<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.20939の一覧
[0] 【ネタ】ユーノいろいろカップリング短編集(リリカルなのは)+きれいななのは編追加[定彼](2011/04/11 21:31)
[1] 結婚適齢期?(なのは編)[定彼](2010/09/13 16:47)
[2] 色は匂えどしぐなむと(シグナム編)[定彼](2010/09/13 16:47)
[3] ユーノに今夜はワインを振りかけ(すずか+アリサ編)[定彼](2010/09/13 16:48)
[4] Forever Your Girl(超壊れTS憑依ネタ編)[定彼](2010/09/13 16:48)
[5] 声は聞こえているか(フェイト編)[定彼](2010/09/13 16:48)
[6] ファースト・ブラッド(レイジングハート編)[定彼](2010/09/13 16:48)
[7] せめて恋人らしく(なのは編)[定彼](2010/09/13 16:48)
[8] Archives Life From(アルフ編)[定彼](2010/09/13 16:49)
[9] 風と君を呼んで(ティアナ編)[定彼](2010/09/13 16:58)
[10] 280日後......(リンディ編?)[定彼](2010/09/13 20:34)
[11] 湖と翡翠の愛々傘にて思うこと(シャマル編)[シャ○](2010/10/05 15:22)
[12] すまなかったな、許してくれ(はやて編)[定彼](2010/10/05 15:29)
[13] 私の兄がこんなにモテるわけがない(妹編)[定彼](2010/10/09 19:43)
[14] 努力は時々報われる(スバル編)[定彼](2010/10/13 19:44)
[16] マテリアルは司書長がお好き?(雷刃編)[定彼](2010/10/16 16:39)
[17] 訪れたのは(複数キャラ短編)[定彼](2010/10/25 17:47)
[18] 私と彼を繋いで(フェイト掌編)[定彼](2010/11/27 18:09)
[19] 司書長、膝の上には(膝の上編)[定彼](2010/12/17 19:20)
[20] 翡翠の聖夜月光に満ちて(すずか編)[定彼](2010/12/25 23:05)
[21] 君に届けこの想い(なのは掌編)[定彼](2010/12/30 00:39)
[22] GIFT(アルフ・バレンタイン編)[定彼](2011/02/14 19:42)
[23] 司書長は結構海鳴市に帰ってるらしいです(アリサ・バレンタイン編)[定彼](2011/02/21 21:17)
[24] いっしょにいきれたら(ヴィータ編)[定彼](2011/04/05 23:21)
[25] 桜の木の下に(なのは編?)[定彼](2011/04/11 21:31)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20939] 桜の木の下に(なのは編?)
Name: 定彼◆6d1ed4dd ID:03e3c4be 前を表示する
Date: 2011/04/11 21:31



 まだ普段は肌寒い季節ではあったが、その日は雲のない日差しの暖かな日だった。
 緩やかな風が人の頬を撫でて、頭上に咲いている桜の花びらを綿のように降らせる。木の根や土の溝など、風の吹き溜まりに花びらが集まり濃い色を見せつつ、時折吹く強い風で再び宙に散る。
 海鳴市の自然公園にある一本の桜。そこでは他に生えている山桜や染井吉野とは気色の異なる、やや赤い花を咲かせている桜があった。
 寒緋桜と呼ばれるその木の根本。シートを引いて隣合わせに座っている男女がいる。
 のほほんといった空気がよく似合っている様子で、水筒に入れたお茶を分けあって桜を見物しながら、持参の菓子を食べたりしつつ和んでいた。
 会話は少ないがそれをどうしても必要とするような様子でもない。ただ隣に居るのが当然のように──居るだけで割と満足しているように。
 高町なのはと、ユーノ・スクライアであった。

