<117>
朝である。
良い天気だなァ……。
海風がそよそよと吹き、砂漠はしん、としている。
「いやぁハルマサのおかげで歯磨きも洗顔も出来るし、最高の朝やね!」
上機嫌のハチエさんを後ろに乗せたまま、ハルマサは足を一定の速度でシャコシャコ動かしていた。
(そう! 今の状態はタンデム!)
絶賛チャリンコ中である。
第二層で手に入れたママチャリDXには荷台がついていたので、じゃあ二人乗りしようか、という話になったのだ。
海辺で二人乗りとか、ドキドキしちゃうぜ!
チリンチリーン!
「何か青春って感じだね!」
「どっちかというと姉弟のスキンシップやなぁ……お、ええ風。」
ハチエさんは大学生3年だったらしい。確かに、姉と弟のポジションの方があっているかな、とハルマサも思った。
朝日が出たばかりの時間。
ハチエさんもハルマサも5時間ずつくらい寝たので、はっきりパッチリ元気満タンである。
「いよぉおおおおおおおおおし! スピード上げていくぜぇ―――――――――!」
「いけぇ―――――! ぶっ飛ばせぇ―――――――!」
ギャリリリリリリリリッ!
砂を盛大に巻き上げて、ハルマサエンジンが点火される。
高速で回転する車輪が、砂を巻き上げつつ、二人を運んでいく。
「ギア、サードッ!」
ガキン!
ギアとチェーンが噛みあって、さっきの数倍の効率でハルマサの脚力を推進力に変換する。
「風になぁあああああああああああれぇええええええええええええええッ!」
「ウヒャ――――! ええぞハルマサ――――!」
シュパァン! と砂地でチャリを漕いでいるにしてはありえない速度で二人は進んでいくのだった。
二人の居た位置は、錨型の大陸の先端部分に近いところである。
そこから、二人は大陸の中心に向かって、マッハの速度で進んでいく。
やがて行く手には、巨大な山々と、その麓にある森が見えるのだった。
この大陸は、海から内陸に行くほど、高度が大きくなっていく。
しかし、海から山の麓まで120kmという大陸の大きさから、あまり上り坂を意識することは無く、ハルマサは進んで行って……
そしてモンスターに出会った。
――――――――ゴァアアアアアアアアアアアアア!
上空から竜の咆哮が聞こえ、空を仰いだハルマサの目に、一匹の飛竜が目に入った。
「な、なんや?」
「あれは……モノブロス亜種かな? だけど―――」
羽ばたき、飛翔している飛竜。それは昨日のディアブロスとよく似ていながらも、白銀の鱗を持ち、まっすぐの一本角を額から生やすモンスター、モノブロス亜種だった。
そしてその背中には、影があった。
見辛いが、あれは―――――――
「ドドブランゴが乗ってる!」
なんとドドブランゴ亜種がその背に跨っていたのだ。
普段四足歩行のくせに人間くさいたたずまいである。
そして何故か、自分の体と同じくらいの大きさの剣を持っている。
「グォオオオオオオオオオオオオオ!」
巨大な剣を振り回し、ドドブランゴはやる気満々だった。
モノブロスのレベルは19。
ドドブランゴのレベルは12。
しかし、二つで一つと見たとき、ハルマサの「観察眼」は、レベルが23だと判断した。
あれかな、融合?して竜騎士ガイアになった感じ?
全く全然さっぱり納得できんけどなぁ――――――!
バン、と上空のモノブロスが翼を打って、急降下してくる。
――――疾い!
ゴォ!
ハルマサは避けようとして、一緒に自転車に乗っている人のことを思い出す。
(―――――ク!)
一瞬の判断の元、ハルマサは魔力を練り上げる。
「だぁああああああああああああああ!」
揺らめくように出現したのは、いつぞやに倍する厚い壁。
ゴカァン!
