ジャンル:パニック・ホラー
勝利条件:【主人公】の30日間以上の生存
敗北条件:【主人公】の30日未満での死亡
条件補足:肉体的には生きてても、廃人化など精神的死亡は死亡扱い
勝利報奨:来世での転生特典+α
敗北罰則:来世の立場は陵辱系エロゲヒロイン
生存日数が短いほど、ハード系になります
死亡フラグっぽい台詞を残して切れた携帯。
こちらかけなおして、問いただそうとした矢先に届いたメールの『シナリオ開始』のタイトルに不吉な予感を覚えて開いてみればある意味予想通りの内容。
握る手に力が篭もって、ぎしりと携帯が軋む。
さっきの大神の言葉とこのメールをあわせて考えれば、何が起きたかは考えるまでもない。
世界は終わったのだ。
少なくとも、今までの日常は。
たった今、この瞬間に。
浦上誠は思う。
うちのクラスは濃いヤツが多いと。
例えばいつも騒ぎの中心にいて、クラスのムードメイカーというべき某人物。
窓伝いに互いの部屋に行き来できるようなお隣さんが幼馴染の美少女で、名前を聞けば聞き覚えがあると頷きそうな企業グループのお嬢様と何故か仲が良く、古流剣術を修めてるクールビューティーに気に入られていて、他にも意識している女子はいて明らかにハーレムを形成している羨ましいヤツ。
どこのギャルゲーの主人公だと突っ込みたいが、自分のポジションが見事にそいつの友人役あたり。
上から数えた方がいい美少女陣とお近づきになれる素晴らしいポジションだと受け入れているので文句を言う気はないが、妬ましい。
板野ハーレムとクラスとひそかに呼ばれているが、今のところは仲良しグループの域を出ていないのはそのポジションのおかげで知っている。全員と結ばれるとかしたら、妬ましいを通り越して呪ってやる。
同じようにハーレムを築いているのでは、気取り屋で嫌味っぽいと男子には不評だが外見はいいし、金回りもよくて女子には人気のヤツがいる。こちらは、女子には手が早いと噂でクラス男子一同で仲良く呪っている。
かと思えば、逆ハーレムを築いていると噂されている女子がいる。女子には評判悪そうだがそうでもないのは不思議だ。
そういった、モテモテ野郎ばかりかと思えばオタ趣味を隠す事無く堂々とさらけ出している三人組の男子がいて、いつも本ばかり読み耽っている女子がいて、謎の情報網で人の噂にやたらと詳しくパパラッチの異名をとる報道部員がいる。
本当は女子じゃないかと性別詐称を疑ってしまう男の娘とか、百合の花を咲かせてそうな女子だっているし。
いや、この学校の連中自体が濃いのかもしれない。
なんてたって、どこのエロゲだといいたいヤツだっているのだ。
どこの誰だか知らないが、学校にエログッズ持ち込んでヤってるヤツがいるのだ。変な声が聞こえると覗きに行ったら立てた足音に気づかれて、慌てて人の去る気配がして現場を覗くことはできず、忘れたのか後に残されていたのはいわゆる大人の玩具。それも、明らかにさっきまで使っていたのが明らかなのが。
何てうらやま――もとい、けしからんヤツだ。
腹立ちのままに証拠品は、落し物としてこっそりと職員室に届けたら翌日に校長の全校演説が炸裂したのはいい思い出だ。
自分の周囲の人間は、自分の人生を謳歌している連中ばかりで何とも羨ましい。
いや、別に自分の今の状況に不満があるわけじゃないのだが、やはり彼女が欲しいというか。自分にも、甘酸っぱい青春の思い出が欲しいというか。
緊張にドキドキと高鳴る胸を自覚しながら、フェンス越しに地上を見ている少女の後ろ姿を見つめる。
昼休みの屋上を吹き抜ける風に長い髪がなびき、スカートの裾が捲れて白い太腿がちらつく。
