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No.20336の一覧
[0] 【習作】がくえんもくしろく あなざー(オリ主・ちーと) 更新停止のお知らせ[磯狸](2010/08/19 12:29)
[1] ぷろろーぐ[磯狸](2010/07/24 10:28)
[2] 第一話[磯狸](2010/08/05 10:06)
[3] 第二話[磯狸](2010/07/16 04:28)
[4] 第三話[磯狸](2010/07/20 10:13)
[5] 第四話[磯狸](2010/08/12 16:04)
[8] 第五話・改訂[磯狸](2010/07/20 00:33)
[9] 六話[磯狸](2010/07/18 19:52)
[10] 七話[磯狸](2010/08/12 16:30)
[11] 八話[磯狸](2010/07/20 10:04)
[12] 第九話・微改訂[磯狸](2010/07/22 09:42)
[13] 第十話[磯狸](2010/07/22 19:28)
[14] 第十一話[磯狸](2010/07/23 10:36)
[15] 第十二話[磯狸](2010/07/24 22:50)
[16] 第十三話[磯狸](2010/07/27 18:02)
[17] 第十四話[磯狸](2010/08/03 09:00)
[18] 第十五話[磯狸](2010/08/04 12:35)
[19] 第十六話[磯狸](2010/08/10 21:26)
[20] 第十七話[磯狸](2010/08/12 23:43)
[21] 4話分岐…生存ルートぷろろーぐ。別名おふざけルート 注意書き追加[磯狸](2010/08/05 22:47)
[22] 一話[磯狸](2010/07/20 22:12)
[23] 第二話・あとがき少し追加[磯狸](2010/08/05 22:45)
[24] 第三話[磯狸](2010/08/08 04:44)
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[20336] 第九話・微改訂
Name: 磯狸◆b7a20b15 ID:9ed37a25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/22 09:42



「それはいけませんね……。生き残るためにはリーダーが絶対に必要です。目的をはっきりさせ、秩序を守らせるリーダーが……」
「後悔するわよ…紫藤を助けた事、絶対に後悔するわよッ!」

 口元に笑みを浮かべながら顎を撫でる紫藤と、孝を責める麗。
憤る健二を抑えながら、飛鳥はその紫藤の嘯くような声と、麗の声をしっかりと捉えていた。

ただ、紫藤の笑顔を張り付けたようなその顔は、酷く胡散臭く、放置していれば取り返しのつかない事に繋がるのでは無いかと言う予感もある。
そして健二の言葉。麗の声に宿る憎しみ。警戒する要素はたっぷりあった。

「飛鳥、絶対に碌な奴じゃ無いと思う。あの顔みろよ、どうみても何か企んでるって顔だ。あんな風に人を見捨てる野郎だ、危険になれば俺達を餌に逃げ出すに決まってる」
「あぁ、いけすかねぇな。何よりあの笑顔が気持ち悪い」
「いざと言う時は頼むぜ…。猛と佳代先輩の時もあれだけど…いや、猛を説得しようとした時もだ。嫌な事ばっかお前に押し付けてるみたいで……ごめんな」
「やめろよ、謝る事なんざ何もねぇよ。俺が荒事、お前は頭脳担当、だろ。それに今回だってお前は俺が見れない代わりに、ちゃんと奴の行動を見ていてくれたんだからな」

何かを企む者、憤る者、戸惑う者、警戒する者。
幾人もの思惑が車中を駆け巡り、バスはそれでも進む。彼等の進む先にあるのは果たして…。




「さっきはありがとう、本当にありがとうっ!」
「あ、あのッ! 卓造を助けてくれてありがとう!」
「霧慧、ありがとな。二度も助けて貰っちゃって…」
「霧慧さん、あの、その…助けてくれて、ありがと」

バスが発車してすぐ、飛鳥と健二の所へ、先程飛鳥が助けた少年と、その彼女。そして峰と矢部がやって来るなり頭を下げた。
飛鳥はそれにあーはいはいと頷いて、呆れた様に口を開いた。

