タルブの町では祭りの最後を締めくくる巨大焚き火が行われていた。
その幻想的な光をルイズと才人は手を繋ぎ眺めていた。
「綺麗ね。サイト」
「うん、きれいだ」
ルイズは嬉しくなって才人の腕に自らの腕を絡めつかせた。
「今日はこれからずっーと私と一緒にいること。当然よね、私頑張ったもの」
「分かったよ。俺も結構頑張ったんだけどね…」
やがて打ち上げ花火が空に放たれた。
それを見てルイズがはしゃいだ声を挙げた。
「凄い、綺麗!初めて見た!あれが花火?」
「そうなのか?俺の故郷にもあったけど」
才人は夏の風物詩が空を彩るのを懐かしむように見た。
その横顔を見てルイズは急に切なくなった。
きっと私の最大の恋敵は才人の故郷なのね…。
「サイト、私も見て」
ルイズの言葉に才人は振りかえった。
「ルイ…」
ルイズは才人にキスをした。
ルイズは顔を真っ赤にさせて言った。
「上ばっかり見てないでよね。サイト」
「え、ああ。ルイズ…」
その時――
それに大きな音が響いた。
「花火!?違う!」
「サイト!上!もっと上!」
明らかに花火の音とは違う光彩が宙に交じる。
なんだ!なにが!
「たいへんです!!アルビオンが!アルビオンが侵攻を開始してきたと!!」
「なんだって!!」
◇◇◇◇◇
「私はトリステイン軍第二駐屯軍第3歩兵部隊のル・ルイッガー中隊長です。皆さんを安全に避難させるため、私の部下の避難誘導に従ってください」
その言葉に貴族などの観光客は大人しく従っていた、しかしタルブの町の住民は顔面を蒼白にさせて将校に尋ねた。
「私たちの葡萄畑は!ワインは!どうなってしまうのです!」
軍の将校は首を振った。
「すみません。これは戦争です。諦めてください」
「そんな…。先祖代代守ってきた土地なのに!どんなに餓えようが苦しもうが土を食べてでも守ってきた土地なのに…!!」
泣き崩れる町民を将校は起こした。
「できるだけ早く貴方たちを町に戻せるよう我々も努力します。今は命助かることを考えてください」
その様子を眺めていた才人は避難誘導の列から離れてかけ出した。
「サイト!?まって!!」
ルイズがその姿を追いかけた。
それを横目に見ていたキュルケとタバサも頷き追いかけた。
◇◇◇◇◇
「どうした、相棒」
「ゼロ戦を飛ばす。あれなら上陸部隊の足止めぐらいできるだろ」
才人は考えていた。
確かにゼロ戦はジェットなんかとは比べモノにならないがそれでもかつて第二次世界大戦で一線級だった機体である。
竜騎士になら遅れをとるはずもない。
「いいのか相棒、これは戦争だぜ?よそもんがむやみに手を出して良い事じゃないぜ」
才人の作業の手が止まる。
「守りたいと思っちゃだめなのか?」
「別にかまわねぇよ、でも後戻りできねぇぜ。そしてきっと後悔する」
才人は一瞬、思案したがすぐに作業を再開した。
「もう何もしないで後悔するのは懲りたよ」
「そうかよ。まぁ、いいか。俺も付き合うぜ」
作業を始めてすぐに気がついた。
こいつ、いつでも飛べるようにしっかり整備されている…。
本来単座のシートもしっかりとしたつくりの複座式に改造されていて計器にも狂いがない。
星型エンジンも完璧に整備されている。
フレームの歪みも改修されたあとがある。
60年間放置されてきた機体とはとても思えない。
どういう事だ?
