<119>
「やっぱり腕についとる羽根やと戦いにくいなぁ。」
ハチエは戦い終わった後、そう一人ごちる。
モノブロスを倒したのは良いが、空中戦はやはり苦手だと再認識させられた。
だいたい、腕に獲物を持って戦うのに、その腕で飛ばないといけないって言うのが辛すぎる。
いや、このティガレックスの武器だからまだましかもしれない。
腕が完全に翼に変化し、指がなくなってしまう場合だってある。
でも飛竜とは、そういうものだ。腕が翼に進化した種なのだ。
理想は古龍の翼由来の武器である。
古龍は四肢とは別に翼を持ち、その翼を発現するハチエも両手がフリーになる。
「炎翼の飛翔弓」の元となったモンスターも古龍に分類される。
惜しむべきは、弓な点か。
剣とかだったら最高だ。
「あー、古龍落ちてへんかなぁ……。」
この戦いでも武器を手に入れたハチエだったが、時には高望みもしてしまうのだ。
「あ、ハチエさん。どうだった?」
「ん? そりゃああんた、バッチリやで!」
でも取りあえず親指は立てておいた。完勝には違いない。
ハルマサがポケモン使いにジョブチェンジした、というか魔物使いも兼任出来るようになったようだ。
「もう、出来へんことないんちゃう?」
「そうかも。あ、回復は……」
「出来へんの?」
「したくない。」
「出来るんかい!」
なんとも器用な少年である。
一点突破型の自分とは相性が良いのではないだろうか。
まぁ悪くても離れる気にはならないが。
なんか居心地良いんよねぇ、とハチエは目を細めた。
【ふむぅ。この猿、えらい懐いておるのじゃな。うぃ奴よ!】
カロンちゃんが嬉しそうに言う。
9時になったので彼女を呼び出したのだ。
昨日の事があって気まずいかと思ったけどそんなことも無く、カロンちゃんは無邪気に喜んでいる。
その笑顔に癒されるね!
で、懐いているお猿さんはドドブランゴ亜種である。
君に決めた! とドドブランゴ亜種、名前は「白ヒゲ」をボールから出したら、何故かハルマサに服従していたのだ。
サクラに理由を聞いてみたら、モノブロスが倒れた時にレベルが12になってしまった事が関係しているのではないか、と言っていた。
じゃあ正面から殴り合って友情が深まったということにしておこう。この猿オスだし。
でも、やっぱり融合素材の片割れがいないと強さは元に戻っちゃうんだね。剣は持ったままだけど。
いやまてよ? じゃあ、モノブロスを捕まえて一緒に出せば、また竜騎士ドドブランゴが爆誕するのでは?
「よし、モノブロスも捕まえよう!」
「別にええねんけど、この「白ヒゲ」の食事ってどないするん? アホみたいに家計を圧迫しそうな体格しとるねんけど。」
確かにエンゲル係数が跳ね上がりそうだね……。
≪モンスターボールの中では、時の流れは遅く、さらに捕獲された者は仮死状態となります。活動時間に見合ったエネルギーを補給してあげれば、活動に支障はないと思いますよ。≫
また2号さん無茶を……。
【ぬ、おいハルマサ。なんぞ奇怪な猿がおるぞ。】
となりでノシノシ歩くドドブランゴの頭に座っていたミニカロンちゃんが、声をかけてくる。
「奇怪?」
「ほら、あれちゃう? あの、空中に浮かんどるドドブランゴ。」
ハチエさんが指差す先には、凄く遠くだが、確かに変な格好で浮かんでいる猿が見える。
腰の辺りを引っ張り上げられて宙吊りな状態だ。だが、その吊り上げているものは見えない。
確かに奇怪。
「………そう言えば、モンハンって消えるモンスターおらへんかった?」
「ああ、古龍の……なんだっけ?」
応えはハルマサの中から返ってきた。
≪オオナズチですよマスター! 別名「霞龍」と呼ばれるモンスターです!≫
「あ、それだ!……というかサクラさんモンハン知ってたんだね。」
≪はぅ……! お恥ずかしい……!≫
お恥ずかしくは無いと思うけど。
ハチエさんも知っているし。
「サクラさんかー。ウチもそんなシステムナレーターが欲しいわぁ。」
「いると居ないじゃ大分違うだろうね。サクラさんがいないと僕はもうダメかも。」
≪マ、マスタぁああああああああああッ!≫
【……一言いいたいところではあるが、ハルマサよ。この猿を抑えるのもそろそろ限界じゃ。仲間を助けたくてウズウズしておるぞ。】
カロンちゃんは、どうやってか知らないが白ヒゲを止めていてくれたらしい。
ありがたい。
でも白ひげレベル低いからなァ……傷も全然治ってないし。
せめて竜騎士になってもらわないときつそう。