「えっと、卓造って人とその彼女さんぽい人に礼を言われるのは分かるけど、峰と矢部には礼を言って貰うような事はして無い。管理棟での事を言ってるなら、あれは助けた内にはいらねぇ。あんなとこに放置してそのまま行っちまったんだ。怨まれこそすれ、感謝される覚えはねぇよ」
「そんな事ないって! あそこでお前等が来てくれなかったらほんとやばかったし、お前が教えてくれた情報のお陰で俺達はあそこまで逃げられたんだ! 感謝してるよ」
「え、峰君が教えてくれたのって霧慧君が教えてくれた事だったの!? じゃああたし達も尚更感謝しなきゃいけないねっ」
「うん、本当にありがとう」

峰の言葉に、卓造の彼女――小島が驚きの声を上げ、卓造がしっかりと頷いて再び頭を下げた。
それに飛鳥は、更に呆れた眼差しを卓造へと向ける。

「あんた、それを聞いててさっき頭を狙わなかったのか? それとも外れたのか?」
「う、うん。狙った所に振り下ろせなくて…」
「あぁ……」

無理も無い事だろう。卓造は武術の心得など無いようだし、例え情報を知っていても、自らの命を脅かす物が迫って来てそれに的確に攻撃を加えると言うのはそう簡単ではないだろう。おまけにそれまでもかなり戦っていて、相当疲労していたようだったから、狙い通りの所を攻撃できなくなっていてもしょうがない。

「それならまぁしょうがないさね。まだ全然安心できる状況じゃねぇ。今の内に彼女といちゃつくなり、休むなりしてな」

ひらひらと手を振る飛鳥に、4人はもう一度礼を言って元の席に戻って行く。
それに、飛鳥はちょっと安心したように溜息を吐いた。それに健二が、飛鳥の内心を汲み取ったように頷き、声をかける。

「良かったな、とりあえずだけど」
「…あぁ」

猛と佳代の死が、少なくとも今はまだ、無駄ではなかった。
その証明でもある峰と矢部が、仲良く手を繋いで席に戻って行く姿を背中に、飛鳥は猛と佳代の後姿を重ねて目を伏せた。



此処までは良かったのである。
校門を抜けた辺りから、何やらそわそわとしていた不良っぽい外見の少年が、突然立ち上がるなり、あれこれと騒ぎ始めたのだ。

「だからよぉっ、このまま進んだって危険なだけだってば!」

立ち上がり、周りを威圧するように睨みつけながら、煩わしい声を上げる。
静香はそれが気にかかるのか、ちらちらと中の様子を窺い、冴子は我関せずと木刀を磨き、飛鳥と健二は、退屈そうに外へと視線を向けている。

「だいたい何で俺らまで小室たちに付き合わなけりゃならないんだ? お前ら勝手に街に戻るって決めただけじゃんか! 寮とか学校の中で安全な場所を探せばよかったんじゃないのか!?」
「そ、そうだよ…このまま進んでも危ないだけだよ……さっきのコンビニとかに立て篭もった方が」

根暗そうな男子生徒も頷く。
これだから物を考えられない連中は、と飛鳥はいい加減鬱陶しくなり始めていた。余計な騒ぎを起こし紫藤に隙を与えないようにする為に我慢していたが、飛鳥も精神的にきつい事が色々あり、非常に苛ついていた。

そして静香も、マニュアル運転は慣れていないらしく、たまにエンストさせたりしながらも、よく運転していたのだが、車内がこんな状況では気になって運転に集中できないのだろう。そして飛鳥が動くより先に、いい加減我慢の限界に達した静香がはバスを乱暴に路肩に止め、振り返って怒鳴った。
のほほん穏やかな静香が怒鳴るのだから、どれだけ我慢に我慢を重ねていたのか良く分かる。