まぁ、いいか。これならすぐにでも…
しかし、燃料タンクを見て愕然としてしまった。
「くそ、ガソリンがほとんど入ってねぇ!これじゃ全然飛べないぞ!!」
「燃料ならあるわよ」
才人は声を方を向いた。シエスタの母がそこにいた。
壺のようなものをシエスタと一緒に抱えて持って来ていた。
「これ、ヴィリエさんが昔、あたしらのところに置いて言ったガソリンとかいう液体よ。これがあれば動くらしいじゃない」
「ヴィリエが!?」
そういって中を見る。
このにおい!間違いなく揮発性の燃料である。
「え、でもお母さん。ヴィリエさんはあれは飛ばないって…」
「まだ言ってるのかいこの子は!ヴィリエさんは自分の腕じゃ上手く飛ばせないって言っただけだろ!」
「ええ!」
シエスタが自分の勘違いに漸く気づいて間抜けな声を上げた。
「ヴィリエさんは飛ばせるのは訓練を受けた人間だけだから町の人にはむやみに触らせるなって言ったんだ。ついでに私らにこれを託してね」
これだけのガソリンがあれば戦える。
才人はヴィリエに感謝した。
「あの竜の羽衣、あんたに頼んで良いかい?」
シエスタの母が才人にそう言ってガソリンを渡した。
「いいのか?あんた達の町の守り神様だろ」
「良いよ!あれはじいちゃんの魂だ!ここで連中に燃やされるくらいなら空に返してあげてくれよ!頼んだよ」
「ああ」
才人はゼロ戦にガソリンを注ぎこんだ。
これなら――。
「サイト!なに一人で行こうとしてるのよ!!」
そう言ってルイズが駆けこんで来るや否や後部席に飛び乗った。
「なぁ、ルイズ、降りろよ!」
「なによ!約束でしょ!今日はずっといっしょにいるの!」
才人はかぶりを振った。
「ダメだ。お前は安全なところに避難するんだ!これは戦争なんだぞ!」
「私も同じ」
ルイズは才人の目を見つめて言い返した。
「私も何もしないで後悔したくないの!サイトと同じ気持ちなんだから!!」
才人はそう言われて二の継が継げなくなった。
「おでれーた。こりゃ、相棒の負けだな。今度の虚無の使い手は頑固だぜ」
「ちぇ、しらねぇぞ、どうなっても」
なんとなく負けた気分になって才人は呟いた。
「サイトを信じてるわ」
そう言われてはぐうの音も出ない。
「あらあら、青春よね」
「少年完敗」
タバサとキュルケが面白そうに呟いた。
「二人とも?どうして」
才人は二人の登場に驚いた声を上げた。
「だって、このままっていうのも夢見悪いしね。ちょうど私の使い魔も帰ってきたことだし…」
「少年一人ではない」
タバサは眼を閉じると厳かに告げた。
「矢は三本」
◇◇◇◇◇
アルビオン竜騎士団のカインツにとってその日はついていない事だらけだった。
運のつきはじめは敬愛なるウェールズ閣下がいつの間にやら謀殺され、気がついたらトップの顔がクロムウェルの面白くない顔に変わっていたころからだが、それはさて置くとしても、とにかく今日は駄目な日だ。
まず朝の朝食に大嫌いなはしばみのサラダが出た。他にも通じが悪かったし、給仕のエーネをデートに誘ったのに断られた。他にもいろいろついてない。
極めつけは目の前のこれである。
彼は尋常じゃないスピードで駆け抜けていく謎の機体を視界の隅に捕えた。
『くそ!!こちらデルタ1!チャーリー1とブラボー3が羽翼被弾。緩やかに降下』
耳につけた「遠声」(テレフォン)の付加魔法がかかった魔法器が仲間の声を拾った。
「また二騎撃沈…。さっきから誰も死んでないのがせめてもの救いか…」
『こ、こちらアルファ4!!でた赤い巨竜!だめだ!うわああ!!」
猛烈な爆発音!
カインツはアルファ4の方を向いた。
猛烈な爆発音を耳元で聞かされたアルファ4の騎竜が気絶して下に落ちていく。
海に真っ逆さまである。
死なないと良いが…。
しかしさっきから恐怖体験をずーと実況中継されている気分だ。
最初は便利な道具だと思っていたがこうも負け戦だと知らなくて良い悲惨な状況が逐一耳に入ってくるのだから便利どころか呪いのアイテムのように思えてきた。
ふとカインツは前方を見た。
大きな雲が見える。
雲?なんでこんな低空に雲が…?
ふと下を見るカインツ。下の海に気持ち良さそうに漂う騎竜が…!!
