<122>
【執務室】
閻魔は書類に押印していた手を止めた。
「で、帰ってきたと。」
「………」
「いや、咆哮されて動けんようになったところをパチーン、てやられてん。」
調子に乗ってたんはあるけど、まいったでホンマ、とハチエは肩をすくめる。
そのハチエの横には、放心状態のハルマサが居た。
ハチエは居住まいを正すと、閻魔をじーっと見てきた。
「………相変わらず閻魔様はええ乳してはりますね。」
「見るな。目が怖い。」
「どうか触らせていただけまへん?」
「いつも言っているだろう。断る。」
「ここは、私をねぎらう意味で一揉みさせていただきたいッ!」
「口調を変えてもダメだ。」
ハチエは地団太を踏んで悔しがりだした。子供か。
「どうしてだめなんですか―――――! どういうことですかッ! ウチの乳が薄いのがそんなにダメなんですか!」
「貴様の胸はどうでもいいだろう……。」
いつも通り鬱陶しいな、と閻魔が思っていると、ハルマサが再起動したようだった。
「ハッ…!」
「おお、やっと目覚めたかハルマサ。いつもより時間がかかったのは何故だ?」
「なんでハルマサにだけ優しいんですか! ずるい! えこ贔屓やん! おっぱい触らせてぇな!」
「…もうお前だけ送って良いか?」
「きっと乳神様の胸触ったらウチの胸も膨れるんや―――――!」
「そんなわけ無いだろう……」
呆れている閻魔に、ハルマサが話しかけてきた。
「なんかゾンビ特性が消えちゃって、魂が迷ってたみたいです。コッチじゃない、って言ってくれた人が居て無事ここに来れました。でも………」
「でも?」
ハルマサはふらり、と床に手を付いた。
「頭の上にカロンちゃんが居ない喪失感が凄くて、動けませんでした……!」
それを聞いた私にどうしろと?
「自分カロンちゃん好き過ぎやろ。」
「ふふん! まぁね!」
ハチエのツッコミに対し、即座に跳ね起きて胸を張るハルマサを見て、閻魔は複雑な気持ちになる。
まぁ誰と仲良くなろうと、ハルマサが上手くやっているなら問題ないではないか。
なんだか胸がモヤモヤするが、それはまぁ置いておこう。
本題に入ろうとしてとして口を開こうとしたところ、ハルマサが閻魔を見ていた。
「あ、閻魔様も大好きですよ!」
突然そんなことを言う。超笑顔だった。
「調子のええやっちゃなァ……。」
「閻魔様のためなら、100回は死ねます!」
「それレベルやばいことになるやん。」
そうか。そうなのか。
うんうん、と閻魔は頷く。
なんか胸が軽くなったが、きっと気のせいだろう。
「ふふ、まぁハルマサはそういう奴だ。好きになられるのは別に嫌ではないしな。」
「……なぁハルマサ。閻魔様にフラグ立っとらへん?」
「ははは! まさか!」
フラグってなんだ? と閻魔は思ったが、取りあえず本題に入ることにした。
「おい、2号4号、今すぐ来い。帰ってきたぞ。」
『うぃッス!』
『かしこまりました。』
机の上の伝声管からここに居ない二人の声が聞こえる。
「2号さんと……4号さん?」
「なんかあるん?」
「二人に用事があるそうだ。」
閻魔がそう言うと同時、バタンと扉が開いて4号が飛び込んできた。
「ハチエ――――!」
勢いのまま飛び込んできた4号のタックルを、ハチエが受け止める。
「あ、ああ4号さん。元気そうやね。あとめっちゃ顔近ぅない?」
「とっても元気ですよ! そういうあなたは……あら、いい顔になってます! ハルマサさんがそうさせたのだと思うと、嬉しいような……嬉しいです!」
「悔しいとか言われんでよかったわ。」
ハチエは、すがり付いてくる4号の顔の近さに戸惑っていた。
相変わらず近い。ちょっと苦手。
4号は目を輝かせて、ハチエを見る。
「ハチエ、あなたのシステムって凄く強いですよね? 上昇値が掛け算されるなんてホントにやり過ぎだと思いません?」
「そ、そうやね。」
「……何でだと思います?」
「いや知らんけど。」
「またまた!」
「なにが!?」
ハチエの言葉をウフフ笑いで流して、4号はポンと手を合わせる。
