「刀を使う陰陽師か・・・ネタなのかの」
刀を腰に差し、どこから調達したのだろうか、赤い水干姿の陰陽師というのは実に様になっていた。
「お爺ちゃんの獲物は?」
「これじゃ。ただの棒切れじゃな」
長さ2m弱の手で握るにはほどよい太さの木の棒だった。
普通だったらこれで刀を受けたりしたら、さっくり斬られるのだが、その辺はゲーム補正がかかっている。
借り物だからか、アイテムのステータスは見れないらしい。
「ふーん、リアルで棒術の達人だったりするの?」
「いや、全くの素人じゃ、刃物を人に使うのは気が引けてな。」
棒術手習いのパッシブ技能の能力は腕力と知力の弱上昇、人気の出る武器ではないだろう。
「へぇ。お優しいことで、、。しっかしこれスッゴイなまくらね。」
阿修羅は怪しい微笑を浮かべて、刀身が70cm程の刀を見つめながら言った。
「竹光なんじゃないか」
「いえ、一応刃はあるみただけどね。」
場内片隅の白線がある場所まで進み出る。
「両者、準備はよいか?」
おっさんNPCが声をかける。
「ええ」
「いつでもよいぞ」
10mほどの距離をおいて対峙する。
「始め!」
刀を持っているとはいえ、術を警戒して早期決着を目指した。
距離を詰め、刀を片手で下段に構えている阿修羅に、渾身の突きを放つ。
紙一重でかわされ、そのままスルスルと歩きながら距離を詰められ、ゆったりとした動作で刀を振り上げ斜めに振り下ろしてきた。
首を狙われていると感じ、咄嗟に棒を引き上げ受けようとする。
すると、切っ先が若干変わり、右の手首を斬られた。
陰陽師ゆえ、たいした攻撃力はないのかもしれない、手はまだ腕に残っていた。
「あら、切れないのね・・。」
戦闘中に言葉をかける余裕すらあるようだ。
そのまま受けようとした棒を間近にいる阿修羅に振り下ろす。
これもまたするりと紙一重でかわされる。
その瞬間今度は本当に首をスッパリと斬られた。
一瞬ゾクリとするが、首はまだ落ちていない、まだ死んでないと思い、横に棒を振り払おうとした。
すると、阿修羅は首を切った返す刀で右の手首を・・・最初に斬った場所を寸分違わず斬りつけてきた。
遠心力で棒が手首ごと飛んでいった。
「今度はちゃんと切れたわね。」
そう言うと、阿修羅はわしの脳天に刀を振り下ろした。
「勝者!服部阿修羅」
そう言われて、阿修羅は脳天から胸の辺りまで切り裂いて止まっていた刀を引き抜いた。
血は付いていないのだが、血のりを払うような仕草をしていた。
半ば呆然としていた。
「お主、MTSを使っておらんのか?」
頭の斬られた部分と首を撫でながら聞いてみる。
「ええ。変な癖ついたら嫌だしね。」
「・・天才剣道少女というわけか?」
「惜しい。天才剣術オバサンね」
「本当は、4、50歳だったりするのかの?」
「・・・天才剣術お姉さんにしとくわ。」
その辺は微妙なお年頃なのか、訂正が入る。
「MTSは全く相手にならないと言う事かな?・・・。」
「そんな事ないわよ。最初の突きだって、現実だと心臓も抜いちゃうような鋭さだったしね。ただ、使ってる人が素人だから、怖くないのよ。」
「達人クラスなのは、見せかけだけか・・」
「んーどうかしらね。攻撃面だけ言えば、思考を複雑化できれば結構脅威かもしれないわ。素人さんの突発的な行動でやられちゃうプロなんてごまんといるでしょ。」
「防御面では?」
「全然駄目ね。思考を読み取って受けるにせよ避けるにせよ。素人の思考じゃ力加減ができてないもの。それをすかされたら終わりだし、それに最小限に避けて次に繋げるのが大事なのよ。家(うち)の流派じゃ。」
「武術家は先読みがある程度、できるとは聞いた事があるが、そういうものか?」
「そそ、それが出来ると一流の武術家ね。それがあるMTSだったらいい勝負できるかもしれないわ。何かかじったことあるの?」
「漫画に描いてあった。」
「お爺ちゃん・・・・」
多少呆れた風だった。
「だから、ちょっと悪いなって思ってるのよ。わざと負けるのが駄目なんて知らなかったからね。」
ヒントを多々貰い、対策を色々考えてみる。
思考でコマンドを呼び出し、技能の実装を多少変更し、システム面でも変更すべきものは何かないかを考える。。
「別にかまわんぞ。面白い経験をさせてもらった。天才剣術おばさんなんぞ、見たこともなかったからな。」
ピキッっと空気が凍った気がした。
偶然だろうか、つむじ風が周りの砂を巻き上げる。
「いや、自分で言っt・・・・・・・。すまなんだ・・。」
