「ドミンゲスを殺す算段はあるのか? 冷血党なんぞ、所詮は群れなきゃ何も出来ねぇ玉無しの集まりだが、ドミンゲスは結構やるらしいぜ。この前も、ギンスキーの娘を護送してたハンターと衛兵達が……」
「よーく知ってる。俺はドミンゲスと一度戦った」
荒野で小休止。なんだかんだで付いてきたあてなと、キャタピラの不具合を取り除きながら、イービーは言った
あてながピクリと不自然に身じろぎする。サラはほぉ、と溜息を洩らした
この冷静なハンターはドミンゲスと一度戦ったと言った。なら、二度目でケリを着けるだろう。実力はよく知っている。その切れ者具合もだ。三度目はない
もとから勝つ気で居たが、勝率は俄然高い、とサラは拳を握りしめた
「真正面から行く。ドミンゲスには、それで勝つ」
汗を拭い、立ち上がって、何でもないようにイービーは言った。あてながぼぅ、とその横顔を見詰める
大口を叩くだけの奴なら幾らでも居るが、ここまで“何か”を感じさせる奴は、そうは居ない
サラは、あてなの高等部をこつんと打った。我に返ったあてなはぶんぶんと頭を振り、アイリーンの整備を再開する
「……しかしメカニックか、悪くないな」
「奇特な奴だぜ。こんなすっとぼけたのを連れて行こうってんだからな」
「『クルマを任せるならコイツで間違いない』って、誰が言ったんだっけか?」
「あ、馬鹿!」
サラは大慌てでイービーを黙らせに掛かる。当然ながら遅過ぎたが
忌々しげにあてなの方を見れば、あてなは耳まで真っ赤にしてキャタピラに齧り付いていた。サラを相手にしても気後れしない根性の入ったメカニックの癖に、煽てられると弱いのだった
「ぱ、パーフェクト! 一発屋に五十発ぶち込まれたってビクともしないよ!」
「そりゃ剛毅な事だな。期待させてもらう」
イービーは、労うようにあてなの肩を叩く
あてなは飛び上がった
「やれやれ、ピクニックに行くんじゃねーんだぜ」
――
荒野、砂漠、乾いた風と激しく変動する気温、汚染された雨、高い攻撃性を向けてくる数多の突然変異体達、言葉に表せない過酷な環境
世界の全てはそれだ。そういう所では、様々な物が満たされない。満たされないまま人が育つと、どうなるのか
或いはサラのようになる
また或いは、冷血党のようになるのだ。道徳や倫理なぞ学ぶ前に、糧を得る為に何でもしなければならなかった者たち。そのなれの果て。奪う快楽に染まりきって、戻れなくなった正真正銘の屑ども
サラは、同情してやっても良いと思った
冷血党の兵隊どもの、品性も知性も感じられない不細工面を見ていると、思うのだ
この人間離れした悪相じゃ、そりゃ人生放り出したくもなるよ
「その面じゃ苦労が多いだろうな」
実際に言い放ったサラを前に、冷血党の兵隊達は顔を見合わせる
サラが心底、本当に同情の心を載せて言い放ったため、逆に意図を掴めなかったようだ
「伝わらなかったか? その面じゃ、苦労が、多いだろうな。鏡見るだけで便所に駆け込んで胃の中身を吐き出さなきゃならねぇ。そりゃストレスも溜まって、暴れたくなるよ」
サラの瞳は潤んでいた。ここにきて漸く、冷血党員達の顔が朱に染まる
アイリーンから顔を出したイービーが腕組みしながら一つ頷く。あてなは流石に緊張しているのか、サラの背後に隠れてスパナを握りしめている
「何言ってんだテメェ、頭可笑しいのか? ここはミュータントもビビって近寄らねぇ冷血砦で、クラン・コールドブラッドは今忙しいんだ。たかがハンターと、そのお供の気違いソルジャーだか小娘メカニックだかを相手にしてる暇はねぇんだよ!」
「おいおい、じゃぁなんだ? お前は俺達に帰れっていうのか? 態々ここまで出向いてきてやったのによぅ」
「うるせぇ奴だな! 折角生かして帰してやろうっつーのに、そんなに死にてぇのか! 素直に俺の言う事に、ハイハイ馬鹿みてぇに頷いて、帰りゃ良いんだよテメェらは!」
