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No.20336の一覧
[0] 【習作】がくえんもくしろく あなざー(オリ主・ちーと) 更新停止のお知らせ[磯狸](2010/08/19 12:29)
[1] ぷろろーぐ[磯狸](2010/07/24 10:28)
[2] 第一話[磯狸](2010/08/05 10:06)
[3] 第二話[磯狸](2010/07/16 04:28)
[4] 第三話[磯狸](2010/07/20 10:13)
[5] 第四話[磯狸](2010/08/12 16:04)
[8] 第五話・改訂[磯狸](2010/07/20 00:33)
[9] 六話[磯狸](2010/07/18 19:52)
[10] 七話[磯狸](2010/08/12 16:30)
[11] 八話[磯狸](2010/07/20 10:04)
[12] 第九話・微改訂[磯狸](2010/07/22 09:42)
[13] 第十話[磯狸](2010/07/22 19:28)
[14] 第十一話[磯狸](2010/07/23 10:36)
[15] 第十二話[磯狸](2010/07/24 22:50)
[16] 第十三話[磯狸](2010/07/27 18:02)
[17] 第十四話[磯狸](2010/08/03 09:00)
[18] 第十五話[磯狸](2010/08/04 12:35)
[19] 第十六話[磯狸](2010/08/10 21:26)
[20] 第十七話[磯狸](2010/08/12 23:43)
[21] 4話分岐…生存ルートぷろろーぐ。別名おふざけルート 注意書き追加[磯狸](2010/08/05 22:47)
[22] 一話[磯狸](2010/07/20 22:12)
[23] 第二話・あとがき少し追加[磯狸](2010/08/05 22:45)
[24] 第三話[磯狸](2010/08/08 04:44)
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[20336] 第十七話
Name: 磯狸◆b7a20b15 ID:1cbeb0e1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/12 23:43





「いたっ…!?」
「ぎゃぃんっ」

 腕に噛みつかれたみのりは、苦痛の声を上げて腕を振り、ちわわを振りほどく。
噛みつかれた腕にはしっかりとチワワの歯型が残され、血が滲んでいた。

「こいつ、やっぱり!」

健二は学校で遭遇した、凶暴化したカラス達を連想したが、その懸念通りであった事を確信して釘打ち機を引き抜き、引き金を引く。
撃ちだされた釘はみのりによって地に叩きつけられたチワワに向かい、頭と体に一発づつ命中し、倒れ伏して動かなくなる。


そして騒ぎを聞きつけてやって来た飛鳥達は、腕から血を流すみのりと倒れ伏すチワワを見て驚愕に目を見開いて動きを止める。
奴等に噛まれただけで、死ぬ。彼等全員がそれを知っていただけに、目の前の光景は彼等の…特に、みのりの恋人である卓造の受けた衝撃は、計り知れない。
飛鳥は厳しい顔でみのりの方へ足を向け、みのりは飛鳥がやって来た事で、紫藤を殺害した飛鳥の姿を連想してしまい、びくぅっと身を震わせたが、飛鳥は彼女は素通りして倒れ伏したままの犬の元へと足を向ける。

「み、みのり……」
「卓…ぞ、う………。ごめん、ごめ…んね……。うっ、ひくっ……折角此処までまもっ…うっ、ぐれたのに。ひぐっ、うぅっ、私……」

噛まれちゃったよぅ…とぼろぼろと卓造を見ながら涙を流し始めるみのりに、卓造は泣きそうに顔を歪める。
智彦は何も言う事ができず、隣にいた優子をぎゅっと抱きしめ、優子は愕然としながらも智彦に身を預ける。飛鳥と健二はちわわの死体を調べ、厳しい表情で顔を見合わせる。

「……カラスと同じだ。目だけは赤く、凶暴になっているようだが、見た目的には普通の犬と変わりない。”奴等”に噛まれると奴等と化す。今のところそうだが……どう思う?」
「……可能性は、あると思う。だが必ずしもそうだ、とも言えない。ぎりぎりまで確かめるべきだと思う」

