朝。
ふと目を覚ました俺は自分がフカフカのベッドに寝ていることに気づいた。
なんだコレ?
状況がつかめない。
半覚醒状態でゆっくり昨日を振り返る。
確か、みんなでアルビオンに向けて出発して……。
途中キュルケ達と合流して……。
みんなで乾杯して……。
……。
駄目だ。
そこから先が思い出せない。
ふと、横を見ると隣でギーシュが寝ている。
そして、胃のあたりに感じる強烈な不快感。
う~ん。
飲み過ぎたのかな?
その割に頭はスッキリしてるけど。
まあ、いいや。
忘れるっていうのは良い事だ。
下らないこと、嫌なこと。
覚えていてもしようがない。
楽しいことだけ覚えてればいいんだ。
うん。
それに久しぶりに人間らしい寝床で寝てるんだ。
よく解らないけど、誰かに起こされるまで寝続けよう。
「おやすみなさい……」
……。
ドンッドンッ!
「……う~ん」
ドンッドンッ!
…………。
うるさいなー。
朝っぱらからナンなんだ……。
せっかく人が人間らしい寝床で二度寝を楽しんでるのに……。
……。
「おはよう、使い魔くん」
「ああ、おはようございます……」
……。
睡魔に襲われている頭を抑えこんで、ベッドから出た俺。
胃の強烈な不快感のせいで若干痺れている四肢を酷使してドアに向かい応対すると……。
ロン毛髭が現れた。
だれ?
この髭紳士。
……。
「あのー……」
「使い魔くん、昨日は碌に護衛を努められなくて済まなかったね」
……。
そういえば……。
ワルドさんか。
スッカリ忘れてた。
確か、先行してもらって……。
……。
その後は……。
…………。
…………やっちまったな……。
パーティー全員、ワルドさんのことを忘れ去ってしまったようだ。
どうしよう……気まずい……。
……。
「そんなに気まずそうにしなくてもいいよ。深夜には合流できたんだ」
深夜……。
律儀に馬のペースに合わせてくれていたんだろうな。
速さ的には、
風竜>>>>>>>グリフォン>>>>>>>>>>>>>>>馬
だもんなぁ。
うん。
……。
「ところで、朝っぱらから何のようですか?」
「ふむ、是非君に手合わせ願おうと思ってね」
「え……?」
……。
完全に怒ってらっしゃる。
ワルドさんの先行提案したの俺だし、タバサの風竜に乗せてもらう提案を俺がしたのもバレてるんだろう。
俺をフルボッコにするようだ……。
どうしよう……。
「君はガンダールヴなんだろ?」
「……」
なんだよガンダールヴって?
どっかで聞いたことあるような気がするけど……。
そんな訳わかんない単語だされても……。
「えっと……?」
「この宿の裏に丁度いい広場がある、そこで手合わせしようじゃないか」
いやいや……。
ガンダールヴ?
この前ルイズたちと行ったカフェの名前だっけ?
それとも武器屋の名前?
学院の授業で聞いた歴史用語だっけ?
思い出せない……。
ナンテコッタイ。
凄く気になる。
「では、裏庭で待っているよ」
言うだけ言ってワルドさんは、さっさと行ってしまった。
……。
なんだよガンダールヴって?
凄く気になる……。
絶対どこかで聞いたことあるんだよ。
マルトーさんに食べさせてもらった料理の名前かな?
シエスタの弟の名前だっけ?
……。
クソーッ。
気になる……。
下らないことだが、思い出せないと無性に気になる……。
忘れるって言うのは良くないことだな、全く。
……。
「おい、起きろギーシュ!」
「うーん……、もう食べられないよ……ムニャムニャ……」
コイツ……。
「…………そんなベタな寝言が許されるのは20世紀までだぞ……」
……。
あれ?
じゃあ、良いのか。
中世っぽいもんな、ここ。
「モンモランシー……、それはサイトじゃなくてトロール鬼だよ……」
なんだコイツ!
ふざけんな!
せめてオーク鬼だろ!