サラは歯を剥き出して威嚇する冷血党員をうざったそうに押し遣って、中指をおったてた
「言ってやれよイービー!」
ぱぁん、と銃声が一つして、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた冷血党員が倒れた。彼の背後に飛び散った血と肉、そして骨片
眉間への点射。正面から頭蓋を割りつつ侵入した弾丸は、脳漿を巻き込んで後頭部から吹き出したのだ
「な、て、テメェ、あ、あぁぁ?! 頭可笑しいんじゃねぇのか?! ここは冷血砦なんだぞォォォー!!」
そんな事は関係ないのだ。問答無用で冷血党員を射殺したイービーは獣のように唸った
ここがどこだろうと、良い。冷血砦だろうがビーカップだろうが、砂漠だろうが荒野だろうが天国だろうが地獄だろうが
イービーは構わない。だが、許せない事もある
「俺に命令するんじゃねェ」
サラはすかさずショットガンを引き抜く。ド派手なパーティーは望むところだ
「オラァ冷血党! テメェら纏めてミンチだコラァァ!」
「わぁぁんサラさん待ってェェェ!」
雄叫び上げて突っ込めば、散弾で血達磨になった冷血党員が吹っ飛んでゆく
こいつらには教えてやらなければならないのだ。ソルジャーが殺意と共に銃を解き放ったら、どうなるのか
――
徒歩のクランメンバーが7。ドリルやらがごてごて付いたクランバリケードが2
イービーの乗りこなしは全く一流である。つい最近手に入れたばかりの、それも狂ったCユニットを載せて暴れまわっていた鹵獲戦車を、驚くほど巧みに操って見せる
アイリーンは、初心な処女か熟練の魔女か。サラには判断付かないが、どのような女でもイービーなら乗りこなすであろうという確信はあった
主砲一発。クランバリケードが一台、何も出来ずに沈黙する。サラが手榴弾を投げつける前にもう一発。クランバリケードの片割れは、走破装置に大穴をあけられた上で執拗に機銃を撃ち掛けられ、爆散した
あっという間の出来事だ。爆発する車両の火勢に怯んだクランメンバーの只中に、サラはあてなを放り込んだ
「え、ちょ、サラさん」
「ほうら、お得意のスパナ捌きで頑張ってきな」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
放り投げる際に勢いをつけすぎたか、あてなの白い髪がぐるぐると回ってカーテンのように見えた
爆発したクランバリケードから這いずって離れようとするクランメンバーと抱き合う形になり、あてなは二重に悲鳴を上げる。恐慌を来して頭突きをかましたのは、まぁ仕方ない
そこにサラは乗り込んだ。ショットガンではあてなを巻き込みかねないため、電撃銃を両手に携えて口笛を吹く
「ケツに火が付いたぐらいでビビってんじゃねぇよド素人がァー!」
大砲が顔の横を掠めても、太腿をウージーで滅茶苦茶にされても、後ろから味方に手榴弾で吹っ飛ばされても
絶対に恐慌に陥らない。まずは目の前の敵をどうにかする。それが出来るのがソルジャー、プロフェッショナルで、出来ないこいつらは粋がってるだけの素人
侮蔑の言葉を口の中で繰り返しながら、サラはあっという間に四人射殺した。電撃銃で撃ち抜かれたクランメンバーは身体が痙攣して死んでいるのか居ないのか解り難かったので、念を入れて首にストンプしておく
そうする内に、なんだかんだであてなの方は三人殴り倒していた。血塗れのスパナを握りしめてふーふー荒い息を吐くあてなは、こう見えて鈍器と関節技の名手である。実践の機会は少なくとも日々の鍛練を欠かしていないのを、サラは知っていた
「イービー!」
『オーダーはレア? ミディアム? ウェルダン? おっと、悪い。この様子じゃ、レアは無理だな』
サラとあてなが暴れまわっている間に、イービーはもっと広い視野で戦っていた
冷血砦の奥部、坂の上側から異常を察して増援に駆け付けようとしていたクランバリケードに、砲弾をぶち込んでいたのだ
