賢者の石、それは様々な世界と繋がるゲートを開くもの。そして、今日も、
「さあ、なのはちゃんが帰ってくるか期待の瞬間です!!」
はやてがそんなことを宣言し、それに周りがはあっと脱力する。
テンション上げようとしてくれるのはいいけど、最近なんか疲れてしまったのだ。
「にゃはは……と、とりあえず、なのは行きます」
そしてなのはが両手を合わせて賢者の石を起動させる。
ゲートが開き、なのはが消えた後にいたのは、一人の少年だった。
「あれ? どこだここ?」
少年が首を捻る。
「また違うんかい……」
がくうっとはやては脱力する。
「なのはさんじゃないんだ……って、トーマ?!」
スバルもがっかりしかけて、目の前の少年が知り合いだと気づいて声を上げる。
「ス、スゥちゃん?」
トーマもスバルの存在に気づいて……それからはやてを見て、目を見開く。
「八神はやて? なんで、あんたがここにいるんだ?」
「へ?」
トーマの一言にはやては首を傾げる。なんでここにいるなんて問われても……
瞬間、トーマは動く。誰も反応できない速度で庇うようにスバルの前に立つ。
「形成-時よ止まれお前は美しい」
聞いたことのない呪文を唱え、その手に武器を作り出す。
それはギロチン。罪人の首を刎ねる執行者の刃。その先をはやてに向ける。
「まさか、もう一度作るつもりなのか? グラズヘイムを。だったらここで、あだ!?」
そこまで言いかけて、後ろからスバルに頭を叩かれた。
「な、なにするんだよスゥちゃん」
「うん、まずは落ち着こうかトーマ」
にっこりとスバルは笑ってトーマに釘をさした。
そして、やっと落ち着いてトーマははやてと話をすることができた。
「で、ここは俺の知る世界じゃなくて、あんたも俺の知る八神はやてと違うと」
「うん、そうやよ? だからできればそんな風に敵視されとうないんやけど……」
あははと笑うはやてをトーマはじっと見てから、ふうっとため息を吐く。
「確かに俺の知る八神はやてとは違うみたいだ。信じましょう」
その言葉になんとか誤解が解けたとはやてはほっとする。なんとなくだが、目の前のトーマと戦うことになったら機動六課では勝てそうにない気がするからだ。
「ま、まあ、誤解が解けた上で聞きたいんやけど、トーマくんの世界の私はいったいどんな人間なんや?」
あそこまで敵視されてる自分。いったい何をしたんだろうと気になった。
「いいですけど……俺の知る八神はやては聖槍十三騎士団首領、永遠に闘争の続く世界を作ろうとしたんだ」
そう、彼の世界のはやては、己の法を流出させて、北欧神話に語られるヴァルハラのごとく、彼の世界において人は戦い殺し合い、死してもなお蘇りまた永劫の闘争を繰り返すそんな世界を作り出そうとした。
それを阻止し、日常に帰るためにトーマはその戦いに臨んだ。
「……うち、また悪役なんかい」
そのことにはやてはがくうっと平行世界の自身の役目にがっかりするのだった。
それから幾人のメンバーと会うごとにいろいろとトーマは反応する。
なにせ異世界とはいえ、敵も味方もこの場では志を同じにするものとして集まっていたのだから。
「へえ、なのはとユーノはいないんだ」
「ええ、俺の知る限りその二人は。フェイトさんとランスターは黒円卓を裏切って俺に手を貸してくれました」
その話にそっかあとちょっと残念そうに頷く。余談だが、この世界のフェイトはティアナの兄、ティーダと相思相愛ながらスカリエッティの策略で殺し合う羽目になってしまっていた。
そして、六課の出撃になぜかトーマも参加する。
「スゥちゃんが怪我したりするのは嫌だからね」
その一言にスバルの乙女心がきゅんとしたとかしないとか。
「創造、美麗刹那・序曲!!」
フェイトすらも超えかねない速度で戦場を縦横無尽に動き回り次々とガジェットを屠るトーマ。
だが、数があまりにも多く……さらに海上の方から敵の増援が来るという報告にトーマは、
「一気に消し飛ばす! シーク・イートゥル・アド・アストゥラ・セクゥェレ・ナートゥーラム !!」
呪文を唱えるとともに、天から隕石が降り注ぎ、それが海上に広がっていたガジェットたちを薙ぎ払った。
「術の制御はもう少し練らないとなあ。まあテストは上々っと」
結果に満足そうに頷いて、
『やりすぎやあああああああああああ!!』
いくつもの隕石が降り注いだことで沿岸に津波が迫り、それなりの被害が出てしまっていた。
それから、トーマが元の世界に帰る日が来た。
「それでは、お世話になりました」
「うん、そっちの私によろしくねー!」
ぶんぶんとスバルが手を振り、それにトーマが笑顔を返してゲートをくぐる。
そして、次に現れたのは……
「貴方たちが真の益荒男ならば……その魂、私が抱いてあげましょう!!」
弓を引き絞り、男らしく宣言するなのはが現れた。
「また違うんかい……」
しくしくとはやては泣いた。
カラカラメグルif後日談
元の世界に帰って何十年も経ちました。
帰ってきた私は今までの研究を全て破棄して、ヴィヴィオのために全ての時間を使いました。
失くしたものは戻らない。返ってこない。それを私はわかったから、だから、今生きているあの子のために。母としてヴィヴィオにできることを。
そうして、あの子は元気になって、魔法にも触れられるようになって、そして、管理局で執務官になりました。
「一人でも多く、私みたいな子を生まないために頑張る」
そう笑顔で答えて。
そして、そのうち、かつて聖王家と関わりのあった覇王家の末裔、アインハルトさんとあの子は知り合って、ゴールインしました。
私のできなかったことをあの子がしてくれたのは嬉しかったなあ。
そのうち孫もできて、みんなかわいくて……
「おばあちゃん行ってきます!」
「まーす!!」
「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね」
学校に行く孫たちを私は見送ります。
そうして私だけの静かになった家で、私は椅子に腰かけました。
すると唐突に声が聞こえました。
『なのは、今幸せ?』
それは私の大好きな彼の声。ユーノくんの声。
その声に、私は、
「うん、私、すっごく幸せだよユーノくん!!」
天国にまで届けと願いながら答えました。
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今回はDiesなトーマくんです。いや、だってなんかトーマって蓮炭に似てる気がして……
なお、リリィはすでに流出して第五天として全ての命を抱きしめています。