そろそろこの話を赤松版へ、偽ラクス様をその他版へ移動させようかな?と思っております。
「そうか……上手くやっているようじゃの? フェイト君は」
夕暮れに染まりつつ在る麻帆良学園女子中等部の学園長室にその声は厳かに響いた。
見た目は仙人かぬらりひょん。中身は更にたちの悪い何か……もとい巨大な麻帆良学園の最高責任者にして最強の魔法使い 近衛近右衛門。
「はい……順調過ぎるほどに順調です」
答えるのは向かい合う形で立つ源しずか。手に持った資料を捲りながら、その人物に対する評価を読み上げていく。
「教師たちからの評価は『なぜ子供が教師を?』という物を除外すれば、おおむね良好。
教え方などの技術面から必要な事を伝える能力まで大きな問題なし。
あの新田先生すら『一を教えれば五を理解する』と太鼓判を押しています」
次の紙を捲る→生徒からの評価のページ。
「生徒からの評価も一英語教師としては全く問題ないレベルです。
『分かり難い部分を伝えれば、次の授業では分かり易くなっている』などの学習改善能力も高い。
『子供先生、テラカワイイ』とか『なんという綾波レイ』とか『はう~お持ち帰り~』などの意見は無視して構わないでしょう」
最後のページ。そこに刻まれた文を読む一瞬、しずかの顔が歪んだ。
ある程度は予想していたが実際に目の前に刻まれると心に鈍い痛みが響く。
そんな感想すら当の本人は鼻で笑ってしまいそうなのだが……口から零れる。
「教師・生徒に共通する否定的な意見としては『人形みたいで気味が悪い』が挙げられます」
それを聞いた近右衛門は髭を撫でながらため息。
「ふ~む……こればっかりは中々の~」
「しかし、そんな評価を計算に入れても優秀であることに変わりはありません……私は合格点を上げても良いと思います」
そんなしずなの声に面白い物を見るような優しい声色で麻帆良を総べる妖怪は問う。
「ほっほっほ、君は彼の事が苦手だったのでは無かったのかね?」
そう聞かれたしずなは思い出したような困った微笑を浮かべて、こう返した。
「何時でも淡々としている彼を見ていると、わざわざ意識している自分がバカらしくなってしまって」
「なるほどの~さて……そんなフェイト君にはもう少し丸くなって欲しいの~だから試練を追加じゃ!」
もの凄く楽しそうに『試練』とやらが刻まれているだろう封筒を差し出すぬらりひょんに、しずなは内心で大きなため息をついた。
「なるほど……」
態度だけでその少年 フェイト・アーウェルンクスは『大きな問題は無い』と宣言しているようですら在った。
たとえどんなに難易度が高い試練 例えば『攻撃魔法1000種類習得』とか『闇の福音一人討伐』などと示されていても、その表情は変わらないのかもしれないが。
「見ても良いかしら?」
興味を惹かれたしずなは渡したばかり、なおかつ開かれたばかりの手紙を覗き込む。
そこには随分と達筆なお茶目な文字列が綴られていた。
『ふぇいと君へ
次の期末試験で二―Aが最下位脱出できたら
正式な先生にしてあげる♪』
それを見たしずなは『なるほど』と頷く。ただ授業を教えるだけでは『あの』二年A組を今までより良い成績を取らせるのは難しい。
それこそ一歩や二歩、踏み込んだ付き合いに基づく勉強なんかをさせなければならないだろう。
『人形みたいで気味が悪い』などと悪評があるフェイトがその態度を改善するには絶好の機会だ。
あんなに楽しそうだった学園長もやっぱり少し位は色々と考えているらしい。
「なるほど……」
何か納得したようなフェイトは続ける。
「どうやらここの魔法使い達は僕をすぐにでも追い出すつもりは無いらしいね」
しずなは身震い。背筋が冷える。躊躇い無く口から零れる躊躇い無い悪意=冷静な評価。
心臓に悪い言葉が妙に清々しく感じる気がする自分を発見する女教師→自己嫌悪。
そんな彼女の様子を横目で捉えつつ、フェイトは帰りのホームルームを行うべく、2Aの教室へと歩を早めた。
「期末テストが目前に迫っている事はみんな承知の事だと思う」
フェイトがそんなホームルームでそんな事を言った。
「そして僕も担任をやっている以上、過去にこのクラスが行ったテストの成績表にも目を通した」
何時もならば本当に必要な事だけを告げて、さっさと退室してしまう子供先生が長々と語る口調。
クラスの誰もが物珍しそうに聞き入る態勢。
「お世辞にも『成績が良い』と断言する事は不可能だった。どちらかといえば悪い。常に最下位というのは逆に難しいと思う」
