大分暗くなってきたので晩御飯である。
ガリ、ゴリ、ゴキン!
「うわ、いたぁ……自分そんなん食べて口の中痛くならへんの?」
ハルマサが、「概念食い」によって、ドドブランゴの爪を食べていると、ハチエが痛そうな顔をしつつ尋ねてくる。
「ふふふ。」
ちょっと余裕気味に笑ってみる。
でも口の中って、耐久力の変化が少し反映されにくいって言うかね。
すげぇ痛いです。
血の海だよ。
ゾンビの時だったらすぐ血は止まったんだけどな。
でも、これで爪が伸びるようになったらなんかカッコいいよね、と思ってついつい食べてしまうハルマサである。これで4個目だ。
「いや、口の端から血ィ垂らしながら笑われてもやな。」
反応に困るで、ハチエさんに呆れた目で見られていると、頭の中で音が響いた。
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!≫
おお、久しぶりのファンファーレ!
ついに僕にも「伸びる爪」が……
≪一定時間内に、一定量以上の血液を飲んだことにより――――――≫
(そっち!? しかも吸血鬼っぽい!)
≪特性「増血注入」を取得しました。血を飲むのがとても好き! そんなあなたは他の人にもその楽しみを広めたいはず! でも「血液飲んで」なんて言えないよ! 口実が欲しくて仕方が無いあなたに、この特性を送ります。正直になれよー!≫
桃ちゃんの声だった。
(いや、別に血液は好きでもなんでもないけど。)
最早懐かしささえ感じるネタ系特性だろうか。
ステータスを見てみるとこんな感じだった。
□「増血注入」
他人を元気にさせる血液。あなたの血液は、他人の心と体を元気にさせます。栄養たっぷり、コクとニオイが堪らない! 皆で送ろう飲血ライフ! あの人はもう……あなたの血液に夢中ッ! ※同種の生物にしか効きません。中毒性があるので多様は禁物!
(桃色くせぇ―――――――――――!)
≪はい。桃色系です。ブレスレットを外してしまうと、匂いにつられたハチエ様が口に飛びついてくる可能性もあります。ご用心下さい。≫
サクラさんの言葉でハルマサはうな垂れた。
まぁ……あれだよ。甘い息が強化されたと思えば……
「そう思えば、少しは空しさがなくなるよね………」
「なんでいきなり沈んどんの!?」
ハチエさんは慌てたように、ハルマサを見てくる。
「ハチエさん……。人生って疲れるよね……。ふぅ。」
「暗ぁッ! ま、まぁ元気出してぇな! ほれ、このさっきドロップした「轟竜キャンディー」食べてええから!」
ハチエさんからティガレックスの顔の形をしたごついペロペロキャンディーを貰った。
こんなのがドロップしたハチエさんだって、落ち込まずに頑張っているのに。
ていうかこのキャンディー本当に大きいな。僕の顔ぐらいあるんですけど。
………ハッ! いけない! 僕が落ち込んでいてどうするんだ!
僕は地上に輝く元気星!
テンション上げていくぜ―――――!
「ひゃぁっほう! 飴もらったぜぇ――――――ッ!」
「そ、そんな嬉しかったん……? なんの役にも立たんモンかと思うとったけど、意外に喜んでもらえるもんやなァ。また飴出たら捨てずにとッとかんとあかんな。」
ハチエさんめっちゃ良い人だなぁ。誤解だけど。
パチパチと火を燃やし、ドドブランゴのアバラ肉(50キロくらいある)を炙って美味しくいただいた。
「魔法ってええなぁ……。ウチも火いつけるくらい出来るようになりたいわ。」
「魔力あるなら出来るんじゃないかな。」
「そうなん?」
「イメージが大切だってカロンちゃんは言ってたよ。」
スキルが行うのは、あくまで補助である。
ハルマサの場合はスキルにおんぶ抱っこ状態だが、別になくても出来ないことはないだろう。
ハチエは少し試して、ライター程度の火なら出せるようになっていた。
寝る間、交代で見張りをしよう、ということになった。
ハルマサも「おやすみマン」がゾンビ化のせいで消えているので、ありがたい。
「土操作」で砦を作っても良かったが、ラオシャンロンとか来たらどうせ三匹の子豚の藁の家みたいに簡単に壊されるだろうし、その上逃げるのに邪魔になりそうなのでやめた。
「じゃあ、先に寝るな~。お月さん真上に来たら起こしてや。」
ハチエさんはヒラヒラと手を振って、横になった。
下は砂地だから柔らかく、それなりに寝やすいだろう。
というか結局、この浜辺から今日は動かなかったな。
ザザァ……と潮が満ち引きする音がゆっくりと流れている。
ハルマサの作った火が、無音で夜を照らしている。
ハチエさんはハルマサに背を向けて寝転がっていた。
ティガレックス戦で、彼女の服の尻は盛大に破れたようだが、そこはしっかり女の子。
魔力で服を直す術を編み出しているらしい。