二人で頷きあい、みのりに視線を向ける。
みのりは近づこうとする卓造に来ないで、と後ずさるようにして飛鳥達の元へと近づいて来ていた。

「小島先輩」
「ひっ…分かってる、分かってるわよ! 私はもう噛まれちゃったからもう駄目何だよね!? 奴等になっちゃうんだよね!? だから、だからそうなる前にって事何でしょう!?
そうよね…霧慧君は生きてた人も簡単に殺せちゃうんだもんね! 奴等になる事が確定した私を殺す事くらい訳無いわよね!?」

焦燥、混乱、恐怖、後悔。飛鳥の声に振り返ったみのりの表情は、様々な感情で彩られており、彼女が恐慌状態に陥っているのは明白だった。
彼女の言葉に、飛鳥は怜悧な眼差しを彼女に向けつつ頷いた。

「場合によってはそうするのは否定しない。あんたが落ち着きをなくすのも分かるが…「分かるですって!? あなたみたいな人に私の気持ち何て…っ!?」……話が進まない」
「みのりっ!? 霧慧さん、何を…ッ!?」

飛鳥の言葉の途中で、噛みつくように話を遮ろうとするみのりの頬に、飛鳥は無造作に平手打ちを見舞う。
当然かなり手加減がされた一撃だったが、それでも十分な威力。みのりは路地の壁に叩きつけられて、ずるずるとずり下がるように座り込んで頬を抑えた。
みのりに慌てて卓造が駆け寄り、飛鳥に非難の視線を向ける。

「小島先輩はまだ奴等になると決まった訳じゃ無い。あの犬が奴等なら間違いなくそうだが、あれはカラスと同じように奴等の肉を口にして凶暴化した犬だ」
「この犬は頭脳的な行動を取った。奴等には理性や感情何か今のところ無い。だから、自棄にならないでくれよ、先輩」

飛鳥は冷静に、怜悧な表情のままに。健二は顔を痛ましそうに顔を歪めながら。
それぞれ言い方は違えど、まだみのりは大丈夫かもしれない、と告げる。みのりは卓造に抱きしめられながら飛鳥達をじっと見つめ、ついで卓造の胸に顔を寄せて、咽び泣く。
卓造も、みのりを失うかもしれないと言う恐怖から、顔を歪めながらも、飛鳥達に視線を向け、二人が頷くのを見て顔を引き締め、みのりを抱きしめる腕に力を込めた。


飛鳥が更に口を開こうとした時だ。不意に飛鳥は顔を顰めてあらぬ方を見、路地から抜け出して優子達を路地の方へ行くよう促す。
彼等が不思議そうにしながらも、飛鳥に従った時だ。曲がり角の方から数人の男達が駆けて来たのである。


4人の男達は、飛鳥達を発見すると、狂喜の笑みを浮かべて飛鳥達の方へやってきて、ちょっと散開気味に飛鳥達と向かい合う。
その内の一人の男の背には、裸でむせ返るような性臭を放っている、ぼろぼろの裸の女性の姿があった。その姿を見るだけで何がその女性に行われたかは明白。
既に彼女は精神的に壊れてしまっているのか、何の感情も宿していない暗い伽藍の瞳となっていた。

「ひゃははははっ! やっぱりだ! 夜が明ければ隠れてた奴が出てくるとは思ってたが案の定だぜぇえええ! しかも中々良い女二人もつれてるしぃ!?」
「うほっマジモンの女子高生じゃねぇか! 興奮してきたぜ! 初物か!? オレ一番だかんなっ!」
「おい、お前この壊れた女の時最初だったろ!? 次は俺だ!」
「へへ、もうこの女散々犯してガバガバの上に何の反応も示さなくなっちまったからな。まぁこいつの彼氏を俺らでぶち殺してやった時点で壊れてたけどな! もうこいつもいらねーや!」