「はー……それにしてもなんかいいね。こう、静かで」
「そうだね、ユーノくん。皆でお花見をするのもいいけど、たまには二人だけでっていうのもいいよ」

 温かい春の陽気で、肩が触れ合いそうな距離で桜花を見ながら過ごす。
 なんとも贅沢な時間に思えて、ユーノは目を細めながらリラックスした様子で梅昆布茶を飲む。やや塩気のあるそれが、口に残った甘い桜餅と塩梅良く感じた。「ふう」と満足そうな息をついて梅と桜の匂いに春を感じた。
 二人だけの花見。提案されたときは「皆を誘わないの?」と尋ね返してしまったものの、行ってみればなんとも心地良い時間を過ごせている。
 無限書庫で仕事に追われつつなんか黒いのとか茶色いのとかに仕事を追加されることもない。部下のサービス残業時間を気に使って仕事を肩代わりしていつの間にかデスクが埋もれることもない。誰かに気を使うこともしなくていいし、一人よりも楽しい気分になる。 
 誘ってくれたなのはには今度なにかお礼をしたかった、と考えるのも「お礼をしなければならない」と思うのと違ってくる。
 とにかく、ユーノは今の時間が非常に気に入っていた。
 そんな彼の様子を見て、なのはも彼を誘って良かったと嬉しくなり、日頃の疲れを忘れそうなぐらいだ。
 そう、たまにはこんな真っ当な状態もいい。いや、たまにじゃなくていつもでもいいが。嫉妬に間違ったり噛ませ犬にされたり恐れられたり独女になってたり汚れ役だったり……そんな事にはならない、自然で好ましい十代の男女のお付き合いだ。その為だったら何を犠牲に払おうとも。
 桜餅をもう一つ口にした。桃色の、寒緋桜よりやや色の薄い餅が桜の葉の塩漬けで包まれている。口に入れると中の餡の甘みと、道明寺粉──粗めに挽いた干飯──のぷちぷちとした感触が味わえる。そこに塩を水で晒して抜いたもののやや塩っぱい桜の葉がアクセントを与える。
 自分で作ったものながら美味しかった。ユーノも喜んでくれたので自己採点で花丸を付けておく。
 お茶が自分の湯のみから無くなっていたのに気づいたが、同時にユーノがなのはの湯のみに水筒を傾けた。

「あ、桜の花」

 という彼の言葉に湯のみを覗けば、赤い花びらが湯に浮いていた。
 どことなく縁起が良いように感じられて、二人で顔を見合わせて小さく笑顔になった。
 そういえば、とユーノが言う。

「ここの桜は随分と赤いんだね」

 日本の桜といえば、なのはの魔力光のような色合いだとユーノは記憶していたが。
 ここはそれよりも色が濃く、鮮やかだった。

「うん、木の種類が違うんだって。他の桜よりも早く咲くから、秘密のお花見スポットなんだよ?」
「そうなんだ。確かに、他の皆と騒いでお花見をするときはいっぱい咲いてる桜がいいけど、なのはと二人で来るならこの一本がちょうどいいね」
「それなら、また来年も来ようか。二人でさ」
「うーん……それもいいねー」

 間延びしながら答えつつ、ユーノは確かにこの日のために休みを取るのもやぶさかではない気にはなっていた。
 それぐらい平和で幸せな時間だ。この時間が続けば──少なくとも、年に一度は訪れればどれだけいいだろうか。
 思いながらそういえば、とユーノは思いついたことを言った。

「桜の花が赤いのって──桜の下に死体が埋まってるからだって話が─────」



「どうしてそれをっ!?」



「い、いや、単に怪談とか都市伝説の類だよ。前にはやてからそんな話を聞いた記憶があってね」

 急に大声を出して動揺しだしたなのはに、逆に驚きつつもユーノは説明をした。
 動悸が収まらないようになのはは目を泳がせながら、

「あ、ああ怪談なの。うん、そんな話し聞いたことあるよ。もう、ユーノくんいきなり言うから驚いたよ」
「ごめんごめん。この桜の花が赤いことから連想してさ。そんなことは無いって知ってるよ」
「そうだね。もう、ユーノくんの確信犯っ!」

 確信犯ってなにさと思いながらユーノは肩を竦めた。
 すると不意に、なのはが軽く触れるように寄りかかってきた。

「来年も来ようね」
「来れたらいいなあ」
「来れるよ。きっと、来年も綺麗な花が咲くんだから」

 くすくす笑いながら二人の時間はゆっくりと進んでいった。
 何も含むことのないハッピーな結末。オチも何も無い素直な付き合い。たまにはそんな関係だって合っていいはずである。
 二人だけで過ごすその瞬間を、赤い桜の花と青い空。