「しまった!!デッカー!止まれぇええ!!」
しかし急に止まれる訳も無くカインツとその愛竜デッカーは雲に突っ込んでいった。
――「眠雲」(スリーピング・クラウド)
「置網漁業」
「おねぇさま、鬼畜なのね、きゅい」
巨大な眠り雲を維持しながらタバサは戦場をゆっくりと回っていった。
◇◇◇◇◇
「この様子ならここはあいつらに任せていいよな」
才人はタバサとキュルケの活躍ぶりを見てそう言った。
「そうみたいね」
ルイズも頷いた。
「相棒、ここでちまちま頭出した雑魚を叩いてもきりがないぜ」
「そうだな。どうやったらタルブに敵が上陸するのを防げるんだ?」
デルフリンガ―は才人の問いに答えた。
「決まってるぜ!この空域での戦闘に完全に勝つしかない!狙うなら親玉だ!!」
「ちぇ、やっぱ、そうなるか…」
無謀な戦いだが仕方ない。才人は腹を括ると操縦桿を操作して機体を上昇させた。
◇◇◇◇◇
「戦局は!!」
「我が軍未だ劣勢!アルビオン優勢です!!」
戦いは怒涛の消耗戦へとなだれ込んでいた。
もちろんトリステイン側としてはあえて狙って消耗戦に持ち込んだのであるがそれこそアルビオンの仕掛けた罠だったのだ。
アルビオン軍は新型の長距離砲を積んだ新造艦数隻を後方に下げると共にそのほかの艦隊を扇状展開。
数で勝るトリステイン軍を包囲しつつ長距離砲による援護射撃を決行。
アルビオンの前面戦列艦はすべて足の遅い装甲艦である。
最初から接近戦闘を予定していた布陣である。
「敵、包囲網は薄い!一点突破だ!前方に砲撃を集中!」
フェヴィス艦長は吠えた。このままでは負ける!
「ダメです!前方向、既に新造艦の艦影無し!七時方向敵援護射撃来ます!!」
瞬間!艦が大きく揺れた。また被弾!!
「なんという!足の速さか!!小癪な!!」
フェヴィス艦長は前方はるか先にて戦局を操る知将サー・ヘンリー・ボーウッドを睨みつけた。
何もかも貴様の予定通りか!!ヘンリー!!
◇◇◇◇◇
「戦局は?」
「はい、我々の優勢です。トリステイン艦隊は虫の息でしょう」
「そうか」
アルビオン艦隊新造艦「レキシントン」の後甲板でサー・ヘンリー・ボーウッド艦長は前方に睨みをきかせていた。
新造砲の威力を見せれば勇敢なフェヴィスのことだ消耗戦を挑んでくるのは予想できた。故にこの戦局である。
しかしアルビオンがここで勝利を納めたところで以後戦線を維持できるかどうかは降下部隊の成功の是非に掛っているのだ。
上手く前線に拠点を作れなければこの戦の意味などない。
「第一次降下部隊は?」
「ぜ、全滅だそうです」
報告をする部下も動揺を隠せない。サー・ヘンリー・ボーウッドは苛立った声を上げた。
「何が起こっている!報告は無いのか?」
「申し訳ありません。調べているのですが…」
その時ボーウッド艦長の目に何かが入った。
「まて!あれはなんだ!?」
◇◇◇◇◇
「あれが戦列艦かよ!200メートルはあるじゃねぇか!!」
見えてきた艦隊を前に才人は頭を抱えた。
これではいくらゼロ戦の機関砲でも焼け石に水である。
「どっか弱点はないのか?」
「相棒!この世界の戦列艦の良くも悪い所はあれは風石の力でただ浮かんでるってことさ!どこか一つを打ち抜いたくらいじゃ墜ちやしないぜ!!」
「最悪じゃねぇか!!」
無策にもほどがあるか!何か手はないか?
無意味な旋回を続けるゼロ戦に向けて砲口が向く。
「まずいぞ!うってくらぁ!!」
「くそぉおお!!」
慌てて距離を取る才人。
ここまできて何もできないのか!?
