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No.20336の一覧
[0] 【習作】がくえんもくしろく あなざー(オリ主・ちーと) 更新停止のお知らせ[磯狸](2010/08/19 12:29)
[1] ぷろろーぐ[磯狸](2010/07/24 10:28)
[2] 第一話[磯狸](2010/08/05 10:06)
[3] 第二話[磯狸](2010/07/16 04:28)
[4] 第三話[磯狸](2010/07/20 10:13)
[5] 第四話[磯狸](2010/08/12 16:04)
[8] 第五話・改訂[磯狸](2010/07/20 00:33)
[9] 六話[磯狸](2010/07/18 19:52)
[10] 七話[磯狸](2010/08/12 16:30)
[11] 八話[磯狸](2010/07/20 10:04)
[12] 第九話・微改訂[磯狸](2010/07/22 09:42)
[13] 第十話[磯狸](2010/07/22 19:28)
[14] 第十一話[磯狸](2010/07/23 10:36)
[15] 第十二話[磯狸](2010/07/24 22:50)
[16] 第十三話[磯狸](2010/07/27 18:02)
[17] 第十四話[磯狸](2010/08/03 09:00)
[18] 第十五話[磯狸](2010/08/04 12:35)
[19] 第十六話[磯狸](2010/08/10 21:26)
[20] 第十七話[磯狸](2010/08/12 23:43)
[21] 4話分岐…生存ルートぷろろーぐ。別名おふざけルート 注意書き追加[磯狸](2010/08/05 22:47)
[22] 一話[磯狸](2010/07/20 22:12)
[23] 第二話・あとがき少し追加[磯狸](2010/08/05 22:45)
[24] 第三話[磯狸](2010/08/08 04:44)
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[20336] 第十四話
Name: 磯狸◆b7a20b15 ID:9ed37a25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/03 09:00




 突如響いた銃声は、外だけで無く、飛鳥達が拠点としている家内にも当然響いていた。
コータの、『だって小さな女の子だよッ!?』と言う声もまた、飛鳥と冴子の耳には届いていて、大体の事情も把握する事ができた。
確かに小さな子供が奴等に喰われてしまうのは、あれだが、状況が状況である。大人を見殺しにするのと、子供を見殺しにする。それに如何様な差があるのだろうか。

飛鳥の認識としては、子供だろうが大人だろうが、一人の命である事に変わりない。
だから、自分達を優先すると決めた以上、大人だろうと子供だろうと関係無い。他の者も、状況を理解し、勝手な行動は取るまいと思っていた。

何せ此方には、家が安全だと認識した瞬間に気絶する程までに疲弊した者達を抱えている。
他の者達も大小差はあれど、皆疲れていたのだ。それを知っていながらの独断行動。命の危機に晒されるのがその者自身だけならば良いが、この場合は全員の命が危険に晒されるのだ。看過して良いものでは無い。

「孝?」
「小さな子を助けに行く」
「あたしも一緒に」
「麗は此処で玄関を見張っていてくれ」

階段から降りて来る途中、麗に短く答えた孝が、銃声を聞いて玄関まで出て来ていた飛鳥と冴子を見て足と止める。

「……状況、分かってるんで?」
「ッ…ごめん。僕、どうにもこういう人間みたいなんだ」
「此処にはう「よせ、飛鳥君。行かせてやれ。彼としても覚悟を決めての事なのだろう」……それに巻き込まれる側としちゃ堪りませんがね」

何時にもまして怜悧な飛鳥の表情に、孝は一瞬気まずそうな顔をするも、それは一瞬で、すぐに覚悟を決めた表情で口を開く。
それに更に言い募ろうとする飛鳥を、冴子が諌める。飛鳥はそっぽを向いて苦々しそうに吐き捨て、そんな飛鳥に、冴子はちょっと困ったように笑う。

