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敵のレベルは「観察眼」によれば24。
ラージャンの上位種なんだから、速くて硬くて力強い、三拍子揃ったモンスターだろう。
十二体のモンスター、赤ラージャンは一斉に動き始めた。
――――――グォオオオオオオオオオ!
咆哮をする一体を除いて、全ての個体が、バチリと紫電を伴いつつ、疾走してくる。
何という初見殺し!
脚が止まったプレイヤーを皆でフルボッコにするんですね!
だが、甘い甘い!
僕には頼れるこの子が居る!
「カロンちゃん!」
【音吸いの鈴よ!】
―――――チリーン!
そして場には音が無くなった。この鈴は、鳴らすたびに音を吸う。
【この程度ならば、あと何発かは吸えるじゃろう。】
助かったよ! 戦闘中に耳をパタパタするのはイヤだからね!
「じゃハチエさん! ちょっと引きつけるから、数減らしてね!」
「うぇ!? 無茶振りやない!?」
「ハチエさんなら、きっと出来るよ!」
――――――――加速!
ギン、と間延びした時の中、ハルマサは逆に前に出る。
やはり、敵は疾い。
だが、僕の方が、もっと疾い!
「甲殻―――――――パンチッ!」
ズボォ!
「砦蟹の重殻左腕砲」を発現させ、殴りつける。
加速は疲れるから、持久力を消費する特技を使わないぜ!
勢いは十分についており、おまけに硬い拳の一撃は、赤ラージャンの剛毛による守りを抜いた。
そして持久力をあんまり使わない特技――――――――「水球」ッ!
ギュゴォ! と右手の上で渦巻く水流。
器用さに伴って威力の上がり続けるこれは、何時の時代も友達さ!
大きさは……僕の体より大きいぜ!
「ぬがぁああああああああ!」
ズギャ! と赤ラージャンの顔にめり込んだ水の一撃は、モンスターを回転させつつ吹き飛ばす。
死んだか!? ダメか!
だったら追い討ちだッ!
「レェエエエエエエエエエルガンッ!!!!!!」
キュボッ!
ありったけの電流を流して加速させた土の弾は、視認不可能な速度でラージャンに着弾し、目玉を貫いて脳に到達。後頭部を爆砕させる。
≪魔物を倒したことにより、20,971,520の経験値を取得! そしてお見事! レベルアップだぜぇ――――!≫
何故か桃ちゃんの声でレベルアップが告げられる。
「――――――っぷは! そろそろまずいね!」
加速を解除する。と同時、疲労が噴き出るが、そうも言ってはいられない。
何しろ、ラージャンが周りに10匹居るからね!
キラ、と視界の隅に光る線。
「回避眼」が見せてくれた攻撃予知線に従い、ハルマサは咄嗟に飛び上がる。
地面を擦るラリアットが足の下を通過し、しかし飛んでいるハルマサに向かってさらに攻撃が加えられた。
この時、雷によるスピードアップの起こっているラージャンたちの敏捷は2億1千万。
ハルマサ君には到底避けれません。
――――ドゴ、ゴ、ゴォン!
三体によるアタック、レシーブ、アタックの連続攻撃を一瞬の内に食らって、スーパーボールの如く跳ねたハルマサは、音速をブッちぎって地面に突き刺さる。
ここの地面は信じられないほど固いのだが、その硬さをハルマサ弾は楽勝で貫いて地面は陥没し、放射状にひびが入る。
しかし彼は死んでない。
一発目は左手で防御できたし―――――――――何よりカロンちゃんが居るからね!
【無茶するのぅ……】
クレーターの中、ハルマサの体の周囲を緑の膜が覆っている。折れた右手と右足がギュルンと再生する。
【というかお主であれば、もう自分で「守りの壁」くらい張れるじゃろうに。】
カロンちゃんに張ってもらうから、他の事に専念できるのだ。あとテンション上がる。
その時「心眼」が警報を鳴らす。さっきからずっと鳴ってるけど、一際激しくって意味で。
見れば、クレーターの上からは赤ラージャンの一体が、雷を纏って空中で回転しており―――――――これは第二層で死にそうになった特技か!
(こいやぁあああああああああああああああ!)
―――――――「剛力」「防御」!
ズギャギャギャギャギャ!
回転しつつ突っ込んできた赤ラージャンを、ハルマサは左手を突き出し受け止める。
ほんの数瞬で、掌の甲殻が削り取られて血が噴出す。歯を食いしばって耐えるハルマサは、腕を伝ってくる電流を「雷操作」で散らしつつ、右手は地面に魔力を流す。
―――――――土操作ッ!