「もういい加減にしてよ! こんなんじゃ運転なんかできない!」

孝が不良生徒に視線を向け、彼は焦って叫ぶ。

「んだよぉっ、何見てんだやろうってのか!」
「ならば君はどうしたいのだ?」
「う…」

木刀を拭き終えた冴子が、立ち上がって不良生徒に目を向ける。
冷たい双眸に見据えられ、不良生徒がたじろいだ。彼とて校内で有名な冴子の事は当然知っている。自分程度では適う筈が無い事も。
そして、何を思ったのか、孝を指差し意味不明な事をがなりたてる。

「気にいらねーんだよ! こいつが気にいらねーんだ! 何なんだエラそうにしやがって!」
「何がだよ? 僕がいつお前に何か言ったよ?」
「てめえっ!」

どう聞いてもただの言い掛かりであり、飛鳥には彼の思考回路が理解できない。理解したくもないが。
流石に孝も黙っていず、怒りの籠った視線を不良生徒に向け、それに不良生徒が歯を剥き出しにして怒鳴る。そして飛鳥が心底鬱陶しそうに口を開いた。

「好い加減うぜぇよ。なら自分の考えがある奴は勝手にすれば? 誰も止めやしないさ。大体俺達が確保したバスに泣き喚きながら向かって来たのはあんた等だろ? それに小室先輩があんた等を待とうとしなきゃ、乗れもしなかったんだけど? 小室先輩以外あんた等の事何か気にかけちゃいなかったからな。加えて言えばバスを確保する為に先陣切ったのも先輩だ。だから小室先輩がえらそうな態度を取った所で何も問題無い訳。おわかり?」
「て、てめぇッ! 一年の癖になま……」

青筋を浮かべ、今度は無謀にも飛鳥に突っかかろうとした不良少年は、引っ掛かったーと嘲笑を浮かべて刀に手をかけた飛鳥が―――

「がっ!」

―――刀の柄で不良少年の下顎を跳ね上げようとするよりも、早く動きだしていた麗によって腹を突かれ、胃液を吐きながら悶絶して倒れ伏した。

「……最低」

麗は倒れ付す不良生徒を見下ろし、嫌悪に満ちた声で吐き捨てる。
そして、一転。にっこり可愛らしい笑顔で飛鳥に向けて、これまた温かみのある声で口を開いた。

「孝を庇ってくれて、ありがとね」
「あ、あぁ。本当の事言っただけですけどね」

不良少年を見下していた時の態度と、飛鳥を相手にした時のあまりの違いに、飛鳥が軽く怯える。
隣の健二もまたこええ…と呟き、ぶるりと身を震わせる。そして女と言う物が如何に恐ろしい生き物かを知り、少年二人は戦慄するのだった。
そして麗が孝の元へと向かおうとした時、室内に拍手の音が響き渡る。

「素晴らしい、実にお見事! 本当に素晴らしいチームワークですね。小室君、宮本さん! それに君も!」

その声に振り返ってみれば、実に良い笑顔で拍手をする紫藤の姿。
飛鳥はやはり動いたか、と目を細める。何かしら揉め事が起これば、それを理由に何かしら動くだろうとは思っていたが、案の定だった。

「しかし…こうして争いが起こるのは私の意見の証明にもなっています。だからリーダーが必要ですよ。我々には!!」
「で、候補者は一人きりってワケ?」
「私は教師ですよ、高城さん。そして皆さんは学生です。それだけでも資格の有無ははっきりしています」

沙耶の言葉に、厭らしく口を歪める紫藤。
そしてバスの車内を見渡し、実に芝居がかった動作で片手を広げる。

「どうですかみなさん? 私なら……問題が起きないように手を打てますよ?」

その言葉に、バスの後ろの方に座っていた者達―――ほとんど紫藤に付いて来た生徒達が立ち上がって拍手し、紫藤はそれに答えるようにこれまた芝居がかった動作で頭を下げる。