「くっ」
悔しそうに顔を歪める才人。
「サイト…」
その様子を後ろから眺めルイズは思った。
こんな時、私に力があったら。
すると、突然ルイズの傍らにあった本が光り出した!
「あ、あわわ!サイト!始祖の祈祷書が!!」
「なんだ??そんなもん持って来てたのか??」
呆れたような口調で才人はルイズに言った。
「だってこれ一応は国宝なんだから!あのまま町に置いていけないわよ!!」
たとえ白紙でも…。白紙?
「文字が書いてある…」
「へ?どういう事だ?おい、ルイズ!」
これはどういう事だろう?必至にルイズは文字を追いかける。
まるで熱病に侵されたように頭の中が熱い。
まるで無理やり別の力が入ってくるような…。
やがて一つの力が浮かび上がる。
――初歩の初歩の初歩。「爆発」(エクスプロージョン)
「サイトあの艦に限界まで近付いて!!」
そう才人に指示を出したルイズは何かを呟き始める。
ルーンの詠唱…。
才人はそのルーンの節に韻になぜか激しく心が高揚するのを感じた!
「分かった!いくぞ!!」
才人も何かを感じていた!強大な力のうねりがルイズの中に生まれているのを!
意識を集中する。
ゼロ戦を一気に上昇させると自由落下に乗せて加速させる!
巨艦の大砲がゼロ戦の方を向く!
「相棒!砲撃来るぞ!!」
「突き抜ける!!」
機体を器用に回転させ弾丸をすり抜ける!!
才人の左手のルーンは眩いばかりの輝きを見せている!!
ゼロ戦が手足の延長戦上のように感じられる!
完全なる一体感!!
「相棒!ルーンが虚無の詠唱に共鳴してやがる!!」
「いけぇえええ!!ルイズ!!!」
弾丸のように加速したゼロ戦が巨艦の横を抜ける!
瞬間!!
―――――「爆発」(エクスプロージョン)!!!!
ルイズの構えた杖から眩い光の球が放たれた!!
まるで小型の太陽のような光の塊はさらにその大きさを増していく!
「なんだこりゃすげぇ!!」
巨大な光は一隻だけでなくその周りの新造艦をも光に包みこんでいく。
「艦はどうなった?」
才人は眼をしかめながら対象を見据えた。
無傷?いや!
◇◇◇◇◇
「巨艦が海に落ちていくわい、あれは何じゃ?」
「虚無の魔法、「爆発」(エクスプロージョン)だな」
ひときわ高い丘の上にフィルルとヴィリエの姿があった。
「あの輝きはミストラルバースト(魔源消滅)の光だ。純粋な魔法力爆発。たぶん中の風石のみが破壊されて人体には一切の被害が出ないはずだ」
「ほう、虚無とは真に器用な真似をしよるのう。風石のみを破壊できるとな」
ヴィリエは思慮深くその光を眼で追った。
「ああ、「爆発」(エクスプロージョン)には二つの力がある。純粋物質力爆発と純粋魔法力爆発の二つだ」
「純粋物質力爆発?どういう意味じゃ?」
「簡単に言えば対消滅反応のようなものだ。正確には物質の完全なる純エネルギー化だが…。この世界の根底。より小さきものに干渉する力。物質の持つ全てのエネルギーの楔を解き放つ…初歩の魔法」
ヴィリエは眼を閉じた。
「なるほど、やはり虚無は危険な力じゃのう」
「まぁ、やっている事は凄まじいが、しかし破壊の規模は大したことないさ」
そう言ってヴィリエは目を細めた。
そこにトリステイン正規軍の服を着た将校が現れた。
「ヴィリエ様、ツアー客並びにタルブ町民の避難誘導を完了しました」
「御苦労。ル・ルイッガー中隊長」
ル・ルイッガー中隊長――彼の真の所属はトリステイン軍第二駐屯軍第3歩兵部隊では無い。
タルブの町民の避難を行った部隊はヴィリエ設立による私設軍竜騎兵隊トライデントフォースであった。
「しかし、こんなまどろっこしい手管を使わなんでもいくらでも干渉できるのではないか?のう主よ」
フィルルの言にヴィリエは首を振った。