 


 そして桜の木の裏に立てかけられたスコップだけが見ていた。










 おわり














 *************** 




 数時間前。


「ふーんふふふーん、ユーノくんと待ち合わせの時間はまだまだ先だけどもう桜のところまで付いちゃった!」

 桜の木に行く道の途中でなのはは鼻歌を歌いながら歩いていた。
 早朝のことである。マジでまだまだユーノと待ち合わせは先なのだが、居ても立っても居られずに先に桜の所まで来ているのである。
 翠屋を待ち合わせ場所にして二人で桜の場所まで行くというプランもあったが、現地で待ち合わせというのはデートには大事なプロセスなのである。
 
「昨日の夜からお父さんに場所取りしてもらってたから大丈夫だよね、うん」

 とこの寒いのに一晩中父親を山中に待機させていた娘は言う。
 人知れない隠れスポットではあるが、折角のユーノと二人きりの花見で他の人が先に場所を取っていたら台無しではある。いざという時は結界を展開することも考えられるが、やはり普通に執り行いたかった。
 そんなわけで高町士郎が場所取り待機である。
 
「お父さーん、お疲れ様ー! 朝御飯持ってき……た──────!?」

 自然公園に一本だけ生えている寒緋桜の木。早めに咲く赤い桜。


 その枝という枝に、首をヒモで括られたフェレットが無数にぶら下がっていた。



「きゃあああああああああ!?」

 マジでホラーであった。

「なのはか。おはよう」

 ぬっと櫻の蔭から出てきたのは彼女の父親、士郎であった。

「おおおおお父さん、なにこれ!?」

 恐怖に鳥肌を立てながらもなのはが尋ねるが、無表情で士郎は答える。

「なに、気にすることはない。全部精巧な人形だよ」
「気にするよ!?」
「今日・ユーノと・デートする・なのはのために・お父さんからの精一杯の応援アンド飾り付けだもげろフェレット」
「嫌がらせにしか見えないし棒読みなの──!」

 せい、と気合を入れて父親を鉄拳でぶん殴るなのは。
 3mほど助走を付けて人中を殴ったものの鼻血一つ垂らさずに士郎は続ける。

「大人は間違えることはあっても嘘はつかない……そう教えたことがあったな、なのは」
「……」
「ユーノへの嫌がらせだ」
「改めて言わなくてもわかってるよ!」

 頭を抱えてくねくねしながら士郎は不満を垂れ流す。

「だってなのはがデートだぞ!? どこの馬の骨とはいわんが、年頃の娘がデートしようってのに俺はその場所取りか! 昨晩暇過ぎて地蜘蛛釣りをしてたり蟻地獄に蟻を落としたりしてたんだぞ! おのれユーノ! 目に入れても痛くないどころか俺がなのはの目に入ってもなのはを痛がらせない自信があるほど大事な娘を!」
「頼んどいてなんだけどなんで小学生男子みたいな時間の潰し方してるの!? っていうか人の目に入るビジュアルが怖すぎるの!」
「ユーノみたいな奥手少年が一人だけだと寂しいだろうと思ってフェレット人形を吊るしといたからこれで安心だな!」
「何処かの邪教の儀式みたいな絵面になってるんだからやめてよ!」

 最悪のクリスマスイルミネーションのようだった。
 首吊りフェレットが並ぶ桜の下で二人きりの花見。
 シュールすぎる。青空は確実に曇り雷鳴轟く場面に変わっている。春の匂よりも血と腐臭が漂い仄かな風の囁き声は何らかのうめき声に変わっていることも容易に想像できる。
 想像できて、なのはの怒りが膨れ上がった。

「お父さんッッ! すぐに片付けないと粉々に片付けるよ!」

 折角の二人きりのデート。きれいで優しいルート。
 そんな状況を露骨に台無しにするシチュエーションという不条理を彼女は許さない。
 そして愛娘のデートという状況も、世界中のおやじがそうであるように士郎も許さない。

