<156>
ミラボレアスDXの攻撃は、雷撃と噛み付きと、まれに尻尾での突き・なぎ払いであった。
ハチエは攻撃を避けながら考える。
再生する敵に、まともにぶつかって良いのか。
再生するのが頭だけとは限らない。
粉々にしたって復活するかもしれない。
(ちょっとせこいかもしれへんけど……)
ハチエは懐に手を伸ばしカードを掴む。
彼女の脳裏には、二日前にあったキリン戦の後にハルマサと交わした言葉が蘇っていた。
『つ、ついに悪魔の実キタ――――――!』
『―――――とても食べる気になれへんのよね』
『でもハチエさん! 敵に食べさせたら凄くない!?』
『……ッ! 即死やん!』
その後、ボスに使うならあーでもないこーでもないと戦い方を話しあったのだ。
つまり、今すぐ使ってもハルマサの援護が期待できる。
(まさかホンマにボス戦で使うことになるとは思わへんかったけどな!)
そう、彼女が取り出したのは「ゴロゴロの実」である。
悪魔の効果は、電流の体を得ると共に、水攻撃に異常に弱くなるということ。
アイテムは使いようだ。メリットを得るために自分に使っても良いし、デメリットを付与するために敵に使ってもいい。
この硬くて再生する最悪な相手に、強制的に弱点を付与できるのはとてもありがたい。
ハチエはアイテムを具現化し、ハルマサに確認を取った。
「ハルマサ――――――! これ使うでぇ――――――!」
電流ハルマサが雷の奔流を受け止めつつも力強く親指を立てたので、ハチエは頷き、悪魔の実を持って跳躍した。
(あれは……悪魔の実! ハチエさん……やる気だな!)
ハチエの魂胆をそれだけで理解し、ハルマサは親指を立てる。
だが、ハチエがアレを使うなら、ハルマサは何時までも雷の奔流を受け止めているわけにはいかない。
彼女には弱点を突くための水属性攻撃が出来ないからだ。
タイミング良く、AIのサクラさんが報告してくる。
≪雷属性の攻撃を受けていることにより「雷操作」の熟練度が上昇しています。現在の上昇速度は毎秒12億4千万程度です。熟練度が42,949,672,960を越えたことにより、スキルレベルが上昇しました。≫
(ちょっと上がりすぎだと思うけど………好都合ッ! 反撃の時は―――今だ!)
――――――「電流の体躯」を解除! それから「雷操作」ッ!
揺らいでいたハルマサの体が現実感を取り戻し、雷の奔流がジッとハルマサの肌を焼く。
それとほぼ同時、ハルマサは向かってきている電流を操作し、ちゃぶ台返しのようにひっくり返した。
電流が、崖にぶつかって砕ける波のように、反り返る軌跡を描く。
(ぉおおおおお!)
全裸ハルマサは空中を漂っていた黒い布の破片、恐らくタキシードの切れ端で股間を隠しつつ、跳躍した。
黒い布に魔力を送ると、彼の意を酌んだのか、黒い布は急速にその面積を増し、半ズボンになった。
毎回千切れたり吹き飛ばされたりして大変だろうに、健気に股間を覆ってくれるタキシードにハルマサは感謝しつつ、体からさらに魔力を放出する。
――――――キュォオオオオオオオッ!
ちゃぶ台返しによって勢いを失い霧散しようとする雷を、一つの球に纏め上げる。
雷が圧縮され、硬質に輝きだした。それはまるで、太陽のよう。
ハルマサは飛び上がり、それをバレーのアタックのように叩きつけた。
(―――ぜぇいッ!)
