ハルマサは敵の連携に苦しめられていた。
二匹はまるで一匹の獣のように、互いの隙を庇いあい、攻撃してくる。
人馬一体ならぬ獣竜一体。
それを見ていると、ハルマサは第二層で一方的に操り、最後はポイ捨てした金火竜、金ちゃんの事が思い出されてくるのだった。
「見ていると悲しくなるから……もう終わらせるよ!」
ハルマサは必殺技の一つを開放する。
その技を―――――「ごり押し」と言う。
(「濃赤の沸血」発現ッ!「剛力術」発動ッ!)
ボコォ、と筋肉が膨れ上がったハルマサは、沸騰する血液で荒くなる呼吸を吐き出し、足に力を込め――――――走った。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
手には、漆黒の大剣、ソウルオブキャット。
もうスピードなんか必要ない! 全ては……筋肉で決める!
スピードなんかいらないと言いつつ、ハルマサのスピードはかなり速い。
地面へと降り立っていた竜騎士ドドブランゴへ、高速で迫る。
ハルマサは彼我の距離、200メートルはある道のりをほぼ一瞬にして踏破し、手にした大剣を振り下ろした。
「くらぇえええええええ!」
ドゴォ!
剣はぶつかり、あたりの砂を巻き上げる衝撃波が生まれる。
しかし、ダメージは通っていない。
ハルマサの渾身の一撃を、モノブロスの背から飛び降りたドドブランゴが、剣で受け止めていた。
「グルゥウウ……!」
ドドブランゴの腕が、肩が、背中が、3倍ほどにも盛り上がっている。
(こいつ、特技を使っているのか!?)
「グォオオオオオオオオオオオオ!」
「―――――くっ!」
ごり押し作戦は既に失敗しているような気がするハルマサだった。
ハチエは、翼が生える武器が好きだ。
意志のままに動く翼は、ハチエにこの上ない自由を感じさせる。
しかし、今はそれ以上の自由を感じてもいた。
仲間が居ることによってである。
ハルマサの存在は、彼女にとって既に唯一無二。
彼がいるお陰で、これまで我慢するはずだったダンジョン探索が、楽しくて仕方なくなっている。
見ろ、今も自分の体格の何倍もあるドドブランゴを相手取り、なんと力比べをやっている。
アホじゃないかと思う反面、その我武者羅な姿勢を好ましく思う。
そして、モノブロスがノーケアなのはハチエを信頼してるから?
(ははっ! ええで! 応えたろやないか!)
ハチエはキリリと弓を引き絞る。
この弓の名は「炎翼の飛翔弓」。
矢は自らが生きているように飛んでいく。
ボボボボッ!
弦を引き絞るハチエの指の間、挟んで持った4本の矢が燃え上がる。
(―――――行け!)
―――――キュオ!
二人の勝負に、余計なチャチャを入れようとする銀色のモノブロスに向かって、4本の弓を解き放つ。
狙うのは体ではなく、鼻面だ。
どうやら炎は効きにくいようだが、牽制に使うならば問題ない。
こちらの矢に気付いたモノブロスは翼を開いて急停止する。
その間に、ハチエは翼で空を打っていた。
バァン! と炸裂するような音とともに火の粉の筋を描き、ハチエは急降下する。
まるで隕石のような、突撃だった。
その手には、手に入れたばかりの大剣がある。
ティガレックスの牙から作った「轟大剣」。ハチエの牙は太さと鋭さを増し、咥えた短剣に突き刺さる。
あかん、これちょっと力入れたら噛み砕いてまうな。
「ぬぁああああああああああああッ!」
だからハチエは、咆哮しつつ、切りかかる。
ゴキィ! とモノブロスの頭を叩き落し、しかし大剣もその力に耐え切れないのか、鋭いはずの刃が欠ける。
別に良い。こいつを倒して、新しい武器を手に入れる!
ハチエは口から零れた短剣と、左手の弓をカードに戻す。遠くからチマチマ狙い撃つのはもう終わり。
(ウチには、もう一つの翼があるんやで!)
彼女が取り出したのは「轟竜の翼斧」。彼女の腕から、メキリと翼が伸びてくる。
大斧と大剣を装備して異形となったハチエは、一つ咆えると、モノブロスへと飛び掛った。
マッスルハルマサと、マッスルドドブランゴ。
二つの剛力が、剣を挟んでぶつかり合う。
ギリギリと軋むのは互いの腕の骨格で、二振りの剣はビクともしない。
相手の剣も特別製だ。どうせ神の作った物だろう。
ドドブランゴ亜種は目を見開き、牙を食いしばって剣を押し付けてくる。相手も必死。
「グルォ、オ、オ、オ、オ、オ!」
「負、け、る、かぁああああああああああああ!」
ハルマサは、一気に力を込める。
肩と背中から魔力を噴出し、その代償に血液が飛ぶ。
皮膚とタキシードを突き破って魔力を放出しつつ、鼻血が出るほど歯を食いしばっていた。
しかし、どうしても向こうの方が上背がある。
筋力の差で拮抗できているが、やがてこのバランスも崩れるだろう。持久力の減りがヤバイ。
チラ、と見ると、ハチエがモノブロスを引きつけてくれている。というか圧倒している。
負けてられないねッ!
