<126>
シェンガオレンは先の戦いで一番活躍し、一番ケガを負っていた。
背中のヤドはまぁ命に別状は無いとして、左のハサミが折れてもげそうになっているのが痛々しい。
「……レンちゃんケガ大丈夫かなぁ。」
≪魔物は総じて回復力が高いので大丈夫だと思うのですが……。≫
―――――――――ギィ?
脚を折り曲げていることで、5メートルくらいのところまで下がってきているシェンガオレンの眼がクリクリと動いている。
こちらの視線を感じ取ったのだろうか。
レンちゃんはおもむろに、無事な右のハサミで、折れている左のハサミを掴み、
―――――――――ギィ。
ブチッと根元から引き抜いた。
「は?」
「うわぁ、痛そうや……」
ところが血は吹き出ない。
変わりに根元からは小さなハサミがぴょこんと飛び出してきていた。
≪あれが成長し、元に戻るということでしょうか≫
「なんや可愛いなあのハサミ!」
シェンガオレンは引き抜いたハサミを何故かハルマサに差し出してくる。
―――――――ギィ!
【あげると言うておるぞ。】
「言葉分かるの!?」
【主らの言葉が分かるのと一緒じゃ。】
へえぇ……。カロンちゃん凄いね。
まぁくれるというなら、しっかり貰って……食べますよ!
「レンちゃんありがとね! いただきまーす!」
「食うんかいな。まぁ、それをえぐいと思わんウチもウチやけど。」
で、ハルマサがハサミを食べはじめると、レンちゃんは凄い勢いで赤くなった。慌てて、大きな体を隠すように河へと潜り、眼だけ出している。
恥ずかしいのだろうか。
全部食べ終わると、サクラが報告をしてきた。
≪マスター。「ポケモンテイスター」のスキルレベルが上昇し、昇華しました。≫
(「ポケモンイーター」になっちゃったの!?)
≪イエス。好感度2.0のモンスターの部位を摂取することにより、その概念を高確率で吸収します。「概念食い」をあわせれば、ほぼ100パーセントの確率です。≫
■「ポケモンイーター」
ポケモンテイスターの上位スキル。
モンスターボールに捕獲したモンスターを服従させる
モンスターを舐めることにより好感度を測る
これらに加え、服従させている、好感度が最高のモンスターの部位を摂取することで、そのモンスターの力を得る事が出来る。力を得る確率は80~100%である。
[(スキルレベル)×(対象の好感度)-10]以下のレベルのモンスターを服従させることが可能。
本当に食べる能力だったのか………。
ということは今回のこのハサミも?
≪吸収しました。概念名は「砦蟹の重殻左腕砲」です。≫
◇「砦蟹の重殻左腕砲」
驚異的な密度の青い甲殻に包まれた左腕。ズシリと重く、扱いには相応の筋力を要する。発現時魔力を消費する。発現中、左腕耐久力を10倍し、全体的な敏捷がマイナス10%される。魔力を消費することで、掌の穴から「砲撃Lv27」を発射可能。
「砲撃Lv27を発射可能」ってあのレンちゃんの砲撃だろうか。危なくて放つ気が起きないんだけど。
ともあれ…まずは試してみるものさ!
「―――――発現ッ!」
ガキキキキキキキ!
肌から滲み出た魔力が、硬く硬く圧縮され、青く固まる。
肩から指まで覆った甲殻は、腕をふた周りほど太くし、タキシードの袖を弾き飛ばした。
ズシリとくるぜ!
【ふむ。】
「カッケェ……!」
「うはぁ、ごついなぁ」
指をカキカキと曲げてみるが、間接の内側は覆われておらず、普通に動かせる。
恐ろしいことに肘、肩、手首の稼動に不自由を感じなかった。
カロンちゃんがふむふむ言いつつペトペト触ってくるのが分かることから、痛覚も通っているらしい。
【ええ腕をもろうたの】
「ふふ、そうだね!」
「強そうやなぁ……」
―――――ギィ……
レンちゃんはいまだに水から出て来れないようだった。
滔々と流れる大河の水と、運ばれる土砂に育てられ、ハルマサたちのいる森では大きな樹が生えている。
その大きな樹をハチエが先ほどから断続的に倒していた。
メキメキメキ……ドシィ…ン!
階層が深まるにつれ、木とか石とかも徐々に硬くなっているとハルマサは思った。
でなければ、ステータスフィーバーが起こったハチエの蹴りで爆砕しているだろうから。
倒れた樹は、光になって一枚のカードとなった。
「でた?」
「んー。ダメや。んでもお菓子が出たで。ポッキーやって。」
【なに!?】
ハルマサとハチエは話し合い、何かしら良いアイテムが出れば、スタート地点に居たラオシャンロンを倒しに行こうということになった。
10枚出るまで自然を破壊し、スカばっかりだったら先に進む予定である。
ハチエさんとしてはもう一回「しゃもじ」が出て欲しいようである。
「カロンちゃんポッキー好きなの?」
【い、いやそれほどでもない!】
それほどでもありそうな反応を返してくれる。
ハチエさんが笑いつつ、箱を渡してくる。
「まぁハルマサにあげるわ。好きにしてぇな。」
「なんかさっきから貰ってばっかりで悪いなぁ。」
【そしてそれを食べるばかりの我は一体なんなのじゃ……】
カロンちゃんは落ち込んでいたが、チョコでコーティングされたポッキーをあげたら元気になった。
結局最後まで技を出せるカードは出なかったが、10枚目で防具が出たようである。
○「木製の盾」
(Lv7)耐久値:300
木製の軽い盾。軽いのでお腹の減りが遅くなる。錆びないが燃えやすい。
耐久値+300%、筋力+100%、敏捷+300%
「なんで盾持ったらお腹の減りが緩やかになるのん……?」
「さぁ……?」
永遠の謎である。
出たカードは、お菓子(ポッキー、バームクーヘン、小枝)、ペーパーナイフ、木彫りの人形、割り箸×3、ゴム、そして木製の盾である。
「ゴミばっかやん……。」
と、ハチエは嘆くが、実はそうでもない。
ペーパーナイフは厚さが5ミリ以下の物なら何でも断ち切れるし、木彫りの人形は「青眼の白龍」を1回召喚できる。
ゴムは他にあとパーツを11個揃えたら一度しか起動できないがエヴァンゲリオンになるらしいし、割り箸は一回だけ完全に衝撃が吸収できる。
「全部すごい効果付いてるし、良かったじゃない。特にこの人形とか。」
「そうやろか……」
ハチエは納得できないようだったが、とりあえず進路は塔への最短距離へと決定した。
大陸の中心に向かって、進むのだ。
<つづく>
木彫りの人形は、カイバーマン人形です。
ハルマサ君は手から凄いのが撃てるようになりましたが、魔力が全然足りません。
1発当たり魔力1億必要ですし。
「ポケモンイーター」Lv25: 127,655,089 → 176,873,021 ……New!