「やれるものならやってみろなのは! 俺は粉々でも、この桜の花も散り散りだァ──!」
「くっ……」

 桜の木の前に仁王立ちしてどこぞの戦闘民族戦士のようなことをいう父親。
 娘のデートを邪魔する気満々であった。というか粉々になるのは前提らしい。
 なのはに出来ることはヤバイ光線をぶっ放す事だと理解している士郎は自分の身を犠牲にしてでも桜を道連れにするつもりだ。残酷なのは愛情といったところだろうか。
 そんなことになっては折角のデートが……なのはがレイジングハートを構えて、叫ぶ。

「レイジングハート───塹壕戦モード」
【SCOOP MODE】

 戦場に置いて有利なマルチツールとは何か。スコップ、あるいはショベルと呼ばれる穴掘り道具である。用途によっては塹壕を掘り、或いは埋める。廃棄物や排泄物を地面に隔離する事もできる。また、その頑丈さから叩いてよし、切ってよし、投げてよしだ。刃自体が清潔ならば、火にかけて調理器具がわりに使えることもできる。
 ともあれ。
 異世界だろうが未来だろうが過去だろうが、スコップは便利な道具であるということだ。
 レイジングハートはその姿を桜色のスコップに変えた。サバイバル訓練、及び実践に置いて使用するためにマリエルに改造してもらったスコップモードである。今ここに、スコップを持って戦う魔法少女の誕生だ。
 ゆらり、となのはがスコップを振り上げて父親に迫る。

「え、えええええ!? ちょっとそれは凶悪すぎないかなあ、なのは!」

 なお、スコップの刃はギザギザ模様であった。




 ざく、ざく。


 

 *******



 穴掘りは人類が知恵を持って恐らく初期の頃に開発した文明的行為である。また、埋葬もそうだ。
 ネアンデルタール人の化石と共に花粉が見つかったことから、遥か太古の彼らは仲間の死体を弔い、花を捧げていたという説もあるほどだ。 
 桜の木の下で眠れたらどんなに気持ちがいいだろうか。なのはは、風でゆらゆらと舞い落ちる赤い花弁を見ながら、急激な運動で萎えた手を伸ばしつつ思った。 
 
「かの小説家、梶井基次郎先生は言ったの。『お前も桜の木の下に埋めてやろうか』」

 そんなことは言ってないのだが。
 一仕事終えたように額の汗をぬぐい、掘り返した土を違和感ないように固める。
 桜の樹の下には無数のフェレット人形とあと何かが埋まっているが、まあ外から見る分には気づかれないだろう。腰に手を当ててうん、と彼女は納得するように頷いた。
 邪魔するものは許さない──絶対に許さない。それがリリカルだ。

「ふう……ユーノくんが来るまでまだ時間あるけど疲れちゃった」
「お疲れだね、なのは。あ、シート引いておいたから」
「ありがと。フェイトちゃん。ユーノくん、今日楽しんでくれるといいけど」
「大丈夫だよー。女の子二人に囲まれて癒されないはずは無いって」
「うん。フェイトちゃん。フェイトちゃん。フェイト執務官」

 桜の木の下に座ってにこにこしている金髪にアイアンクローをかました。

「な・ん・で、ここにいるのかな?」
「だだだだだって急に今日休みになったんだしなのはとユーノがおでかけするっていうから私も混ざりたいし……」
「空気を読んで欲しいかな!?」
「ユノフェなのの陣形でお願いしたいし……」
「モテガール妄想は布団の中でしてよ!」
 
 顔面を掴んだまま桜の幹に叩きつけるなのは。小さく悲鳴を上げながら木肌の荒い部位に頭が衝突するフェイトだった。
 その日休みだったフェイトは耳ざとくなのはとユーノの二人花見の情報を聞きつけて呼ばれても居ないのに参上したという寸法だ。
 フェイトとしてはなのはとユーノの仲を応援したい気持ちが半分。まあ残り半分は寂しいので自分も混ざりたいという素直な気持ちに生きるのであった。
 なのはから「うわああ邪魔だあ」といった表情で見られているのにニコニコして居座る気全開なフェイトである。ぶつけた額がやや赤くなっているが。

