ドドブランゴは僕たちのほうへと走ってくるが、一体どうするつもりだろう。
僕らの後ろって海なんだけど。泳ぐのだろうか。
それとも、これが俗に言われる集団自殺……!
「あ、そうや! 弓、忘れんうちに具現化しといたるわ!」
ハルマサがどうでもいいことに気を取られているうちに、ハチエが弓を出してくれた。
ハチエも収納袋を持っており、ハルマサの作った武器たちもそこに入っている。
しかし、自分の作った武器はカード化しておくのが癖のようで、ハルマサに譲るも「双角の遠弓」もカードの状態だったのだ。
「む……おっきいなぁこれ。まぁ弓は大きいのが多いんやけどね。はい!」
本当に大きい。
「双角の遠弓」は巨大なディアブロスの巨大な角を贅沢に使って作られているので、小さいはずも無かったが、弓の長さがハルマサの身長より長いって凄い。
渡された弓を構えるハルマサに、ハチエが叫ぶ。
「さて―――ハルマサ君! 素晴らしい目を持っている君に、敵の分析をお願いしたいッ!」
彼女の向けてくる目は、挑戦的な光を放っており、君に出来るかな? と語っていた。
もちろん答えはこうだ。
「フ……期待されたら、応えるしかありませんね!」
ハルマサEYEッ! 開☆眼ッ!
ピキ―――――――ン! 見える、見えるぞぉ! 時が見える!(「観察眼」が発動しました。)
「いくよハチエさん! 聞き逃しても知らないよ!」
「いつでも来ぉいッ!」
まずドドブランゴたち!
サーベルタイガーみたいな鋭い牙を生やした巨大ゴリラに見えないことも無いモンスターだ!
彼らはその中でも、砂地に適応した亜種に見える!
何故なら奴らの純白だった毛皮の色は、黒色とクリーム色の入り混じる、お世辞にも綺麗とはいえないものになっているからだ!
しかし、砂地に適応することで、さらにその剛毛は硬さを増し、足腰は鍛えられ、全体的な強さは数段アップ!
レベルにすれば、12です!
「よろしい! では次! 一層での強敵だった奴らが、ヒイコラ言いつつ逃げてきている原因は何だハルマサ君!」
「モンスターであります!」
「見たら分かる! そのモンスターの生態を解明しろぉ!」
「割りと理不尽ですけど、イエス・マム!」
「お姉ちゃんと呼べぇ!」
「イエス・お姉ちゃん!」
「グフゥ!」
ハルマサぁああああああああ、EYEッ!(2回目)
ドドブランゴの後ろを追って居るのは、巨大な影!
その正体は、聞いて驚けティガレックスだ――――――!
T-レックスじゃないぞ!
ティガレックスは四足歩行をする飛竜!
その大きさは、22メートル!
時々飛ばしてくる岩塊がジャガイモに見えることから、ジャガイモ飛ばしとして恐れられているモンスターだ!
近くに行けば、硬い鱗に包まれた体を生かした突進・回転・噛み付き攻撃!
遠く居れば、ジャガイモが飛んでくる!
近くもよし! 遠くもよし!
耐久力500万、筋力1500万、敏捷1500万!
レベルにすれば20だ――――――!
「よぉし、よく分かった! ハルマサ君! 命令だッ!」
「はい!」
「君は突っ込め! 援護は任せろッ!」
「もしや一人でティガの相手させてその間に『ドドブランゴのドロップおいしいです』するつもりじゃないですよね!?」
「何てことを言うんだァ! 君に拒否権はあるが、行使できない! さぁ行け!」
「否定しないの!?」
ていうか僕今、弓構えてるんですけどねぇ―――――!
「……まぁ、そろそろ真面目に行くとして、ハチエさん。」
「ん? もう止めるん? なんか楽しゅうなってきてんけど。」
最初から楽しんでましたよね。
「それは置いといて、ドドブランゴ助けたらクエスト発生するかもしれないんだ。」
「お? もしやそのハルマサがつけとる腕輪みたいなアイテムが手に入るチャンスなん?」
「そうそう。ママチャリの可能性もあるけどね。」
「ああ、DXな。もうママチャリでもええからほしいわ。他には日傘とかあったらええなァ」
「熱いもんねぇ……」
ここは砂漠の砂浜。
太陽と海風に晒され、ペンペン草も生えていない。
空に浮かんだ太陽が、SHINE! とばかりに熱光線を浴びせてくる。
「じゃあ、僕が援護するから!」
「ええやろう! 全身余すことなく部位破壊しまくって、目指せドロップ5個以上!」
トリャ――――! とハチエさんは飛び出していった。
彼女も良い感じにテンションが上がってきたみたいだ。
太陽に頭をやられたのだろうか。
ハルマサは、腰に装着した弓筒から弓を引き抜き……引き抜こうとして、引っかかって、矢が折れた。
「矢が長すぎるッ!」
≪マスター! まだ時間はあります! もう一度です!≫
「いよぉぉぉぉし!」
僕は不屈の魂を持つ男ぉおおおおおお!
今度は気をつけて、右手でスラリと矢を抜き、弓に番える。
ふふ、何となく分かるぜ! 才能あるんじゃない!?
「いっけぇええええええええ!」
キリリ……シュパ―――――ン!
ハルマサの放った矢は、見事に見当違いの方向に飛んでいく。
そして密かに弓の弦によってハルマサの右耳は強打されており、ハルマサは無言で痛みに耐えるのだった。
「……! ……!」
≪マスター……≫
(ちょ、援護来ぃへんねんけど! これは無言の信頼やろか!?)
