との交流が、彼女がカズマ以外の人間に心を開く理由になったかはわからない。
なのはとカズマの出会いがなにをロストグラウンドに与えたかはわからない。
だが、それでもこの出会いはきっと何かをもたらしただろう。
かなみが消えて現れたのは、エプロンを付けて髪を下ろしたなのはだった。
また、なのちゃんを呼んでしまった!? と一同が戦慄する中、なのはは、んっ? と首を捻る。
「あれ? みんなどうしたの?」
なのはの問いかけに、とりあえず自分たちのことを知っている世界から来たらしい。そう判断しはやては意を決して、
「あのな、なのはちゃん」
と問いかけた瞬間、なのはが動いた! 一瞬でフェイトに近づきそのお腹に触れる。
「な、なのは?!」
突然のなのはの行動にフェイトは顔を真っ赤にする。
「フェイトちゃん……」
目を大きく見開き、なのははフェイトの肩を掴む。
「お腹の子、どうしたの?」
『へっ?!』
なのは以外の全員が素っ頓狂な声を上げる。
「なんで? なんで大きくなってたお腹が凹んでるの? ユーナやユートも弟や妹ができるって喜んでたのに!」
なのはの言葉にフェイトはもうなにがなんだかわからなくなっていた。
「あ、あの、なのは?」
ユーノが声をかけると、なのはが泣きそうな顔を向けた。
「あなた、フェイトちゃんの付き添いに行ってたよね。どうなってるの? 」
『あなたぁ!?』
本日二度目の合唱が響いた。
「なるほど、平行世界だったの」
ある程度落ち着いてから、なのはは説明を受けて納得した。
さっきの行動は、まあ、言ってみれば火事の時にマクラを抱えているようなものだろう、となのはは語った。実は相当うろたえていたらしい。
一方フェイトは「私の赤ちゃんかあ……」と頬を緩めながらちらちらとユーノに熱い視線を贈っていた。
「でも、なんでユーノくんが付き添いやっとるの? フェイトちゃんの旦那さんは?」
全員が一切になのはを見る。フェイトの旦那になる人物、確かに気になるだろう。
そして、なのはは苦笑気味に頬をかく。
「フェイトちゃんの旦那様もユーノくんだよ」
『な、なんだってえ!?』
なのはの爆弾発言の後、はやてはなのはにいろいろと尋問し始めた。
「なあ、なんで二人ともなんや?」
「その、二人ともユーノくんのことが好きだってわかったから……」
「本当に?」
「……実は二人して酔っ払った勢いで関係を迫りました」
と、恥ずかしそうに告白するなのはさん。
その言葉に翌日、ユーノの泊まっている部屋の前で、全身からぷんぷん酒の匂いを漂わせながら、アルコール中毒で倒れたフェイトがいたと言う。
「じゃあ、あたしは?」
「ゲンヤさんと結婚してたよ」
それから、スバルとギンガを食事に誘い、「新しいお母さん欲しくない?」とゲンヤを外堀から埋めようとして、懐が寂しくなったタヌキがいたとか。
「さてっと、みんなに私のシュークリーム食べてもらおうと!」
そう言ってなのはは張り切って翠屋二号店自慢のシュークリームを振舞った。
「わあ、おいしい」
「この前のなのはさんとも違うね」
世界が違えばシュークリームも違う。六課のメンバーは喜んでそのシュークリームを頂く。
そして、一日だけ教導官に戻ることにしたなのはは、新人たちを引っ張る。
「みんながんばって!!」
と応援しながら、アグレッサーを勤めるなのは。往年の実力はなくとも体力は欠片も衰えてなかった。いや、むしろ体力だけなら現在より上かもしれない。
「な、なのはさん、随分元気ですね……もう教導官引退してるんですよね?」
訓練で元気に動き回るなのはにへとへとになったティアナが尋ねる。
「だって、翠屋って割と忙しいし、夜はユーノくん激しすぎるし」
その発言にユーノは『夜の教導官』という不名誉なあだ名が与えられることとなった。
「へ~、私の子供ユートって言うんだ」
なのはの話に嬉しそうに笑うフェイト。
「うん。ただね……」
「ただ?」
なんでなのはが暗い顔をするんだろうとフェイトは首を傾げて、
「最近、ユーナがマテリアルのあの子に似てきてるんだ」
「……そうなんだ」