「……と、言う訳で多数決で私がリーダーと言う事になりました。今後は…」
「馬鹿いってんじゃねぇよ」

両手を広げて宣言する紫藤の声を、嘲りを多分に含んだ飛鳥の声が遮った。
確かにこいつは碌な奴では無い。飛鳥は静かに立ち上がりながら、紫藤の顔を見据えた。
此処までで紫藤がどういう人間か判断するのは十分だった。麗の言葉、健二の見た光景、紫藤の言動、そして顔は笑っているのに、一切笑っていない眼。更には紫藤に付いて来た者達の、彼を見る信頼――崇拝と言った方が良いだろうか――しきったような目。こんなのが佳代の担任だったと思うと、非常に苦い気持ちが沸いて来る。

「おや、君は反対なのですか? ですが、集団行動を取る以上、多数決にはきちんと従って貰わねば困ります」
「ならお前に従う必要は無いね。よく確かめもしないでほざくなよ? 見ろ、お前の言葉に賛同してるのは、お前を含め9人のみ。他の連中は誰もお前の意見に賛同何かしちゃいねぇよ」

飛鳥の言うとおり、立ち上がり賛同しているのは7人と倒れ伏す不良生徒。彼は倒れているが、どう考えてもあっちよりだろう。
それに対し、飛鳥達の方は、職員室に集ったメンバーに8人に加え、峰、卓三、矢部、小島の12人が反応を示さずにいるのだ。

「それに、仮に過半数を得たにしても俺はあんたをリーダーとは認めない。聞いたぜ? あんた逃げて来る途中に転んで助けを求める生徒の顔面ぶち抜いて来たらしいじゃねーの。それで良く恥ずかしげも無く問題が起こった時に手を打てるとか言ってんな。あんたがリーダーじゃ俺達はあんたの都合であっさり切り捨てられかねない。信頼できない人間をリーダーにできる訳ねーだろうが。俺達にとって今一番の問題はあんただ」
「助けを求める生徒? なんの事です? 彼は私に奴等に噛まれてしまったから、奴等になりたくないと懇願したのです。あぁ、そういう意味では確かに助けを求める生徒でしたね。奴等と化す恐怖から、私に助けを求めたのです。ですから私は涙を呑んで―――ひぃっ!」

にこやかな笑顔で紡がれる紫藤の言葉は、すっと暗い光を灯した飛鳥の眼を見る事によって呑みこまれた。
その目に宿るのは、純粋な殺意。殺気も、怒気も、何の感情も見受けられない、殺すと言う意志。何の迷いも戸惑いも無い、殺戮の意志。
顔を蒼白にさせ、全身をがたがたと震わせる紫藤は、飛鳥の双眸から目を逸らす事ができない。魅入られたようにその暗い瞳を見続け――――。

「何の躊躇も罪悪感も無く嘘を吐くか。殺した生徒に対しても何とも思って無いようだな。返答次第では、手を出すつもりは無かった。だが、これではっきりしたのも事実。
あんたは危険だ。俺達が生き残る為に行動するのに邪魔で危険な存在と確信した。残念だ、あんたがまともな人間だったなら、その人心を掌握する力は頼りになったろうに」

誰も口を開く事はできない。誰もが重苦しい雰囲気に呑まれ、固唾を呑んで二人のやり取りを見守る。
その静まり返った室内に、ちぃんっと澄んだ鍔鳴りの音が響き渡る。その場違いな、美しい音が響き渡った直後―――

「え……」

恐怖に歪んだ紫藤の顔が、戸惑いの声を上げならが、宙に飛ぶ。

「―――残念だよ、紫藤」

飛鳥が小さく呟いた瞬間、首から上を失くした紫藤の身体の切り口から、噴水のように血が噴き出した。
殺す事は無かったかもしれない。バスの外へ放り出すだけでも良かったかもしれない。
だが、飛鳥は殺す事を選択した。彼の人心掌握術は危険であるし、放置すれば碌でもない事になりそうだと、直感が告げていた。
言葉通り、まとまな人間だったならば良い。まともであったのなら、皆を纏める良いリーダーであり、飛鳥も従っていたかもしれない。