男達はぎらついた視線をみのりと優子に向け、口々に興奮した口調で自らの欲望を口にする。
女性を背負っていた男は、女性を投げ捨てるとその頭に鉄パイプを振り下ろし、既に壊れていた彼女の精神だけでなく、肉体さえ破壊する。


卓造達はそれに息を呑み、飛鳥は不快気に顔を顰め、健二は釘打ち機を握る手に力を込める。
特に、卓造達は彼等の行いにたいして戦慄する。昨日、似たような光景を目にはしたが、実際に目の前で向けられるのと、彼等の敵意が自分達に向けられるのとでは、恐怖の度合いが違う。
男達はそんな彼等を見て、何を勘違いしたのか知らないが、余計に下卑た笑みを浮かべて彼等に迫り―――。

「あえっ?」

その内の一人が何かの発射音と共に後ろに向かって倒れ伏した。
その男の首と頭に抉られたように穴があき、男達が倒れた男に視線を向け、驚愕の表情を浮かべてから、ばっと飛鳥達の方へと視線を向ける。

「今、取り込み中何だよね。お前等みたいな下種に構ってる余裕は無いのさ」
「……そういう事さね」

飛鳥の横に、釘打ちを構えたまま並ぶ健二。飛鳥はそれに、一瞬辛そうに顔を歪める。
だが、それも一瞬。小さく健二の言葉を肯定した直後、飛鳥の身体は一瞬で男の一人へと迫っていた。


男の懐に潜り込み、顎へと掌打を放つ。その威力で顎が砕け、浮き上がる身体を男の一人へ向けて蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした直後には、逆側の男に向かって動き出しており、その男には手にしているモップの柄を無造作に横薙ぎに。骨が折れ、砕ける鈍い音を響かせながら、男の体は吹き飛ばされる。
吹き飛んだ二人の身体は、飛鳥達の正面にいた男へと向かい、正面の男は何が起こったかもわからず、飛んできた男にぶつかり、もつれるように倒れこむ。
飛鳥に吹き飛ばされた男達は、それぞれ口から血を吐きだしながら悶絶して、正面の男の上で悶え苦しむ。

「なんだ!? お、おいっ、な、何が起きたってんだよ!? ひぃっ!? お前か!? お前がこいつ等をやったのか!? た、頼む! 見逃してくれ!」

男は身体の上の男達を戸惑いながらどかし、彼等がそれぞれ悶絶して口から血を吐きだすのを見て悲鳴を上げる。
そしてゆっくりと、酷薄な笑みを浮かべながら歩み寄る飛鳥に視線を向けて、顔を蒼ざめさせて命乞いをする。

「あんた等みたいのだと、俺もやりやすくて良いよ」
「な、何を言って…ぎゃぁあああああ!」

無造作に浸透打撃を込めて柄を振るい、男の両足の膝蓋骨…膝の皿の部分を再生不可能なまでに叩き割る。
男の絶叫が周囲に響き渡り、男は悶絶して膝を抱えて地面を転がる。飛鳥は残り二人も同じようにして、行動を封じる。

「うぅう…、いてぇ、いてぇえよ。お、おれが悪かっ…た、頼む、命は、命だけはっ……」

懇願する男に、飛鳥は嘲笑を返し、踵を返す。健二がそれに、驚いた風に振り返り、飛鳥に続く。

「飛鳥、あいつらあのままにしとくのかよ。そりゃ動けそうに無いけど、あんな奴等……」

生かして置かない方が…と続けようとした健二だったが、親友の顔に浮かぶ冷たい微笑に何も言えなくなり、言葉を呑みこむ。
飛鳥は若干怯えた視線を飛鳥に向けつつも男達を嫌悪の視線で見やる智彦達に視線をくれ、出てくるように促す。

