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ハルマサたちがいるここは最高神の作ったダンジョンであり、隙を狙い打つように危険が舞い込んでくる鬼畜仕様な場所である。
ハルマサが「空間把握」(半径90メートルほど)でそれらの接近を察知したのは、浜辺でハチエさんと食事を取っているときだった。
ちなみに食事は4号さんに貰った食料である。とても美味しい。
死にかけた上に急激な成長もあって、やたら腹が減るわ! とハルマサが携帯食料を食べていると、ピン、と地面が震えだした。
ハルマサはその方向に顔を向ける。
「―――――――くるッ!」
「もごふッ!」
彼女も何かを感じ取ったらしい。
一気に残りを頬張り、飲み下し、懐に手を入れてカードを引っ張り出す。
そして二人同時にその場を飛びのいた。
―――――――ドゴォオオオオオオオオオ!
砂の下から岩盤の破片を散らしつつ、モンスターが飛び出してきた。
ねじくれた二本の角、長く硬い尻尾、あと巨体。
ディアブロスだった。
しかも2体だ。
「レベルは19なんだね」
≪マスターのステータスはすでにレベル22相当です。案ずる必要はないかと。≫
何時の間にそんなに強くなったの?
「凄い成長したね……。僕は良いとして、ハチエさんは大丈夫かな。」
≪あの方は、普段のステータスがレベル16相当しかありません。しかしココまで来れた理由があるはずです。心配するのは逆に失礼に当たるかもしれません。≫
「……そうだね。じゃあサクッと倒して、見学しようか!」
ハルマサはソウルオブキャットを構え、腰を落とした。
ハチエはぺろりと唇を舐める。
二体出てきて、ハルマサと彼女でそれらを挟む位置取り。
自然と、一人一体のノルマになった。
ハルマサは声をかけようともしない。
どうでもいいと思っているか、心配していないか。
後者だと嬉しい、とハチエは思う。
「ォ、オ、オ、オ、オ、オッ!」
目の前で唸るディアブロスは、恐らく強い。第二層のボスと同じくらいの圧力を感じる。
しかも、武器はナマクラしかない。
だが、ハチエにはハルマサに貰った投剣がある。
それで十分だ。
「そんだけあったら釣りが来るわな。」
「魚竜牙の投剣」カードを具現化させる。
長さ18㎝の投剣となったその柄を口に挟みこむと、ミシリ、とハチエに牙が生える。
そして体の組成が作り変えられる。より強靭に、よりしなやかに。
悪くない、とハチエは思う。
こんなに力が満ちているのに、まだ両手は空いているのだ。最高じゃないか?
指に挟んで片手に4枚。両手で8枚。
ハチエの能力はどれだけ多く武器を持つかにかかってくる。
ならばこのナマクラ剣を―――――持てるだけ持てばいいではないか!
指の間に柄が現れ、そして剣先へと具現する。長大な両手剣を八本ぶら下げる姿は普通じゃない。普通ではないが、これで良いのだ。
ハチエはかつて、死を経験した折、武器を「ナマクラ剣」しか持たない状態になった。
その時相手は強大で、ナマクラ剣の耐久値では豆腐も同然。
ではどうする?
(まずは――――投げつけるやろ!)
豆腐が飛んできたら、きっと誰でも鬱陶しい。
ギュル、とその場で回転するハチエの筋力敏捷、すでに人外。
回転のさなかで強烈に捻られた体幹が、そして引き絞られた弓のような腕が、ミシリと骨格を締め上げる。
限界までひねり上げられた右手を、右足で地面を踏むと同時に振り下ろし――――投擲!
ォン! と4本同時に放たれた音速の剣は、一本たりとも外れず、ディアブロスへと直撃する。
ハチエの回転は止まらない
さらに一回転して、今度は左のアンダースロー。
ゴゥ、と放たれる凶弾がまたもやディアブロスの体を叩く。
水でもコンクリートを抉るのだ。ポンコツとは言え一応剣。ダメージは通ったか?
「ゴァアアアアアアアアアアアアアッ!」
残念、怒らせる効果しかないらしい。まぁ豆腐投げつけられたらね。
口から黒い煙を吐きつつ、ディアブロスは体を沈め、
――――ドォン!
蹴り足で砂地を爆発させると、巨体にあらざるスピードで突っ込んでくる。
(まだまだ、ウチの攻撃はこれからが本番や!)
ハチエはさらに8枚、カードを手に取り、指に挟む。
身体能力をアップしてくれるが、硬さが豆腐の剣を持って戦わなければならない時、どうすればいいだろう。
ハチエの場合は――――――足を使う。
ズォ! と砂地を蹴り飛ばし、ハチエは地を這うように走る。
ハチエは、靴を履いていない。既に足の硬さは鋼鉄のようになっているのだ。レベル17とはそういうものだ。
ナマクラ剣×8 + 投剣 で、ハチエの敏捷は約1432倍。数値4億を超えている。速さにおいて、彼女はハルマサのはるか上を行っていた。
メキィ!
