ポケモンの鳴き声は表現し切れないので、アニメ版と同じくフリーダムにいきます。
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【第四層 右足都市】
ハチエが居る場所は人型大陸の右足の先に位置する都市、その名も「右足都市」。
安直なネーミングだが、分かりやすくていいとハチエは思った。
彼女はシンプルなものが好きなのだ。
右足都市は比較的キレイで近代的な都市である。
人もたくさん歩いていたが、空から降ってきたハチエの周りには誰もいない。
まぁ普通はビビるだろう。
周りの視線を無視して、ハチエはさっきビックリ箱から貰ったモンスターボールを早速開いてみる。
頭が異常にでかくて2頭身くらいしかないペンギンもどきが出てきた。
ポケットモンスター「ダイヤモンド」・「パール」・「プラチナ」でもらえる最初のポケモンの一匹である。
「……ポッチャマかいな。……しかも弱ッ!」
「ポ? ――――ポッチャマッ!」
「いや、「ポッチャマ!」やないで……元気なのはええんやけどね……」
小さな羽根を広げて元気に叫んだポケモンにハチエは呟く。
ハチエはハルマサのように正確な強さを測ることは出来ないが、大体の強さなら魔力の反応で察知できる。
とりあえずボールから召喚してみたポッチャマがクソ弱いことは分かるのだ。
「ホンマどうするんコレ……」
重力で碌に動けないハチエとクソ弱いポッチャマ。
幸いハチエの神金貨は1000枚くらいある。
レベルは結構上げる事が出来るので、そんな虚弱なポケモンではなくなるだろう。
だが、その程度だ。
果たしてこの先やっていけるのか。というかハチエがこの先大丈夫なのか。
『私を食べようとするとは! 躾がなっていないようだな! そこに直れッ!』
「ポッチャマ―――ッ!」
まぁ、ポッチャマと死闘を繰り広げているパロちゃん(携帯用形態)が楽しそうなので良いか、とハチエは思った。
「まずはクエストをクリアせんとあかんな」
ぺラリとビックリ箱から貰った紙を開くと、ハチエに課せられたクエストが書いてある。
各都市で課せられるクエストは降り立った都市にも存在するのだ。
【右足都市:ポケモントレーナーのコバルトを戦闘不能にせよ。難易度:★】
(まずは、コイツが何処におるか、どの程度の強さなんかの情報が必要やな……)
ハチエはポッチャマを掴み上げると、ズシズシと重い足音をさせながら街の雑踏へと踏み込んでいく。
トレーナーのコバルトとやらが、ポッチャマで倒せる程度の敵であるならば問題ないのだが。
雑踏に消えていくハチエの体。その後ろをひっそりと付いていく影があることに、ハチエは気付かなかった。
【第四層 額都市】
ハルマサの額都市におけるクエストは、中々に厳しいものであった。
【額都市:ポケモンを二段階進化させる。難易度:★★★】
この階層のゴールである「心臓都市」への道のりが短い代わりとは言え、かなりキツイ。
例えばハルマサのラルトスは、ハルマサは良く覚えていないが、2段階目へ進化できるのはレベル30を下らないはずだ。
サクラさんにざっと計算してもらったところ、1レベルに付き必要神金貨が倍になるここのシステムでは、10億枚の神金貨がいる。
そんなたくさんの神金貨を持ったらハルマサの腕が千切れてしまうだろう。
何せ彼は今一般人なのだ。
まぁクエストのクリア方法は追々考えるとして、今は少しでもこの小さなラルトスを強くしたいとハルマサは考えていた。
「ラルトス、君ってメスだったんだね。エルレイドにはなれないのか」
格好よくて好きなんだけどな。
「ラルゥ……?」
ラルトスがハルマサを見上げてくる。髪に隠れて目は見えない。
ラルトスは地面に座って、ハルマサが積み上げた神金貨を相手に格闘中だった。
ポリポリと必死に神金貨を食べているが、そろそろ限界が近いようだ。
ケフッと可愛らしくゲップをしたりしている。
だが、あと2枚、すなわち合計63枚でレベル6なのだ。
まぁ正直40センチしかない小さな体で61枚もよく食べたとは思うが、あとたったの二枚である。
ハルマサは神金貨を二枚だけ残して袋にしまう。そしてその二枚の神金貨を差し出した。
「もうちょっとだラルトス! ノルマはあと二枚さ! さぁおたべ!」
「ラルゥ……」
食べたいけどもう無理です。という風な雰囲気をかもし出すラルトス。
小さな手でお腹をさすっている。
だが、詰め込めばいけるとハルマサはふんだ。
「お・た・べ!」
「ルゥ……!」
ホントに無理です、お腹がポンポンなんです、といった感じか。
しかし、いける! キミならいける!
思わず食べてしまうような雰囲気を作ってあげるから!
ハルマサは決心すると神金貨をラルトスに持たせて、自分は立ち上がり、パンパンと顔の横で手を打って拍子を取り始めた。
軽快な足踏みと共にコールを開始する。
「ラルトスの、ちょっといいトコ見てみたいッ!」
「ラルッ!?」
ここからは軽快な手拍子を加えるぜ! ハイッ!
「お・た・べ! お・た・べ!」
――――――パン!パン!