弓なりになった背中を起爆剤とし、腕が背中から伸び上がるような軌跡を描く。最高点に達した掌が雷ボールを強打する。
ドキュウッ! と雷スパイクが衝撃波を撒き散らし、摩擦で空気を燃え上がらせながらミラボレアスDXへと飛翔し――――直撃。閃光が弾ける。
ここまで、親指を立ててから1秒経っていない。
荒れ狂う空気の中で、赤い首が弾け飛んでいた。
だが、直後新しい首がズルリと生えて――――――そこへ待ち構えていたようにハチエが飛び込んできた。
半ズボンハルマサが跳び上がって雷スパイクを打つまで、ハチエもただ呆けていたわけではない。
一秒という短い時間でさえ30万kmを移動するような、高速すぎる戦闘なのだ。
ハチエは左手で悪魔の実を抱え、跳びあがる。
右手のパロちゃんは、一拍置いてから振り上げた。刃の軌跡は斜め下から斜め上。
これこそが、奥義ッ!
―――――――アバン・ストラッシュ!
ビキィ、とハチエの右手の筋が悲鳴を上げた。この剣技を使うには、パロちゃんは少々重すぎるのだ。
だが、技は問題なく発動した。
シュパァッ! と白い軌跡がミラボレアスDXの白い首へと直撃する。その一撃は鱗を剥がし、肉を抉る。
パッと鱗が舞って赤い血が噴出し――――――その下をハチエは走り抜けていく。
そして、ハルマサが弾き飛ばした赤い首が、ずるりと生える場面に遭遇した。
(―――――ッ! ここやッ!)
チャンスは、首が生えてくるところだとハチエは思っていた。
恐らく一番無防備な瞬間だ。
だが、敵は第三階層のボスである。
流石と言うべきか、生えると同時、ハチエを食いちぎろうと顎を開いていた。
(甘いわ!)
そこにハチエはパロちゃんを蹴りこんでいた。
『な、なにを――――』
「とりゃあ!」
ガキィ、と巨大な口の中でつっかえ棒となったパロちゃんに掴まりながら、雷を吐かれる前に、ハチエは左手の悪魔の実を喉の奥へポイと投げ込んだ。
――――――――ドクン。
ミラボレアスDXの巨体は一度だけ鳴動した。
ハチエはパロちゃんを引っつかんで即座に口を飛び出し、ハルマサの横に退避する。
ミラボレアスの変化は劇的だった。
ボロボロと鱗が剥がれ落ち、内側から輝く黄金の体毛が現われる。
バチバチと紫電を纏うその姿は、明らかに先ほどよりもランクが上の生物だった。
敢えて言えば、スーパーサイヤ人の限界を超えて、スーパーサイヤ人2になったと言うところだろうか。
恐らく光の速度で動く事が可能で、物理攻撃も無効。それなのに相手はこっちを殴れて、その上30メートルの巨体、三本の首という視野の広さ・リーチの長さは軽い悪夢ですらある。
だが、その時ハルマサが準備を終えていた。怪物となったボスを倒す準備を。
「行くよレンちゃん!」
「ギィ!」
ハルマサは床石の隙間に突き込んだ手から魔力を開放した。
直後、ミラボレアスDX雷バージョンの真下から、間欠泉のように水が吹き上がる。
それは覆いかぶさるように、ミラボレアスの巨体を包み込む。
(これで包めれば僕らの勝ちだ!)
しかし、相手はボスである。ギュバァと襲い掛かる水の牢から、一足早く逃げ出していた。逃げ出す先は、水の無い、上。
そしてそこには、既にレンちゃんが水の光線を放っていた。
いや、光線ではなく海そのものが具現化したような、大量の、水だった。
「ギィイイ!」
ゴバァ、と空に海を作る勢いで、レンちゃんの水が放出される。
それを避けるには、そう、蒸発させるしかないだろう。
―――――――ゴォオオオオオオオッ!
キィン! と一瞬光が瞬き、ミラボレアスの周囲の水が大量に気化する。
「ぉおおおおおおりゃッ!」
――――水操作ッ!