「行くぞ。山路先輩、小島先輩を連れて来て下さい。矢部も先輩を支えながら付いてきてくれ。健二、峰は周囲に気を配りながらついてこい。犬も凶暴化しているようだから、気を付けろよ」

健二を除いた者達は、戸惑いながらも飛鳥の指示に従って立ち上がる。
彼等としても男達の行いは許し難い行為だった。男達の話からすれば彼女の恋人を目の前で殺害し、その女性を欲望のままに犯して精神を崩壊させ、用無しとなればゴミのように投げ捨ててあっさりと殺害してしまったのだ。


それは決して他人事などでは無く、下手すれば彼等もまた同じ目にあっていたかもしれないのだ。
智彦達からしても、男達に同情の余地など一切無く、歩き出そうとする飛鳥の背を追おうとする。

「待て、待ってくれよぅ! 置いて行かないでくれ、後生だから!」
「何それ、ギャグのつもり? 置いてか無いでくれとか、俺達に向かって本気で言ってるようなら笑うしか無いんだけど」

動きだそうとする飛鳥の足に、縋りつこうとする男の手をかわす。そして飛鳥は薄笑いを浮かべながらその手を踏みつけ、砕く。男がさらに悲鳴を上げる。
悲鳴を上げる男を相変わらず薄ら笑みを浮かべたまま見下ろし、飛鳥は今度こそ歩き出す。去り際に、一言加えて。

「ま、笑わせて貰ったから最後に良い事を教えてあげるさ。俺達、この近くで危ない所をおまわりさんに助けて貰ったんだよね。まだ近くにいるだろうから、”大声”で叫べば来てくれるんじゃねぇかな。運が良ければだけど」
「ほ、ほんとか!? 本当何だな!? お、おい! 待て、待てよぉ! く、くそっ! おまわりさーん! 助けてくれぇええ! おまわりさーん!」

男の必死の叫びを背中に浴びながら、飛鳥達はさっさとその場を離れる。
これだけ声を大声を上げる者がいれば、奴らがすぐに集まってくるであろうから…。






恐らく、飛鳥にしか聞こえていなかっただろう。
あの男の断末魔が耳に入り、飛鳥は顔を顰めた。ああいう奴等が出てくるであろう事は予測が付いていた。
そういった者等に対し、例え人間だろうと容赦するつもりは無かった。


法や常識、世間の目が気にならなくなってしまえば、人は何でも平気でできてしまう。
ましてやこのように明日どころか、その日生き抜けるどうか分からないような現状、欲望のままに行動する人間が現れるのはある意味当然と言える。
人間社会と言う物は、法や常識、世間体などと言った物で縛られ、管理されているからこそ多くの人間がそれに従って生きているのだ。
それから外れてしまえば、後ろ指を刺されたり、罪に問われる。それ故、人は法で定められている事をいけない事だと認識し、それに反しないよう生きている。


だからこそ、そうした物が全て崩壊した今となっては、あの男達のような人間が出てくるのはある意味当然と言えた。
そして飛鳥はそれを分かっていたし、出てくるのであれば飛鳥の手で始末を付けるつもりだった。


しかし、健二が飛鳥よりも早く行動を起こしてしまった。
止めようと思えば、止められた。健二から殺気は感じていたし、すぐ近くにいたのだから。
だが、止めて良いのかと疑問にも思ってしまった。生きた人間による危機もまた、普通となってしまった現状、自分の身は自分で守れる方が良いに決まっている。


友人に殺しをさせたくないと言う思いと、生者による危機の際に自身でそれを打開できるようになった方が安全だろうと言う思い。
どちらも友人を思う気持ちからこその葛藤だった。


そして飛鳥は、健二の意志を尊重する事を選び、手を出さなかった。
このような現実となったとは言え、目の前で生きている人間を殺すと言う事は、健二の心の中でも大きな葛藤があっただろう。
そしてその葛藤の末に健二も動いたのだろう。何時から健二が覚悟していたかは飛鳥にも判断はできない。だが、少なくともあの場では無い。

