「それではお世話になりました」
見送りに集まった六課メンバーにセイは一礼する。
「はは、こちらこそありがとうね」
「セイお姉ちゃんじゃあね!」
ぶんぶんとヴィヴィオが手を振る。その微笑ましい姿にセイが微笑む。
「ええヴィヴィオ。ただ、ちゃんとピーマンは食べるんですよ」
「あい……」
しゅんとヴィヴィオが頷く。
「では、私もなのはが戻ってくることを祈っています」
それだけ残してセイがゲートを潜る。
そして、新たに現れたのは長いバレルを持つライフルを構えた、体にぴったりフィットした黒いパイロットスーツらしきものを纏ったなのはだった。
「……あれ? ここどこ?」
そのなのははスコープから目を離すと首を捻った。
「あー、なのはちゃんちょっとええかな」
「平行世界……そんなものがあるんだ」
「口ではそういうけどあまり驚いとる気がせえへんな」
「確かに」
なにせなのはの顔は若干目が丸くなった程度なのだから。
「やあ、ラムダドライバなんてとんでも兵器そばにあると、なんか納得できて」
よくわからないが、どうやらこのなのはも特殊な事情の持ち主だとだけは、その格好からすぐに全員がわかった。
「で、あなたはどんなことをしてるんですか?」
フェイトの問いにうーんと悩むなのは。
「本当は機密事項だけど……まあ、別世界だしいいかな?」
そして、なのははこほんと一回咳払いする。
「私は極秘の対テロ傭兵組織『ミスリル』の作戦部、西太平洋戦隊陸戦ユニットSRT所属、コールサイン『ウルズ6』高町なのは軍曹です」
見ててほれぼれするくらい綺麗な敬礼を決めるなのはだった。
「ねえ、そっちでは私ってなにしてるの?」
フェイトが気になって訪ねる。
「えっとフェイトちゃんは私とよくコンビを組んでるよ。で、最近は日本の学校に通い始めたり、試作機を押し付けられたり」
と、色々ともう一つの世界のフェイトについて話していた。
なのはがフェイトに語っている頃、ユーノはそっと六課から去ろうとしてた。
ここにいたら一生いじられることは理解できたのだ。それにそろそろ書庫に帰らないと、仕事が滞る。
だが……
「ちょい待ちユーノくん」
ガシッとユーノの肩をはやてが掴む。
「ちょ、はやて、僕はそろそろ書庫に戻りたいんだよ」
「ダメや。なのはちゃん見捨てるんか?」
うっ、とユーノは唸る。
「でも、あまり書庫を空けとくのも……」
その言葉にはやてはニヤリと笑う。
「それなら大丈夫や。少し前から君は有休になっとる」
「えっ?!」
ばっとはやてが書類を出す。確認すれば確かにユーノの有休届け。
「い、いつの間に?」
「いやー、レティ提督がユーノくん全く休まんから、ここらで消化させてって頼まれてな」
「どうやって届け出を……」
「司書さんたちが快く出しとくれたわ」
外堀がどんどん埋め立てられていく。というより逃げ道はなかった。あとは普段あまり使わない自宅くらいだが……
「で、後はユーノくんが仕事せえへんように私らが見張ることになっとるからな」
いい笑顔ではやてはユーノを引きずられ、それも叶わなかったのだった。
「へえ、私、ユーノの護衛なんだ」
「うん。端から見てるとお互いすごく不器用でね、見てて楽しいよ」
楽しまれてもなあとフェイトは苦笑する。
「でもなんでユーノを護衛してるの?」
「知らない。少佐も機密事項だから教えてくれないし、まあ実際二回も身柄を狙われて、私たちの窮地を助けてくれたからなにかあるのは本当みたいだけど」
となのはは首を振る。
「でね、こっちのフェイトちゃんすごく面白いんだよ。初日にね、よく難民の子と遊んだりしてたから、好きなものは『子供』とか言ったり、男の子からのラブレターを果たし状と思ってフル装備で迎え撃ったりして『彼女にしたくないアイドル』なんて名付けられたり」
「そうなんだ……」
なのはがやってきた世界の自分がどんな生活を送ってるのか激しく気になるフェイト。そこに、
『はーい、フェイト。元気にしてる?』
ぱっとモニターが開きリンディの声が響く。
「あ、母さん」
なのははリンディの顔を見ると、
「あれ、リンディ少佐?」