同じクラスの姫宮希。
クラスというか、学校全体でキャラが濃い面子が多かったり、女子の(容姿の)水準が高いせいでそれほど存在感がないが、かなり整った容姿をしている美少女で何気にスペックは高い。
クラスの輪の中から一歩距離を置いて観察者のような立ち位置を取っていることが多いが、板野ハーレムのサムライガールこと御剣に引っ張り込まれてることが多いので、クラスの男子にはひそかにハーレムの準メンバーに数えられている。
そして、御剣に引っ張り込まれてくるおかげで言葉を交わす機会も多く、気がつけばその姿を目で追うようになり、考えていることは彼女のことばかり。
よく浮かべる物憂げな表情に見とれてぼうっとしたり、美少女同好会名義で流れている写真を買ってみたり。
ひと夏の思い出づくりを合言葉に、勇気を振り絞り告白することを決めたのが今日。
夏休みも近い、七月の雲ひとつなく晴れた青い空。
屋上にいるのは、自分と彼女のふたりだけ――のはず。昇降口の扉の向こうでこちらを覗いているくらいはしていそうだが。
古式ゆかしくラブレター作戦で挑もうとしたせいで目ざとくかぎつけたクラスの連中によって、気がつけばセッティングされて「やっぱナシと」とUターンして逃げ帰る退路は断たれている。いつもなら他にもいる屋上利用者の姿がないのは、連中が人払いをしてくれたおかげだろう。
……こういう、イベント事は皆してすきだからなぁ。
他人事なら、自分だって楽しむ側に回ってることが容易に想像できる。うまくいけば、妬みつつ祝福し。失敗すれば、同情しつつ喝采して騒ぐに違いない。
緊張に震える足を一歩踏み出すのと、彼女が振り向くのは同時だった。
「あ、その……」
交わる視線に、何かを言わないとと頭の中が空回りしているのを自覚しつつ唇を開く。
不機嫌そうにも見える眉根の寄った表情で、つかつかと彼女が歩み寄ってくる。
告白する前に、まさかのごめんなさい!?
その表情が自分に向けられたものかと思い硬直する誠の脇を、無造作に彼女は通り過ぎる。
「つきあって」
しっかりと、誠の腕を掴んで握り締めてひっぱりながら短く囁いて。
告白する前に、逆告白!?
ドキリと心臓が高鳴り、予想外の展開に頭の中が真っ白になる。
「よろこんで!」
口だけは、勝手に返事をしていた。
後になって振り返ってみれば、幸福の絶頂だったこの瞬間こそが、誠の日常が崩れ去った瞬間でもあった。
パパラッチ朝倉。
時には揶揄をこめてそう呼ばれる少女は昇降口の扉に張りつくようにして屋上の様子を窺い覗く。
手にはしっかりとデジカメを握り締め、シャッターチャンスをモノにする準備は万端。というか、そもそも誠の希への告白のお膳立てをした当人だから準備万端なのも当然。
呼び出すためのラブレターの書き方指導から、告白場所に選んだ屋上をふたりきりにするための人払いまで頑張ったのだから、ぜひとも記事にしたい。
そして、屋上の人払いに協力したクラスの面々も同じく扉に顔を張りつけるようにして、小さく開けた隙間から屋上の様子を窺っている。
みんな、人の色恋沙汰には興味津々。ネタの需要はばっちりと確信しつつ覗きをしていると、告白の覚悟を決めたのか誠が一歩踏み出すのが見え、一緒に覗いている面子がごくりと息を飲む。
シャッターチャンスを逃すものかと、扉の隙間からデジカメのレンズを向けてへばりつき。
「あれ……?」
初々しくも甘い告白シーンが展開されるわけでもなく、気の毒だけどネタになる振られシーンが展開されるわけでもなく、希が険しい表情で誠を引っ張ってずかずかとこちらへと一直線にやってくる姿がファインダーに。
――バレた?