昨日、暴徒と化した者等を見てからか、それとも一晩の間になのか。
何にせよ、飛鳥は健二を止めなかった。
それが健二の選択であったし、飛鳥自身もそれは必要な事だと思ったから。


飛鳥達は少し移動して、途中にあったカラオケボックスの個室へと入りこんだ。
卓造に抱かれたみのりは顔を上げようとせず、ただただ卓造の胸に縋りついている。
室内は重苦しい沈黙に包まれ、誰も言葉を発する事無く、ただただ時間だけが過ぎていた。

そして一時間程経過。
飛鳥はみのりの様子も、気配にも何の変化も無い事に訝しげな表情で健二に視線をやり、健二も頷く。

「小島先輩、体調に何かしらの変化は?」
「………今のとこ、何とも」

飛鳥の問いに、みのりはかぼそい、覇気の無い声で答えた。
力の無い声だったが、嘘は無い。声からそれを判断した飛鳥は、安堵した声音で口を開いた。

「なら恐らく大丈夫でしょう。小室先輩達の話では、奴等になるのは噛まれてすぐから、およそ30分。移動で15分、此処に来て一時間。どうやら凶暴化した動物からは奴等になる事は無いようです」
「本当ですか!? 良かった、本当にっ…! みのり、良かったな、良かったな、良かったぁ……」

涙を流しながら喜ぶ卓造に、智彦達も安堵の息を漏らす。
みのりは、奴等にならない、と聞いて茫然と顔を上げて飛鳥に視線を向け、潤んだ瞳で問いかける。

「ほ、本当に? 本当に私……」
「完全にならない、とは言い切れないが、これだけ時間がたってもならないなら大丈夫だろう」
「あ…あ、…うぁあああああんっ!」

飛鳥のが軽く笑みを浮かべるのを見て、みのりは両目からぽろぽろと涙を流して子供のように声を上げて泣いた。
卓造がみのりを優しく抱きしめてその髪を撫で、落ち着くまでそうしているのだった。





みのりが落ち着きを取り戻した所で、一向はカラオケボックスを出て輸送店を目指す事になった。
いつものように先頭で店を出ようとする飛鳥を、みのりが引きとめた。

「ま、待って霧慧君!」
「あ?」
「あ、あの…その…さっきは酷い事を言ってしまってごめんなさい!」

飛鳥に向かって、深々と頭を下げた。
それに飛鳥はきょとんと言う顔をしたが、あぁ、とさっきの事かと思いだして首を振った。
別に飛鳥はみのりの言った事など全く気にしていなかった。みのりの言った事は事実であるのだから、謝罪されるような事は無い。

「気にしてないですよ。先輩が言ったのは事実です。俺は生きた人間だろうが何だろうが、敵や仲間に危害を与えるような奴なら殺します。それはこれからも変わらない」
「…で、でも、私達の為に「違います。自分の為です」…あぅ」

みのりの言葉を一言で切り捨てて、飛鳥は苦笑を浮かべる。

「だから気にしないで良いんですよ。俺は自分の事しか考えてないんで」
「ま、待ってくれ!」

再度店を出ようとする飛鳥を、今度は智彦が止める。
その声に必死さが滲み出ており、飛鳥もまたか、と思いつつ足を止める。

「霧慧はどうして人を殺す事ができるんだ!? あいつ等みたいの死んだって良いって俺も思う…。優子があの人みたいな事になったらと思うと、怒りでどうにかなっちまいそうだ…ッ! 今回は霧慧達がいたから危なくも何とも無かったけど、これからはあんなのも普通にいるんだろ!? もしあいつ等みたいのに俺と優子だけで遭遇したら…ッ、俺は…」
「僕も知りたいです…。これからもみのりを守っていく為にも、僕自身が生き抜くためにも。人が積み上げてきた人生を、自分の手で奪ってしまう何て…ッ。霧慧さんはそういった人の人生を背負う覚悟とかしてるんでしょうか!?」