「此処は何があっても守る。安心して行って来い!」

木刀片手に、玄関の前に仁王立ちをする冴子に、飛鳥はため息を吐く。

「孝、せめてこれくらいは持って行って」
「ん」

麗が警察官から手に入れた拳銃を差出し、孝はそれを受け取って腰に。

「いちゃついて無いでさっさと行きますよ」
「え…?」
「飛鳥君?」

刀の柄を撫でながら、玄関に立つ飛鳥の言葉に、孝だけでなく、冴子も意外そうに眼を見開く。
飛鳥は苦々しい表情でそれらを黙殺し、顎で外をしゃくる。

「先輩一人であの奴等の大群を抜けられる訳無いでしょう。俺が奴等を引きつけますから、小室先輩はその間に子供を助けて下さい」
「え、でもお前は反対何じゃ…」
「そりゃ反対ですがね。こうなった以上、できる限り此処に敵を近づけないよう外で戦って奴等を引きつけた方が、残ってる連中は安全でしょう。銃声で引きつけてしまうでしょうが、やらないよりはましですし。そういう訳何で、あんたはさっさと子供を助けに行く。冴子先輩、此処の防衛は任せます」
「任された」

もうこれ以上言う事は無いと、玄関を出ていく飛鳥に、冴子は優しげに微笑して頷く。
そして玄関を出ていく飛鳥の後ろを、孝は慌てて追うのだった。







「おぉぉぉぉぉおおおッッッ!!」

闇に染まり、奴等の怨唆の声が響き渡る街の中に、飛鳥の咆哮が響き渡る。
己の存在を示す為の咆哮。音に反応する奴等に、自らがそこにいる事を示し、引き寄せる為に咆哮しながら飛鳥は戦い続ける。
頭は狙わず、できる限り音が出るように派手に飛ばし、薙ぎ、叩きつけ、時には地面を轟音と共に地面を陥没させる程の一撃を放ちながら、飛鳥は道路の右端で奴等を引きつけ、蹴散らしながら足を進めていく。


静香の友人のアパート…メゾネットのベランダからは、コータが狙撃を続け、少女に近づこうとする奴等を片端から撃ち抜いて行く。
少女の近くでは、先程から吠えていた小さな犬もまた奮闘し、少女を守ろうと立ちふさがっていた。


危険な状況を作り出したコータ達への苛立ちからか、苛烈に瞳を煌めかせ、体が勝手に竦んでしまうような咆哮を上げながら戦う飛鳥。孝はその獅子を思わせるような凄まじい戦いぶりに怯えながらも、飛鳥に引きつけられて右に寄っていく奴等の隙を狙い、一気に駆け抜ける。

時間との勝負である。
飛鳥の咆哮と、度重なる銃撃音により、敵はどんどん付近から集まって来てしまう。それまでに少女を救出し、仲間達と合流せねばならないのだ。

目的の家までは一本道で、既にかなりの奴等がいたが、飛鳥がかなり引いてくれているお陰で、孝はそれ程労する事無く足を進める事ができた。
路地から沸いてくる奴等を、金属バットでの一撃で吹き飛ばしながら、孝は少女を目指す。奴等を掻い潜りながら走り続けると、頭部を撃ち抜かれた奴等が転がる家を発見する。

「あれか…ッ!」

犬の鳴き声に引かれてか、男性と少女が入った際に開かれたままだった鉄柵を潜って奴等が入っていく家を発見する。
コータも狙撃しているようだが、次から次へと沸いてくる奴等に、対応が追い付かないらしく、何体か侵入を許しているようだ。
無論、コータもそれは気付いている。だが―――

「くっ、畜生、狙えないッ!」

侵入を許してしまった奴等は、塀が邪魔になって狙撃できずにいたのである。
少女は迫りくる奴等によって、塀の隅にまで追いつめられていた。そしてその前に小さい犬が少女を守るように立ち塞がり、吠えていた。
しかし、奴等は音に引きつけられる上に、知能は皆無。犬に引き寄せられるように奴等は迫り、ついに少女に向かって奴等の手が伸びる―――。