覗いているのがばれたのかと、ひやりとし。慌てて扉から離れて、逃亡をハンドサインで一緒に覗いている連中に指示。
一斉に蜘蛛の子を散らすように、ささっと扉から離れて転げるように階段を下りて逃げていく。
「朝倉?」
さて、自分もと逃げにかかったが一足遅かった。乱暴に扉が開けられる音と、背後から降ってくる声。
愛想笑いを浮かべながら、ぎぎっと軋むような動きで背後を振り返る。
「やっぱり、朝倉か。ちょうどいい。お前なら全員のアドレスを知っているだろう。急いで、クラスの皆を教室に集めろ」
「え? お昼が終われば、どうせ皆集まるのに。クラスの皆の前で付き合うことでも宣言するの?」
「……何の話だ? ちょっとヤバイ事が起こってるっぽいので、避難準備しといた方がいい」
「なになに? なにか、事件? 通り魔でも学園に入ってきたとか? どこ、どこで?」
覗いてたのがバレたのではないらしい。それどころか、なにかイベントの予感。好奇心のままに、身を乗り出して思わず問い詰めたのを希はわずらわしそうに手を振り、問いかけを却下する。
「リアルでヤバイ状況だ。お前のインタビューを受けてる暇はない。知りたければ、クラスに皆を集めてからグランドでも見てみろ」
「え……。ほんとに、本気でヤバイの?」
険しい表情で言うだけ言うと誠を引きずるようにして傍らを駆け抜けていった希の背中に、ぞわぞわとした不安が足元から背筋を這いのぼってきて呆然とした呟きが漏れる。
何か悪い夢を見ている気持ちでデジカメをポケットに収めて、代わりに携帯を取り出してクラスのメンバーを一括指定して送るメールを打ち込みながら、屋上へと足を進める。
希は、屋上で何かを見て今の反応を見せた。
見たいのに、見るのが怖い。
相反する気持ちが心の中でせめぎあうのを感じながら、屋上を囲うフェンス越しにグランドを見下ろし。
「――ひっ!」
息を飲み、引きつったような声が喉から漏れる。
赤い色をした水溜りがあった。そこから続く赤い足跡があった。
もしあれが、人の血だというのならそれはきっと人が死んでいる。
面白おかしく書き立てて楽しむゴシップじゃない。他人事として聞き流し、話のネタにするようなテレビやネットで流れてるニュースじゃない。
自分の身近で何かが起きている。自分の知っている誰かが死んだのかもしれない。
ぞくりと身を震わし、よろめくようにしてフェンスから後ずさると慌てて教室へと急ぎながらメールを送信する。
御剣真琴は武人である。
古流剣術を今に伝える家に生まれて、それを否応もなく学ばされてどこか世間からズレているところがあるのは自覚している。
人を叩きのめすのは得意だが、料理は苦手。背は高く、間違っても可愛らしくはない。女性らしさに対する劣等感と憧憬があり、その反動のように武芸に身を打ち込んでいる事も自覚している。
それでも、やっぱり自分は女なのだと同級生の男子の一人に好意を抱いているのを自覚して、最近では料理に励んでみたり、勇気を出してお洒落な下着を着けてみたりと頑張っている。
今日も、口実をつけて作ってきた弁当を板野に食べさせてその感想を緊張と不安と共に待っていたところだった。
傍から見たら甘い空気が漂ってそうなその時間を断ち切ったのは、携帯の着信音。
「あわわ! ごめんなさい。マナーモードに……あれ? 悪戯、じゃないよね」
一緒に机を囲っていた東雲が、携帯を慌てた様子で弄り。着信したメールを確認して、不思議そうに首を捻る。
ふと見れば、教室で食事をしていた弁当組の何人かが同じように携帯を開いて眉をひそめている。
「ねえ、これ……悪戯だと思う?」
東雲が、おずおずといった仕草で携帯の画面を見せてくる。
『緊急! 事件! 至急教室帰れ!』
文面そのものは短い。しかしその内容は、何事かと思うもので送信者のところに目を向ければ朝倉の名がある。
「そう言えば、昼前に浦上を囲んで騒いでいたような。その関係か? あ、俺の携帯にも同じのが」
板野が不思議そうに首を捻ってる間に、がらりと扉を開けて教室に入ってきた人影に目をも向ければそこにはどこかこわばった表情の朝倉がいた。
「それは、本人に聞けばよかろう。ただ事ではないようだ、が」
教室のみなの注目を集めながら、朝倉はつかつかと教壇に立つと教室をぐるりと一瞥して口を開いた。
「皆、事件よ!」