≪あの……マスター、非常に問いづらいのですが、その…何をしているのですか?≫
「え、思わずノリで食べたくなるような愉快なコールさ! ここからスパートがかかるんだ! 連続で同じ言葉を口にするから、噛んでしまわないか心配だよ」
器用さが高かったら楽勝なんだけど、仕方ないね!
≪そ、そうですか……頑張ってください≫
「うん! どんどんいくよ―――! さぁ、お・た……んッ!?」
お・た・べコールを再開しようとすると、ハルマサの「心眼」が危険をキャッチした。
咄嗟にラルトスを抱きかかえて飛びのこう―――――――として脚がもつれたので、転がった。
まぁ結果的に危険を避けられたのでグッドだ。
―――――――ズギャアッ!
ハルマサが転がった直後に石畳を擦り上げつつ、丸いものが通過していく。
あれは―――――
≪対象の情報を取得しました。
【サンドLv8】:ねずみポケモン。地面タイプ。
砂の色の表皮を外側にして、アルマジロのように丸まり、敵をやり過ごす。
耐久力:1531 持久力:1271 魔力:768 筋力:1792 敏捷:768 器用さ:1268 精神力:768≫
(いやいやいや、やり過ごすどころか殺しに来てますけど!? ていうかレベル高ぁ!?)
今のハルマサなら即死できるレベルである。
「ち、外した! 偶然こけるとは、運のいい奴ね!」
ハルマサがうろたえていると、何時の間にか近くに居た、とてもスカートの短い制服の女子高生が悔しそうに呟いた。
「な! いったいなんだって言うんだ!」
「ワタシはスカート団の戦闘員オリーブッ! あんたの神金貨をいただくわ!」
「な、何ィ! スカート団だと!? 一体どんな団体なんだ!?」
ハルマサはある単語に激しく反応した。男の子なら仕方のないことであった。
ハルマサの感情をその角で感じ取ったのか、ラルトスが仄かに暖かくなっていた。
だが、敵のオリーブさんとやらは、じん、と感じ入ったような表情をした。たぶん勘違いしたであろうことは、その後のセリフを聞けば分かった。
「スカート団に入って3年…こんなに素晴らしい反応をしてくれたのはあなたが初めてよ……ありがとう! だけど、あなたは敵だわッ! 容赦はしないわよ!」
「く、後生だ! スカート団が一体どういう団体か教えてください!」
そう、ハルマサは知りたくて仕方なかったのだ。
なんで彼女のスカートはあんなに短いのか。
きっと団則に記入されているに違いない。「膝上10センチ以下のものはスカートは認めない」とか。
「そこまで言うなら教えてあげる! スカート団は、スカートを穿く女性のみで構成された、世界征服を狙う団体よ!」
ばーん、とポーズをとって彼女は言い切った。
「じゃ、じゃあ、キミの素敵なスカートは団体の制服なのか!?」
「ふ、お世辞を言って助かるつもり!? ワタシのスカートなんて……! ええい、さっさとあんたのポケモンを寄越しなさい! 下っ端の戦闘員ではこの程度のスカートしか穿かせてもらえないけど、偉くなるほど穿くスカートの丈を短く出来るんだからッ!」
「な、なんて素晴らしい団体だ……!」
きっと幹部レベルともなれば常にちらつくレベルだろう。
何がちらつくかは言わずもがなだが、ハルマサは今までの恨みも忘れて神様ありがとうと叫びそうだった。
「キミたちの理念には感動した! 僕も入れてくれないか!」
「あんた男でしょう!?」
「実は女です!」
≪マ、マスター……≫
は、やばい! 必死になりすぎてサクラさんがドン引きしている!
手に持つラルトスは暖かくなりすぎて熱いくらいになっていたが。感受性が豊かだと大変だね。
ハルマサはエヘンと咳払いをして、言った。
「まぁ冗談は良いとして、君にコイツはあげられないよ!」
「いや、私が欲しいのは神金貨……」
「大事な仲間だからねッ!」
「ラル……」
抱えていたラルトスがこちらを見上げてきた。
髪の間に見えるつぶらな瞳にウインクしてみる。
「安心して、キミは僕が守るから!」
「……ッ!」
ラルトスは顔を伏せてしまった。ウインクが気持ち悪かったのかも知れない。
「ふ、ふん! そんなカスみたいな強さのポケモンを大事にするなんてね! いいわ、そいつごと倒してあげるッ! いけぇサンドッ「ひっかく」よ!」
オリーブさんがサンドに指示をする。
ハルマサでは敵わない。レベルが5になっているラルトスでも敵わない。
ここで死んだか!? と諦めつつあったハルマサの脳裏にサクラさんの声が響いた。
≪マスター。ビックリ箱は言いました。プレイヤーではポケモンにダメージを与えられないと…。ならば、プレイヤーではなく魔物ならば問題ないはずです! マスター! シェンガオレンをッ!≫
熱い! 何時になくサクラさんが燃えている!
ハルマサはサクラさんの熱に動かされたように叫んだ!
「いでよッ! 超巨大キングラー、レンちゃんッ!」
<つづく>
PイーターLv32 : 23,866,187,695 → 25,372,893,021