「実は、レベルに上限があるのですよハチエさん。最大値が20までという設定で。」
「すぐそこやん!?」
「ハチエさんにそのシステムを使っていただいて、色々と問題点も見えてきました。……そこで!」
「そこで?」
「改良版です!」
改良とか出来るらしい。というかプロトタイプを積み込まれていたことに初めて気付いたハチエであった。
確かに、武器を使うことに特化してそうに見えて、実はトンファーキックを連発しないといけないシステムには疑問を持っていたのだが。
「なんと、2号さんとの合作です! 武器のプラス補正が掛け算で無く足し算になり、デスペナルティで武器がナマクラにならずに消えちゃうようになりますけど、きっと役に立つと思います!」
「それええトコないやん!?」
むしろそれだけなら最悪だ。ハチエは極限に弱くなるだろう。だが、4号は胸を張った。
「メリットは、武器以外も出るようになったことです! 防具とか出るようになりました! さらに自分よりレベルが高い武器でも装備できるようになりましたよ! もちろんレベルの上限も50まで上がってます!」
「………おお?」
「詳しくはシステムのナレーターに聞いたほうが良いですね。」
メリットとデメリットがハチエの中では上手く整理できていなかったが、4号の言葉にピクリと反応してしまう。
ナレーター?
「ナレーターさん付くのん!?」
「? はい。少し複雑になるものですから。」
「そんなんもうそっちに変えるに決まってるやん!もう人が悪いで!それ早ぅ言ってくれな!」
「??? ではシステムをアップグレードするということでよろしいですか?」
「もちろんや!」
4号はにこりと笑って「そうですか」と言った。
そして背中から巨大な注射器を持ち出した。
ハチエの顔が一気に青くなる。
「……やっぱナシにしてもええ?」
「ダメです。」
ハチエは逃げ出した。
しかし回り込まれてしまった!
「てい!」
「はぅッ!」
ブスッと首に刺されてハチエは気を失った。
なんで首やねん、と呟きながら。
「うわぁ……」
ハチエが首にぶッとい注射器を刺されて、怪しげな液体を注入されている光景をハルマサは恐々としつつ見ていた。
ハチエさんが片言で喋りだしたりしませんように、とだけ祈っておく。
手を合わせていると、後ろから声がかかった。
「あんまり見ないほうが健全な精神で居られると思うッス。」
「あ、はい。」
何時の間にか2号さんが来ており、ハルマサへと話しかけてきたのだ。
「そう言えば、2号。お前が渡したいものってなんなんだ?」
「それはこの! ゾンビ解除薬ッス! 徹夜で作ったッスからなんと5個も…」
「あ、ゾンビ特性もう消えちゃいました。」
からん、と2号さんの手から瓶が落ちる。
「い、今なんと……?」
2号さんは震えつつ、ハルマサを見てくる。目が動揺しまくっていた。
「ゾンビ特性消えちゃいまして。」
「ファ―――――――――――――――――――ック! 神は死んだッ!」
2号さんは頭を抱えると、地面に突き刺さる勢いでブリッジをした。というか突き刺さった。
「あまりそういうことを大声で言うな2号」
「大丈夫ですか……?」
『久しぶりの発現者なのに……もうッスか……』
「きっと徹夜で疲れているんだろう。そっとしておいてやってくれ。」
「はぁ……」
大丈夫かなぁ……
閻魔は、もう二人を送るだけ、となったところで、前回から気になっていたことを解決することにした。
「ハルマサ。ちょっとコッチに来い。」
「…?」
広い机を迂回して、ハルマサがやってくる。
閻魔はハルマサの首に手を回し、黒い蝶ネクタイをシュルリと外してやった。
うん。思ったとおりだ。
「やはり無いほうが似合うな。男前だぞハルマサ。」
「……!」
「いや、胸ばかり見るな。」
「は、はい!」
まぁ胸元を開くような服を着ている閻魔のせいでもあるのだが、こいつは少々見すぎな気がする。
穴があきそうだ。まぁ別に良いのだが。
閻魔はいまだに胸を見てくるハルマサの額をデコピンしつつ、席へと戻る。
いまだに意識を取り戻さず、ピクピクしているハチエを見つつ、閻魔は頷いた。