クラス内を満たすのは何故か大きな笑い。笑い飛ばす者は笑うしかないし、頭を抱える者は沈黙を選ぶ。
「学生であるが故に勉学に励む事は義務であり特権だと僕は考えているけど、それは万人に当て嵌まる事ではない。
例え何年に鎌倉幕府が成立しようと、今日の夕食が食べられなくなる訳でない。
いくら最も軽い元素が水素であると理解していても、明日から世界が平和に成りはしない。
ギリシャ神話の怪物メデューサが三姉妹である事実なんて、未来を生き抜く一助になるとは思えない」
それにしても珍しいと大部分の生徒はとても貴重な口数が多いフェイトに見入っていた。
「だけど、今回に限っては違う。危機迫った事態だ」
「「「「「「「「?」」」」」」」」
全く危機など感じさせない何時も通りの口調で、首を傾げる教え子たちにフェイトは告げた。
「次のテストでこのクラスが最下位だった場合、僕は教師を辞めなければならない」
数秒の沈黙。
「「「「「「「「……えぇええええ!!」」」」」」」
そして大爆発。質問の声が無数に飛び交う中、それを手で制すとフェイトは続けた。
「さっきも言った通り、テストで出る知識なんて実際の生活で役に立つ事の方が少ないだろう。
中国の古文を読めるようになるなら、木の年輪で方角を読む方法を知っていた方が役に立つ。だけど今回は違う」
ほんの少しだけ、感情と表情が豊かな人と比べればあまりにも小さな変化。
あの変わらない表情の子供先生が僅かにだが悲しそうな顔をしたのである。
「僕はもう少し、具体的にいえば君たちの中学卒業までは『ここ』に居たいと思っている。
君たちと一緒に居たいと願っている。最下位脱出は難しいかもしれないが、不可能ではないはず。
どうか助力を」
悲しみから憂い、そして懇願の色。あの鉄面皮が、全く子供らしくない子供先生がそんな顔をする。
これはもうそれだけで感受性豊かなお祭りクラスは大騒ぎである。
「みなさん! 次の期末は必ず最下位脱出ですわ!」
手が心配になるような音を立てて雪広あやかが立ち上がり、クラスを一喝。
「よ~し! 頑張っちゃうよ!!」
次々と上がる同意の声。『子供先生』などという楽し過ぎるネタを離したくない群れは次々と裂帛の声を上げる。
そして誰もが声を揃えた。
「「「「「「特にバカレンジャー!!」」」」」」
『レンジャー』……軍隊か何かかな? もしくはジャパンの特撮?
聞き慣れない言葉にフェイトは首を傾げつつ、戯れに似た非難の言葉を浴びせられている五人を発見。
神楽坂明日菜、佐々木まき絵、長瀬楓、古菲、綾瀬夕映……確か成績で常に右端(ビリ)をキープしている五人。
もはや人外の域に達している天才二人を含む成績上位数人を有しながら、このクラスが万年最下位に甘んじている原因の大きな一つだろう。
「あそこを何とかしないとダメか……」
フェイトのそんな呟きは大騒ぎのクラスの渦へと掻き消えた。
「これはエライ事です……」
綾瀬夕映はなし崩し的に突入した放課後の大勉強会の休憩時間に、訳の分からない名前のジュースを啜りながら絞り出すように呟いた。
まさか勉強嫌いがこんな所で足を引っ張るとは……クラスの足、もしくはフェイト先生の足、もっと言えば……
「夕映どうしよ~」
さっきから自分を揺さぶり続けるアップアップな親友 宮崎のどかの恋路の足を引っ張ってしまっている。
なんでも危ない所を助けてもらったとかで、赴任一日目の先生が大好きになってしまったのだそうだ。
男嫌いで内向的な親友が踏み出した大きな一歩、もう一人の親友と共に当事者が『もう良いよ~』と半泣きになるほど後押しした。
そのおかげ?かは定かではないが、最近は先生と一緒に図書館島でデートする中である。
問題点があるとすれば選択肢が図書館島限定である事、そして私とハルナがデートに同伴している事くらいなモノだ。
「どうしようもなにも、頑張って勉強するしかないです」
残りの僅かな日数で何処まで出来るかは分からないが、とにかくやれる事をするしかないだろう。
もしこれで私の成績が改善せず、さらにクラスの平均点も改善しなかった場合、のどかに『この裏切り者ぉ~!!』と背中から刺されかねない。
一切の誇張的表現を排除してそう思う。
「まき絵~!! 勉強! 勉強するよ! しなよ! しなさいってば!!」
ウチ 和泉亜子は混乱していた。どうして私の大好きな→異常=フェイト君が教師を辞めなければならない!?