「どんな夢見てんだ、起きろギーシュ!ガンダールヴって言葉と昨日何があったのかを教えてくれ!」
激しく揺さぶるとギーシュは起きた。
「うーん、サイトか……?」
「そうだよ、サイトだよ」
「ふわぁ~……、まったく昨日は大変だったんだよ」
大変?
「ワルド子爵が深夜に合流して、皆がスッカリ忘れてて気まずくなったり……」
あー……。
それは判る……。
「ワルド子爵がルイズと同室になりたいとゴネだしたり……」
ロリコン……!
「結局ルイズはアンと同室だけどね。サイトは早々に気絶したから憶えてないと思うけど……、そういえばサイトを運んだのは僕だよ」
俺、気絶したのかよ。
何があったんだ……。
「全く……、何で僕が男をベッドに運ばなくちゃいけないんだ……ブツブツ……」
「そんなことより、ガンダールヴってなんなのか知らないか?」
「え?……ガンダールヴ?…………う~ん、……なんか……子供の頃、学んだような……聞いたことあるような……うーん……思い出せない」
コイツ、使えねー。
「俺は奥歯に挟まったイカソーメンと同じレベルで気になってるんだ、今直ぐ思い出してくれ!」
「そんな、寝起きで聞かれても思い出せないよ……」
「頼む!思い出してくれ。このままじゃ俺は気になって歯も磨けないよ!」
「……うーん。ルイズなら知ってるんじゃないか?それと歯は、しっかり磨いたほうがいいよ」
「そうか……」
ルイズ、物知りだからな。
伊達に勉強してない。
「よしっ、ルイズのところにつれてってくれ」
「……いいけど……、一応僕は貴族だからね?最近、扱いが悪い気がするよ?」
「なあに、気にするなよ。ドンマイ」
「いやいや……、そのフォローはオカシイんじゃないかな……」
「そんなことはないだろ」
「最近は君の影響か、メイド達もやたら馴々しいんだが……」
「ギーシュの人徳だって」
「……。まあ、いいか……」
よし、行こう。
早くルイズに聞いてスッキリしなくては。
……。
……。
「ルイズー!」
「あらっ?どうしたのよサイト?」
ギーシュに案内をしてもらってルイズとお姫さまの泊まっている部屋に行ったが、そこには誰もいなかった。
どうやら街に繰り出したようだが……。
お忍びだって解ってんのかな?
でも、そうなると簡単には見つからないだろう。
街行く人に訊きながら地道に探すしか……、
と、思って街をぶらつくと簡単に見つかった。
ラ・ロシェールの道行く人に訊くたびに鉄仮面メイドさんとピンク髪の女の子の目撃情報が大量に聞けたからだ。
やっぱ目立つよな、アレ。
……。
「ルイズ、突然だがガンダールヴって何だ?」
「え?ガンダールヴ?始祖ブリミルの使い魔の一つで、あらゆる武器を使いこなしたっていうアレでしょ?」
「「ああ!」」
そうだった!
それだよ!
思い出したー!
メッチャ、清々しい気分だ。
ギーシュもすっきりした顔をしてる。
アイツも気になってたのか。
「ハルケギニアに来て一番のアハ体験だ」
「アハ体験?」
「うん。こういう思い出せそうで思い出せない、気が付きそうで気がつかないことに閃くと頭にいいんだってさ」
「へー、それをアハ体験っていうの?」
「そうそう」
「ふーん」
いやー、スッキリ、スッキリ。
朝っぱらから(もう昼近いけど)気分がイイや。
「……で?それを訊くためだけに、ここまで来たの?」
「うん」
「……。まあ、いいわ。暇なら私とひ……、アンの買い物に付き合いなさい」
「ああ、おkおk」
「ギーシュもいいわね?」
「モチロン!ひ……、アンと一緒なんて光栄だよ」
「じゃあ、早速そこの服屋に入るわよ」
「へーい」
いやー、全然お忍び任務って感じがしないなー。
良いのかコレ?
