「わいは猿や!プロゴルファー猿や!」
最近、俺の目下の趣味は早朝ゴルフだ。
ルイズに買ってもらったウォーハンマーは確実に可能性(暇つぶし)の幅を広げてくれた。
初めはウォーハンマーを振り下ろすトレーニングでモハメド・アリのようにパワー不足を補おうとした。
が、そもそもおれはボクサーじゃない。
それに疲れる。
3分で飽きた。
何より端から見たらウォーハンマーを振り回す危ない人でしか無い。
そこで適当なサイズの金属球を拾ってきてゴルフを始めた。
勿論はにかむことは忘れていない。
しかし、これも振り回すのは危ない。
専らパターゴルフだ。
このウォーハンマー、丁度パタークラブを二回り、三回り、大きくした感じなのだ。
「俺になら見えるはず、カップまで続くシャイニングロードが……」
しかし、いくら地面に顔をつけて芝を読もうとしても全然光らない。
左手はチラチラ光ってるんだけど。
……やっぱりライジングインパクトのほうなのか?
……。
しかし趣味というのは人生にメリハリを与えてくれる。
規則正しい生活が身について毎日好調だ。
本当にウォーハンマー様様だ。
「え?最近の俺が好調な理由ですか?まいったなー。
実はこれ。そう、ウォーハンマーなんですよ。
これを買ってからというもの日に日に筋肉が付き始めて身長も30cm伸びました。
もともと冴えない顔をしていたんですが鼻も高くなり奥二重が二重に、今ではスッカリ福山雅治です。
女の子にもモテモテですよ。
それにこれ、見てください。宝くじも一等前後賞に大当たり。
偶然、道で助けたビル・ゲイツの遺産相続権も手に入りました。
今では毎日、美女と札束の風呂に浸かってますよ。重いから出るの大変なんですけどね(笑)。
さらに俺が何気なく放った一言、「そんなの関係ないじゃないですか」が今世紀の流行語大賞になってしまいました。
そして苦手だった科目も1日15秒のウォーハンマーで得意教科に。
全国模試で世界一になってしまいましたし、なんとなくリーマン予想も証明できてしまいました。
部活で差を開けられていた同級生からスタメンを奪取することにも成功しましたよ。
え?部活ですか?漫画研究会です。
活躍が認められて2014年W杯の代表にも既に内定してるらしいです。
さらには、ツンデレ幼馴染、人懐っこい義理の妹、ダダ甘お姉ちゃん、ボーイッシュな後輩、クーデレな先輩、物心つく前に結婚の約束をしたあの娘まで現れて全員に告白されました。
え?いまですか?勿論おっぱいの大きいハリウッド女優と付き合ってます。
いやー、皆さんも是非騙されたと思ってウォーハンマー買ってみてください。人生捗りますよ。」
「……」
「さらに今ならお手入れ用の専用布巾、持ち運び用ケース、1年保証までついて……」
「あの……」
「勿論送料はジャパネッ……ん?」
「あの……ミスタ・ヒラガ……?」
え?
なんでロングビルさんが。
「ロングビルさん、こんな早朝からどうしたんですか?」
「実は突然、王宮の勅使の方が学院にいらっしゃることになったんです」
「へー、こんなに朝早く来るんですか。大変ですねぇ」
「あの……それで、さっきのは……」
「そういえばロングビルさん、ミスタなんてつけなくていいですよ。俺は貴族じゃないですし」
「え?そうですか……。じゃあこれからはサイトさんと呼びますね」
「ええ、そうしてください」
「あの、ところでさっきのは……」
「え?」
「ツンデレとか、ハリウッド女優とか……」
……。
「…………声でてました?」
「はい……」
「……どこから聞いてました?」
「わいは猿や!プロゴルファー猿や!……のところから……」
「……」
だいぶ前からだな……。
俺の最悪予想よりだいぶ前だ。
というより初めの初めだよ……。
「…………何でも無いです……ただの独り言です……」
「そうですか……」
……。
うわあああああああああああああああああああああ!!!!
コクコクの癖はなくなったのに、独り言は治ってなかったのかあアアアアアアアア!
