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サクラさんの案は、能力を落としてもいいから生き残る、というものであった。
第四層ともなれば敵はべらぼうに強くなり、一般人程度の能力になったハルマサは死にまくってしまうのではないかとハルマサは思ったが、サクラさんは言った。
≪恐らく、ポケモンを操るのです。寧ろそうさせるためにマスターの身体能力を落としに来ているのでしょう。同時にポケモンを捕まえる必要が出てきますが……それはまず、第四層で情報を得てから考えましょう。≫
「なるほど!」
ということでキャシーという名の立て札に指輪を叩きつけ、ハルマサはダンジョンにダイブしたのだった。
【第四層・挑戦3回目】
今回もまた頭頂都市へ落ちるようである。
落下しつつハルマサは叫ぶ。
「ビックリ箱さん! 出て来い!」
すると、ボゥンと煙が出て、あっさりとビックリ箱が出てきた。
(あっさりだなぁ……)
≪よかった……≫
『お呼びデショウカ! おお、あなたは先ほど虫けらのように潰れたはずのプレイヤーデスネ! 生きていたのデスカ!』
ひどく驚いた様子である。
生きてたらダメなのだろうか。
「さっき話していた取引、僕は受けるよ。ただし神金貨は5000枚しか払わない!」
値切ってみた。
『―――――ふざけるナッ!』
ブチギレられた。
『10000枚からビタ一文まからんワッ! 足らなかったら死ネ!』
「そう、仕方ないね。払うよ」
ハルマサは従順に頷いた。ちょっと怖かったのは内緒である。
ビックリ箱は歪んでいた表情を元に戻すと、口調も元通りに喋りだした。
『ハイッ! お手持ちの袋の中に神金貨があるのを確認しマシタ! では、重力付与を解除しマス!』
ふわ、とハルマサの落ちるスピードが遅くなる。
ステータスを見てみれば、ハルマサのステータスはオール10だ。
一般人並とはこういうことか、とハルマサは思った。
スキルレベルが変わっていないところが救いといえば救いである。
『それでは、本題に入りマショウ……とその前に地面が見えてまいりマシタ。サービスとして減速してあげマショウ! 感謝してクダサイ!』
「あ、ありがとうございます……」
釈然としないものを感じつつ、ハルマサは一応礼を言う。
ぎゅぎゅぎゅ、と勢いが弱まり、ハルマサは町へと降り立った。
降り立ったのは、またもや額都市を二分する大通りの上だった。
見渡せば、街は石造りの家々で成り立っている。
全体的に不衛生で、空気が淀んでいた。
「あ、ポケモ……ン?」
遠くに走っているポケモンが居た。
額には牛のような角。体も牛のようだが、パワーが満ち溢れていた。
レベルは7らしい。今のハルマサよりは格段に強い。第一層のドスファンゴと同じ強さである。
何処からどう見てもケンタロスである。実物を見ると少し感動すらする。
しかし、間違いなくポケモンのはずだ。
―――――――家畜が逃げたぞッ!
―――――――私の子どもを返して――――ッ!
その後ろを突っ込みどころ満載のセリフを上げつつ、複数の町人が武器を持って追いかけていたり、
―――――ブゴォ! ブルフゥ!
ケンタロスがぐったりとした子どもを咥えていたりしなければ、ケンタロスがポケモンであることには疑いは無かった。
「あれ? おかしいな。ポケモンが子どもを攫っているように見えるよ? 夢を見ているのかな。何回も死んだから幻覚かな?」
≪マスター、しっかり! あの光景は間違いなく現実です!≫
混乱するハルマサの前に、ビックリ箱がふよふよと降りてきた。
『おやおや! 治安は良くないようデスネ(笑)! それはさて置き、あなたに贈呈されるポケモンが決定いたしマシタ!』
箱の中からぽん、とモンスターボールらしき球体が飛び出してくる。
それを受け取ったハルマサは、取りあえず中心のボタンを押して召喚してみた。
バビューンと光が出て、ポケモンが召喚される。
「……ッ!?」
飛び出すと同時に蹲ったその姿は……幽霊? いや、テルテルボウズか?