「大丈夫! お布団も持ってきたから!」
「ああもう嫌らしいなあ! そんな目的じゃないっていうのに!」
「なのは」
「……」
「私は本気だよ」
「(むしろ本気のほうがヤバイ気がするの)」

 フェイトがいろいろアレなのは周知の事実なのだが、改めて宣言されると色々マズイ気もしてくる。ユーノに妙な関係を疑われても困るし、だからといっていつの間にかユノフェが成立しているのも問題だ。
 キリッとしながら桜の木の隣に布団を敷き出す友人にどうしようかと思うが、答えは決まっていたようにレイジングハートを握りしめる。
 いつだって、彼女とはこうやって話し合ってきたのだから──!


サディスティックスコップモード
「 塹壕殲滅形態!」

「ええ!? ちょ、なのは!? ううう、ザンパーモード!」


 ギザギザを通り越して棘々が単分子の鋸刃となったレイジングハートを、エンジン駆動音と共に持ち出したなのはにフェイトは魔力刃を展開して対抗する。
 ぎゃりぎゃりぎゃり、と削り擦り落とす音を立てながら鍔迫り合いしたバルディッシュを押し穿つ。

「お、落ち着こうなのは! じゃあ順序を変えてユーなのフェは黄金比率!」
「ユーノくんと二人でお花見お花見お花見……」
「直接的に駄目になってる!」

 折角の邪魔が入らずに二人でのんびりデートが出来る状況に、餓狼のような執念を見せているなのはには説得が通じない。どう考えてものんびりほのぼの系のヒロインに使う単語ではないが、餓狼。
 號、と速度以上の風切音を出しながら振られるレイジングハートを上体を逸らして回避する。慣性で待っていた髪の毛が数本、引っ張られるような痛みを発しながらチェーンソーに巻き込まれてちぎれ飛んだ。
 なのはの振るう刃を受ける。こちらの魔力刃がえぐり取られ、長時間受けてはいられないから弾くようにして受け流す。そのたびに魔力光がぶつかり火花を上げた。
 じゃ、とぶつかるたびに油を引いたフライパンに肉を載せたような音を連続で立てながらフェイトは異様な気迫のなのはの攻撃を避け続ける。
 頭に向けて振るわれた恐らく致命打を、側転するように体を回転させて同時に回した足で彼女のデバイスの持ち手を狙った。
 尖った爪先が手の甲に刺さる瞬間、あっさりとスコップから手を放して爪先を回避する。
 逆にアキレス腱の方向からフェイトの足を掴んで勢いに任せて地面に叩きつけた。疎らに雑草の生えた土に体を打ちつけるように倒れそうになったフェイトだが、両手で受身をとってすぐに体勢を立て直す。
 一瞬視界からなのはが消え、次に見えたのは大上段にスコップを振り上げた魔王の姿だった。
 
 ──!

 背筋を弾くように動かして腰を地面に付けた体勢から背後に跳躍する。
 空間を切削するレイジングハートが鼻先を通過して地面に突き刺さり、爆発と共に小さなクレーターを作成した。
 そのままエンジンを過駆動させるような音で地面に刺したまま数秒。2メートルほどの穴を穿ってなのはがデバイスを地面から離した。それがフェイトの墓となるらしい。
 その間にフェイトが何もしていなかったわけではない。フォトランサーの発射スフィアを複数作成して既になのはを囲んでいる。
 さらに打ち付ける魔力に自信の電気変換能力を付与させて無力化する算段だ。なのはの体を痺れさせた後は布団にでも入れていればいいと思っているのだろう。
 そして警告を贈ろうと口を開いた瞬間、

「おっと、ユーノくんの子供時代の短パン姿生写真を穴の底に落としたの」

 フェイトは飛び込んだ。
 上から土を被せられてもまあそれなりに満足そうだったという。
 

 ざくり、ざくり。




 ***********






「ふう……新人の自尊心を挫く為に一週間ぐらい穴を掘って埋めさせる仕事をさせた事を思い出すの」

 爽やかな汗をぬぐいながらスコップに寄りかかるようにしてなのはが懐かしく思っていた。
 某企業では未だに入社後の研修で塹壕を掘らせていると聞くが真実はどうなのだろうか。とにかく、魔法の世界のファンタジー教導官といえども穴掘り穴埋めぐらいお手のものである。