頬を引きつらせて笑うフェイトだった。
余談ではあるが、フェイトが次に産む子は、女の子で青髪だったという。
~おまけ~
なのはちゃんが帰還した翌日、なのはちゃんは久しぶりに両親と一緒に寝ることにした。
嬉しそうに二人と手を繋ぐなのはちゃん。
「ははは、ごめんねあんまり一緒にいられなくて」
ユーノが申し訳なさそうに笑う。リンディもそうだが、彼もほとんど老けた気配がない。
そして、ふとなのはは両親に尋ねた。
「あのね、パパ、ママ」
「なあに、なのは」
それから、意を決して二人に問いかける。
「おばあちゃんに会えて嬉しかった?」
なのはちゃんの言葉に二人は複雑な顔をする。
「……うん、そうだね。私はお母さんに会えて嬉しかったよ」
「僕も、また会えて嬉しかったよ」
そっかあとなのはちゃんは笑う。二人が嬉しかった。なら、こんな突飛な出来事もよかったと思った。
「さあ、明日は遊園地行くから早く寝ようね」
ヴィヴィオが大切な愛娘の手を握り返す。
「はーい」
そして、なのはちゃんはゆっくりと眠りの世界の住人になった。
「ねえ、ユーノさん」
なのはちゃんが眠りにつくと、ヴィヴィオが夫となったユーノに話しかける。
「なに? ヴィヴィオ」
ユーノの返事に、ヴィヴィオは少し悩んでから聞いた。
「今もママのこと愛してるの?」
その問いにユーノは言葉が詰まった。そして、
「……そうだね、正直に言えば今でも、なのはの存在は僕の心で大きなウェイトを占めていると思う」
その言葉にヴィヴィオは、やっぱりと思うとともに、なんでこんな質問したんだろうと後悔する。
泣き笑いのような表情を浮かべるヴィヴィオ。
「だけど」
そう言ってユーノは手を伸ばしてヴィヴィオの目じりを拭う。
そして、その顔を自分のそばに引き寄せ、その唇を塞ぐ。
「今、僕が一番愛してるのはヴィヴィオとこの子だよ」
顔を離してから、ユーノはヴィヴィオに微笑む。その言葉にヴィヴィオも微笑む。
「うん、ありがとう。ユーノさん」
そして、ユーノとヴィヴィオも布団の中で手を繋ぐ。
……もしも、娘がいなかったら、きっとこの後に二人はハッスルしていたことだろう。
一方なのはさん。
「あちこち行ったけど、楽して帰れる場所だとは思ってないの」
目の前の異形を睨みながら歩む。その手にJと書かれたメモリ。
「行くよユーノくん!」
『ああ、なのは』
ばっとなのはは構える。
「変身!!」
その手にあるメモリのスイッチを押す。
<JOKER!>
そして、腰のバックルに現れたメモリと共にそれを挿入する。
<CYCLONE!>
<JOKER!>
その身に黒と翠のバリアジャケットを纏ったなのは。
『さあ、お前の罪を数えろなの!』
高町なのは、私立探偵。今日も風都の平和を守る。
かなみが去ってからだいぶ正気に戻ったティアナは膝を抱えて部屋の片隅にいた。
「あ、あの、ティア、大丈夫?」
「ほっといてよ。どうせ私なんか……」
ここ数日の暴走にいじけるティアナ。
ユーノの予想により、召喚時に平行世界のティアナの精神の影響を受けたのだろうとフォローされたが、ティアナにしてみれば、そんなものに影響を受ける自分の精神力が悲しくなってしまっていた。
「ティアナさん元気出してください!」
「ほら、ゲームしましょうよ!」
そうキャロとエリオが提案し、かわいい絵の描かれたカードを見せた瞬間、ゆらりとティアナは立ち上がった。
「はう~、そのカード、絶対取るんだからあ!!」
ティアナ・ランスター、まだしばらくの間は、完全に平行世界の影響から脱することはできないらしい。
その後、真っ赤になって相棒に「忘れなさい!」と鉈を持って迫ったという。
~~~~
リクエストにありましたかなみちゃん登場です。
まあ、メインがむしろなのはとカズマの邂逅になってしまいましたが……
もう一人の平行世界のなのはさん、以前僕が作った『ユーノくんの受難』からのゲスト出演です。思わずやってもうた……
今回も楽しんでいただければ嬉しいですが、あまりやるとマンネリ化しそうだし、もう一話か二話でご帰還いただこうかな?