うーん。
まあ、結構こんなもんなのかもな。
この世界では。
というか、鉄仮面お姫さまは無言だと不気味でしょうがない……。
……。
「はー……、疲れたなー」
ルイズ達について、ショッピング。
途中でキュルケとタバサも加わり大所帯で普通に観光してしまった。
結局、女性陣に振り回された俺とギーシュ。
荷物持ちにさせられて散々連れまわされた。
ついさっき、買ったものを学院に運んでくれるという商人を見つけ、金を払い荷物を預けて腕の重みから開放されたところだ。
そして、なんだかんだで宿に戻ってきた俺たち。
ふぅ。
これホントに機密任務か?
なんだかんだで、みんなで楽しく街歩きをしてしまったが。
……。
まあ、いいや。
今日の晩ご飯何食べようかな?
……。
「……使い魔くん……」
「え?」
皆で食堂に向かう途中、裏庭で誰かに話しかけられる。
俺が振り返ると、そこには血管をヒクヒクさせているワルドさんが!
「どうしたんですか?ワルドさん。裏庭なんかで……」
「……。……君こそどうしたんだ……。僕は君に決闘を申し込んだと思うんだが……?」
決闘……?
……。
「……あ!」
「あ?……」
どうしよう……。
「……まさかというか、やっぱりというか……忘れていたのか……使い魔くん……?」
…………。
マズイ……。
俺、完全に屠られる……。
「ワルド様?こんなところでどうしたんですか?」
ルイズ助けてくれ……。
「ああ……ルイズ。何、君の使い魔くんとちょっと手合わせしようと思ってね」
「手合わせ?」
「ああ、本当は君の了解を貰ってから君の前でやろうと思ったんだが……」
ルイズ朝っぱらから、お姫さまと出かけちゃってたしな。
「でもどうしてサイトと手合わせを?」
「何、これから一緒に任務を行うんだ。そこで彼の実力を知りたくてね」
「「「「俺(サイト)の実力?」」」」
ルイズ、キュルケ、ギーシュが何いってんだ?という顔をしてる。
「俺の実力と言われても……素手なら多分、子羊とどっこいどっこいぐらいだと思いますけど」
「子羊……」
「毛がモコモコのアレです」
「いや、それは判るが……」
一応、角あるからなアイツら。
クルンッとしてるけど。
死に物狂いで来られたら子羊くらいが限界だろ。
大人羊は100㎏超えてくるからな。
草を食んでるところを不意討ちしても、まず勝てない。
大山倍達レベルなら牛を倒せるんだろうが……。
……。
「武器ありならアルパカといったところです」
「アルパカ?」
「毛がモコモコのラクダみたいなヤツです」
ハンマーがあればアルパカくらい倒せるだろ。
ただ、噴きかけてくるとても臭い唾には要注意だが……。
「……君は何で、毛がモコモコの生き物で自分の強さを伝えてくるんだ……?……しかし子羊……」
「無茶ですワルド様!サイトとワルド様とではエルフとトロール鬼くらいの差があります!」
……。
「そうねぇ、火竜とトロール鬼くらいは差があるわねぇ」
「イーヴァルディとトロール鬼くらい……」
「そうだね、僕もかの烈風カリンとトロール鬼位の差はあると思うよ」
というか何でみんな俺をトロール鬼で例えるんだよ。
結構強いだろトロール鬼。
せめてオーク鬼だろ。
「そうですわね。私も水の精霊とトロール鬼くらい差があると思いますわ」
いや、貴方は俺の実力知らないでしょ。
例えも何か変だし……。
……。
まあ、いいけど……。
「と、いうことなんですが……ワルドさん……」
「……君、聞いていたのと違って評価が凄く低いんだが……それでいいのか……?」
いいのかと言われても…………。
……ん?
聞いていたってなんだろ?