アホな妄想全部垂れ流してもーた……。
うわあ……今日寝れる気がしない……。
暗い部屋で目を瞑るたびにフラッシュバックしそうだ……。
それどころか、これからウォーハンマーを見るたびに思い出しそうだ……。
……。
武器……変えてもらおうかな……。
「あの……それで御忙しいところ申し訳ないのですがオールド・オスマンがお呼びです」
「そうですか……」
心臓……止まらないかな……。
それに忙しいところって……。
スイマセン……俺……ハルケギニア一の暇人です……。
「私は門の前で勅使の方をお迎えしなくてはいけないので……学院長室まで御足労願えますか?」
「はい……」
隕石……落ちてこないかな……。
「ではよろしくお願いしますね」
「はい……」
地球……爆発しないかな……。
って、ここ地球じゃないのか……。
……。
……。
「失礼します」
早速、俺は学院長室にやってきた。
「おう、よくきたのう。……なにやら元気が無いようじゃが……」
「いえ、何でも無いです……。それより学院長さんこそ顔面がボコボコですが……」
「いや、何でも無いんじゃ……」
「「……」」
……。
「ところで何で呼ばれたんでしょうか?」
「おう、そうじゃ。これを君に預かって欲しいんじゃ」
「……なんですか?この人形?」
机の上には7個の小さい人形が置かれている。
「これはスキルニルと言ってのう、本来は血を染み込ませるとその人間の姿、能力、記憶までコピー出来る人形なんじゃが……」
「ふむふむ」
パーマンのコピーロボットみたいなもんか。
「これは簡易版でのう、口づけするだけでコピーできるんじゃ。……ただし1時間ほどで勝手に効果が切れてしまうんじゃが」
「へー。でもなんで俺が預かるんですか?」
「実はのう……」
……。
学院長の話によるとロングビルさんをスキルニルでコピーしてハーレムを作ろうとしたらしい。
そこで10個のスキルニルを手に入れたそうだ。
しかし無理やり3個コピーしたところで4人のロングビルさんの抵抗にあい作戦を断念。
その後、4対1の60分デスマッチ(凶器有り)が始まってしまったということだ。
「さすがに二人に担がれて頭から落とされたときは死ぬかと思ったわい」
垂直落下式ブレーンバスターかな?
老人になんて技を……。
「しかし朝から元気ですねぇ」
「まぁのう、しかし折角スキルニルを手に入れたのに残りの7個もミス・ロングビルに処分されそうなんじゃ」
「なるほど、それでほとぼりが冷めるまで預かって欲しいと」
「そういうことなんじゃ。君ならミス・ロングビルも取り返せんじゃろ」
そうなのか?
でもなんで俺なら取り返せないんだ?
「どうじゃ?引き受けてくれんか?」
「いいですけど……」
「おお、そうか。ではサイトくんにも1個あげよう、それと他の6体のスキルニルも自由に使ってもらってかまわないからのう」
「そうですか、ありがとうございます」
「それでは頼んだぞい」
「了解しました」
スキルニルをショルダーバッグに詰めて学院長室を出る。
……。
@@@@@@@@@@
「来たか……」
大層な馬車が門の前に止まり、いけ好かない雰囲気の貴族が下りてくる。
「これはモット伯。こんなに朝早くからの御役目、頭が下がりますわ」
「おお、ミス・ロングビル。いや勅使は王宮のお触れを伝えるのが仕事ですからな、早ければ早いほど良いんですよ」
……コイツの視線は相変わらず気持ちが悪い。
「それにしても相変わらずお綺麗ですな」
「まあ、お上手ですわね」
……。
胸を見ながら言うな……。
この王宮勅使のジュール・ド・モット伯には前にも一度会ったことがある。
この学園で働き始めてすぐだったが、その頃から体を舐め回すように見てくる気持ち悪いヤツだった。
それに良くない噂も聞く。
なんでも気に入った平民の女の子を自分の屋敷に雇い入れては夜伽の相手をさせているとか……。
雇い入れる方法自体も強引だという話だ。
真実かは解らないが……。
噂の真偽がどうだろうと、コイツにはさっさと帰ってもらいたい。
「それでは学院長室までご案内いたしますわ」
「おお、それじゃあ頼みますぞ」
「それではこちらへ……。」
……。
「おや……?あの娘は……」
「どうしました?」
「ミス・ロングビル、少しだけ待ってもらっても宜しいかな?」