二人がそう思うのも当然だろう。
先程の出来事は、飛鳥達がいたからこそ危機では無かったが、彼等だけで出会っていれば紛れもなく絶体絶命と言うべき危機であった。
飛鳥達がいなければ、絶対とは言い切れないが、智彦と卓造は高確率で命を失い、みのり達はあの男達の手に落ちていた事だろう。

真剣な顔で飛鳥を見据える二人に、飛鳥は実にあっさりとした態度で口を開いた。

「言ったろ? 俺は自己中だって。知り合いならともかく、無関係の、それも敵や危険な人間だからって理由で排した奴等の人生何ざ気にしちゃいねぇ。そんな奴等の人生何て背負いたくも無い。例え、こんな状況になって人が変わっちまった奴のでもな。それに…覚悟云々何てのも、特に意識してない。生き抜く上で、守る上で必要だと思ったから手を汚している。他に理由は特にない」
「必要、だから……」
「無理かもしれないが、自分が犠牲にした人間の命を背負おう何て思わない方が良い。峰達はもう重いものを背負ってるだろ? それ以上しょいこんだら、潰されちまうよ」

智彦達は、それぞれの恋人の命と言う重すぎるものを背負っている。
卓造達が倒れれば、みのり達が生き残れる可能性は格段に下がる。それ以前に、そんな事になれば後を追いかねない。

「碌でもない世界になっちまったんだ。今や正しい行いや正邪の度合いは個々に委ねられた。あいつ等も、あれが正しいと思ったからこその行動だろう。俺もまた、そうだ。紫藤を斬ったのも、あいつ等を奴等の囮に使ったのも、そうすべきだと判断したからだ。つまりは自分で決めろってこった」

法も常識も崩壊した世界。そうなれば、個人の裁量に全てが委ねられる。
飛鳥は自身の大切な者を守るために他者を切り捨てる事を選び、敵対するものには容赦しないと決めている。

飛鳥がそうして決めているように、卓造達も各々の判断で動かなければならないのだ。
沈黙する彼等を置いて、飛鳥は先に店外へと出た。健二はすぐさまそれに続き、残った者等は、戸惑いながらも後に続くのだった。







カラオケボックスを出てからは、なんら問題も無く輸送店へと向かう事はできた。
一向は荒れ果てた街の中を、駆け抜け、ようやく輸送店に辿り着き―――

「う、嘘……」
「こ、これじゃあ無理だよ…」

―――愕然とした。
輸送店の入り口は、酷い有様だった。数台の大型トラックが横転して道を塞ぎ、燃料が漏れて引火し、激しく燃え盛っている。
これではとてもでは無いが、仮に動かせる車があったとしても、入り口から出る事は不可能だろう。

彼等は、燃え盛る炎の海に目を奪われながら、茫然と立ち尽くすのだった…。




















あとがき
お気づきになられた方もいるようですが、7話あとがきにあるように、凶暴化した動物であれば、かまれても奴らにはなりません。
今回は運が良かったということでお願いします。

そして男達登場。もっと危機的状況にしたかったですが、飛鳥みたいのがいるとそれも難しいんですよね。
大変な状況だからといって何をしても良いというものではないとも思いますが、それは相手にも言えること。こういう世界観での人の行いについての話は、難しいです。
説得中にこいつらが現れ、みのり暴走し、自分を包丁で刺そうとする、何てのも書いてみましたが、なんか変なので没に。

それからそろそろ慣れてきたというのもあるので、次の更新あたりで坂移動をしようかなと思っています。まだ早い、やめとけwww という方がいましたらご意見のほどをお願いします。

PS
くらげに刺されると痛いんですね;;


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