二の舞になる姿がありありと想像できるよ。
「ゴメンね。あの猿は僕たちが助けるから、少し待ってて!」
「よっしゃー! 羽千切って飛べる剣ゲットするでぇ―――――――!」
【ぬ、我も行くぞ!】
「……グルゥ。」
まぁ服従しているハルマサに待てと言われれば、待つしかないわけで。
一気に走っていった三人に、お座りした白ヒゲは切なそうな視線を送るのだった。
折角消えられるのに、獲物をぶら下げてたのがオオナズチの失敗だったのだろう。
ぶっちゃけ良い的である。
あと100メートルといったところで、カロンが宣言した。
【最近呼び出されても何もしとらんからの。ここは少々我に任せぃ!】
カロンはやる気満々に、ハルマサの頭の上で怪しげな呪文を唱える。
ぐん、とハルマサから魔力が吸われていく。
「おふっ!」
【―――――――生と死の砂よッ!】
途端、吊り上げられているドドブランゴの上で、ピシリ、と大気に亀裂が入る。
その隙間から、ざぁ、と黒い砂が漏れ出した。
なんと禍々しい色か。
「カロンちゃん………凄いぜッ!」
【まぁの!】
カロンちゃんが薄い胸を張ってふんぞり返る。
「ドドブランゴ巻き込まへん?」
【そこいらの盆暗と同じに見るでないわ。それくらいちゃんと考えておる!】
「お、おおー。なんとも魔法チックやねぇ。」
黒い瘴気を放つ砂はドドブランゴをしっかり避けてその周り、見えないモンスターの体を這いずるように纏わり付く。
――――――――キロロロロロ……
珍しい鳴き声をあげつつ、モンスターはドドブランゴを取り落とし、そして姿を見せた。
「でか!」
「30メートルくらいあるね。」
紫色の翼が生えた、カメレオンみたいなモンスターである。
額には尖った短刀のような角が生えている。
レベルは20。
――――キロロロ……ロロ……グフゥ……
しかしもう死にかけだった。
頭を支えるのも辛いようで地面に横たわっている。舌がダランと口から漏れていた。
効きすぎだよカロンちゃん。
≪魔力を500万ポイント使用しただけあって、効果が凄いですね。≫
それって満タン状態の3分の1じゃない?
「あ、ちょお待って、殺したらあかんでぇ!」
【心配せずとも、「老い」で弱らせておるだけじゃ。】
「おお、そうなん!? そぃじゃあ、お姉ちゃんは部位破壊してくるわ! ハルマサは後からゆっくりきぃやー!」
空を自由に飛びたいねーん! と自称ハルマサのお姉ちゃんは走っていった。
で、よぼよぼになったオオナズチの翼に執拗に攻撃したハチエは、二枚目を破壊してようやく欲しいものが出たらしい。
「たはー! ええモン手に入れてもうた――――! ウチもうこれだけでええくらいや!」
「あの、ハチエさん、早く止めさしてあげないとオオナズチが可哀相で……」
「あ、そやね。」
サクーン! とハチエが止めを刺した時、キョェエエ、とオオナズチはないて、少し耳に残ったハルマサだった。
「どんなのが手に入ったの?」
「ふふー。まぁ見てぇや!」
○「霞翼の風鳴剣」(Lv20)耐久値:681万
オオナズチの翼から作られた片手剣。軽いが硬い。鋭く振ると、風を孕んで輪郭がぼやける。風属性。
耐久力+700%、持久力+400%、魔力+600%、筋力+600%、敏捷+1000%、器用さ+700%
○「揺らぎの短刀」(Lv20)耐久値:628万
オオナズチの角から削り出された短刀。光を屈折し、刀身を見えなくする。硬い。
耐久力+700%、持久力+400%、筋力+600%、敏捷+1300%、器用さ+1000%
紫色の柄の二つの武器である。ハチエさんは色は気にならないのか、非常に上機嫌だ。
「実はハルマサにもろうた投剣、さっき思いっきり噛んでもうて、もう壊れる寸前やッたんよ。ちょい長いけど、短刀手に入ってホンマ嬉しい! 翼も手に入って最高やないか! 運が来とるでぇ!」
カードを眺めてニヤニヤしているハチエさんを見ながら、そろそろお昼にしようかなぁ、とハルマサは考えていた。
<つづく>
前回忘れていたモノブロス亜種の武器は以下。
○白銀の螺旋槍Lv19
角を用いた巨大な槍。螺旋の溝が、投擲時に貫通力を増大させる。使いこなすには強い力が必要となる。
○銀鱗の鉄拳Lv19
白銀の堅殻を大胆に使用した、拳を守る堅固な手甲。拳の軌道が銀色の帯となって描かれる。
○月輪の大太刀Lv19
輝く刀身が弧を描く、美麗な野太刀。重心が先端に近く、遠心力を生かした攻撃に有利。