「それじゃあ、がんばって来るんだぞハルマサ。」
「はい!」
「ハチエもな………では、行って来い!」
バシューン! と二人はまとめてダンジョン入り口へと飛んで行った。
【ダンジョン入り口】
「サクラさん、あの暗い場所ってなんだったんだろうね。」
≪知識としてしかありませんが、恐らく地獄への最後の門です。カロン様が居たことからもほぼ間違いありません。≫
そうなんだ。軽く地獄に行きかけてたんだね。
「ゾンビ特性消えちゃったのが原因?」
≪はい。ダンジョンに挑む方にこのシステムが積み込まれたのは初めてのことなので、ケアが行き届いておりませんでした。申し訳ありません。ですが……≫
「ですが?」
≪あの場所を経験したことで、一つ新たな特性を取得しました。本来ならば、大量のアンデッドに囲まれなければ得られない特性です。≫
そんな状況にはなりたくないなぁ……
□「塞ぎ耳」
ひどく便利な耳の機能。あなたは外界の音を締め出す事が可能です。これで、ゾンビ供のうめき声も気にならない! うるさい小言もシャットアウッ! 相手は怒りで、メッラメラだぜぇ―――!
ネタ系の説明を見るとき、いつも頭に桃ちゃんの声が流れる。
システムの仕様なのだろうか。
≪アンデッドは生きているものの精神を削る声を発します。そのための対抗策として、2号様は組み込まれたのですが、今回は別のことに使えますね。≫
「咆哮対策だね!」
いいもの手に入れたぜぇ――――――――!
ちなみに、発動したら、耳が餃子みたいにパタンと閉じて、ちょっと気持ち悪いです。
で、ハチエのほうは。
≪あなたの頼れるパートナー、AIカエデです! よろしくお願いしますね!≫
「4号さんの声やんコレ……」
ハチエは脱力しつつも、まぁシステムナレーターが居ると助かるし、寂しゅうないからええわ、と思いなおす。
ハチエは自分のシステムの変化が気になったので、早速聞いてみた。
「それで、なんが変わったん? 防具が出るって聞いたんやけど。それだけ?」
≪他にも出ますよ! 武器や防具、お菓子や玩具まで!≫
「いや、後ろの二つ完全にいらんやろ。」
≪対価なしで、新しいシステムを加えることは出来ないのです!≫
そうですか。
≪それに、敵に関係あれば何でも出ます。むしろこのために色々出るようにしました。ハチエ様が耐久値の低い武器に悩むことは少なくなるのでは?≫
「あ、それは普通に助かるわ。」
「ハチエさーん! そろそろ行きませんか――!」
そうこうしている内にハルマサの用事も終わったらしい。
「行くのはええねんけど、ラオシャンどうする? また海飛んで行く?」
「正直あんな簡単にやられるなんて思わなかったし、賛成だね。もっと高く飛べば安全にいけると思うし。」
じゃあそういうことにしましょうか、と二人はキャシー(立て看板)に指輪を叩きつけるのだった。
<つづく>
展開が半端なく強引ですが、もういいや。直すの疲れた。
取りあえずハチエがトンファーキックの達人になるのを阻止したかったんだ。
ハチエ
レベル: 19 → 18 Level down Bonus:-666360
耐久力: 1309515 → 392252
持久力: 1309517 → 392254
魔力 : 1309510 → 392248
筋力 : 1309514 → 392251
敏捷 : 1309523 → 392258
器用さ: 1309514 → 392251
精神力: 1309530 → 392264
経験値: 2996013 → 1310720 残り:1310710
武器:ナマクラ剣×24、炎翼の飛翔弓、轟大鎌×2、轟剛鞭、轟竜の翼斧、揺らぎの短刀、銀鱗の鉄拳、月輪の大太刀
ハルマサ
レベル: 18 → 17 ……Lvdown Bonus:-327680
満腹度: 5936351 → 1961683(196万)
耐久力: 4596603 → 1432008(143万)
持久力: 5935127 → 1960704(196万)