正面から蹴り砕かれた角が宙を舞う。
彼女のとび蹴りは、ディアブロスの視界には影としか映らず、モンスターは角を蹴り折られてからやっと蹴られたことに気付く。
勝敗は既に決しているといえた。
ハルマサから見て、ハチエの攻撃は、苛烈であった。
恐らく我流で組み上げたであろう蹴りの技術は、戦いの中で研磨されてきたのか、一種の踊りのようになっていた。
蹴りで巨体を付きあげ、飛び上がり、ナマクラ剣を翼のように広げてモンスターを蹴り降ろす。
ハイキックで、半円を描く足の軌道が美しい。
野蛮で、粗雑で、荒々しく、しかし目的はぶれていない。
彼女の戦う技術は、明らかにハルマサより上である。
スキルシステムが無いからこそたどり着ける境地もあるのだと、ハルマサは教えられたのだった。
「ていうか速過ぎてよく見えないんだけどね。」
≪おかしいです……彼女は敏捷が高いのは分かりますが、それだけであの速度は出せないはず……地面の摩擦が……空気抵抗も……≫
「……サクラさん?」
≪むむ! あれは……魔力を放出して……!? システムの補助……! 4号さん……流石です……!≫
「サクラさーん?」
≪あのシステムをうまく活用すれば、彼女は大魔道士になる可能性がありますね……。≫
「???」
そして戦い終わって。
「うーん、ちょっと足痛いわァ。」
「それだけで済んでいるハチエさんに驚きを隠せないよ。」
ハルマサのほうは何もさせる前に瞬殺し、彼女も無事ディアブロスを倒したので、戦後のお疲れ会みたいなノリになっている。
目を瞑っていた(おそらくステータスを見ていたのだろう)ハチエが、嬉しそうに叫ぶ。
「おお!? なんや何時の間にかレベルアップしとるやん! これで二層のボスの武器が使えるでぇ!」
「おお、やったねハチエさん!」
「……おおぅ……!」
ハルマサが一緒に喜ぶと、ピクリと、ハチエさんは震え、そしてしみじみと言った。
「……誰かに祝ってもらうのって……ええなァ……ジンと来るでホンマ。」
わかる、分かるよ!
僕は最近サクラさん居るからそうでもないけど、前はテンションあげてないと寂しくて死んじゃいそうだったからなァ……。
ていうかサクラさんみたいな子は居ないんだね。
「しかも見てやこれ! 戦っとる最中に角折ったから、おまけの武器もゲットしたんやで!」
「なんと! お得な感じだね!」
ハチエが手に入れたのは、格好良い武器ばかりだ。
「ハルマサ。これ欲しかったらあげるで。」
「………いいの?」
「魚竜牙の投剣のお返しや。それに弓二つもあってもよう使わんわ。」
この人………さては良い人だな!?
ハルマサは断ろうとも思ったが、あまり断り続けると逆に失礼だと思い、あり難く好意を受けとることにした。
「じゃあ遠慮なく……いただきます。」
「ふふ、もってきもってき。」
ハチエが今回手に入れた武器は以下の3つだった。
○「重殻の破鎚」(Lv19)耐久値:3407872(340万)
ディアブロスの鱗から作られた大鎚。
耐久力(+1200%)、筋力(+1200%)、敏捷(+600%)、器用さ(+800%)
○「双角の遠弓」(Lv19)耐久値:1835008(183万)
ディアブロスの捻れた角を利用した重弓。使いこなすには器用さが必要。貫通属性の矢を放てる。
持久力(+1000%)、筋力(+800%)敏捷(+600%)、器用さ(+1400%)
○「捻れた投槍」(Lv19)耐久値:2359296(235万)
ディアブロスの捻れた角を利用した投槍。螺旋に回転し、投擲時に貫通属性を得る。
筋力(+1400%)、敏捷(+1400%)、器用さ(+1000%)
ドロップ品も角だったらしく、それを叩き折ったら投槍が出たとか。
そしてハルマサがもらったのは、遠距離武器、「双角の遠弓」である。
ハルマサは弓を手に入れたッ!
「ウチのカードの弓って、ホンマ謎過ぎるんやけど、矢筒から矢が永遠に湧いて出るからお得やで。」
「ありがとう! 大事に使うよ!」
ふふ、これでスナイパーへの道が……!
そう思っていると、早速獲物が現れたようだった。
ドドドドドドドドドドドドド……。
地平線の彼方から明らかにこっちに向けて、地響きを上げつつ、モンスターの群れが駆けてくる。
「あれなんなん? 遠くてよう見えへんけど。」
「ドドブランゴかな。……それがいっぱい。」
20匹くらい。
そしてその後ろから、彼らを追う大きな影。
これは………クエストフラグか!?
<つづく>
ディアブロスは華麗な土中殺法を披露する予定だったのに、ステータスの上昇値が爆発して瞬殺されてしまった。
何故だぁ―――――!
ハチエ
レベル: 17 → 18 ……Lvup Bonus:327680
耐久力: 326475 → 654155(65万)
持久力: 326477 → 654157
魔力 : 326470 → 654150
筋力 : 326474 → 654154
敏捷 : 326483 → 654163
器用さ: 326474 → 654154
精神力: 326490 → 654170
経験値: 1022933 → 1685293 残り:936147
ハルマサ
満腹度: 4966483 → 4998998(499万)
耐久力: 3140635 → 3173150(317万)
持久力: 4965259 → 4997774(499万)
魔力 : 14943283 → 14943283(1494万)
筋力 : 22029855 → 22251486(2225万)
敏捷 : 22136311 → 22227882 ……★33341823(3334万)
器用さ: 27571986 → 27571986(2757万)
精神力: 10894924 → 10894924(1089万)
経験値: 1477108 → 2132468 残り:487970
○スキル
観察眼 Lv20: 149382 → 5589422 ……Level up!(前々回忘れてた分)
両手剣術Lv15: 24656 → 187232 ……Level up!
突撃術 Lv20: 5891123 → 6009234
概念食いLv15: 200984 → 293022
鷹の目 Lv17: 827123 → 908731