「ひっ、やめて…来ないで! あたし、悪いこと何もしてないのにぃ……ひぐっ、いやぁあああああ!」

―――しかし、その手が少女に届く事が無かった。

「小さな子をいじめるな!」

それよりも早く駆け付けた孝が、奴等の頭を金属バットに一撃で叩き潰す。更にその横にいた一体の胴に蹴りを放ち、転がった所で頭に向かって金属バットを振り下ろす。

「お兄ちゃん、後ろっ!」

更にもう一体、孝の背後から迫ってきた一体に気付いた少女が警告を発し、孝はそれに反応してバットを捨て、腰から銃を抜いて孝に喰いつかんとする敵の口内に銃口を突っ込んで引き金を引く。

銃声と共に敵の頭に風穴があいて倒れ伏し、孝は振り返って少女に礼を述べる。

「ありがとう、助かったよ。お前もなっ」

少女は目尻に涙を貯めながらふるふると首を振り、犬も孝の言葉に力強く鳴いて答えて見せた。
が、飛び込んだ時に閉めた鉄柵に、奴等が取りついて、此方に入って来ようとがしゃがしゃと柵を揺らしているのに気付いて、孝は顔を顰めた。
塀に飛びついて塀の外の様子を窺って見れば、塀の外は完全に奴等に埋め尽くされていて逃げ場は無い。飛鳥の方も未だ鬼神の如く強さで、戦い続けているも、四方から迫る奴等によって完全に包囲されてしまっている。

「うげ、まじやば…。霧慧の方も完全に取り囲まれちゃってるし…」

冷たい汗が孝の頬を流れる。
それでも何とかしなければっ、と孝が必死に考えを巡らせていると、飛鳥が戦いながら孝が見ているのを察知し、無事に少女を助けたのも察する。そして自分の仕事は此処までと言わんばかりに跳躍。奴等の頭や肩の上をぽんぽんと、まるで飛び石の上を跳ねるかのような気楽な足取りで、奴等を足場に、塀の上へと移動。そして孝の方へ向って塀の上を疾走して来る。

「に、忍者みたいだな、霧慧」
「呑気な事言ってる場合じゃ無いですよ。そのバット、貸して下さい。そんでもって静かにしていて下さい」
「え、ああ」

飛鳥の言葉に、孝は戸惑いながらもバットを渡す。
それを受け取った飛鳥は、塀の上から周囲を見回すと、またもや塀の上を疾走し始める。

そして孝達のいる家から40メートル程ある所にある家の敷地内にある車の元へと向かうと、運転席の窓を浸透打撃で破壊し、鍵を開けて扉を開く。
そしてバットをハンドルに押し当て、座席の位置を調節し、座席とハンドルの間にバットを挟み込むような状態にする。そして座席を更に前に出し、クラクションが盛大に鳴り響いた所で外れないようにしっかりと座席とハンドルの位置を調節、固定して、孝達の元へ戻るべく移動する。

奴等はその車のクラクションの音に引きつけられて動きだし、飛鳥はその波とは逆の方へと走る。
戻って来た飛鳥に、孝は感心したような視線を向ける。

「なるほど、車のクラクションを利用して奴等を遠ざける訳か!」
「…の筈だったんですがね。数が多すぎて意味ないようです。橋の方からもどんどん来てますし。とりあえず俺は先程のように奴等を引きつけながら戦います」
「分かった、頼む。僕も何とかこの子を連れてこの場を離れる」

孝の言葉に頷いて返し、飛鳥は再び奴等の群れの中へと身を躍らせた───。





薙ぎ払い、突き飛ばし、蹴り飛ばし、叩き潰し、出来る限り派手に暴れながら咆哮する。
頭は手近に転がった連中などだけを潰し、後は足を潰す事を優先して奴等を少しでも足止めできるようにする。


しかし、どれだけ倒しても、どれだけ動きを阻害するように努めても、まるで減った気がしない。数が、多すぎるのだ。
それどころか、更にこの場に集まって来ている。このままでは移動する事もできなくなってしまう。


此方は動けない者まで抱えている。
動けない者は見捨て、動ける者だけで移動する? 飛鳥の脳裏にその選択肢が浮かぶ。
迷わずそうするべき。こんな状況になった以上、足手まといになる者を連れていても邪魔になるだけだ。
ましてや、その動けない者は飛鳥にとってはどうでも良い人間だ。