ズガガガガガガンッ!
「ゴァアアッ!」
6本の柱が同時に右から飛び出して、赤ラージャンを殴り飛ばす。
ただ回転しているだけで僕を削ろうだなんて、横着さんめ!
のしかかるものが無くなったハルマサは素早く立ち上がり――――――直ぐにまた叩きつけられる。
周りに居るラージャンがもぐらたたきの如く、即座に叩いてくれました。
ちょっとくらい二足歩行させてくれても!
腕が千切れるかと思ったし!
「グルァア!」
岩の中に埋まっているハルマサを豪腕がさらに叩く。残像の残る速度で、よってたかってボッコボコの餅つき状態だ。
ドゴォ、ゴッ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴゴゴゴゴゴンッ!
左手がヤバイ! 甲殻は無事だけどなんか根元が!
肩が千切れる! 千切れるからァ!
ハチエさん、切実に問いたい。……まだですか?
(信頼しすぎやでハルマサ! やったろやないかい!)
ハルマサが突っ込んでから1秒後、ちょうどアタックレシーブを受けている時くらいにハチエは動き始めた。
射撃で遠くから仕留めるか?いや無理だ。
ハチエの弓では、大きいダメージは望めない。
ならばやはり隠密行動!
「石ころ帽子」を被り、「霞翼の風鳴剣」を握ると、ハチエは跳び上がる。
この広間の天井は高い。
約50メートルはあるだろうか。
その天井に取り付いたハチエは、上昇した筋力を余さず用いて、天井の岩を蹴りつける。
天井をへこませ、即座に地面へと跳ね返った。
狙いは咆哮をしていた一体!
(いぃぃぃぃぃやぁッ!!!)
落下の最中、手に持った片手剣を投げつける。
透明なハチエから投げつけられる剣を、誰が察知できるだろう。
だが、赤ラージャンは察知した。
「グルァア!」
ラージャンが後ろの飛びのいた直後、地面を陥没させる片手剣。
だが、問題ない。本命は次だし―――――――その位置は、まだハチエの間合い!
両手に持って具現化したカードは、長く長く伸びて、巨大な龍の剣となる。
「どっせぇええええええええええええい!」
ハチエは勢いそのままに叩きつける。
ゴボォ! と地面が直線状に割り砕かれ、しかしラージャンはそれすらも反応していた。
右腕を捨てながらも、避けて見せたのだ。
ブシッ! と無くなった右腕の付け根から赤い血を噴出しつつ、ラージャンは口を開く。
咆哮ではない。
そこに集うのは、圧倒的な雷撃だ。
――――――来る、雷の奔流が。
「――――――――オァアアアアアアアアアアア!」
パシッと前兆のような電光が見えた瞬間ハチエは動いた。
地面に突き刺さった巨剣から手を離し、代わりに地面に刺さっていた霞翼の風鳴剣を引き抜いた。さらにカードを具現化させる。「炎翼の飛翔弓」のカード。
概念を発現し、背中からブワリと生える紫色と炎の翼。
計4枚のそれは、ハチエの体を包み込み、彼女を守る壁となる。
直後彼女を巨大な雷の奔流が襲う。
―――――――バシィ!
ハチエは右側の翼を2枚とも焼き切られつつ、雷の奔流の横に躍り出た。
耐性を低くしたハチエは地面を蹴り砕き―――――走る。
「アバン―――――――ストラッシュ!」
この一撃はしゃもじで巨龍を切った一撃だ。
剣で使えば、まがい物といえど切れ味は十分!
ハチエはすれ違い様に、ラージャンへと、逆手に持った剣を叩き込む。
牙を断ち切り、口を引き裂き、ハチエの一撃はラージャンの頭を切り飛ばす。
同時に片手剣は砕けて折れた。
一瞬遅れて切断面から血が噴き出るが、ハチエがそれを見ることはない。
ハルマサが餅つき状態になっているのを視界の端で捉えたからだ。
アレはちょっと、まずくない?
(今、お姉ちゃんが助けたるでぇ!)
11体の怒れる雷獣が集う餅つき場に、ハチエは向かう。
巨剣を引き抜いて走るハチエの脳裏では、彼女のレベルアップが報告されていた。
<つづく>
赤ラージャンって正直どうなんだろう。
想像できるだろうか?
黒いところが赤くなっただけなんだけれども。
ステータスアップは次回。