「もうちょっとでユーノくんが来る時間になるから準備しないと! 幸いシートはフェイトちゃんが敷いてくれたから、お茶とお菓子を出しておいて……」

 持ってきたバッグから花見用の飲食物を取り出す。大人数で花見を行うときはそれこそ荷物が一人じゃ持ちきれないのだが、二人だけならばなのはだけが準備する分で充分だった。
 というかユーノにはわざわざ手ぶらで来るように伝えている。こっちが用意した菓子などを食べて欲しかったのと、

 ──ユーノくん、野外活動になると妙に張り切るからなあ。

 以前に友人同士のキャンプに誘ったら何故か紆余曲折あり、ノリノリでサバイバル演習のようになってしまい、楽しかったのだが……楽しかったのだが……十代の少年少女がやるには健全すぎる楽しさだった。
 今日はそんなことにはならないぞ、と穴掘りでやや疲れた腕の筋肉を奮い立たせるように気合を入れた。
 桜餅に草だんご、梅昆布茶と桜葉茶の食べ物と飲み物の二種類だ。そう多く無いけど、あまり多く用意して花より団子といった風になるのも風流がない。
 保温容器に入れたお茶。少し疲れたから一杯だけ飲もうかなと思って湯のみを取り出して注いだ。
 桜葉茶は桜の葉で作った番茶で、作り方も大体は茶と同じだ。摘んだ桜の葉をやや発酵させて刻み、炒って汁気を飛ばして作る。熱めの湯で淹れれば色はやや薄いが桜の匂いのする番茶が出来上がる。
 ず、と小さな音を立ててお茶を飲みながらしみじみと息を吐いた。
 後はユーノを待つだけ……そう思いながら春の陽気に少しだけ目を閉じる。
 飲み屋でリバースするでも疲れて眠ったユーノを犯罪気味に迫るのでも無く、ただ桜の雪を受けながら甘いものを食べるだけの和み時間まであと少し──
 ぽわぽわと想像しているイメージ図を読み取って近くの草むらからのぞき見ている影が呟いた。



「かーっ! いまどきの若い男女なのにやることは老夫婦かっ! もっとこう青くて姦しい感じになるかとこっちは期待してるんやで!」
「はやてちゃん……静かにするですよ……!」
 
 面白そうなこと担当捜査官、八神はやてである。彼女は本日単独任務で観察を行っていた。騎士達も誘ったのだが「死にたくないので……」とことごとく断られている。
 仕方なくついてきたリインと一緒に様子を伺っているのだが、はやてとしても騎士たちのマジビビリ加減につい先程士郎やフェイトに行われた残虐ファイトに逃げを打ちたい気分ではあったが、ここで引いては捜査官魂に悖る。
 ちなみに彼女も一晩中待機していた。温度操作の得意なリインのおかげで凍えはしなかったが、暇過ぎて朝マックとかアメリカシロヒトリスーツとか着て時間を潰していた。
 
「若者の花見言うたらバーベキューと麦ジュースでベロンベロンになって最終的に全裸やろ、多分」
「多分ってなんですか多分って」
「……わたし高校にも大学にも通ってへんからスタンダードな若者がどう遊んでるのか……」
「ああ、ほら泣かないでですはやてちゃん! 米ジュースもっと飲んでです!」

 とリインから進められた温められた瓶入りで米を主な原材料にした透明色の飲料をちまちまと口にする。体を温める効果とやや気分に高揚感、酩酊感を出すのが特徴だ。酒ではない。酒では。
 ぐへえと息を吐きながら赤らんだ顔で幸せ妄想に浸るなのはを見てケチを付ける。

「あんな、わたしが見たかったのは嬉し恥ずかしのスキャンダラーな映像であって老夫婦の茶を啜る場面じゃないんやで。視聴率もとれんわ」
「スキャンダラスならよっぽどスプラッタな映像は撮れたですけど……というか何らかの犯行の証拠映像が」
「ええい、こうなったらクリエイティブプロデューサーのわたしがなんとかせんと……」