魔力 : 23965437 → 9218360(921万)
筋力 : 30381400 → 11721885(1172万)
敏捷 : 25302341 → 9698132 ……★14547198(1454万)
器用さ: 30795704 → 11885926(1188万)
精神力: 12737189 → 4671286(467万)
経験値: 2132468 → 655359 残り:655360
スキル名
拳闘術Lv21 : 13984432 → 11187546
蹴脚術Lv12 : 28731 → 22985
両手剣術Lv18: 2098744 → 1678995
片手剣術Lv8 : 3071 → 2457 ……Level down!
槌術Lv8 : 3072 → 2458 ……Level down!
棒術Lv14 : 169932 → 135946 ……Level down!
鞭術Lv2 : 18 → 14
盾術Lv12 : 29774 → 23819
解体術Lv20 : 6836748 → 5469398
舞踏術Lv12 : 27483 → 21986
身体制御Lv19: 5893201 → 4714561 ……Level down!
暗殺術Lv12 : 40993 → 32794 ……Level down!
消息術Lv9 : 5387 → 4310 ……Level down!
突撃術Lv20 : 8008736 → 6406989
撹乱術Lv19 : 6029382 → 4823506 ……Level down!
空中着地Lv20: 9374806 → 7499845
走破術Lv8 : 2720 → 2176 ……Level down!
撤退術Lv19 : 4046789 → 3237431
金剛術Lv14 : 123495 → 98796
防御術Lv16 : 563820 → 451056
剛力術Lv20 : 9527334 → 7621867
天罰招来Lv10: 9450 → 7560
神降ろしLv17: 1518227 → 1214582 ……Level down!
炎操作Lv13 : 78190 → 62552
水操作Lv13 : 72813 → 61825
雷操作Lv20 : 9871112 → 7896890
風操作Lv19 : 5902234 → 4721787 ……Level down!
土操作Lv17 : 1578723 → 1262978 ……Level down!
毒操作Lv4 : 97 → 77 ……Level down!
魔力放出Lv21: 15209384 → 12167507
魔力圧縮Lv20: 8027739 → 6422191
戦術思考Lv20: 10638922 → 8511138 ……Level down!
回避眼Lv16 : 591283 → 473026
観察眼Lv19 : 6538290 → 5230632 ……Level down!
鷹の目Lv17 : 1159832 → 927866
聞き耳Lv12 : 50022 → 40018 ……Level down!
的中術Lv19 : 5109284 → 4087427
空間把握Lv14: 189023 → 151218 ……Level down!
心眼Lv16 : 729827 → 583862
洗浄術Lv2 : 13 → 10
折紙術Lv5 : 270 → 216
描画術Lv4 : 158 → 127 ……Level down!
調理術Lv2 : 14 → 12
布加工術Lv5: 232 → 186
水泳術Lv9 : 4534 → 3628
概念食いLv15: 293022 → 234418
PテイスターLv18: 2408374 → 1926699
□「塞ぎ耳」
ひどく便利な耳の機能。あなたは外界の音を締め出す事が可能です。これで、ゾンビ供のうめき声も気にならない! うるさい小言もシャットアウッ! 相手は怒りで、メッラメラだぜぇ―――!