「ええ……構いませんが……」
そう言うとモット伯は一人のメイドに声をかける。
「おい君」
「……?はい。何か御用でしょうか?」
「君はこの学園のメイドかね?」
「はい……」
このメイドは確かシエスタといったか。
最近アイツの動向を伺っているのだが、アイツと仲が良さそうなので覚えていた。
シエスタもモット伯の視線が気になるのか不安げだ。
「どうだ?私の屋敷で働く気はないかね?」
「え……?」
「この学院より良い給料をだすぞ?」
「でも……」
「なに、学院長には私が話をつけよう」
「……」
「君は奉公に来ているんだろ?家族のためにも頷いたほうがいいと思うがね」
「!」
コイツ……。
これじゃあ「家族のためにお金が必要じゃないのか?」と言いながら、「家族がどうなってもいいのか?」と訊いてるようなもんだ。
「あの……私……」
「もし君にその気があるのなら、私が学院を離れるまでに荷物をまとめておきなさい」
「……」
シエスタは俯いてしまっている。
……評判通りのクズだコイツは。
「あの……モット伯。そろそろ……」
「おお、そうですな。……ではよく考えておきなさい」
シエスタに言い残すとモット伯はさっさと歩き出す。
本当に嫌な気分だ……。
あの爺ならコイツの提案を断るとは思うが……。
……。
「よくきたのう、モット君」
「オールド・オスマン、しばらくですな。相変わらず御壮健で」
「生徒たちの相手は元気じゃなきゃ務まらんよ。……ところで今日はどんな要件じゃ?」
「おお、そうですな。簡単に申しますとゲルマニア訪問を終えたアンリエッタ王女がこの学院に行幸なされるということです」
「ふむ、日取りは?」
「今日の午後には到着するかと」
「……なんとも急じゃのう……、急いで準備に取り掛からねば」
「そうですな、ですから私もこの時間に参上した次第です」
なるほど。
どおりで朝っぱらからコイツが来るわけだ。
「ところでオールド・オスマン、この学園のメイドを一人私の屋敷に召抱えたいんですがね」
「……急に言われてものう。学院の使用人にも余裕は無いんじゃがな」
「なにも2人、3人引き抜こうというわけではないですよ。1人だけ私のところで雇いたいメイドがいましてな」
「うーむ……」
「なに、厚遇は保証しますよ」
「……そのメイドの意思次第じゃの」
な!
爺……!
「おお、そうですか!では早速、手配してまいります」
端から断られるとは思ってないのか……。
さんざん同じやり方を使ってきたんだろう。
モット伯はそそくさと学院長室から出て行った。
……。
「ちょっと!どういうことだい!アンタだってアイツの噂は知ってるだろ!?」
「……知っておるよ」
「アイツは家族を盾にメイドを脅してるんだよ!」
「……一部始終モートソグニルを通して見ておったよ」
「じゃあなんで……」
「今ここでモット君の要求を突っぱねることは出来るが、……彼女の家族にまでは手を回せん」
「……」
「学院にも不利益を被せてくるじゃろう」
「……」
「シエスタ……彼女はタルブ出身じゃったかな」
この爺さん使用人の出身地まで覚えてるのか……。
「儂も少しは顔が利くが権力なんて殆ど無い、タルブの領主も王宮勅使の彼に嫌われてまで味方してくれはせんじゃろ」
「だけど……」
「同じように、逃げても彼女の家族を受け入れてくれるところはないじゃろ……」
王宮勅使に嫌われるということは貴族にとっては致命的だ。
宮仕えでコネがない限り、並の貴族じゃ逆らえない。
嫌われた貴族が有ること無いこと上に報告されて領地没収なんて十分ありえることだ。
……そもそも平民一人のために貴族が何かをしてくれるわけがない。
……。
「……わかったよ」
「……どうするつもりじゃ?」
「モット伯の屋敷を襲ってメイドを助ける」
「それはフーケとして……かのう」
「フーケに襲われたとしたらメイドがどうこう言ってる場合じゃないだろう?」
実際に断ったときモットが本当にシエスタの家族に手を出すのかはわからない。
でも貴族が力をチラつかせて平民を思い通りにしようとすること自体が気に食わない。
「今日のうちに、ということじゃな」
「今日やらなきゃ手遅れだろう?」
「……そうか」
「アンタからの恩を無駄にしちまうけどね……。……止めないのかい?」