 リインは「はやてちゃんは要らん事しいです……」と諦めたように言いながら、米ジュースで気が大きくなって地雷を蹴り飛ばしに行きそうな主の身を憂いた。
 やおら、観察していたなのはが立ち上がってもじもじしながらあたりを見回して、桜の下から立ち去っていった。荷物は置いたままだ。

「どうしたんでしょう」
「うん─────…………こやな」
「いま何言いました!? 自称乙女が!?」
 最低なことを断言したはやての乙女力の低下に残念を通り越した感情を持ちながらもリインは涙が出てきそうだ。
 きっと学校とかでも授業中にお花を積みに出かけたクラスメイトが遅いと大だと判断するようなタイプである。
 そしてこれは草葉の陰のリインフォースアインスあたりがくれた最後のチャンスだとばかりにはやては立ち上がる。アインスも勝手に排泄の精霊にされたらのっぴきならないほど迷惑だろうに。
 
「は、はやてちゃんどうするですか?」
「今のうちに水筒のお茶にお酒混ぜてくるわ」
「うわあ……」

 言葉もない。

「大丈夫やて。結構遠くまで行ってるやろうから、そのうちにさっと済ませてくる」

 そして彼女は名前のように疾風のごとく気配を消していた草陰から飛び出して水筒へ向かう。リインはあまりの死亡フラグについていけなかった。
 しかし散々米ジュースを飲んでいたはやて。急に駆け出した影響で、

「うぷっ……」

 四つん這いになってしまった。頭がガンガンしたし胃がひっくり返りそうだった。

「くっ……今になって体が言うことを効かへんとはな。持ってくれや、わたしの体!」

 格好良さそうな声で叱咤しつつもずりずりと罠で足を負傷した狸のように這って動くはやて。哀れ感丸出しだ。
 やはり米ジュースのおかげでお脳が正常でないのかもしれない。
 なんとか亀並の速度で目的地までたどり着くはやて。まあ、亀というよりも出歯亀ではあったが。

「ふ、ふふふ頑張ってやなのはちゃん、わたしは応援してるで」

 二人の関係が進むと祈りつつ高濃度蒸留酒の瓶を懐から取り出すはやて。
 しかしその前に、

「ちょっと喉乾いたからお茶も一杯貰おか」

 減らさないと酒をいれる容積もないし……と思って桜葉茶をぐびぐびと飲む。渋いものを飲んだら甘いモノが欲しくなるのも当然で、

「あ、この草だんごめっちゃ美味しいわ」

 もっちゃもっちゃと串に刺さった爽やかながらも甘い餡のかかった団子を頂くはやて。
 うまいうまいと食べている彼女の背後に、戻ってきた様子のスコップを構えた人影が音もなく現れたときにリインフォースⅡは逃走を敢行した。ブルーゲイル涙払って。


 ざっくざっく。









 ***********




「ドクター。これが97管理外世界、日本の桜です。花見の場所はこのあたりがいいかと」
「うむ、たまにはこういうのも研究意欲が沸──」


 
 ざっくざっく。







 ***********





「ごめん、なのは。待たせた?」
「お前も桜の木の下に──ってユーノくん! ううん、今来たところ!」

 なのはが一瞬デーモン的な何かの表情に見えた気もしたが、ユーノは見間違いだと思って小さく頭を振り笑顔を返した。


 そして二人の平穏でのどかな、花見が始まる。赤い桜と、赤いスコップが見守る中。



「平和が一番だなあ」
「そうだね、ユーノくん」


 なのはの返す笑顔に曇りも後ろめたさも偽りも無かった。温かい陽光のようなそれを見て、ユーノは何事もない幸せを噛み締めていた。



























 その後、ドクターと姉の反応で駆けつけたものの何故か地中から救難信号を感じた水色の髪の毛の少女が、独自の能力で地面に潜ったところ。
 山のようなフェレットと複数人の土埋した人物が発見されて凄まじい恐怖体験をしたとかなんとか。
 混乱しつつ全員助けたのではあった。




 めでたしめでたし。
  


前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035202980041504