……うーん。
まあ、いいか。
「……そういえばワルドさんは風のスクウェアですか?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、偏在とかも出せちゃいますよね?」
「出せるな。4,5体」
「……」
仮にワルドさんが目隠し、手錠、亀甲縛り、ギャグボール完全装備でも俺は負けるな……。
「あの……昨日忘れてたのは謝りますので私刑でフルボッコは勘弁してもらえないでしょうか……?」
「ん?いや……さっきも言ったが君の実力を……」
「ワルド様!サイトだけのせいじゃないんです!私たちにも3%くらい責任があるんです!許してあげてください!」
ルイズ……俺を庇って……。
というか3%……。
俺の責任メッチャ重いな……。
「いやだから……」
「貴族が平民と決闘なんて名誉が傷つくだけです!」
「むぅ……」
ワルドさんはちょっと困った感じだ。
「そういえば、そんな恥知らずなヤツいたわねぇ」
「その上、負けていた」
キュルケ、タバサ……。
「……」
ギーシュ……。
今にも泣き出しそうな顔になってるぞ。
「いや……まあいい、解ったよ。確かに実力が知りたいと言っても少し無理があったな」
「ありがとうございますッ。それと忘れててスミマセンでした!」
一応、本気で申し訳ないと思っているので真剣に謝る。
「いや、それはもういいから……」
ふぅ。
助かった。
「ねぇ、話がまとまったなら、いい加減に食事にしましょうよ」
キュルケが急かす。
タバサも明らかにハングリーだ。
「そうね、ワルド様も御一緒にいかがですか?」
「ああ……そうさせてもらおうかな」
そんなこんなで宿の食堂に皆で向かう。
……。
……。
バタンっ。
「ふぅ……」
ワルドさんも含めての食事も終わり、俺は一人部屋に戻った。
他の面々はまだ酒盛りを続けているようだが、俺は朝から続く原因不明の胃の不快感のせいで早々に退場させてもらった。
まったく、ナンなんだこれは?
重い病気じゃないだろうな……。
……。
まあ、いいや。
寝よう。
ドガアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
「!」
なんだ!?
ベッドに入って目を瞑った瞬間に宿の入口の方から大きい破壊音が響いた。
急いでルイズたちのところに向かうが、どうも野太い雄叫びのようなものも聞こえてくる。
「マジかよ……」
強盗か?
治安悪すぎだろ……。
「サイトっ、襲撃よ!おそらく貴族派の差金ね!」
階段を降りると、そこは正に戦場だった。
ルイズたちはテーブルを倒しそれを盾にして襲撃者の矢を防いでいる。
キュルケやタバサも応戦しているが多勢に無勢のようだ。
今はまだ宿の中に侵入を許していないが、そのうち雪崩込まれるんじゃないか?
「どうやら、彼らの中にはメイジはいないようだね」
ワルドさんの冷静な分析。
確かに、魔法はなんにも飛んでこない。
なんだ、じゃあ大丈夫そうだな。
こっちメイジ6人もいるし。
「諸君、こういう場合は部隊の半分が目的に辿りつければ任務は成功と言われている」
……。
これは大丈夫じゃないな……。
おとりか……。
ヤバい……。
このパーティーで捨て駒筆頭株はどう考えても俺じゃん……。
王族>>>>>貴族>>>|越えられない壁|>>>一般人>>|人の壁|>>>使い魔(ニート)
だからな……。
少なくとも俺は捨て駒当選確実!
メイジ6人もいるんだから戦おうよ……。
と、言いたいけど……。
どうしよう……。
この場合プロの軍人さんの意見は正しいだろ……多分……。
俺にとって問題があるだけで……。
……。
「そこでだ……」
!
「ワルドさんの偏在でコイツらを惹きつけておいて俺達は全員で裏口から脱出するんですね!?」
「え……?」
ナイス・アイディア!