「止めはせんよ、儂だって同じ気持じゃ」
「そ、……短い間世話になったね」
……。
それだけ言って学院長室をあとにする。
モット伯の屋敷の警備は比較的厳重だ。
構造も調べていないし、かなり分が悪いだろう。
でもモットのやろうとしていることは気に食わない。
助けたあとはシエスタは故郷に返さなくては。
学院にはモットがたびたびやって来る。
もし故郷に戻せないようならウエストウッドで匿うか……。
テファのことが気掛かりだが……。
……やはり私は“フーケ”と心中する運命なのか……。
……。
@@@@@@@@@@
「ルイズー、朝だぞー」
学院長室から帰ってきたら丁度いい時間だったのでルイズを起す。
と思ったら、もう起きてる。
まだベットの中だが。
それにしても珍しい。
「あら、またウォーハンマーで玉転がししてたの?」
「……それは暫くやめることにした……」
「そう、じゃあ何してたのよ?」
まあ今日までは一応ゴルフしてたんだが……。
「学院長にスキルニルっていう人形を預かってくれって言われて」
「へー、なんでアンタに……」
「さぁ……?なんでも口づけするだけでいい簡易版なんだって。使っていいってさ」
「……ふーん……それは丁度いいわね……」
「……使うの?」
「今日の午前中はミスタ・ギトーの授業なのよ」
ああ、サボるのか。
あの人の授業は風贔屓が凄くて他系統の生徒は結構暇そうにしている。
というか寝ている。
タバサは風系統なのに出席すらしていない。
卒業できるのか?
「サボって大丈夫か?」
「平気よ、モンモランシーとかそのへんにノートを見せてもらうから」
……だがちょっと待って欲しい。
いつものメンバーはあの先生の授業殆ど聞いてないんじゃないだろうか?
替え玉してまで出席する勉強熱心(?)なヤツなんてルイズしかいないんだぞ。
……。
まあ普段真面目に出席してるから大丈夫か。
「じゃあ、はい」
ルイズに一個渡す。
ルイズがそれにチュッとすると人形がムクムク大きくなりキャミソール姿のルイズがもう一人できた。
そして元人形のスキルニルイズはすぐさま布団に潜って眠り始めた。
「「……」」
確かに本人まんまだな……。
「……まあ、いいわ。私は朝食を食べたらタバサかモンモランシーのところで遊んでるから。サイト、コイツ教室に運んどいて」
ルイズ、ついさっきモンモランシーにノート見せてもらうとか言ってなかったっけ……?
考えてる間にルイズはさっさと着替えて出ていってしまった。
「……とりあえず人形を着替させなくては……」
クローゼットオープン。
……。
「……制服ないじゃん……」
そういえばもう一着は今日俺がシエスタに洗濯を頼んだ気がする。
どうすんだよ、これ……。
あとはドレスみたいなのしか無いぞ……。
これ着せて教室においておけばいいのか?
いや、そんなフォーマルなヤツおれへんやろ~。
というか俺こんなもん着せられないし。
授業まで、あまり時間はない。
……ルイズ着替えてからチュッとしろよ……。
……。
結局スキルニルイズに俺の服を着せて教室までおんぶで運んでいる。
この前買ってもらったうちの一つだ。
ルイズが自分で選んだ服だ文句無いだろ。
それにしてもスキルニルイズは一向に起きない。
着替え中も立ったまま寝ていた。
まあ、そんなことより早く教室に置いてこねば。
他の生徒にあまり目撃されたくない。
朝食の時間中になんとか……。
「おい!お前……」
ん?
振り向くと目つきのイヤラシい中年のおっさんが居た。
「その背中の娘は貴族なのかね?」
「え?違いますけど……」
人形ですけど。
「なんと……こんなに美しい平民が……」
なんか気持ち悪いなコイツ……。
ブツブツ言ってるし……。
「その娘はお前の恋人か何かかね?」
いや、それはないだろう。
いくら俺でも人形を恋人にはしない。
だがローゼンメ○デンなら無い事もないか……。
……いや、やっぱり無いな。
「いえ、ただの預かりものです……まぁ俺のものってことでもいいんですが……」
1個貰ったから。
「そうか……没落貴族が奉公にでも出されているのか……?」
ニヤつきながらブツブツ言ってる。
なにこれこわい。
「あっ……、サイトさん……」
「ああ、シエスタ。どうしたの?荷物まとめて」
シエスタが大荷物を持って現れた。
帰郷でもするのか?