炎上する車両を見てサラは電撃銃をホルスターに仕舞う。次いで取り出したのは、手榴弾である
「ハンバーグにしてやろうぜ!」
安全ピンを口に加えて手榴弾をぶらぶらさせるサラは、嬉しそうにショットガンを構えた。イービーの駆るアイリーンがスクラップになったクランバリケードを押しのけて疾走する
――
「吹っ飛ばせ! 全部全部吹っ飛ばしちまえ! オラァ、次はどいつだ?! 死神が背中ぁ突っついてるぜ! イービー! 撃て! ひゃっほォー!!」
『サラぁ! はしゃぐな!』
血塗れ、煤塗れ、泥塗れのサラは、ぜーぜー息を吐きながら後ろを振り返る
周囲は酷い有様だ。クランバリケードとバイクのスクラップ。死体。いや、死体はまだ良い。戦車砲に吹っ飛ばされて肉片と化した物は、元の成りどころか何人分の物なのかすら解らない
ごぅん、と火を噴いていた一台のクランバリケードが、今度こそ完全に爆散した。衝撃と爆音。耳鳴りを堪えて、サラは怒鳴り返す
「あぁ?! 聞こえねーぞ! どうしたイービー! あてなは何処行った!」
「此処に居るよー……。サラさん燥ぎ過ぎだよ、見てみなよ、もう全員吹っ飛ばしちゃってるよ」
あてなに背中から組み付かれて漸くサラは動きを止めた
あてなに止められた、と言う訳ではなかった。敵がいない事を確認したからに過ぎない。サラはあてなを振り払う
馬鹿にしやがって、と吐き出し、ショットガン掌の上で一回転させて、曲芸のように弄んでから後背腰部のホルスターに戻す
「冷血党ってのはこんなモンか? 期待外れなだイービー!」
イービーが戦車から顔を出した。フェイスラインが鮮烈に輝いているように、サラには見えた
「(なんだありゃ、光るのか? なんか流れてんのか?)」
「おいサラ、動くなよ」
イービーが言うのと、サラが電撃銃を持ち上げて振り返るのはほぼ同時であった
一人のソルジャーが居た。敵意が無い事を示しているのか、両手を持ち上げてひらひらさせている
まだまだ若い男だ。取り敢えず、と言った風情で、イービーは拳銃弾を撃ち込む
「どひゃぁ!」
頬を掠めさせただけだ。イービー戦車の上から冷たく見下ろして、鼻を鳴らした
「お前は誰だ。動くなよ。手を下げたら殺す。逃げようとしても殺す。おっと、肩の筋肉が痙攣したように見えたら、それでも殺す。俺は銃を袖口に仕込む奴は嫌いだ」
「ま、まぁ待ってくれよ、俺は冷血党じゃない。馬鹿みたいに何でもかんでもぶっ殺して回るより、話を聞いた方がお互い幸せになれる筈だ」
「今のは脅しだぜ。イービーに話を聞く気が無けりゃ今頃お前は首なしソルジャーさ」
イービーの銃口は揺れない。加えて、サラの首を描き切るジェスチャー
男は慌てて事情を説明し始めた
――
冷血砦から極めて近い位置にそこはあった。入り組んだ岩場である上、冷血党の人間もまさか自分の根城のすぐ近くにこんな物があるとは思わなかったのだろう。危険ながらも、そこは秘密基地として機能していた
灯台下暗しを地で行っていた。この正義の味方集団、煮え案山子のアジトは
「凄く嬉しいの。本当よ。こんな世の中に、まだ貴方達のような人が居たなんて」
「君に喜んで貰えて俺も嬉しいぜ、シニョリーナ」
「砲弾と爆弾の海の中みたいになってたのに、誰も傷らしい傷を負ってないなんて。やるわね、ハンターさん」
イヴリンと名乗ったブロンド美女、の値踏みするような視線に、イービーは肩を竦めた
先程サラ達を案内した男、中ジョッキを含めた煮え案山子のメンバーが、爛々と目を輝かせながらイービーを見ている。或いは席に着き、或いは土壁に背を預けて気のない風を装っているが、イービーに興味津々であるらしい
「でも」
イヴリンが笑みを収め、真剣な顔になった
「ドミンゲスは強いわ。悔しいけど、今の煮え案山子じゃ太刀打ちできないくらいに」
「へぇ、そうかい」
ショットガンの整備を行っていたサラが、気だるげに相槌をうった。イヴリンの言い出しそうな事ぐらい、予想が着いていた