と反応した。
『へ?』
なのはのいた世界ではリンディはアースラの陸戦コマンド指揮官であり、フェイトの育ての親でもあった。
ガジェット戦、なのはは来た時から持ってたライフルでフォワードのフォローをしていた。
「ウルズ6よりロングアーチへ、ライトニングへの援護射撃を開始します!」
安定感の悪いヘリから見事にガジェットのセンサーを狙う。
その技術は、魔法というアドバンテージを入れても自分より上とヴァイスを認めさせるほどだった。
「すごいっすねなのはさん」
ヴァイスはほれぼれするほどの技術に心底感動していた。
「にゃはは、このくらいの腕なら大勢いるよ?」
そう笑うが、「あんな技術力のある操縦兵はあれ以来会ったことがない」と、近接戦では世界でもトップクラスの腕を持つフェイトをして、そう言わしめるほどである。
この事から、たった一日だがティアナに精密射撃のレクチャーを頼まれたのだが、
「こう、がしっとしてぐらぐらしそうになるところを、ふもっふふもっふって」
「すいませんなのはさん。抽象的過ぎてわかりません」
あまりに感覚的な説明にティアナには殆ど理解できなかった。
「なるほど、じゃあ、そこはこうぐわっと」
唯一同じ狙撃屋出身のヴァイスだけは理解できたのだった。
「こんにちはですなのはさん」
とリインが声をかける。
「あれ、大佐? でも小さい……」
リインを見て目を丸くする。
「え? リインってそっちではそんなに偉いんですか?」
「うん、そうだよ? それに私たちが使ってる潜水艦の設計もしちゃうくらいだし」
わあーとリインが目を見開く。
それ以来リインはデバイスの知識を集めるようになったとか。
何度やってもなのはが帰ってこない。
そのことに六課のメンバーは少なからず参ってきていた。
本当に帰ってくるのか、そもそも本当にこのやり方で帰ってくるのか、などという疑問すら浮かんでいる。
だが、止めるわけにもいかずに再び召喚が試みられる。
「それじゃあ、お世話になりました」
なのはは一度お辞儀してから手を合わせゲートを開いた。
そして、改めて出てきたのは、本を片手にメガネをかけたなのはさんだった。
「あれ? ここ六課?」
そして、気づいたなのはが首を傾げた。
「今度は美由紀さんぽいなのはちゃんやな」
「うん、もしかしたら割と近い世界かも」
こそこそとフェイトたちが相談する。
「あ、ユーノくんなにが起きたの? 私無限書庫で仕事してた筈なんだけど」
と、ユーノに問いかけるなのは。
「えっと、なのは?」
「なあにフェイトちゃん?」
ユーノの隣に立っていたフェイトの呼びかけに、なのはは満面の笑みで答えるが、その目は欠片も笑っていない。
なにがあったんだろうと思いながらフェイトは問う。
「無限書庫で仕事してるの?」
フェイトの問いになのはは、へっ? と声を上げる。
「だって私無限書庫の司書長だよ? フェイトちゃん知ってるでしょ?」
なのはが無限書庫で司書長……
どういう世界なんだろうとはやては疑問を抱き尋ねてみた。
「あの、高町なのはちゃんでええんよね?」
と、問いかけた瞬間なのはがもじもじしだす。
「えっ? そんな、もしかしてはやてちゃんそんなにユーノくんと私がお似合いだって思ってくれてたの? 嬉しいな~」
顔を赤くしながらえへへっと笑うなのは。
この一言にまさかとはやては思う。
「なあ、なのはちゃん。君のファミリーネームはなんなんや?」
はやての問になのはは首を傾げる。
「えっと、なのは・スクライアだけど、いきなりどうしたの?」
はあ、とその一言にはやてはため息を吐き出す。
どうやら、またもちょっとではなくかなり違う世界らしい。
「なのはちゃん、少しおはなししよか」
「平行世界? へえ、そんなのがあったんだ」
ふむふむとなのははしきりに感心する。
「まあ、あったんよ。で、あたしらは事故で旅立ったなのはちゃんを呼び戻すために努力しとるんや」
はやての言葉に大変だねとなのはは相槌を打つ。
「私とユーノくんが逆の世界なんだ」
となのはは笑う。
そう、このなのはが来た世界ではユーノは高町優乃でなのははなのは・スクライア。