何も聞いてないけど。
「おお……君か……」
シエスタの知り合いか?
……これはあとでシエスタに注意しておかなくては。
人付き合いには気をつけなさいと。
シエスタは優しすぎるからな。
このままじゃ、いつか痛い目にあってしまう。
変な宗教にもホイホイ入信しちゃいそうだ。
「サイトさん……私……」
「ん?」
なぜか怯えるシエスタ。
クリプトナイト以来だな。
「……おまえたちは知り合いかね?」
「まあ……」
「……ふむ、実はそのメイドを私の屋敷に雇い入れようと思っているのだがね……」
「え?」
「学院長に一人だけメイドを引き抜かせてもらう許可を貰っているんだ。勿論同意のもとでね」
やっぱりか……シエスタ……。
早速、痛い目に合いそうになっている。
よく解らないものに簡単に同意しちゃ駄目じゃないか。
変なもん売りつけられたらどうするんだ。
仕事を紹介しますけど事前に教材を買ってもらいますパターンじゃないのか?
「だが君とそのメイドは好い仲のようじゃないか。それを引き離すのは忍びない」
なにいってんだ?
このオッサン。
「どうだろう、代わりに背中のその娘を私に譲ってくれんかな……?君の判断でどうにでも出来るんだろ?」
「これですか?いいですよ」
「決断早いな!……まあいい、じゃあ背中の娘を渡してもらおう」
オッサンにスキルニルイズを渡す。
このオッサン人形好きなのか……。
しかしピグマリオン・コンプレックスの人をリアルで見ることになるとは……。
こういう人は人間も人形のように扱うことがあるっていうし。
シエスタが連れていかれなくて本当によかった。
「ふふふ、では私は失礼するよ」
人形を抱えニヤつきながらHENTAIは去っていった。
「サイトさん……」
「シエスタ、駄目じゃないか。変な人についてったらダメってお母さんに言われたろ……」
「いや……あの、サイトさん……ミス・ヴァリエールは……」
「え?タバサかモンモランシーの部屋で遊んでると思うけど……」
「え?じゃあ今のは……」
「アレ?授業の替え玉にしようとしたスキルニルイズ人形だけど……。でもまさか、あんなHENTAIが存在するとは夢にも……」
「ありがとうございますっ!」
え?
シエスタに抱きつかれた。
「私……本当に怖くて……」
アワワワワワワワワワワ。
どうなってんだ。
柔らかい。
こんなに柔らかいとは。
シエスタ!柔軟剤使っただろ!
洗剤だけでこんなにフワフワになんか……。
……。
「あれ?」
廊下の向こうからロングビルさんがコワイ顔をして歩いてくる。
なんだろう?
マジでカチコむ5秒前って感じだけど。
さっきの独り言のせいで俺キモがられてるのかな……。
「……サイトさん……モット伯はどちらに行かれました?」
「モット伯って……?」
「イヤラシい目つきの髭貴族です」
なんか言葉が悪いな……。
「え、と?その人ならニヤニヤしながら帰っちゃいましたが……」
「帰った……?でも……」
ロングビルさんがシエスタの方をチラッと見る。
「ミス・ロングビル!サイトさんが助けてくれたんです!」
「え?……。…………どういう事でしょうか?」
「いや、あのオッサンがシエスタの代わりにスキルニルイズが欲しいというのであげたら、ニヤつきながら帰っちゃいましたけど……」
「……」
「あんなHENTAIいるんですねぇ……」
「…………スキルニル……ミス・ヴァリエールの……」
ロングビルさんの顔から威圧感はなくなったが疲れた感じになってしまった。
「……そうですか…………サイトさん、流石ですね……」
流石って……。
俺の評価そんなに高かったのか?
