切り立つ壁の牢獄から、大陸に行くには一本道を通る必要がある。
しかしそこには超強いモンスターが居るのだった。
「基本的に正面突破は無理やと思うねん。」
「土の下はどう?」
【海の上を迂回すればよかろう。】
「土の下も海の上もちょっと……って、はぎゃ―――――――! なんじゃこりゃあ! かわ……可愛いな!」
復活し、話に混じってたカロンに、ハチエは過剰に反応した。
「ええと、カロンちゃんって言って、僕の……なんだろう?」
【守り神じゃな!】
なるほど。
胸を張るカロンちゃんにハチエさんはハァハァ言いつつ擦り寄っていた。
「な、なぁ、そのほっぺた触らせてくれへん?」
【こ、怖い! なんじゃ貴様は!】
「ちょこっと、ほんのちょこっとでええから、な?」
【さ、触るな! シャ――――ッ!】
指で触ろうとして、鎌で威嚇されている。
諦めきれない表情でカロンを見つつ、ハチエは呟く。
「ええなぁ守り神…。くれへん?」
なんてことを言うのだッ!
「ダメだ! あげないよ! これは僕のだ!」
【そ、そうじゃ! 我はこやつが気に入っておる! 離れるつもりは無い!】
カロンちゃん……!
カロンが嬉しいことを言ってくれたのでハルマサは即座に壊れた。
「僕はもう君にメロンメロンだよ! 結婚しよう!そうしよう!」
【ま、待て……!】
「ウチの入る余地はないんやね……。でもハルマサ。危ない人に見えるから程々にしときや。」
そうですか?
カロンちゃんは、【きょ、今日は帰る! また明日じゃ!】と言って帰ってしまった。
もしかして嫌われてしまったのだろうか。
すこし自重しよう。明日もしっかり呼ぶけど。
ともあれ、話を戻して、海の近くを通ることを嫌った理由について、ハチエさんが話してくれた。
「それは、少女ハチエが地面を掘った時のことでした……」
「……少女?」
「お肌とかプリプリやろ?」
「確かに!」
「それは美しい少女ハチエさんが健気に地面を掘って行った時のことでした……」
余計な修飾語をつけつつ、ハチエは話してくれた。
この下を掘ったのは割と早い段階のこと。おそらく十日は前だった。
穴が開通し、吹き上げてくる水にまけずに潜ったところ、ウルトラマンばりにデカイ蟹が仄暗い水の底からこちらを見ていたとか。
その半端ではないプレッシャーに、ハチエは危険を感じて戻ったらしい。
「十日前だったら、クエストの蟹とは関係ないねぇ。」
「そうみたいやね。」
どうせレベルは26だろう。
海から行くのは却下。
陸から行くのは端から却下。
「じゃあ空しかないね……うん?海? ……あ!」
ハルマサは「収納袋」に入っているモンスターの素材に思い至った。
「そうだ、ハチエさん。これで武器作れるんじゃないですか?」
ハルマサが思い出したのは、いつぞやにガノトトスを倒した時のドロップ。
「魚竜の重牙」という剛強さがウリの牙で、ソウルオブキャットの修繕に使おうと思っていたものである。
でも2号が良い感じに直してくれているので、もう必要無いのだ。
そしてハルマサが持っている素材はもうこれだけだ。
後は空腹時に全部食べてしまった。
もったいない。
ハチエさんの能力は、魔物を倒すか、魔物の一部を破壊することで武器を得られるもの。
だったらドロップを叩き壊しても良いはずだ。
「ハルマサぁ! あんたええ奴やなぁ! よっしゃ、ちょっと見ときぃや! ……でい!」
バキャーン! とハチエが拳で「重牙」を叩き壊すと、破片がモヤモヤと光り、一つに纏まる。
そして一枚のカードになった。
白い刃を持つ小振りの剣の絵の下に、説明が書いてある。
○「魚竜牙の投剣」(Lv13)耐久値:12288
魚竜種の重牙を削り出し、整形した投剣。その刃は、あらゆる甲殻種の防御を抜く。(でも砦蟹だけは勘弁な!)
筋力(+600%)、敏捷(+1200%)、器用さ(+800%)
「これ、ごっつ使えるんやけど―――――!」
うぉぉ、とカードを掲げて目をキラキラさせていたハチエだったが、くるりとハルマサに振り向いた。
「これ、ほんまに貰ってええのん?」
「うん。僕使わないし。」
投剣スキルも無いし。何より今のハルマサにはソウルオブキャットがある。
「口に咥えられるような小さい武器はすんごい貴重なんよ? ほんまにええのん?」
「ど、どうぞ?」
「返せ言うてもその時には唾でベタベタやで?」
「いやあげるから。」
「……分かった! んなら貸し1やで! 次なんかええモン手に入れたらハルマサ君に譲るわ!」
「え、いいよ。」
「遠慮せんでええよ? これは凄いものやねんから。」
「そこまで言うなら……カードを具現化する時に「存在せよ!」みたいなキメ台詞を叫んでほし」
「それはイヤや。」
結局あとで良いものを貰うことになった。
ハチエさんの指の中で、ジジジ、と端から燃えるようにカードがなくなっていく。
カードがなくなったときには、ハチエさんの指には、一本の短剣が挟まれていた。
「むぅ……やっぱ凄いわこれ。」
に、と笑ったハチエの口は、歯がいやにギザギザしている。まるで牙のような―――――
「ん? ああ、これか。」
ハチエは、武器の概念を体に発現するとか。
今は八重歯のように鋭い牙が生えているらしい。
ハチエは上昇値を確認した後、ぱん、と短剣を上下から挟むようにし、引っ付けた掌の間には、カードになった短剣があった。
まぁ戦力が少し増強されたところでラオシャンロンに敵うとは思えないのだが、ハチエは違うようだった。
ニヤニヤしつつカードを眺めていたハチエは、ハッと気付くと、ハルマサを見てきた。
「なぁハルマサ。自分なんでも出来るんよな?」
「ま、まぁ大概のことなら。」
ハチエはずい、と乗り出し、肩を掴んできた。
「武器作って欲しいねん。もしかしたら、一気にラオシャンロン倒せるかもわからんし。」
と、いうわけで。
「第1回! 武器生成祭り――――!」
「そ、それは第2回もやってもらえるッちゅうことやね!?」
「……さてそれでは、始めましょう! ここに取り出したるは」
「なんでスルーするん!?」
「この右手! そしてぇええええ、左手ッ!」
ババーンと口で良いつつハルマサは両手を広げる。
「錬・金ッ!」
バンと両手を地面につけると、そこから魔力を注入する。
硬そうな鉱石を集めて、それをギュッとね。
固めるのだ!
そしてズズズ、と地面から柄を浮かび上がらせ、ズルゥと引き抜く。
その大きさは、半端ではない。
柄の長さは1.2メートル。重さは数十トン!
「おおー! やるなハルマサ!」
「完成! とっても硬い「超合金Zハンマー」ッ!」
「超合金Zは言いすぎやろ。……どれ。」
ハチエさんは、自分が作った武器でなくてはカード化できないらしく、「超合金Zハンマー」の強さは持ってみないと分からないらしい。
「えらい重たいなァこれ。ん? おお? ……ダメや。」
ハチエさんが残念そうにハンマーを置く。
やはり、自分で作った武器でないとダメのようだ。
「残念や。……んでも、武器があるッちゅうことはそれだけでありがたいねん。ありがとな。」
結局、ラオシャンロンを回避して、大陸へと到達する方法について話し合うことになった。
<つづく>
ぐだぐだですんません。