「なぁイービー。お前、ドミンゲスに勝てるんだよな?」
「チェスをやりながら片手間でも」
「俺も居れば?」
「服が汚れないかどうかが唯一の心配事だな」
平然と言うイービー。サラはイヴリンに向かって首を竦めて見せた
イヴリンは破顔する。心底面白そうに笑った
あてなは飛び跳ねた
「ねーねー、あたしは?」
「……あぁ、そうだな、あてな。そのスパナ捌きでドミンゲスの阿呆面を張り倒してやれ。期待してる」
「え?」
「ん?」
「本当に面白い人達だわ。それに、本当に心の底から冷血党の事が嫌いなのね」
サラは立ち上がる。適当な岩を椅子にして、大股開いてどっかりと座りこんだ
面白い事を聞く奴だ、と思った。冷血党が好きな奴なんて、居るもんか
僅かに湿った地面を蹴り払い、サラはショットガンを天井に向けて構える
「冷血党が好きな奴なんて居ねぇ。居るのはビビってる奴か、今直ぐにでも奴らのケツに鉛玉をフルコースでぶち込みたくてうずうずしてる、俺のような奴。その二種類の人種だけさ」
「……頼もしいわ、勇猛果敢なソルジャーさん。一つ提案があるの。そちらにとってもきっと悪くない話よ」
「ドミンゲスを倒すのを手伝ってくれるって事か? 奴のごてごてした重装バイクに、ケツ掘られる覚悟があるって事か?」
サラは詰まらなそうにショットガンの銃口を下した。その先にはイヴリンが居る
冷たい視線と銃口にイヴリンは怯んだ。煮え案山子のメンバーが俄かに殺気立つ
「おいサラ、何を苛立ってる。ぶっ放す気じゃないよな?」
イービーが片目を閉じながら鋭く言った。煮え案山子のメンバーが全身に力を籠め、各々の獲物に手を這わせている。この状況で撃ちあうのは、少し不味い
特に幹部級である緑髪のアーティストとハンターが危険だ。一番最初に殺るとしたら、イヴリンではなくこの二人だ
「こいつらの目付き気に入らねーんだよ。おいイヴリンちゃん、一昔前の煮え案山子ってのは相当にタフな連中だったらしいが、今の手前らは何だ? 如何にも……」
「サラさん止めようよ!」
あてなが溜らずしがみ付く。イービーも大股でサラに近付いて、宥めるように肩を叩いた
「解るぜ、ドミンゲスを殺しに来たんだ、身体がうずうずして堪らないんだろ。お前はソルジャーだからな。あてなと一緒にアイリーンで待ってろ、直ぐに行く」
「お、おいイービー」
「ほらほら行こうよサラさん」
舌打ちしてサラは歩き出す。その背中を押しながら、あてなが続いた
その時、目を瞑りながら話を聞いていた緑髪のアーティストが笑みを含んだ怒声を上げる。霧散しかけていた重い空気が、再び舞い戻った
「なんだい、遠慮するこたぁ無いんだよ。言ってみなよ、ソルジャー。面白く話せたら御捻りを上げるからねぇ」
ハンターが呼応するように立ち上がる。中ジョッキを視線で下がらせて、腰元のウージーに手を添えた
「飴玉か鉛玉かは、お前さんの態度次第だがな」
「止めなさい!」
「イヴリン、お前が一番危なかったんだぞ!」
イヴリンの制止を一言で撥ね退けるハンターに、イヴリンはそれでもゆっくりと歩み寄る
「止めなさいと言ったのよ! 煮え案山子が撃つのは人の道から外れた屑とミュータントだけ。そうでしょう?」
「…………」
ハンターは、渋々と手をウージーから離す。アーティストも不服そうではあったが隠していた得物を机の上に放り出した。火炎銃だった
サラは少し感心した。このイヴリンとやら、ただの小娘じゃない。中々手下どもの抑えが効いる
ふん、と鼻を鳴らして、サラはあてなと再び歩き出す。その背を見送って、イービーは肩を竦めた
――
「奴は生粋のソルジャーで、戦いを前にして昂ってるのさ。こんな心算じゃなかった。謝罪する。この通りだ」
「…………『如何にも』。この次に、あのソルジャーさんが言おうとしてた事、解ってしまったの。『負け犬みたいだ』。目がそう言ってたわ」
