新暦0071年、4月29日。ミッドチルダ北部、臨海第8空港。
突如、爆発音が響き火災が発生した。同時刻、居合わせたエース三名により救助活動開始。逃げ遅れた人々の中に、一人の少女が泣きながら歩く。蒼い髪で小柄な身体、あちこちに擦り剥いたのか小さな傷跡が見られる。
「お姉ちゃん、お父さん……」
家族の名を呟く、燃えるエントランスの中。ここで、自分は終わるのだろうか。そんなのはいやだ、まだやりたいことも見つけていないのに。爆発、それに巻き込まれ少女は女神像の前に転倒する。
「うぅ……誰か助けてよ……」
か弱く小さな声は届かない、ピシリと音がした。女神像を支える台に罅が入りゆっくりと、少女に向かって倒れていく。その音に少女は振り向き目を見開いた、本当に危ない時には悲鳴さえ出ないのだろうか。
少女は目を閉じ、泣くのを止めて……
ヒーローはいつだって遅れた頃にやってくる。
発砲、爆発、轟音。
女神像が跡形もなく粉砕された、少女への被害はない。破片が向かないように計算して撃ったのだろう、人間業じゃない。
少女が驚いて、振り向けばそこに彼はいた。黒い筒みたいなもの(注、ロケットランチャー)を構えた体勢で、彼は口を開く。
少女はきっと、この言葉を聞きたかったはず。「助けにきたよ」と。実際には――
『ふもっふ』
変な声、少女の目が点になる。助けにきてくれたのは人じゃなかった、変な生きもののぬいぐるみ。犬のようなネズミのような生きものをモチーフにして、ずんぐりとしたオバQの様な二頭身。くりくりとした大きな丸い瞳、胸には緑のリボン。全体の色は灰色だが、愛くるしい感じはする。
少女は知らないが、彼は第97管理外世界〈地球〉の日本にあるテーマパークのマスコット。それを、とある高校生が目を付けベルギーのブリリアント・セーフテック社に持ち込み開発された着ぐるみ。否、ありとあらゆる機能を組み込んだ高スペックの強化服!
その名は――量産型ボン太くんツヴァイ!!
「あ、あの……ありがとうございました?」
助けてもらったお礼を言う少女に、ボン太くんツヴァイは頷き丸い手を差し伸べた。
『ふも、ふもっふ』
「え?えーっと……」
言葉が通じない!少女は困惑する、手を差し伸べていることから掴めということだろうか?恐る恐る、その手を掴む。
『ふもっ!』
短い腕の何処にそんな力があるのかと思わせる程力強く、少女の手を掴み背中に背負う。
『ふも、ふもっ、ふもぉー?』
背負われた少女は、疑問風に言われたボン太くんツヴァイの言葉からしっかり掴まってて?かなと察しぎゅっと暖かい背中を掴む。
言葉は通じなくても分かりあえる、少女は今それを実感していた。ボン太くんツヴァイは少女がしっかり掴んだのを確認し、気合いを入れるかのように叫ぶ。
『ふもっふ!』
可愛らしい声に少女の顔は綻んだ、直ぐに引きつったが。
ボン太くんツヴァイが駆け出したスピードに、少女の悲鳴が響いた。
二人の脱出劇が始まる、一方高町なのはは。
「これ……ロケットランチャー?まさか!」
破壊されたエントランスにある使い捨てられたロケットランチャーを見て、彼が来た事を確信する。
「灰色の悪魔……ッ!助けてもらった事には感謝するけど、今度こそ話を聞かせてもらうよ!!」
愛機レイジングハートを駆り、高町なのはは全力でボン太くんツヴァイの追跡を開始した。
結局は会えなかったけれど、ボン太くんツヴァイに助けられた少女の証言を聞いて相変わらずと肩を落としたらしい。
少女は思う、いつかまたあのぬいぐるみに会いたいと。彼のように強くなりたいと、止めておいた方がいいと思うが。ともあれ、スバル・ナカジマの胸にボン太くん魂が灯った。
再会も物語も4年後、ミッドチルダにボン太くんドライが舞う。