大きさは40センチほど。白い布で体を覆っており、緑色のヘルメットのような髪型とその間から前頭部と後頭部に生えた二本の半楕円形の平べったいトサカを持つ。いや、トサカではなく角か?
顔は緑の髪に隠れて口しか見えない。
ハルマサの記憶が確かならラルトスとかいうポケモンである。
≪対象の情報を取得することに成功しました。
【ラルトスLv0】:きもちポケモン。エスパータイプ。
赤いツノであたたかな気持ちをキャッチすると全身が仄かに暖かくなる。
耐久力:3 持久力:3 魔力:6 筋力:3 敏捷:3 器用さ:3 精神力:7≫
(うわぁ、弱ぁ…)
弱くなったハルマサよりもさらに弱い。うずくまる気持ちも良く分かる。
ハルマサがこれからの旅を思って表情を暗くしていると、殊更明るい声でビックリ箱が叫んだ。
『それでは、第四層におけるルールを説明しマス! この階層では、人型の大陸の末端にある5つの都市から出発していただき、胸の中心にある「心臓都市」を目指していただきマス! ただし、旅の途中には関門となる都市が存在しマス! あなたの場合であれば、「鼻都市」「顎都市」「喉都市」が関門都市に当たりマス! 各関門都市では、プレイヤーに対してクエストが一つ発生し、それを解決するまで都市からある程度までしか離れる事が出来マセン! 都市を無視して通り過ぎても構いマセンが、その場合、心臓都市に居るボスが大幅に強化されマス! また、どの都市から出発しても、途中の関門は3つデス!』
(そんなたくさん言われても覚えられないんだけど……)
ハルマサの頭は二つ以上のことを一度に聞かされるとトコロテンのように最初のひとつが出て行ってしまうのだ。
まぁサクラさんが覚えてくれるだろうと、期待して、ハルマサは耳を傾ける(そして聞く端から忘れて行く)。
『関門の数は同じなのに、末端から心臓都市への距離が随分違うことに賢明なプレイヤーの方々ならお気づきになられるデショウ! あなたの場合ならば、スタート地点は額都市! ラッキーかとお思いならば、それは違いマス! なぜならば、距離が近いプレイヤーに課せられるクエストは解決が相応に困難になるからデス! この都市で、あなたに課せられたクエストはこれデス!』
ビックリ箱の中から紙が飛び出てきたので、取りあえず受け取る。
ビックリ箱はまだ喋るようだ。
『続いて、ポケモンのレベルアップシステムについてご説明いたしマス!』
(まだ続くのか……眠い……)
『ポケモンとは、神金貨を食べさせてレベルアップを行う生物デス! レベルアップするごとに能力は高まり、使える技も増えるデショウ! お肉も美味しくナリマス! 現在あなたのポケモンの強さはレベル0ですが、レベル1へ上げるために必要な神金貨はたったの1枚! しかし、レベルが一つ上がるごとに必要神金貨は倍になりマス! お金持ちのプレイヤーなら、換金所がございマスので、ご利用クダサイ! また、弱らせたポケモンをボールを用いて捕獲することも可能デス! モンスターボールはショップでお一つ200神金貨で販売しておりマスので、是非ご利用クダサイ!』
(ハチエさん元気かなぁ……)
『この階層にいる大型の動物は、人とポケモンだけデス! しかし、人間はポケモンに大きく身体能力が劣るため、都市に閉じこもっている状況デス! つまり、この階層は殆どの地域にポケモンが居マス!そしてこれは重要なことですが、あなた方外部から訪れた人間、すなわちプレイヤーはポケモンにダメージを与えることは出来マセン! クエストのクリアや、都市間の移動、ボス戦においても、ポケモンの強さが重要な要素となってくることデショウ! それでは説明は以上デス! ご質問はございマスカ!? あっても答えマセン! それでは、ダンジョン探索をお楽しみクダサイ!』
ペラペラと一方的に喋り終えて、ビックリ箱は消え去った。
うずくまってふるふると震えているラルトスをを見つつ、ハルマサは頬をかいた。
ビックリ箱の話は全く頭に残らなかったのだ。
「ええと……まずはどうすれば良いのかなサクラさん。」
≪マ、マスター……。………いえ、だからこそ私がいるのですね! 私ファイッ!≫
サクラさんは何故か自分に気合を入れると、ハルマサに教えてくれた。
≪まずは、そのポケモンに神金貨を与えることから始めましょう!≫
「わかった!」
ハルマサはうずくまっているラルトスを抱き上げた。ふんわりと柔らかく、力を居れたら壊れてしまいそうだ。
顔を上げてみれば、暴れていたケンタロスは人間を蹴散らしてどこかに走り去ったようだった。
<つづく>
ビックリ箱の長ったらしい説明を箇条書きにしてみよう!
