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【第三階層・挑戦2回目】
ヒュバババババ! と蝶ネクタイの無くなったタキシードが風にはためく。
風圧を受けつつ目を開くと、大陸を俯瞰する事が出来た。
上空から見る大陸の形はやはり錨型だった。
一度目にここに来たときよりも「鷹の目」スキルが上がっているので、遠くまでよく見える。
「なぁハルマサ。」
「どうしたのハチエさん。」
「ウチらをハエみたいに潰してくれたラオシャンロンどこ行ったんやろな?」
そういえばそうだ。
あのサイズで、あの位置だったなら影くらい見えても良さそうなのに。
「まぁその内分かるよ……分かるといいな」
「希望かい」
そんなこんなで、二人はスタート地点へと降りていくのだった。
【スタート地点】
第三階層で最初に降りるのは、三方を高い壁に囲まれ、大陸へと続く道を巨大なモンスターにふさがれている場所である。
そこには鬱蒼と多くの木がひしめいているのだが、その自然が今、破壊されている。
ハチエさんが地面に着くなり、そこらの木々を蹴り倒し始めたのだ。
なんというか、多感なお年頃なのかも知れない。
ついつい物に当り散らして、でもそれを後から後悔して、「ウチは何てアホな子なんや」って嘆いてしまうような―――――そんな感じですか?
「ちゃうわ! お前がアホや!」
ハチエさんは怒鳴ってきた。
どうやら彼女のシステムは、物を壊した際のアイテムポップ率も上がっているらしい。
よって何かアイテムを得るために木々を蹴倒しているだけで、ムシャクシャしている訳ではないらしい。
「お、出た!」
早速何か出たようだ。
○「割り箸」
(Lv0)耐久値:2
太い樹木から作られた木目の美しい割り箸。石油製の紛い物とは一線を画した使い心地。衝撃を一度だけ完全に吸収する。使い捨て。
耐久力+2%(←お情け)
「なんで割り箸やね―――――――ん!」
ハチエさんは、崩れ落ちた。
あ、でもほら、衝撃吸収するらしいし! 使えるじゃない!
「でも、割り箸やねんで……?」
「見た目に騙されちゃダメだ! 本質を、本質を見るんだ――――――!」
思わず叫んでいた。別に理由は無いけど。
「う、ウチが間違っとったわ……! よぅし、もういっちょ割り箸こーい!」
ドキャア!
ハチエさんの回し蹴りが三本くらい纏めて木をへし折る。
あ、また出た。
木の破片が一つにまとまりカードとなっていく。
「よぅし、今度も割り箸かぁ!?」
ハチエさんはもう、まともなモノが出てくるのを諦めているのではないだろうか。
だが得てして、探し物は探すものをやめた時に見つかるものだし、諦めた時にこそ!
○「しゃもじ」
(Lv0)耐久値:2
太い樹木から作られた綺麗なしゃもじ。なんとご飯が引っ付かない! 一度だけアバンストラッシュが放てる。
筋力+2%
「しゃもじぃいいいいいいいいいいいいいい!」
「ああ、ハチエさん……!」
ハチエさんはドリルさんばりのブリッジを見せてくれた。
そんなショックを受けなくても! アバンストラッシュ出せるよハチエさん!
「……ん? 頭で石砕いたみたいや。なんか出たで。」
僕らの頭はすでにダイヤモンド並の硬さだもんね。
○「石ころ帽子」
(Lv1)耐久値:5
存在感が薄くなる石製の野球帽。話しかけても「居たの?」って言われるようになる。
耐久力+50%、持久力+50%
「あれ、まともなモン出たで?」
「まともかなァ……」
耐久値低すぎない?
ハチエさんは心に癒えない傷を負ったのかも知れないと、ハルマサは思った。
取りあえず、海である。
前回と同じように、ラオシャンロンとは反対側から飛び出し、大きく迂回して今度は西側に回ることにした。
今度は前回の失敗を踏まえて高さ100メートルである。
「ええ風やなァ……」
「「風操作」で大分和らげているからね。」
ハチエさんはまた横座りしており、ハルマサはまた立っている。
風を魔力で操りながら、ハルマサは迷っていた。
そろそろカロンちゃん呼ぼうかなァ、どうしようかなァ……
でもまたカニに襲われたら魔力ある方が対処できるし、いやでもカロンちゃん居た方が対処は取り易いのか?
「なぁハルマサ。」
「どうしたの?」
ハチエさんが声をかけてきたので、考えを中断する。
「下からカニさんがめっちゃ見取るんやけど。」
本当だった。
前見たカニより若干白い。
まさか……!
――――――ギィ……
下のカニがそろりと手を伸ばしてくる。
その手には、さっきの死亡で取り落としていたハルマサの武器「セレーンの大腿骨」が!
どうやってか知らないけど、拾っておいてくれたらしい。
「き、君は……あの時の!」
―――――ギィ!
≪恐らく正解ですマスター。≫
「れ、レンちゃぁあああああああああん!」
「ちょ、ハルマサ!?」
ハルマサはソウルオブキャットから飛び降りた。
今、離れていた心は一つに……!
―――――ギィ…………!
シェンガオレン(砦蟹)のレンちゃんはハルマサの体を鋏で優しく受け止めた。
なんという包容力!
「ああ、今すぐ君をモンスターボールに入れてお持ち帰りしたい!」
≪マスター。現在のレベルですと、好感度が2.0であれば、傷つけずとも捕獲する事が可能です。≫
「ほんとに!?」
どれだけ懐いてくれているのだろうか。
鋏にしがみ付いてぺろりと舐めたら、青いカニ甲羅が瞬時に赤くなった。
照れているのかもしれない。
ちなみに好感度はマックスの2だった。
「ハルマサ……何時の間に手なづけたん? あ、この子が2層のクエストの?」
何時の間にか近くに来ているハチエさんが、声をかけて来た。
「そうみたいだよ。今からこの子をゲットするんだ!」
「そら、ごっつい頼りになるけど……ええんかなぁ。えらいズルしとる気分になるわぁ。」
ポケモンやっている時に、他人からレベルマックスのミュウツー貰ったような気分かな。
でも、この子は僕が育てたようなものだからね!
「まぁ良いんじゃない? 僕らがさっさと戦えるようになればいいんだし。」
「そやね。」
ポン、とモンスターボールを当てると、シェンガオレンの巨体が、小さなボールに収まった。
巨大な質量が消えた海はざざざと波が巻き起こっている。
取りあえず……
「レンちゃんゲットだぜ―――――――!」
こんな感じで、ハルマサのポケモンライフもドンドン充実していくのだった。
<つづく>
PテイスターLv18: 1926699 → 2438982(243万)