今行動を共にしている者の中で、飛鳥に取って大事な人間や気にかける相手は、健二に冴子、そして世話になった壮一郎の娘、沙耶のみである。
孝やコータは共に行動する者として頼りになりそうだったが、今回の行動。この状況を引き起こしたのは彼等。むしろ、飛鳥にとって…いや、行動を共にする者達からすれば排除すべき対象と言って良い。

静香は医療知識と言う面では頼りになるし、できれば離れたく無い。麗は戦力として頼りにできる。
だが、あくまで能力的に、の話である。
如何に能力が良かろうと飛鳥からすれば、どうでも良い相手。仲間として行動して来た以上、情も少しはあるが、いざ切り捨てる事になれば躊躇う程では無い。



卓造と智彦。卓造は戦力として少々不安はあるが、何の武の心得も無かった者にしては良くやっている。
智彦の方は槍術を習っていたと言う事もあり、十分戦力となっている。
何より、この二人には守るべき者がいる。近くに、守る者がいる場合、人間は自分の限界以上に力を引き出せる。だからこそ、卓造も彼女を守ろうと此処まで生き残って来れたのだろう。


だが、その彼女達は完全な足手まとい。普通の女子高生が突然こんな状況になり、精神を擦り減らしながら長い距離を移動してくれば、彼女達のようにダウンして当然。
しょうがなくもあるが、現状では邪魔でしかない。


彼女達を置いて行く事にすれば、卓造と智彦は当然残るだろう。そして、彼等と最後まで彼女を守ろうと戦い、数に押されて力尽き、彼女達もその後を追う。
動けない者は見捨てて行くとなれば、確実にそうなるだろう。


それに移動するにしても問題はある。
あの家の中で見つけた使えそうな物はかなりの数に上る。それ等全てを持って移動するなど、何か移動手段でも無ければ不可能である。
その移動手段も、ある。だが問題はそれだけの荷物を詰めれば当然スペースも埋まるし、元より人員も多い。
ハンヴィーでは、完璧に定員オーバーだろう。乗れて、無理して八人が限界。彼等を見捨てる事にすれば、何とかいける。


だが、猛と佳代の姿が飛鳥の脳裏にちらつく。
彼等の命と引き換えにとも言える状況で命を拾い、これまで生きていた智彦と矢部優子。できれば、生き続けて欲しい、と飛鳥は深く思っていた。
佳代の凄惨で惨たらしい死に様、猛の覚悟。彼等があんな結末を迎えて残った彼等を、身捨てたく無い。
猛と佳代を深く、深く大事に思っていた…、いや。今でも思っているからこそ、彼等が残した存在とも言える二人を死なせたくは無かった。
現状では生きるだけでもかなり難しいなどと言う事は分かっているが、そう思わずにはいられなかった。


このような状況で、そのような感傷など全くの意味は無い、不要な物。
飛鳥は当然それは理解している。だが、それでも、感情は到底納得できていなかった。感情を理性で無理矢理抑えつけようとしても、どうしても猛と佳代の姿が脳裏を過る。
飛鳥一人なら、迷う事無く彼等と残った。


だが、親友である、戦力的に一般人に毛の生えた程度の健二がいる。
姉的存在である冴子――此方は放っておいても恐らく問題無い―――がいる。
恩師の娘で、できれば恩師の元まで送り届けたい沙耶がいる。沙耶の場合、あくまで状況が許す限りの範囲で、と言う条件が付くが。


迷う事無く身捨てるべきかもしれないが、感情がそれを邪魔をする。
とりあえず戻って向こうの動きを確かめるしか無い…。もしかしたら自分では考え付かないような事を、考えている者がいるかもしれない。飛鳥はそう結論付けて考えを一先ず破棄し、最後に大きく奴等を蹴り飛ばしてから跳躍、奴等の上を移動してメゾネットへと向かった。








 飛鳥の予想通り、メゾネットの方でも動きは起きていた。
騒ぎや銃声を聞きつけた沙耶に健二、智彦が、冴子から手短に、事情を聞いて慌てて寝ている者達を叩き起こしに行く。
そして起こされた者達は事情を聞いて暗い顔になる。今夜はもう安全だと思っていただけに、その思いは非常に強く、身体も自然重くなる。
これだけの騒ぎが起きてしまえば、此処にいるのは非常に難しくなる。沙耶も健二も即座にそれを理解し、移動する為に動き出す。