「さっすがワルド様だわ!それなら誰も犠牲にせずに済むわ!」
「それに逃げたあとも偏在を通じてコイツらの動向を探れるわね……」
「ナルホド!この傭兵たちが依頼主に接触するかもしれないからね!」
「完璧」
「ワルド子爵、流石の冷静な判断ですわ。貴方を親衛隊として従える私も誇らしいです」
「……」
全員から褒められたせいかワルドさんは少し困り顔だ。
「じゃあ、ワルド様。早速お願いしますわ」
「…………ああ……」
ワルドさんがスペルを唱えると新しく、もう一人のワルドさんが現れた。
その瞬間、
「行くわよみんなっ!」
ルイズの声をきっかけに皆で裏口から逃げ出す。
……。
……。
「はぁ、はぁ……」
運動不足だ……。
まんまと宿から脱出した俺達は船着場に向かって巨大な木を駆け上がる。
が、俺はハルケギニアに来て最も命の危険を感じている。
「し、心臓が……」
高校を卒業してから、走ることなんて一切なかったからな……。
クソ……。
無駄に筋トレだけはしてしまったから、筋肉が酸素とエネルギーを大量消費している……。
心肺機能は初老の域に達しているというのに……。
マジで死んでしまう……。
前を見ると、先頭にルイズとお姫さま、ワルドさん(本体)、タバサ、キュルケ、ギーシュの順番で大木を駆け上がっている。
みんな余裕だな……。
どんどん離される。
ギーシュはそうでもないが。
……。
どのくらい走ったか。
死にそうになりながらもフネまであと少しのところまできた。
すると突然。
「!」
ハルケギニアに来てから覚えた音。
人がフライで飛ぶときの風切り音が背後から聞こえ、慌てて振り返る。
「な!?」
HENTAI!
白い仮面を被ったメイジがすごい勢いで俺を追い越す。
そして、そのまま前を行くみんなに迫る。
「ルイズ……!」
とっさにルイズの名前を叫ぶ俺。
「な…・・!」
辛うじて反応したキュルケ。
「……!」
ドンッ!
タバサはウィンド・ハンマーを放つが白仮面に躱される。
「む!」
ルイズとお姫さまを庇うように立ちはだかるワルドさん。
「うわっ」
ずっこけるギーシュ。
……。
そして。
「!」
ドオオオオオオオオオオオオン!!!!
顔面を爆発されて蚊のように落ちていく白仮面。
「……ふっ」
口角を釣り上げ、不敵に笑い、クールに杖をしまうルイズ。
……。
「「「……」」」
キュルケたち絶句。
「……やるじゃないか。ルイズ……?」
そしてルイズの行動に驚いているワルドさん。
しかし、なぜ疑問形……?
「はい!早打ちとコントロールは完璧に仕上げてきました!」
「スゴイわ、ルイズ!私、全くルイズの詠唱に気付かなかったわ!」
お姫さまも大興奮。
まあ、初めて見ればビックリするよな。
俺は、毎日練習に付き合ってたから慣れてるけど。
俺の簡単なアドバイスを素直に受け入れたルイズは元来の勤勉さで、とんでもない成長を遂げていた。
子供の頃から魔法の基本動作を誰よりも練習してたのも手伝ったんだろうが。
ルイズは現時点でボブ・マンデン並の早打ちをマスターしている。
そのあまりの速さの為に、2ヶ所爆破しているのに爆発音は1つしか聞こえないぐらいだ。
正確さもスゴイ。
「そうか……さすが僕の婚約者だ……」
そうは言いながらも完全に引いている。
「さっ、次の追手が来ないうちにフネに乗り込みましょう?」
「……ああ、そうだね」
……。
「な、なんだてめえら!」
手頃なnice boatを見つけた俺たち。
ワルドさんは直ぐに交渉に入る。
「悪いが今直ぐアルビオンに向けてフネを出してもらおう」
「な、そんなこと出来るわけ……!」
「コレは貴族の命令だ、断ればどうなるか……判るな……?」
ワルドさんが杖を突きつけ船長らしき人に凄む。
「……。……無理だ、風石が足りない……」
「ならば僕が魔力を補おう。風のスクウェアだ、文句はあるまい?」
「……。わかりましたよ……」
……。
ワルドさん……。
何この人……。
凄く頼りになる……。
……これが噂に聞くオラオラ系か……。
@@@@@@@@@@
翌朝。
フネで一夜を明かし起床する。
「おはよう」
「……」クイッ
タバサを見つけたので話しかける。
朝からシルフィードの上で読書のようだ。