ハチエは先ほど手に入れた武器を両手に装備している。
このドロップした二つの武器のなんと素晴らしいことか。
二つのステータスアップ値は以下の通り。
「重殻の破鎚」
耐久力(+1200%)、筋力(+1200%)、敏捷(+600%)、器用さ(+800%)
「捻れた投槍」
筋力(+1400%)、敏捷(+1400%)、器用さ(+1000%)
これによりハチエは、筋力:6240万、敏捷:3360万、となる。
武器の概念を発現することで、肌にはディアブロスの鱗が浮き上がり、頭にはオオクワガタの顎のようなうねった角が耳の上から前方に向かって生えている。
ウチ、ちょっとアレな姿やなぁ、とハチエは思ったが、それもティガレックスをメッタメタにするためには仕方ない!
「どりゃぁあああああああ!」
これなら、短剣を咥える必要も無い!
「ギャォアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
走るハチエを、ティガレックスは尻尾の振り払いで迎え撃った。
飛び上がった次の瞬間、足元の砂が盛大に抉られる。
しかし、尻尾は誘い。本命は次弾!
「ガァッ!」
ハチエの目の前には、巨大なアギトが鋭い牙を並べて彼女を出迎える。
「――――ハ!」
思わず、ハチエはニヤリと笑う。
このモンスター、強いやん。
「嫌いやないで!」
ハチエはクルリとその場で体を回す。まるで、空で寝返りを打つように。
――――ゴキィ!
右手に続き、一瞬遅れて落ちてきたハンマーが、モンスターの頭を上から叩き下ろす。
轟音とともにティガレックスの巨大な頭は地面に刺さる。
ハチエは反動で体を回転させると、ティガレックスの首を踏み台に、真横に跳んだ。
そこには振り切った後の尻尾があった。
「尻尾もろたで!」
空中で左手を引き上げ、胸を開き、体を反らし。
次の瞬間、手が霞む速度のオーバースロー!
――――ズグン!
ギュルリと螺旋に回転する投槍は、ティガレックスの尻尾を深く縫いとめる。
そして一瞬後、ステータスダウンが起こるより前に、ハチエはハンマーを叩きつけていた。
釘をトンカチで打つように。
―――――――ゴォン!
周囲を揺らす轟音とともに、尻尾が半ばで断ち切れた。
「ギャァオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ティガレックスは暴れ、豪腕でハチエを弾き飛ばした。
「おふ……!」
ズギャアアアアアア、と砂を掻き分けハチエは転がる。
デニム生地のツナギが一撃でボロボロだ。
だが、体自体のダメージはそれほどない。
ハチエは跳ね起きるとギリギリ引き抜くのが間に合った投槍を構える。
「まだまだぁ! あと爪と牙と翼やなんかも、まだまだ壊させてもらうでぇ!」
その口角は不敵につり上がっていた。
「うーん……」
向こうのほうでは、ハチエさんが楽しそうにティガレックスを苛めている。
彼女って、普通にバトルジャンキーだよね。
そしてハルマサは唸っていた。
何故なら、ドドブランゴがめっちゃ攻撃してくるからである。
「ガォア!」
「グォオォォォオオオオォォォオ!」
砂を吐き出してきたり、体当たりしてきたり、時には地面の下から強襲してきたり。
それらをピョンピョン避けているのだが、一向に事態が好転しない。
「早々クエストって出ないのかな?」
≪マスター。もう倒してしまえばよいのでは?≫
「どうせ経験値も少ないし、放って置きたいんだけど……」
≪確かお肉は美味しい部類であったと思いますよ。≫
「なんと!」
そういえば小腹が空いている!
「そいつは俄然狩らないといけないね!」
ハルマサは、さっさと弓をしまう。
「ハチエさんとの晩御飯に、色を添えてやるぜ――――――!」
ハルマサは両手を広げてドドブランゴへと飛び掛った。
相変わらず食には忠実な男である。
大量やで、とハチエがホクホクしながら戻ってくると、そこでは少年がドドブランゴを狩りつくしていた。
「いよっしゃぁー! 「アバラ肉」GET!」
「いや、ゲットちゃうやろ。クエスト発生とか言っとったんはどの口やねん。」
「残念だけど、発生しなくて……あ、おかえり! どうだった?」
おかえりと言われ、ハチエは一気に嬉しくなった。
「あ……へへへ! それがな、まぁ聞いたってや! この武器なぁ……」
「うぉおお! 格好よすぎる!」
まぁ、そもそもそんなにクエストとやらには期待もしていない。
それよりも、こうして話し合える相手の居る事が、どんなに嬉しいことか。
ハチエは、新しい武器を素直に喜んでくれる連れの存在を、とてもありがたく思うのだった。
<つづく>
今回はハチエの分だけ。ハルマサは大して変わってないです。
ハチエさん、レベル上がるとゴリゴリ強くなるなァ……。
ハチエ
レベル: 18 → 19 ……Lvup Bonus: 655360
耐久力: 654155 → 1309515(130万)
持久力: 654157 → 1309517
魔力 : 654150 → 1309510
筋力 : 654154 → 1309514
敏捷 : 654163 → 1309523
器用さ: 654154 → 1309514
精神力: 654170 → 1309530
経験値: 1685293 → 2996013 残り: 2246867