「戦士には……そうでない者の気持ちは解らないんだろう。大目に見てやってくれると嬉しいね」
イヴリンは顔を伏せた
「私達が戦えない人間だと言いたいの? 戦士ではないと?」
「……君達は疲れ果てている」
イービーは煮え案山子団と言うものがどういうものか知らなかった。或いは、以前の彼ならば知っていたのかも知れない
イービーには、記憶がない。以前の彼と、今の彼は違う
それは置くとして、今此処に居る者達が煮え案山子団の全てであるならば、組織として非常に貧弱と言うほかなかった。クラン・コールドブラッドに立ち向かえる程の戦力も、物資もあるようには見えない
イービーは、曖昧な言い方をした。サラは真直ぐな女だ。サラのようにイヴリンと対話しては、イービーはイヴリンと言う女を打ち砕いてしまうだろう
「気遣いが上手いのね、ハンターさん」
「イービーと呼んでくれ、シニョリーナ。君達は冷血党と戦っているんだよな? 俺は訳合って世情に疎い。君たちの事を知らなくてね。ま、見ての通り、俺も冷血党が大嫌いだ。んん、ん? そうだ、何で“案山子が煮えて”るんだ?」
イヴリンはくすくすと笑った。イービーはハッとする。美しい女だ。どんな形であれ、戦いながら生きる道にあったのは良かったかも知れない。この世界では、美しい女は大抵悲劇に見舞われる
イヴリンはくるりと振り向いて、煮え案山子のメンバーに解散を促す
「皆、持ち場に戻って。少し彼と二人で話したいの」
多少、警戒する心はあったのだろうが、メンバー達は散って行った。先程のサラと違い、無体な事はしないだろうという多少の信頼もあった
イービーの物腰は、柔らかだったから
「案山子は様々な害獣から畑を守るわ。でもね、今その案山子の腸は煮えくりかえっているの。罪もない人々を苦しめる冷血党の獣たちにね」
「だから煮え案山子か」
「……さっきのサラ……さんだったかしら。あの人に言われても仕方ないのかも知れない。煮え案山子なんて偉そうに言ったって、確かに今の私達に力はないもの」
イービーは何も言わない。イヴリンは唇を噛み締めた
「裏切り者が出たのよ、アルメイダと言う男。奴のせいで、大勢死んだわ。リーダーも……ゼインも行方不明になってしまった。アルメイダの奴は、今では冷血党の一員として色んな所を荒らし回ってるらしいわ」
「それは……、何と言うべきか」
「負け犬に、見えたでしょうね。納得してしまったの。仕方がないって」
イヴリンは顔を真っ赤にしていた。堪えきれない涙がはらはらと毀れる
イービーは後ろを向く。イービーは甘い男で、イービー自身それを気に入っている
「でも……、でも、私達だって……!! 私にもっと力があれば……!」
イヴリンはイービーの背に向かって唸った。激しい感情の渦を、イービーは感じた
「君は勇敢で、仲間思いだ。煮え案山子の宝だと、皆言う筈だ。行方不明のゼインとやらも、君のような女性がメンバーである事を、きっと誇らしく思っている。……涙を拭け。初対面の、俺みたいな流れ者に弱みを見せるな。顔を上げて前を見るんだ」
「……御免なさい、冗談よ、冗談。銃を向けられてちょっと調子が狂っちゃったの。もう大丈夫」
大きく息を吸い込む音が聞こえる。次の瞬間には、イヴリンは泣き止んでいた。少なくとも声からは何も感じられない
「イービー、貴方は卑怯だわ。ついさっき出会ったばかりなのに、私、ぽろぽろ何でも話してしまうんだもの」
「俺のせいか?」
「えぇ。そして…………私も卑怯者だわ」
イービーはイヴリンに向き直ることをせず、頭を掻いて歩き出した
「俺は、美人の涙を優先する主義でね。嘘泣きでも辛い。本気で泣かれるともっと辛い。ドミンゲスを仕留めて、今度は一人で此処に来るさ。その時は、もっと友好的に話をしよう。何か力になれるかもしれん」
「…………ありがとう」
――
後書
レスラーが好きです。でも、ソルジャーの方が、もーっと好きです。