しかし、あの言葉と態度、健二の言葉、麗の憎しみ、彼の連れて来た生徒が彼を見る視線―――。不安な要素しか無かった。
この選択が今後どう影響するか―――それは誰も分からない。





「き、きゃぁああああ」「ひ、ひ、ひぃいいいい」「ひ、人殺しだぁああああ」


車内に響き渡る悲鳴。
紫藤の近くにいた生徒は降りかかる血の雨に悲鳴を上げ、不良生徒は目の前に落ちて来た紫藤の首に腰を抜かしながら、後退し、根暗そうな男子生徒は恐怖に満ちた視線を飛鳥に向ける。眼鏡をかけた女生徒と、その隣にいた女生徒は信じられないとばかりに虚ろな視線で紫藤の死体を見つめている。



孝は麗の態度、そして紫藤と飛鳥の会話から、麗の後悔すると言う言葉の意味を理解しつつも、紫藤をあっさり殺害した飛鳥に恐怖を抱き、健二はせいぜい飛鳥は紫藤を車外に放り出す程度だと思っていたので、驚愕するも、紫藤は危険な存在と言うのには健二も同意の為、この方が安全だなと納得する。冴子は殺ってしまったか…。と溜息を吐きつつも、紫藤と飛鳥のやり取りから、紫藤を放置するのは良く無いとも考えていたが、やり過ぎだと思うと同時に、何の躊躇いも無くそれを紫藤の殺害を実行した飛鳥の様子に違和感を抱く。


麗は紫藤がリーダーを務めると言う事に、飛び出そうと動こうとした直後に飛鳥の言葉の声で動きを止め、もしかしたらリーダーになるのを止めてくれるかもっと経過を見守っていたが、殺害するとは思ってもおらず驚愕の表情を浮かべる。とは言え、紫藤は死んで当然だと思うし、飛鳥の言葉を信じるならば平気で人を見捨てるような奴だ。いや、紫藤なら絶対にやってもおかしくない、むしろ自分が生き残る為に当然のようにそうすると麗は確信しているので、飛鳥が紫藤を殺害した事に関しては何とも思わない。むしろ、良くやってくれたとさえ言う気持さえ沸いたが、父と自分の留年の事もあり複雑な想いを抱いたのも確か。だが、危機になると言う理由だけで人をあっさりと殺した飛鳥に対しても恐怖を抱いたのも確かだった。


コータは学校にいる時、ずっと紫藤に見下され、馬鹿にされていたのを自覚し、そんな奴をリーダーにしたくないと唇を噛み締め、紫藤を追いだそうと改造釘打ち機を握った所で沙耶に止められた所で飛鳥が動いたので、良くやってくれたと言う思いもあったが、一切の躊躇無く人を殺した飛鳥に恐怖を抱く。同時に、自分が紫藤を攻撃しようと動こうと思ったのは、既に状況が普通では無いからだ、と思いなおす。普段の自分であれば、紫藤を攻撃しようなどと思いもしなかっただろうから。だから、飛鳥もこんな状況で普通では無くなってしまったのかもしれない、と飛鳥を恐れる気持ちを抱きながらも、共感する気持ちも沸いていた。

沙耶はあのまま紫藤にリーダーとなられていたら、どういう風に振る舞われるかある程度予想していた為、方法はどうあれそれを未然に防いだ飛鳥を評価した。あれは、間違い無く”正しい行動”だと思うから。それに、もしあの場に自分の父親がいれば、恐らく飛鳥と同じ行動をとっただろうから。飛鳥が怖いと思わないでも無かったが、それでもあの行動は正しいと思った。紫藤の危険性は、沙耶にも当然理解できた事だから。