その水蒸気を掻き分けて、ミラボレアスの左右から巨人の腕が出現する。
巨人の腕は掌を広げ、ミラボレアスを押し包もうとし、また蒸発させられる。
ハルマサは血管が切れそうなほど集中し、次の手を模索する。水を操り押し包み、パッ、パッ、と光が走る。辺りが大量の水蒸気で覆われていく。
ハルマサは、敵の注意を、引きつけ続ければいいのだ。
こちらの本当の狙いは―――――
ハチエは弓を引き絞る。
巨大な弓だ。色は白い。
ギリリと絞られる弦は硬く、ハチエは歯を食いしばる。
ハルマサが水から作り上げた、水晶のように煌く矢を番え―――――待っていた。
―――――――集中。世界から音が消え、色が消え―――――
ハルマサが隙を作り上げ、ハチエが撃つのだ。
ただ、それだけで良いのだ。
「―――!」
隣のハルマサが叫ぶと同時、ミラボレアスDXの周囲から、水の針が無数に襲い掛かる。
その針の牢を凌駕する速度で、レンちゃんのビームがミラボレアスDXの体に到達し、その一帯が消し飛んで――――
―――――――今ッ!
カッ、とハチエは目を見開いた。ゴォ、とハチエは耳元で弦が震える音を聞く。
手という楔が外れ、指で挟んでいた矢が猟犬のように飛び出していく。
矢は、ハルマサが作った特別製だ。
―――――ジュッ!
矢は一瞬にして空を駆け、ミラボレアスDXの首を消し飛ばす。そしてそれだけで終わるはずも無い。
その細く美しい外見からは見取れぬほどに圧縮された水の矢は、内部の轟々と渦巻いていた水の流れを接触の刺激によって周囲へと開放した。
―――――――キキキキキキキィン!
それはウニの如く無数のトゲとなって円球状に放射され、ミラボレアスは断末魔を上げることなく消えうせる。ミラボレアスDXの頭上の数字が一気に減って、カチリと音をたて『0/600』へと変化した。
ウニのような水の彫刻が、地面に落ちて、ぱしゃん、と砕ける。
そして、上からリングが煌きながら、ゆっくりと落ちてきたのだった。
第三部・完
NEXT:閑話「逆襲の夜川」
<つづく>
ハルマサ:ハチエ:レンちゃん:パロちゃん=4:4:1:1
という内訳で経験値をゲット。
レンちゃん → レベル28に。
パロちゃん → レベル30のまま。
ハチエ ……Level up!
レベル: 29 → 30 Lvup bonus: 1342177280
耐久力: 805,253,784 → 2,147,431,064 ……★38,653,759,152
持久力: 1,341,914,214 → 2,684,091,494 ……★56,365,921,366
魔力 : 1,341,914,208 → 2,684,091,488 ……★18,788,640,416
筋力 : 1,341,914,211 → 2,684,091,491 ……★48,313,646,842
敏捷 : 1,341,914,218 → 2,684,091,498 ……★40,288,213,391
器用さ: 1,341,914,211 → 2,684,091,491 ……★8,052,274,474
精神力: 1,341,914,224 → 2,684,091,504 ……★88,575,019,632
経験値: 2,792,882,176 → 5,577,900,032 残り:5,159,518,208
ハルマサ ……Level up!
レベル: 28 → 30 Lvup Bonus:2,013,265,920
満腹度: 1,244,181,128 → 3,257,617,785
耐久力: 1,447,291,248 → 5,333,151,376
持久力: 1,287,881,348 → 3,301,318,004
魔力 : 2,337,040,708 → 90,694,079,418
筋力 : 1,808,144,867 → 3,821,472,819
敏捷 : 2,166,331,485 → 4,180,198,528 ……☆6,270,297,792
器用さ: 2,869,313,018 → 115,168,109,691
精神力: 1,039,928,461 → 3,053,668,954
経験値: 1,983,840,255 → 7,352,933,375 ……残り: 3,384,484,863
○スキル
魔力放出Lv33 : 937,822,011 → 48,291,032,843 ……Level up!
雷操作 Lv33 : 504,991,821 → 44,233,415,792 ……Level up!
魔力圧縮Lv32 : 737,829,075 → 39,728,391,033 ……Level up!
PイーターLv32: 541,029,823 → 37,290,918,273 ……Level up!