シルフィードは俺達がフネで飛び立ってから直ぐに追いついてきた。
感覚の共有ってヤツで場所がわかったらしい。
「そういえば俺達の分の朝飯あんのかな?」
「……」
まあ、2,3日食べなくともダイジョブか……。
……。
「空賊だー!!!!」
「「!」」
よしなし事をタバサと話していると、突然そんな叫び声が聞こえた。
俺達は急いで船首の方に向かう。
……。
「サイト!」
「ルイズ、空賊って?」
「アレよ……」
ルイズが指を指す方向を見ると、確かにドクロマークを掲げた判り易い空賊船があった。
そして、その後ろにはラピュタのようなものが見えている。
あれがアルビオン……。
ホントに浮いてるのか……。
「船長!停船命令を出しながら近づいてきます!」
「クッ!……貴族様方、なんとかなりませんか……!?」
「悪いが僕の魔力は、ここまでフネを飛ばせたことで殆ど使い切っている。つまり戦うことも、フネで逃げることも厳しい」
ワルドさん、徹夜でご苦労様です。
「私は、やれるわよ!」
「……無理よ、ルイズ。さっきから空賊船の周りを風竜が飛んでるもの。メイジが何人かいるわ」
「全員メイジということもあり得る」
「じゃあ、このまま黙って掴まるって言うの!?こっちにはひ……アンが居るのよ!」
「ルイズ、正面からやっても勝てない。もしかしたら積荷を強奪されるだけかもしれないし、大人しく捕まってから逃げ出すほうが危険は少ない」
冷静なワルドさん。
「積荷……」
凹んでる船長たち。
……。
「……」
「ココは様子見かしらね……」
キュルケが肩をすくめながらつぶやく。
「「「「「……」」」」」
……。
うーん。
しょうがないか。
なるべく使わないで返したかったんだけど……。
「よいしょっと……」
「サイト、何してるの?」
「ああ、コレコレ」
「え?」
バッグからM72を取り出す。
「「「ああーっ!破壊の杖!」」」
「アンタなんで持ってるのよ!」
「いや、何か学院長さんが持って行っていいって……」
「なんですってー!!」
「コレ使えば、多分なんとかなると思うんだけど……」
「……使えばって、誰も使えないじゃない」
「ああ、俺使えるから」
「「「ええーーー!!!!」」」
「ちょっと!何でアンタが使えんのよ!?」
「そりゃ、ガンダ……」
そういやガンダールヴは秘密だったな。
今、思い出した。
「……いやコレ説明書読めば女の人だって簡単に撃てるんだよ」
「説明書って……」
「脳筋のバイブル、コマ○ドーでやってたんだ。間違いない」
「……なんかよくわかんないけど、とにかく撃てるのね?」
「うん」
「あのフネを撃ち落とせる?」
「うーん、少なくともマストをへし折って航行不能にはできると思うよ」
「よし!じゃあ、今直ぐ撃ちなさい!」
「へーい」
……。
「じゃあ、真後ろに立たないでくださいね」
ロケットランチャーを構えてあたりに気を配り、狙いをつける。
よし!
「発射!」
ボンッ!!!
小気味よい音をさせて、ロケット弾が一直線に飛んでいく。
そして、
ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
轟音と閃光のあと、空賊船のマストがゆっくりと倒れていく。
「やったわ!スゴイじゃない、サイト!」
「見てよ、空賊のヤツら大慌てよ」
確かに、空賊船の上は蜂の巣を突付いたような騒ぎになっていた。
被弾した瞬間にマストの側に人はいなかったので死傷者は出ていないと思う。
というか、人がいない瞬間を狙って撃った。
人がいなかったから、折れたマストは地面に向かって一直線だ。
誰かいたらレビテーションと錬金で修理されちゃったかもしれない。
それに、流石に人は殺したくない。
……。
約10分後。
「あら?なんかゾロゾロとこちらに飛んでくるわね?」
「私たちに降参するつもりかしらね?許さないけど」
どうやら空賊は全員メイジだったようでフライや風竜でこちらに飛んでくる。
「なんかみんな鬼の形相だな……」
「……」
「どうした、ギーシュ?難しい顔して」
「……いや、自分たちのフネが駄目になったからこのフネを奪いに来たんじゃないかな……?」
「「「「「……」」」」」
……。
…………………………。
みんなの視線が痛い…………。