ハルマサは博打に出た。力を抜いたのだ。ゴ、と迫る剛剣が、ハルマサの額を割ろうとし――――
ぐり、と体を左にずらすのが間に合った。
ハルマサの右側へとソウルオブキャットを巻き込んで巨剣は突き刺さるが――――ハルマサは既に手を離している。
ハルマサは、ココしばらくの戦いで、自分の手がよく壊れることに気付いていた。
でも壊れるのなら、強化すれば良いのでは?
「――――――ぉりゃあ!」
―――――ゴッ!
ハルマサの左のアッパーが、ドドブランゴの顎を跳ね上げる。
そして返しの右を、鼻面へと叩き込む。
鼻の血管が切れたのか、ドドブランゴから血飛沫が舞う。
―――――――はは、全然痛くない!
両手は魔力の膜に覆われていた。硬く「圧縮」した魔力の5重層だ。
ハルマサはギ、と拳を握り、呼気を吸い―――――――――叫んだ。
「オォオオオオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッ!
驚異的な速度の連打は、一繋がりの音を出し、ドドブランゴの顔面をしこたま打ち据える。
≪新特技「鉄腕連打」が発動しています。発動限界時間はあと2秒、1秒……≫
――――――ゼロ!
サクラの声と同時、ハルマサは跳び上がっていた。
アッパーで跳ね上がったドドブランゴの頭を見据えて右肩を引き、そして寸暇の間も置かず、拳を叩きつけた。
「―――――だあッ!」
ドゴォ! と上から殴りつけ、ドドブランゴの巨大な頭を地面へと埋める。
砂が噴き上がり、ハルマサはそれに煽られてバランスを崩し、落ちた。
(す、凄い疲れる……!)
ステータスを見ると、持久力はあと100も無い。
恐ろしい消費量だ。
もう、腕を上げるのもしんどい。
さっさと「沸血」「剛力」を解除する。
相手は瀕死だ。あと一発で良いのだ。
「これで―――、……まてよ?」
歩み寄り、拳を握ったハルマサは、最後の力を振り絞ろうとして、良いことを思いついた。
目の前でピクピクとしている牙獣は今瀕死。
だったら、出来る事がある。
そう。
「モンスターボ――――――――ルッ!」
袋から取り出す紅白のボールは、日光を受け、ピカピカ輝く新製品!
それを、ハルマサは躊躇せずにドドブランゴに叩きつけた。
すると、ビカー! とドドブランゴは赤い光に覆われ、ボールの中へと吸い込まれてしまった。
吸い込んだボールは、ピクリとも動かない。
「……? これでいいの?」
≪マスター。新たなモンスターを手に入れました。名前をつけますか?≫
「おお……! モンスター、ゲットだぜぇ―――――――!」
彼の記念すべき一匹目は、ドドブランゴ亜種となった。
ちなみに名前は顔が青いのにヒゲが白いので「白ヒゲ」にした。
<つづく>
ハルマサ
満腹度: 4998998 → 5936351(593万)
耐久力: 3173150 → 4596603(459万)
持久力: 4997774 → 5935127(593万)
魔力 : 14943283 → 18449357(1844万)
筋力 : 22251486 → 30381400(3038万)
敏捷 : 22227882 → 25302341 ……★37953512(3795万)
器用さ: 27571986 → 30795704(3079万)
精神力: 10894924 → 11406354(1140万)
○スキル
拳闘術 Lv21: 11289421 → 13984432(1398万)
剛力術 Lv20: 7011942 → 9527334(952万)
PテイスターLv18: 268473 → 2398492(239万) ……Level up!
突撃術 Lv20: 6009234 → 8008736(800万)
魔力圧縮Lv20: 6097724 → 8027739(802万)
両手剣術Lv18: 187232 → 2098744(209万)
身体制御Lv20: 4228301 → 5893201(589万) ……Level up!
魔力放出Lv20: 8117245 → 9693304(969万)
土操作 Lv18: 73742 → 1578723(157万) ……Level up!
空中着地Lv20: 8274821 → 9374806(937万)
的中術 Lv19: 4082993 → 5109284(510万)
心眼 Lv17: 178202 → 729827(72万) ……Level up!
回避眼 Lv16: 75832 → 591283(59万) ……Level up!
戦術思考Lv21: 10127492 → 10638922(1063万)
防御術 Lv16: 63322 → 563820(56万) ……Level up!
観察眼 Lv20: 5589422 → 6039201(603万)
鷹の目 Lv17: 908731 → 1159832(116万) ……Level up!
解体術 Lv20: 6782911 → 6836748(683万)
撹乱術 Lv20: 5992011 → 6029382(603万)
撤退術 Lv19: 4017992 → 4046789(404万)
空間把握Lv15: 167492 → 189023(18万)
蹴脚術 Lv12: 20483 → 28731(2万)
◆「鉄腕連打」
魔力によって鋼鉄と化した拳を連続で叩きつける技。拳の耐久力は、「魔力圧縮」「土操作」によって変化。使用中は耐久力、筋力、敏捷が増加し、持久力が25倍の速度で減少する。任意の時間で終わらせる事が出来る。