空間把握Lv32 : 701,827,391 → 29,380,192,382 ……Level up!
水操作 Lv32 : 817,291,002 → 24,389,037,281 ……Level up!
観察眼 Lv29 : 372,819,223 → 3,829,182,773 ……Level up!
金剛術 Lv28 : 98,796 → 1,872,693,004 ……Level up!
心眼 Lv27 : 620,933,765 → 1,298,372,809 ……Level up!
鷹の目 Lv27 : 87,192,093 → 689,273,922 ……Level up!
身体制御Lv25 : 191,023,942 →228,932,656
戦術思考Lv25 : 332,918,239 →333,392,812
風操作 Lv26 : 502,981,001 →503,381,270
空中着地Lv25 : 242,381,022 →242,601,820
撤退術 Lv26 : 472,091,883 →472,309,291
撹乱術 Lv26 : 401,928,301 →402,137,890
運搬術 Lv25 : 228,102,983 →228,289,080
<あとがき>
マリー&マルフォイ戦頑張りすぎて、ボス戦がしょぼくなった。
前にもこういうのあったような気がする。流石私だ学習しないぜ!
あと600って言う数値は死んだキングチャチャブーの数と一緒です。全然活かせてないね!
コメ返です!
>もう悪魔とか邪神とか這い寄ってくる混沌なアレとの領域に足突っ込んでそうw。
最後のが分からないんだぜ。でも下手な邪神なら即殺される領域なんだぜ。
>このヤマツカミの吸い込み、防げるか?
このコメを見て少し書き直したんだ。吸い込みのこと完全に忘れてた。やばかった。サンクス。
>あなたと――――――結婚したい
元ネタ見てないのです。よく知りもしないのにネタとして使ってしまう私は許されるのだろうか。というか許してください(切実)。
>ラ=グース
何のことか分からなかったので元ネタ調べてみたら、
壮大なSF陰陽忍者時代劇バイオレンスサイキックアクション怪奇ホラー格闘ツインテール僧侶漫画
となっていたのですげえ読みたくなった。時間がないって言うのに―――――!
>あれ、流れるじゃなくて浮かぶじゃなかったけ。
そうでしたね。あれですね。やってしまたぜ。あと骸骨はただ単に好きなだけです。
>最初から読みました。2日で読破。思ったよりも短かったです(ぇ
とてもありがたいです。こんな私のたわごとに反応していただいて。
そしてこんな私のssが誰かの2日間を吸収しているという……怖い! ネット怖い!
>Lv30のヤマツカミを一撃って、パロちゃん強ええww
ヤマツカミはクソとろいです。そしてパロちゃんのパンチ力がやばいです。そういうことにしました。
>ヤマツカミを食ったら歯並びがよくなりそうだwww
考えてなかった。しかし、歯並びが悪い主人公はいないと私は信じています。
>魔法少女ハチエさんの降臨を望みます。
ハチエさんに羞恥プレイをさせたい人は実は結構いるのでしょうか。羞恥プレイはカロンちゃんにさせとけばいいやって思ってたんですけど。
>パロちゃんのキャラが母ちゃんとカロンちゃんと桃ちゃんを足して3で割ったみたいになってる。ちゃんばっかだな。
確かにそうですね。そういう性格のキャラがすきなことが一目瞭然ですね。言われてから気づきましたが、個性ってどうすればいいのか皆目分からないです。
分からないのでこのままいってそのうち個性がつけばいいなって。
>ちなみにレベル上限って決まってるんですかね?
後付けで出てくるかもしれないです。今のところ主人公たちのシステムは50までしかあがりません。ほかの人は知りません。
>自分の書いてる小説の後書きのようなところで、この小説をオススメしたりしても構いませんか?
全く問題ないです。むしろこのssをネタとして使っても問題ないです。3次小説とかもありだと思います。誰もやらないだろうけど。
私がこのssを書くきっかけになったssとかもいつか紹介したいと思っています。
残念なことに既に消えちゃいましたけどね。