「でも先輩、どうするんです? とてもじゃないですが全員何て乗れませんよ」
「分かってるわ。とにかく今は荷物を車に乗せるわよ」

健二が声を潜めて沙耶に尋ねれば、沙耶も険しい顔で頷く。どうやっても全員入れる訳が無いのだ。
それでも此処にいるのが無理になった以上、どうにか移動しなければならない。飛鳥が敵を引いてくれているので猶予はあるが、悠長にしていられる程の時間も無い。
だが当然、全員車に乗れない事くらい準備を進める他の面々にも理解できた。


だが、彼等も外を見て此処にいるのはかなり危険が大きい事も理解できる。
だから、智彦も卓三も黙って準備を手伝った。

「静香先生はもういいからとりあえず何か着て」
「あっ、寒いと思ったら……」

裸で準備を進めていた静香が、沙耶の呆れた顔と視線にはっとして身を隠す。
こんな状況でも男であれば、そちらに目が行ってしまうのは仕方の無い事。それまでちらちらと静香に視線を向けて鼻の下を伸ばしていた彼女持ち二人は、それぞれの相手に耳を掴まれて、ばたばたと痛みを訴えている。

「で、車の準備!」

沙耶がそちらにも呆れた視線を向けてから、冴子の見張っている門へと向かう。
冴子は外の様子から目を離さないままに口を開く。

「今なら車に乗り込めるな。奴等は飛鳥君や小室君に引き付けられている」

冴子の言葉に外を覗いた沙耶は、道路を闊歩する奴等の数に顔を顰めて呻く。

「どうするつもりよ? 霧慧は問題無さそうだけど、小室は戻って来れないわ。子供も一緒みたいだし」
「なら、迎えに行ってあげるしかないんじゃない?」

衣服を纏いながらの静香の言葉に、全員の視線が静香へと向かう。
そして再び男二人はつねられるが、他のメンバーはそれを気にかける事無く静香を驚いたように見ている。

「あ、あの、先生変なこと言った? 車のキィとかはあるんだし」

不安そうに彼等の様子を窺う静香に、冴子が眼を細めて笑う。

「いいや、名案だ」
「決まりね! 小室を助けたあと川向こうに脱出! さ、準備して!」

沙耶もにやりと笑い、皆も頷いて動き出す。
そして準備が終わりかけた頃、全身に返り血を浴びた飛鳥が音も無く戻って来た。

「数が多すぎてきりが無いです。移動の準備をしてるようですが、どういう方向で動いているんです?」
「小室先輩が動きようが無いみたいだから、こっちから迎えに行くと言う話で、だ。でも……」
「車に乗り切れないか」

戻って来た飛鳥は、冴子が口を開くよりも早く彼女に尋ねる。
冴子が答えるよりも早く、飛鳥の姿を発見してやって来た健二が口を開き、彼の言葉を聞いた飛鳥が即座に健二の懸念を察する。

「霧慧、どうすればいいと思う? 残ったら確実に奴等に喰われちまうよな? でも車には乗り切れないし、もう優子達は長く動けないし…」

不安そうに飛鳥に尋ねる智彦。
自然、その場の者達の視線が飛鳥へと集まり、飛鳥は溜息を吐いて、ちょっと考えてから口を開いた。

「……残ろうが移動しようが、危険なのは変わらない。此処に来るまでに考えたが、残ったとしても奴等に喰われるとは限らない。車で移動しても、昼のように何らかの事情で車を失えば足を動かさなければならないし、そうなればどちらにせよ彼女等は危険。むしろ、場合によっては残った方が安全かもしれない。車に乗り切れない以上、車で此処を離れる組みと残る組みを考えるべきかと」