白銀の角をかざして、モノブロスは壁をあっけなく突き抜いてくる。
だが、レベル20の「魔力圧縮」の壁が大事な一瞬を稼いだ。
ハルマサは知っていたのだ。「空間把握」のより、後ろのハチエもまた、素早く反応していたことを。
「ふむん!」
襟首を引っつかまれ、ハルマサは横に引っ張られる。
ゴォと背中から感じる熱。
振り向いて、ハルマサはハチエの姿に驚いた。
「すごい……!」
ハチエの背から、炎の翼が生えていた。
恐らく右手の弓の概念を発現したのだろう。
しかしあまりにも荘厳だった。
ハチエは短剣を咥えた口で笑うと、火の粉を撒きつつ羽ばたき、加速しながら地面をけった。
直後、地面にモノブロスが突っ込んだ。砂が爆発したように天へと噴き上がる。
なんとか避けれた。
しかし安堵する暇も無い。
「そうか! 潜れるのか!」
頭から着地した二匹のモンスターは、そのままの勢いで砂を掻き、砂地へと潜る。
モノブロス、ドドブランゴ亜種はともに砂の下からの強襲するモンスターである。
ズゴゴ、と足元が揺れ、今にも飛び出して――――――来る前にハチエが反応した。
ブォン!
ハチエが炎の翼で地面を打つ。
恐ろしいほどの推進力が生まれ、二人は上空へと飛び上がった。
その一瞬後、二人の足元からドパァン!と砂を散らしつつ、竜騎士ドドブランゴが出現する。
「グゥオア!」
―――――――シュァアアアア!
そしてモノブロスの背のドドブランゴが口から激流の如き砂を吐いて来る。
二段攻撃とかあり!?
ていうか攻撃範囲広いッ!
「……ぉおおおおおおおおお!」
――――――「加速」!
ギュウゥ―――……ン!
時が遅滞し、ハルマサが世界で一番速くなる。
ハルマサはハチエの腰を抱きかかえると、「空中着地」で、空を蹴った。
(きつい……ッ!)
そして直ぐに「加速」を解除。
ど、と吹き出る汗に、「加速」が多用できないことを知る。
「ふぉ!?」
景色が一瞬で切り替わったことに驚いたのだろう、ハチエが驚きの声を上げている。
モンスターたちはこちらを見失っていなかった。
――――――――――ギャォオオオオオオオオオオ!
モノブロスがドドブランゴを下からすくい上げるように飛び上がり、こちらへと向かってくる。
「ハチエさん! 援護を!」
「………!」
ハルマサはハチエの腰を離し、漆黒の大剣を繰ってモノブロスへと向かう。
ドドブランゴが乗っているモノブロスは、ギュインと顔をこちらに向け、大きく口を開け―――
(――――咆哮か!)
どうする!?――――――もう止まれない!
しかし、案ずることは無かった。今の彼には助けてくれる仲間がいるのだ。
ハルマサを追い越して、ギャリギャリと空気を抉りつつ螺旋の回転をする槍が飛んでいく。
(これは「捻れた投槍」ッ! ハチエさんか!)
ディアブロスの角から作られた槍は彼我の距離を瞬時に縮め、モノブロスの口へと直撃した。
―――――ガァン!
「ゴアァッ!」
(素敵すぎるよハチエさん!)
槍は砕け、モノブロスは動きを止める。
その一瞬で――――――充分だ!
「ぬりゃぁあああああ!」
「突撃術」が発動し、ハルマサの体が赤い光に包まれる。
ドン、と「空中着地」を使い、一瞬でモノブロスへ肉薄。渾身の力で大剣を振り下ろそうとし―――――
だが、ハルマサが一人ではないように、敵も一人ではないのだ。
(――――――な!?)
横殴りの一撃が側面から飛んでくる。必死に刃を引き戻し、防御。
「―――ぐぅ!」
ハルマサは吹き飛ばされる。
線にも見える速度で突撃していたハルマサを、ドドブランゴが迎撃したのだ。
スキルが発動した時の速さは、明らかにこちらが上だ。
だが、それを弾き飛ばせるのは勘か、剣の腕か……。
防御できなければ体が二つになっていたほどの衝撃だった。
吹き飛ばされたハルマサに、モノブロスが追撃をかけようとして、空から飛来する5本の火の矢に打ち抜かれる。
「ゴァアアアアアアア!」
戦いは、まだまだ終わらない。
<つづく>
ステータスの変化は次回。
現在のハチエさん。
E:炎翼の飛翔弓
E:魚竜牙の投剣
耐久力: 130万
持久力: 130万
魔力 : 130万
筋力 : 130万 → 6416万
敏捷 : 130万 → 2億2千万
器用さ: 130万 → 1億3千万
精神力: 130万 → 1439万
もう一人で戦えば? って思った。
竜騎士ドドブランゴはだいたいこんなの。二匹ともこんな感じで。
耐久力: 5千万
持久力: 5千万
魔力 : 3千万
筋力 : 7千万
敏捷 : 一億2千万
器用さ: 7千万
精神力: 3千万