・この階層にはスタート地点が5つある
・この階層のボスは心臓都市にいる
・心臓都市へ行くには都市(鼻・顎・喉)を三つ通らなければならない。通らなかった場合、ボスが超強くなる
・各都市でプレイヤーはクエストを一つクリアせねばならない
・ポケモンにはプレイヤーの攻撃は効かない。
・ポケモンは神金貨を食って強くなる種族である
・ポケモンのレベルが上がるごとに必要神金貨は倍になる
・モンスターボールがあればポケモンを捕まえられる。
こんなところですかね。
どうでもいいですが、重力付与の解除は、プレイヤーの所有神金貨の9割以上をパクッていく鬼畜仕様です。
金貨:11316 → 1316
<あとがき>
最初はシンオウ地方でも旅しようかと思ったけど資料集めるのも面倒だし、勝手に作った大陸で好き勝手やらせてもらうことにしました。
それにしても、長ったらしい説明は書く方も読む方も疲れるので最悪ですね。
あしたもこうしんだ!
>つーか僅か一話で第三形態まで変身とかないわぁ・・・小物過ぎる。
夜川不人気すぎてすごいですね。最後はやっぱり自爆したほうがよかったかも知れない。まぁハルマサは無傷ですけど。
>人間をやめた夜川、しかし奴らは常識をやめていた・・・
確かにw人間の技術をひねったくらいでは届かない領域にいたんですね
>そのうち合体して巨大化したりして。
夜川ロボ量産しなきゃ
>さようなら夜川君・・・君の事は完全に忘れていたから、感想を書き終わったらまた忘れると思うよ
ひど過ぎるww
>もう夜川とかだれ?新キャラ?
あなたが最強にひどかったw金メダルをあげます。
>タケミちゃん神様疑惑を確かめさせてくれないのは作者の陰謀か。
忘れてたんだぜ。どっかで入れようっと。また忘れるかも知れんけど
>ただ量が量だったんで飛ばしたところがないか確認のためにも一スレ目から読み直してきますね。
か、体を壊さないように……一時間に一回くらいは休憩をね!
>お母さんとハチエさんの相乗効果がすさまじいw
予想以上にスラスラと書けました。こういうことがあるから書くのはやめられないと思いますね。
>息子さん、お母さんを僕に下さい!!(切実
息子「僕を倒せてから言ってもらおうか」
>全十層だからー…… ハチエさんのバストサイズどこまで行くん
そのうちケツの方にシフトするかも。
>現実での、最初のイベントが夜川か…いらねぇw
笹さんも地味にひどいw
お疲れさまです。
>もしドラクエで、スライムさえレベル30オーバーとかだったらどうしようw
ドラクエかぁ……FFより馴染みがあるから書くならそっちですね。
まだ先のことはぜんぜん決まってないから……
>タキシードのまま次の階層いくのか。
防御力の数字がとたんに大きい意味を持ちますね。耐久力に+6ですから。
>読者も、多分作者も出来る事(技?)が多くなりすぎて何使えばいいとか把握が大変ですが
ホントにね。いっそ大量にスキルを消そうかな。
概念とか特性を丸ごとって言うのも捨てがたい。
>てか、骨密度が酷いSSだなもうwww
二重の意味でそうですね。葉知恵さんの骨とか密度高まりすぎてそのうちブラックホールが発生しそうだ。
>たしかもうとっくにバイキルトが使えたはず・・・
ヘイストとかありましたね。どこかもう思い出せませんけど。
マジで一度使えなかったのをまとめたほうがいいかもしれないですね。
口だけですけど。