ハルマサも自動再生する革靴とタキシードに頼らず、服関係をもっと強化すべきかも知れない。
不意にハチエが声を出した。
「……襲ったらあかんで?」
コロリと寝転がってハルマサを見てくる。起きていたらしい。
ふ、とハルマサは笑う。
「そう言われたら……襲うしかないじゃない!」
ハルマサがそう言うと、ハチエさんはにわかに狼狽した。
「え!? じゃ、じゃあナシ! 今のナシや!」
「ということは襲っても良いということか――――! テイク・オフ!」
「脱ぐなぁ――――――――!」
「おふぅ!」
冗談なのにすげぇ殴られた。上着脱いだだけなのに……。
まぁ普段のハチエさんはそんなに筋力高くないからダメージはあんまりないけど。
「じゃあお詫びとして……ハチエさんがよく眠れるように、寝物語をします!」
「あ、ええなぁ。話して話して。なんやドキドキするで。」
「怖い話バージョン!」
「え、イヤや! 怖いのキライやで!」
「あるところに嫌われ者の教師が小学校におりました。」
「あーあー! 聞こえへん、聞こえへんよぉー!」
「生徒たちは彼の横暴に辟易し、一泡吹かせようと彼の給食のシチューにゴキブリを混ぜたのです。」
「………ん? これ怖いんか?」
「彼は美味い美味いと綺麗にたいらげました。」
「うえぇ……」
「その3日後のことです。突然その教師はお腹を押さえて、「気持ち悪い」と一言いうと、倒れて死んでしまいます。」
「えらい唐突やな。」
「不審な死を疑問に思った学校関係者が、彼の解剖をお願いしたところ……実は教師が食べたのは卵を抱えた雌のゴキブリで……お腹の中から大量のゴキブリが!」
「ひぃぃ……」
「ワサワサワサワサッ!」
「ひゃぁああああああああ! 眠れるかぁアアアアアア!」
また殴られた。
GTOのモロパクリだけど、ハチエさんは知らなかったようで効果抜群だ。
「ごめんごめん。」
「……なんか歌ぅてくれたら許したる。」
……。
「なんやめっちゃ涙出るなぁ……。グスン。」
まぁそんな風にして夜は更けていった。
ハチエが眠りに付いて、一人炎を眺めていたハルマサは、唐突にティン! と思いついた。
「そうだ! ゾンビ化で特性消えたって、もう一回とれば良いじゃない!」
≪申し訳ありませんマスター。一度消去された特性の再取得は条件がより厳しくなります。「おやすみマン」の場合ですと、怒っているラオシャンロンの頭の上程度の脅威の中、眠りにつく事が条件となりまして……≫
「それは……無理っぽいね。」
寝る前に確実に逝っちゃうよ。
つまりは全部それくらいの難易度になるってことだね。やっぱりゾンビ化はひかえようかな。
そろそろ月が真上に来るなぁ、とハルマサは空を見上げた。
<つづく>
新しい武器
○轟大剣(Lv20)耐久値:576万 ……牙を砕いて入手
ティガレックスの大牙を模した大剣。刃は牙を並べたギザギザの形であり、掻き切るように敵を切り裂く。
耐久力+800%、持久力+800%、筋力+1000%、敏捷+600%、器用さ+800%
○轟大鎌(Lv20)耐久値:418万 ……爪を砕いて2つ入手
ティガレックスの巨爪から削り出された大鎌。刺してよし、刈ってよし。農作業にも使える一品。
耐久力+400%、持久力+600%、筋力+600%、敏捷+1200%、器用さ+1200%
○轟剛鞭(Lv20)耐久値:680万 ……尻尾を千切って入手
ティガレックスの尻尾を大胆に使用した長大な鞭。扱うには筋力が必須となる。
耐久力+600%、持久力+400%、筋力+1200%、敏捷+800%、器用さ+1000%
○轟竜の翼斧(Lv20)耐久値:380万 ……翼を叩き千切って入手
ティガレックスの翼を研いで刃とした剛斧。意外ともろいので扱いには注意が必要。
耐久値+400%、持久力+800%、筋力+1000%、敏捷+1000%、器用さ+800%
○獣骨の三節棍(Lv12)耐久値:28669 ……ドドブランゴのドロップ「重厚な骨」を砕いて入手
骨太な獣の骨を用いた、三節棍。ギミックがあるにもかかわらず、かなり丈夫。
耐久力+600%、持久力+200%、筋力+200%、敏捷+600%、器用さ+800%
全部で6つ。
ちなみに一つ呪われています。
ドドブランゴのドロップ:爪×4、アバラ肉×2、骨×1、毛×3
<あとがき>
もう知らん。ハルマサとかどうでもいい。マック食べたい。
>とりあえず、この一言だけを今アナタに伝えたい。
照れるっス。んでもこんな長い話を読んでくれている人たちもすごいと思うっス。
>ハチエって誰だお… あ、サーナイト早くお願いしますね。
トクルさんの感想にはいつも噴出してしまうんだ。
乾いた私の生活にはとてもありがたいです。
>4号さんのセリフ少し直した方が良いんじゃないですか?