基本的に俺、日本のニート時代とやってること変わらないんだが……。
飯食って遊んでるだけだし。
ルイズの世話はしてるけど……。
「では……私は学院長室に戻りますので……」
「あ、はい……」
ロングビルさんは気の抜けた足取りで行ってしまった。
「あの、サイトさん。私も使用人のみなさんに報告してきます。これからもここで働けるって!」
「ああ、うん。もう変な人についてっちゃ駄目だよ?」
「ふふっ、サイトさん、本当にありがとうございました」
シエスタは微笑みながら去っていった。
……。
ルイズの替え玉どうしよう。
うーん。
まあ、今まで休んだこと無いみたいだし1回ぐらい大丈夫か。
よし、どうせギーシュもサボってるだろうしギーシュのところに遊びに行こう。
@@@@@@@@@@
数時間後。
「いやー、まさか全員サボってるとは……」
ギーシュを探して歩いていたら丁度みんなに出くわした。
ルイズとタバサ、ギーシュとモンモランシー、キュルケはそれぞれ別にサボっていた。
そこへコッパゲことコルベール先生がトリステイン王女の来訪を伝えて回った。
コルベール先生に言われたとおりに王女の出迎えに行く途中で全員が丁度ご対面したのだ。
それにしても王女か……。
俺も近くで見れるのかな?
「おい!貴様!」
「ん?」
「よくも人形なんかで騙してくれたな!」
HENTAIのオッサンじゃないか。
顔面がひっかき傷だらけだが……。
スキルニルイズにやられたのかな?
「ちょっとアンタ!いきなりなによ!」
突然現れた目つきのイヤラシいオッサンにルイズが噛み付く。
他のみんなも怪訝な表情だ。
「ん?お前は?……今度こそ本物だろうな?!よし、来い!」
「ちょっと!何すんのよ!」
ルイズの手をつかんで連れていこうとするオッサン。
「やめなさいって……言ってるでしょ~がっ!」
いや言ってないけどな。
そして、
ドガアアアアアアン!!
「ぐはぁっ!」
ルイズはオッサンの顔面に爆発を叩き込んだ。
オッサン生きてるのか……?
「うぅぅ……貴様……王宮勅使である私にこんなことしてただで済むと思っているのか……」
「アンタこそ私にこんなことして、どうなるか判ってんでしょうね!」
「何を没落貴族が……。あれ……?学院の制服?」
「私はラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「そして、こっちがギーさん、こっちがタバさん。霞のモンモンにセクシー担当の陽炎おキュル、そして俺はちゃっかりサイトです」
頭が高い、控え居ろう!
「「「「「…………」」」」」
……。
……みんなは最近、俺が何か言ってもスルーだ。
ちょっと寂しい……。
というか水戸黄門を知ってるわけがないか……。
「……とにかく!文句があるならいつでも来なさい!」
ルイズが仕切り直す。
「ヴァリエール……」
そして青ざめるオッサン。
「ねえ、結局なんなの?」
「さぁ……?」
キュルケとモンモランシーもワケ分からんといった感じだ。
結局オッサンはそそくさと帰ってしまった。
……。
「で?サイト、どういう事なの?」
「いや、俺がスキルニルイズを教室に運んでいたら、あのオッサンが話しかけてきて……」
「うんうん」
「そこに荷物をまとめたシエスタがきたんだけど……」
「シエスタって、あのメイドの娘よね」
「それでオッサンがスキルニルイズをくれ、さもなきゃシエスタを屋敷に連れて行くとか何とか……」
「何それ、サイテーね。……それでサイトはどうしたの?」
「スキルニルイズあげたよ」
「…………え?」
「ん?」
「……」
「あれ?」
「なななななな、なにしてんのよ!!!!こここ、このバカ犬―――――――――!!!!!!」
「どうしたルイズ」
「どうしたじゃないでしょ!!!!じゃあアイツに私のスキルニル触られたっていうの?!!!!!!」
「お姫様だっこしてました」
「うがあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
なんか床に膝まづいて頭を抱えながら悶絶している。
……。
3分ぐらい経って、
「……許せない…………イヤラシイ目つき…………お父様に報告して……二度と……出来ないように…………」ブツブツ
ルイズが幽鬼のようにユラリと立ち上がり何か呟いている。
結局、王女様が現れるまでの間、ルイズはこの調子だった。
後日、あのオッサンが男として大事なモノを失い神官になったようだとロングビルさんが教えてくれた。