「悪いが虎の子の私設軍はまだまだ披露できないよ。使えばトリステインの貴族議会から非難を受けるのは言うまでもないしね」
まだロレーヌ陣営の足固めは盤石とは言い難い。
しかしもうすぐ全てのカードが出そろうはずだ。
「それに悪いが虚無の使い手とガンダールヴにはまだまだ成長してもらわないと困る」
◇◇◇◇◇
旗艦「レキシントン」を含む新型砲を搭載した新造艦数隻が墜ちたアルビオン陣営は一気に瓦解した。
息を吹き返したトリステイン艦隊は包囲網を突破、連携が取れなくなり分断したアルビオン艦隊を個別撃破していった。
海に墜ちた旗艦でサー・ヘンリー・ボーウッドは通信によって艦隊の立て直しを行おうとしたが怒り狂うフェヴィス艦長の烈火の戦列砲撃に戦線を維持することの愚を知った。
撤退命令が出され、アルビオン艦隊は遁走し、トリステイン軍はそれをしばらく追いかけた。
がしばらくするとトリステイン軍は追撃を止め自軍へと引き返した。
怒りを鎮めたフェヴィス艦長が冷静な判断を出して無意味な追跡をやめたのだ。
今回の戦闘でトリステイン艦隊が欲しかった戦果はアルビオンとの開戦の大義名文と第一次侵略軍の侵攻阻止である。
その役割をフェヴィス艦長は十二分に果たしたのである。
そして思わぬ収穫もあった。
大量の捕虜と共に敵の虎の子であろう旗艦と新造艦が無傷に近い形で手に入ったのだ。
フェヴィス艦長は冷静になれば計算の立つ男である。
彼は不毛なアルビオンの残存勢力の追走をあきらめ、目の前に転がっているお宝を頂くことにしたのだ。
こうしてタルブ侵攻戦はトリステイン側の大勝利と言う当初想定された通りの結果に終わった。
しかし戦場に出ず勝利の噂を伝え聞いただけの多くの将校はフェヴィス艦長の苦戦を知らなかった。
故にこの大勝利が今後大きくアルビオン戦役における情勢に影響を及ぼすことになるのだった…。
◇◇◇◇◇
「どうやら第一次侵攻軍は大負けこいたみたいだね」
「くそ!僕が戦場に出ていれば!!」
フーケは悔しそうにそう呟くワルドを見て呆れた声を発した。
「なんだい?あんたが戦場に行くと死体が一個増えたんじゃないのかい?」
ワルドがフーケを睨んだ。
「僕がそんなに簡単にくたばるものか!」
「あんたがどれだけ強くてもその怪我で戦場に立てばお荷物以外の何者でもないさ」
ワルドはさらにフーケを睨みつけたが彼女の言っている事が正しい事ぐらい理解できていた。
いまのワルドは片腕の欠損だけでなくその首にかけられた馬鹿馬鹿しいほどの賞金もあって戦場に出れば味方にすら首を取られかねない状況にある。
こうして人の目を盗んでメモの場所に辿り着くのさえフーケの手助け無しでは果たせなかったであろう。
聖域で全てを得るべく祖国すら裏切った男が逆に全てを失った。
随分と惨めなものだな…。
ワルドは自嘲気味に呟いた。
「呆れた。いまさら嘆くくらいなら裏切りなんてしなければ良いのさ」
「お前には分かるまい。運命に裏切られた男の事など!!」
フーケは呆れたように呟いた。
「あんた顔に似ず随分とロマンチストだね。運命なんて信じてたのかい」
やがてふたりは目的地に辿りついた。
メモの場所。港町外れの倉庫の一角…。
そこに闇色のローブを被った女が待っていた。
「きましたか。あなたがワルド様ですね」
「ああ、お前がロバ・アル・カリイエの技師か」
フーケは胡散臭そうに女を見た。
なんだろう、この感覚?ざわざわする…。
「約束の品を見せてもらおう」
「ええ、こちらになります」
そう言って女は倉庫の奥に眠る機体を見せた。
「これが船?なんなのだこれは一体!?」
「これは竜機(ドラグーン)と言うのです」
ローブの女はにやりと笑った。