飛鳥の言葉に、何かしら反応して口を開こうとした者達がいたが、それを飛鳥が制す。

「話は最後まで聞け。残る方はできる限り静かにして動かずじっとしている。車で脱出する方は、クラクションを鳴らしながら遠ざかる。エンジン音だけでも奴等を引くだろうし、クラクションを鳴らせばそれだけ敵も引き付けられる。そうすれば此処に残った連中が音を立てなければ此処は素通りしていく可能性は高い。此処は周囲を塀で囲われているし、入り口もしっかりしている。仮に見つかっても、階段にバリケードを張ってクローゼットなどに隠れて音を出さずにいればやり過ごせるかもしれない」

残る方も危険だが、脱出する方も危険である。
昼からの騒ぎでめちゃくちゃになった上に、奴等で溢れた夜の街を走らなければならないのだ。不足の事態が起きる可能性もおおいにあった。
そうなれば闇の中を徒歩での移動となり、危険度も跳ね上がる事になる。
飛鳥の説明に全員が黙って考え込むようにしていたが、沙耶がいち早く口を開いた。

「……それで行きましょ。現状ではそれ以外無いと思うわ。どう考えても全員車で移動する何て無理だもの」
「そうですね…「残念だが……私と飛鳥君は別れるべきだろうな。周りを気にして戦えるのは我々だけだ」…ッ。しかし、俺は……」

沙耶の言葉に顎に手を当て思案する飛鳥の言葉を、冴子が遮った。
飛鳥としては健二と冴子とは離れたくは無かった。冴子の実力は知っているが、やはり心配な物は心配なのである。
冴子の言葉は理解できる。正しいと思う。だが、納得したくない。不安そうにしながらも、苛立つ飛鳥に、冴子はふっと目元を和らげて飛鳥の頭に手を伸ばした。

「心配するな…と言いたい所だが、私としても君と離れるとなれば、君の事を心配してしまうから人の事は言えないな。だが、君も私の実力は知っているだろう?
 大丈夫だ。奴等相手なら、私は自分の身は十分守れる。君の力を信頼して、君なら大丈夫だと思うから別れるのだ。君も私を信じてくれないか?」
「……信じてますよ。でもそれとこれとは別でしょ」
「ふふ、そうだな…。でも、大丈夫だ、まだ君を叱り足りないからな。簡単には死なんさ」

微笑する冴子に、飛鳥は軽く顔を顰めつつ、押し黙った。
こうまで言われて反発はできない。飛鳥とて、冴子の実力は理解しているし、信も置いている。
状況は切迫しているし、彼女の言う事は間違っていないのだから、これ以上言うのは我儘でしか無い。

「……分かり、ました。では俺は残ります。健二、お前も悪いが付き合って貰うぞ。それから峰達も残れ。もし車が動かなくなりでもすれば、彼女等は自分の足で動かなければならなくなる。そうなれば危険はそっちの方が遥かに増す」

絞り出すように承諾の声を出し、飛鳥は顔を引き締めて、健二達に声をかける。

「俺は元よりお前に付いてくつもりだったから問題ねぇよ」
「俺も霧慧が一緒なら心強い」
「僕も構わないです!」
「あたし達も霧慧君が一緒のが良いもんね」
「うん」

健二を皮切りに、彼等はあっさりと飛鳥の言葉を承諾した。
健二もある意味そうだが、卓造達は此処に至るまで飛鳥に助けられて来たと言う事もあり、飛鳥への信頼は高い。
飛鳥の戦闘能力もそうだが、状況判断能力、危機察知能力なども此処に来るまでに見て来た。それにどちらも直接飛鳥に命を救われた事もあり、非常に飛鳥を頼りとしていた。だからこそ、あっさりと残る事を承諾した。

「…なら決まりだ。俺達は独自で川を超える方法を考えます。集合場所はどちらに?」
「私の家はどう? あんたなら場所は知ってるわよね。うちが一番近いし」
「了解です。日時と時間は?」
「そうね……二日後の午後五時って所でどう?」
「分かりました、それで良いです。あ、俺が携帯持ってるんで番号教えときます。もし何かあれば連絡を」