どこのことか教えていただいていいですか?ちょっと見つけられなくて……
>有益な特性が消えるのは痛いなぁ…デスペナが増えたようなものか?
そうですね。あと、ゾンビにポンポンなられると面白くないかな、と。
>よし、とっとと爺耳消そうか
残念ながらそれは概念なんだ。
>いきなりステータス上がり過ぎて意味分からねえ。今のハルマサくんがどのくらい凄いのかさっぱりだ。
作者もさっぱりです。
>マジでゲーム化しないかな…
クソゲー過ぎて密かな人気が出そうですね。モスやべぇwwみたいな。
>カロンちゃん無双が開始されてもいいはず。※ただし、ハルマサはミイラ化
……あるっ!ミイラ化するのはないかもしれませんが。
>スキルアップだけで、ステータスが20倍になってる!?
そんなになってましたか。第一層のドド戦と同じくらいの上げ率なんですけど、敵がちょっとあれでしたからね。
>空を飛んで蟹と戦う → 逃げる → 回復してもう一回 → 無限ループ!
私はハルマサ君が苦しむ姿が好きなので、2回目でコロッと死にますね。
>あとカロンちゃんが可愛すぎる件について。ほっぺに肉がついたんですね。
ふっくらしてます。
>テテテテッテッテッテー・・・
( ゚д゚)
( ゚д゚ )
こっちみんなww
>そういえばレウス&レイアの鱗(特に天鱗)とか食わないの?
第二層でククリさんが寝ている間にしっかり食ってます。描写してないけど。
>f さん
ありがたいです。光速に届きそうな勢いですねw
いつの間に。
きっとレベルが上がるにつれて実際の上昇値は少なくなっているとか言う設定がいるかもしれないと思っちゃいますね。
>ゾンビ化で忘れた特性はまた覚えなおせるの?
その答えを急遽ねじ込みました。納得できるかはわかりませんが。
>敵のレベルが高いとちゃちな鎧じゃすぐ壊れるだろうし
ハチエなんか武器も使い捨てですからね。
>>二人による強力プレイ! 多分誤字なんだろうけど、実力者が揃うとあながち間違いにならない件w
ミスった……もうそのままでいきますね。ウケましたし。
>金ちゃんは捕まえに行かないんカナ?
まだ行けませんね。
>インフレ起こしすぎたww
やりすぎたかもしれませんね。
>擬人化なら、ドキドキノコを原料にしたモドリ玉の煙を吸い込んだモンスターが人になるというお話をどこかで見た気がが よーするにDQでいうパルプンテみたいな効果とかで人間にすれば!
なるほど! 私は光を見た。
>そろそろ釘パンチを使ってもいい時期だと思うんだ
あれって島ぶーの描写力が半端ネェんですけど、じつはただの強いパン(ry
>きっと次の階層は世界樹の迷宮な世界と期待
それは内緒です。まだ決まってないわけではないよ! ほんとだよ!
>ハチエのステータスは百の数値が耐久だけ6、後は4…と言う事はハチエは生前の時点で耐久力が100以上あったと言う事ですか?
なんというミス! 武器もって死んだことにしましょうか。
>計算式だと合計2600%上がる筈なのに、1300%しか上がってないですよ。ついでに言うとナマクラ剣の上昇合計値が220%なので20%多いです。
無刃さんありがとうです。話の中ではちゃんと直ってると思うんですけど。
ハチエの強さを決める際、色々試行錯誤した名残ですね。
>ハチエのステータスでラオに攻撃して戻って来れるなら、ハルマサならラオの傍に居るだけで安全にスキルをギュンギュン上げられそうですね
ラオはスピードそんなに速くしてないです。見た目的にそうだと思ったんで。
なので攻撃はできたのですが、耐久力的にぜんぜん届かず。直後に鼻息で吹き飛ばされました。
>ゾンビ化の取って付けたようなペナルティは正直なくていいと思う。元々取得条件が厳しいのと、弱点増加ってペナルティあったんだし
正直取って付けた弱点ですが、常にゾンビ化しているってのもどうかなぁ、と思いまして。スピードが三倍に比べたら弱点なんてないようなものですし。
>特性消失はちょっと後付感たっぷりすぎる…… 桃色が消えるのは万々歳というかトーク消したかっただけだろ………?
まぁサイコロで決めたんですけどね。そんな厳しいかな……?むしろゾンビの方が取って付けた感が強いと思っていたんですが。
>蟹にモンスターボールぶつけたら中に入ってる隙に逃げれたりして。
シレンのやり過ごしの壺的な使い方ですか。二秒で出てきそうですね。