親しくなるどころかまともに話しかける事すらない数日だったけど、もう見ているだけで胸のトキメキが収まらない。
全てにおいて人の常識を容易く飛び越える姿・立ち振る舞い・言葉。さっき『最下位ならば教師を辞めさせられる』と告げた時もなんと平坦なことか。
「分かったよ~亜子! 首!! 首が締まってる~」
そんな様にも胸に暖かい物を覚えたが、これで居なくなってしまっては堪らない。
思わず親友にチョークスリーパーを掛けてしまったが、これは全くもってバカピンクの汚名を被っているまき絵が悪いのだ。
ウチは断じて悪くない。
「亜子、まき絵も反省しているから許してあげて? ね? 亜子の恋路は応援するから」
こちらも親友 水泳部の期待のエース 大河内アキラの言葉にバカピンクを開放。
荒い息を鎮めようとフェイト君へと視線を送る。大勉強会の片隅で何時も読んでいる分厚い本を淡々と熟読する。
質問を受ければ答えるが、それ以外は自ら動く気なし。自分の進退がかかっているというの余裕の態度。
いや……アレは……『大丈夫だと計算済みなのかな?』 ゾクリとする。踊らされている感覚。
堪らない! あ~ますます惚れちゃうわ~フェイト君♪
先ほど実施した小テストの出来を評価しながら、フェイトは鷹揚に頷いた。
「やっぱりやればできる人たちだ。安易な言葉で煽っておいて良かった」
『2Aを期末テストで最下位から脱出させる』
それだけ書かれた試練の内容を目にした時から、この作戦を取ると決めていたのだ。
自分の教え子たちを見る限り、勉強に本当に熱心な娘は少ない。だけど他の事には熱心に成れる。
所属クラブの多さや運動部に所属すること、本当の帰宅部が少ない事からも明らか。つまり熱心にやらせれば伸びる余地はいくらでもある。
そして数日を共にして築き上げ、冷静な評価を下すならば『自分は彼女たちに好評価を得ている』という事実。
『好かれている』というムズ痒い言葉を使って表現しても良いだろう。
「担任を続けられない」と発表した時に生じる反発→対抗措置=試験の為に勉強の熱の入り様たるや煽っておいて若干驚愕すら覚える。
「あとは余りにも足を引っ張るばバカレンジャーをもう少しなんとかすれば安全かな?」
その方法を色々と考えているが地味かつ堅実な方法が一番なのだろう。
テストを数日後の控え、告白からも数日だ。勉強しただろうがまだまだ時間には余裕がある。
欲をいえばもう少し特効薬のような存在でもあれば……
「図書館島?」
そんな事を考えいたらバカレンジャーの一角、本当の知識や知恵ではかなり優秀な部類に入るだろう綾瀬夕映が話しかけて来た。
「はい。読むだけで頭が良くなる本を探しに行こうと思うのですが……もちろん!勉強に支障をきたさない範囲で行える計画です」
……なるほどね。よっぽど簡単にクリアするのが面白くないらしいね? あのフェアリー→仙人=学園長は。
「行ってみようか?」
乗ってみよう。その戯れに
亜子の性格がよくわかりません。