飛鳥が口頭で番号を伝え、沙耶は小さくそれを反復してよし、覚えたと頷く。
そして沙耶も孝の持つ携帯の番号を飛鳥に伝えて、それを飛鳥が手慣れた動作で携帯に登録する。

「よし、じゃあ行動開始ッ」

沙耶の言葉に、皆頷いて行動を再開する。
皆で協力してできる限り、静かに動き、奴等の動きに注意をしながら大量の荷物を車へと詰め込んでいく。
中から、健二は自分にも使えそうだから、と沙耶に頼んでクロスボウと矢、そしてコータが使っていた釘打ち機、釘を貰い、それ以外は車へと乗せて行く。

そしてあらかた荷物を積み終わった所で、頭に懐中電灯を二本差し、両手に銃を抱えたコータがやって来た。
この危機を作りだした者の存在に、飛鳥が思わず動きそうになるも、今は構っている場合では無いと黙殺して家内へと戻り、一階の部屋にある者を移動させるべく動く。
その時だった。背を向けた飛鳥と違い、飛鳥のすぐ横にいた智彦が、冴子達の姿を見て鼻息を荒くしたコータに怒り心頭の表情で迫り、その頬へ向けて力の限り拳を振るったのである。

「がっ!」

コータの声と、何かが折れる音が響き、コータは倒れ伏す。それを荒い息を付きながら、智彦が憤怒の形相で見下ろす。
怒鳴るのを堪える為か、一度歯をぎっと食い縛ってから、智彦は怒りを必死に抑え込むようにしながら口を開く。

「……何も役に立てない俺が、色々知ってるあんたに、こんな事をするのは間違ってるかもしれないけど、こればっかりは納得できねぇよ。あんたの勝手な行動のせいで、俺達は安全に過ごせる筈だったのに……こうして皆が危ない事になって、二手に分かれる事にまでなっちまったんだ。…それなのに、呑気に鼻の下伸ばして息荒くしてんじゃねぇよ!」

コータを殴った為か、中指の折れた腕を握りしめながら、智彦は肩を震わせる。

「峰、気持ちは分かるが落ち着け。今はそいつに構っている場合じゃない。早く一階にバリケードの準備をするぞ」
「き、霧慧…。すまねぇ、我慢できなくて……」
「鼻の下を伸ばしてた事に関しては、智彦も人の事を言えないと思うけどね…」

顔を俯かせる智彦の肩を叩き、飛鳥は智彦を促して室内へと向かう。荷物を運びいれていた優子は、言っている事とは裏腹に心配そうに智彦の手を見ながら、彼等に付いて行く。頬を抑えて呆然と三人を見送るコータの歯が、一本口から抜け落ち、かつーん、と音を立てて地に落ちた。

「殴られても文句は言えないわよ、でぶちん。あんたはそれだけの事をした。放り出されても仕方が無い事をね。ほら、呆けて無いでさっさと立って準備を進めなさい」

呆然とするコータに、沙耶が冷静に声をかけてさっさと立つように促す。
それを尻目に他の者達も黙々と荷物を運びいれて、準備は完了する。すぐにでも出れる、と準備が完了した所で、飛鳥も一階にバリケードを敷く準備を完了して戻って来た。

「残る者達は、すぐにバリケードを築いて上に行け。そして出来る限り音を立てず静かにしているんだ。俺は外で奴等を誘導する為に動く」
「え、霧慧君も「分かった、すまねぇが頼むぞ、飛鳥!」……ッ」

みのりの言葉を健二が遮って室内へと向かい、卓造も飛鳥に頭を下げてから、彼女の手を引いて家の中へ。
残った飛鳥の元に、冴子がやって来た。

「では我々は出る。飛鳥君、無理はしないでくれよ」
「それはお互い様でしょう。ま、俺も死にたくないですからね。無理はしないと約束しますよ」

”約束”と言う言葉に、冴子は驚きに目を見開くが、すぐに安心したように微笑んでから飛鳥の頭を撫でて車の屋根へ。

「霧慧、残った連中は任せたわよ」
「霧慧君、気を付けてね」

窓から顔を覗かせた沙耶と麗に軽くを手を上げて答える。
冴子が屋根に立ち、飛鳥に笑いかけた所で、車はゆっくりと進み出すのであった。











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