にっこりと阿修羅が微笑んだ。
「まぁ、でも諦めてないみたいね。」
「わしはゲーマーなんでな。裏道を探すのが好きなんじゃ」
「あら、私もそういうの分かるわ。普通にやってたんじゃ面白くないものね」
――お前さん自身が規格外じゃしな。
「準備できたぞ。待たせたな。」
何も超人的な動きをする訳ではない。
どういうステ振りをしているかは分からないが、今現在ならばそう差はないはずだった。
悩んだ末、MTSのシステム面は触らないことに決めた。今さらこれなしではどうしようもない。
「始め!」
NPCの号令と共に棒を横に投げ、両手で印を結ぶ。片手でも結べるのだが此方のほうが精度が高く発動も早くなる。
今度は向こうから距離を詰めにくる、歩方に差でもあるのか、あっという間に距離を詰められた。
印を結んだ手を狙っている。特に避ける気もなく。そのまま受ける。
今度は一発でで腕を斬り飛ばされる。しかし問題なく術は発動した。
「罰当たり・壱」
【罰当たり・壱】数度で壊れる結界術である。受けた近接ダメージと同等以上のダメージをそのまま相手に返すという、前衛職泣かせの術だ。
この結界をリスクなしで破るには忍者の技能及び、遠距離物理攻撃で何度か叩けば割れる。
更に、ない腕で片手印を結びつつ、片手で棒を拾う。
術の効果を知っていて、攻めてこないのだろうかと考えていると、
「なんで一撃で腕が斬れたんだと思う?」
戦闘中に暢気なものだった。
「さぁ・・分からんな。会心の一撃でも出たんじゃないか。」
【気合】ゲージと【生命力】を簡易ステータス画面で確認しつつ、返答する。
「んー、ああそうね。ちょっと気合入れて斬ったからね。そういうこともあるかもね。」
その気合とやらは、単に気合なのか、ゲームシステム的な【気合】なのか気になるところだった。
今度はこちらが先手を取る。当たらないことを前提に考えておけばよい。
要は複数の敵を相手にしている心積もりでいれば、思考もばらけてくれる。
2分の力で攻撃を繰り返しす。間合いはこちらが長いのだ無理をせず切っ先が当たるか当たらないかの距離で突きを繰り返す。
相手も、決して超人的な動きをする訳ではない。だが当たらない。
「ちょっとはよくなってるわ。」
と言うと棒を刀で上に払い距離を詰め、前に出していた足に斬りかかってくる。
斬られると同時に結界もパリィンと割れるが、相手も同じ箇所から血が噴出す。それに少し動揺しているように見えた。
――1撃で壊れるか、熟練度0だしなぁ・・
「渇ぁアアアアアアアアアアアアッツ!!!」
僧の技能【一喝】である。叫べば機能する点がお得感はあるが、一々うるさい、人気が出ない事は間違いないだろう。
レジスト判定・・・・失敗したようだ。幾秒かのディレイがかかる。
全力で突きを放つ。
すんでで効果がきれたようだ、手で棒を払われたが、ダメージ判定はあったはずだ。
「紅蓮・壱!!」
そのまま態勢を崩している相手にぶつかりそうな状態で先行入力していた術をない腕より放つ。
いきなり目の前に現れた火の礫はさすがに避けれなかったらしい、刀で庇ってはいるが、初めてまともに当たった。
自分から飛んだのかもしれない、5mほど火の粉を散らしながら吹っ飛び倒れる。
まだ監督NPCが勝者を宣言していない、陰陽師ゆえ、属性値が高いおかげで命を拾ったのだろう。
もうお互い瀕死のはずだ・・お互い後一撃でも喰らえば死ぬだろう。
何故か阿修羅は倒れたままだった。
地面に棒を突き立て、落ちていた石を拾い、思いっきり倒れている阿修羅目掛けて投げつけた。
倒れたままの状態から、刀で石を切り払った。
「性格悪いわよ!?」
――狸寝入りしていたお前さんに言われたくない。恐らく近寄ったらばっさり斬られたのかもしれない。
その隙に距離を詰め、相手の射程外から棒を投げつける。
さすがにこれも切り払われたが同時に投げていた石を腕に喰らっていた。
「勝者!小林正巳!!」
監督の声が響いた。
「石は二つ拾っておくもんじゃな」
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※罰当たり:相手に受けた近接ダメージと同等以上のダメージを返す。気合回復効果弱上昇効果。気合消費30%
※紅蓮・壱:僧の基本火属性攻撃術。火の礫を放つ。気合消費50熟練度上昇毎に上がっていく。
※生命力:ヒットポイント的な物
※気合:マジックポイント的な物
※一喝:相手の動きに極短いディレイをかける。気合消費10%。
気合消費とか適当です。