なのはが無限書庫司書長でユーノがエースオブエースの世界だった。
うーんとなのはは悩む。
「私は戦うのはできないかなあ。でも、データもらえたら少しは手伝えるんだろうけど」
『ぜひお願いします!』
全員がすぐになのはにお願いする。
なにせ無限書庫司書長が二人、まさに鬼に金棒だった。
「ねえ、フェイトちゃん、こっちのユーノくんってどうなの?」
「どうって?」
なのはの問いにフェイトは首を傾げる。話を聞く限り性格はこっちとほとんど同じ。ただなのはの全力全壊の信念をもっているくらいだ。
「その、色々フラグ立ててない? フェイトちゃん以外にも、アリサちゃんとかすずかちゃんとかヴィータちゃんとかリィンとか」
なのはの問いにフェイトは頬をひきつらせる。
なるほど、なのはと立場が逆ならありそうだなあと。
「う、うーんこっちのユーノはそう言うのないかなあ?」
少なくともユーノはそんなに……とまで考えてフェイトは気づいた。
こっちのユーノは自分となのはとヴィヴィオにフラグ立ててるなあと。
「うん、ないよ」
なんとか言葉を飲み込むフェイト。言ったら言ったらでヒドい目に遭うのは明白だから。
「よかったあ。ならこっちの私に頑張ってもらわなくちゃ」
と笑うなのはにフェイトは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「ふーん、ユーノくんそんなにフラグ立てとるんか」
なのはの話を聞いていたはやてが興味を示す。
さりげなくフェイトに視線を送ったがぷいっとそっぽを向かれてしまった。こっちはこっちでフラグ立てるだけで回収せえへんからなあとはやては笑う。
「そうなの。アリサちゃんとすずかちゃんは幼なじみで、ヴィータちゃんはライバル心から恋心、フェイトちゃんは助けてもらった恩が愛情に変わったって感じ」
それはなのはも一緒なんじゃと言いかけて、フェイトはその一言を飲み込んだ。
「ユーノくんが鈍感なせいで余計に質が悪くて」
あれで分からないのはおかしいよ。と、なのはは笑う。
まあ、こっちの世界もそうだなあとフェイトは考える。
少なくともあのヘタレは鈍感星から来た鈍感星人とか、穏やかな心で覚醒したスーパーフェレット人なんて言われても信じられるとフェイトは思った。
「ママー」
と、そこでヴィヴィオがなのはに抱きつく。なのはは嬉しそうに笑う。
「こっちじゃ私がママなんだ」
「あ、やっぱりそっちじゃ違うんか?」
うん、となのはは頷く。
「ユーノくんがパパでフェイトちゃんがママ。なんかフェイトちゃんの勝ち誇った顔がすごくムカついたのは覚えてるの」
ギリギリと歯軋りをしながら悔しがるなのは。
「フェイトママ、なのはママ怖い……」
その様子にヴィヴィオは怯えてフェイトに抱きつく。
「大丈夫だからねヴィヴィオ」
よしよしと優しくヴィヴィオの頭を撫でるフェイト。
と、ちょうどドアが開いてユーノが部屋に入ってきた。
「なのは、賢者の石のデータ持ってきたよ」
はいっとなのはにデータを渡すユーノ。
そこで今度はユーノに抱きつくヴィヴィオ。
「パパ遊んでー」
「ヴィヴィオ、今パパはお仕事してるからまた後でね」
とヴィヴィオの頭を撫でるユーノ。その様子を見ていたなのはは途端に難しい顔で考え出す。
「確かミッドは多重婚オーケーだったはず。ならいざとなったらユーノくんにハーレム作らせて、私が第一婦人に!」
怪しい計画を練りだしたなのはを全員がスルーした。
ただ、ヴィヴィオだけは「ハーレムってなあに?」とフェイトに聞いたそうな。
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今回はフルメタ&司書長ななのはさんです。
最初素直にクルツ君出すか悩みましたがこんな感じにしました。
司書長ななのはさん、ユーノくん、なんつうかエロゲな主人公? と、自分で思ったりして。
ふと思ったけどだいぶ続いてるし、とらは版とかに移すべきなのかなあ?
ふも、ふもっふ。ふもるる、ふうも。(それでは、また。次はなにかな~)