静香は紫藤の事を嫌っていたが、あっさりと殺害した飛鳥を怖いと思いつつ、此処までの行動を思い起こす限り、飛鳥は仲間を助けたり、バスの発車に邪魔な奴等をどかしに一人で危険な車外へ向かってくれたり、不良生徒を抑えようとしてくれたりと、常に皆の為に行動していた事を思い起こし、先程の紫藤の言葉ややり取りからも、自分の感情だけで殺した訳ではない事も明らか。だからこそ、紫藤を殺した飛鳥をちょっと怖いと思っても、嫌悪すると言う気持ちは沸かなかった。でも、飛鳥に対して恐怖も消えずにその胸に残っていた。


飛鳥に助けられた4人は、自分を助けてくれた飛鳥や健二が紫藤に賛同していないから、何か不味い事があるのかもしれないと彼に賛同せず、それは紫藤と飛鳥のやり取りを見て確信に変わった。あっさり紫藤を殺害した飛鳥に恐怖を抱かなかった訳ではないが、静香と似たような理由で飛鳥に嫌悪を抱く事は無かった。それに飛鳥の言葉であれば、紫藤は碌でもない男でもあったのだし、彼等には互いに大事な想い人が傍にいる事もあり、今まで飛鳥に守って貰い此処まで来れたのだから、これからも飛鳥には近くに居て欲しかった。だから恐怖は感じつつも、飛鳥を排斥しようなどと言う考えは全く浮かばなかった。



が、当然彼等のように飛鳥の行動を恐怖を抱きながらも、ある程度の理解を示せる者ばかりでは無い。
唯一頼りにできる大人であり、学校から自分達を連れ出してくれた紫藤。彼等の中の一部は、日常生活の中でも紫藤を慕っていたと言うのもあり、こんな状況で尚更紫藤に対し信頼を増し、自分達を導いてくれると紫藤が宣言した事で、彼にさえ任せておけば大丈夫と思った所で、その紫藤が殺害されたのだ。

そうすれば、楽だからだ。自分達で何も考える必要が無く、ただの他人の意に従って行動する。
そこに自分の意志は無く、ただ自らを導いている者の言葉にのみ従い、そこに善悪の区別も無く言われたままに行動する。
あのままで紫藤をリーダーとして据えていれば、間違い無くそうなったであろうと、飛鳥も、健二も、冴子も、沙耶もそう確信していた。

既に紫藤に賛同する者達はかなりそうなっていたし、あの後紫藤がリーダーとして振る舞うようになればそれは更に深い物となった筈。
だが、そうはならなかった。それは彼等にとって幸せなのか不幸なのか、誰にも分かりはしないが、頼る者がいなくなった以上自分達で考え、行動しなければならない。

「な、何て事をするんですか貴方は! し、紫藤先生をこ、ころ…殺す何て!」
「この人殺しッ! 鬼ッ! 悪魔ッ!」
「し、紫藤先生が死んじゃう何て…。こ、これから僕等はどうすれば……」

正気に戻った眼鏡の少女が、虚ろな瞳で飛鳥を指さして叫び、それに追従するように隣の生徒も叫び、根暗少年は呆然と呟く。

「人殺し何かと入られるか! 今すぐバスから降りろよッ! お前等も紫藤を殺した奴何かと一緒にいたくないだろうが!?」

あまりの状況に痛みを忘れたのか、蹲っていた不良少年が立ち上がり、唾を撒き散らしながら怒鳴る。
そして、こればっかりは自分達と同意見だろうと、前の方に座る者達に向かって叫んだ。が、彼の期待通りの反応を示す者は皆無であった。

「私は飛鳥君がした事は間違っているとは思わない。あのまま紫藤がリーダーとなっていれば彼の言うように私達が危機に陥る可能性は大いにあったからな。殺したのはやりすぎと思わなくも無いが、バスから降りる必要は無い」
「同感ね。確かにやり過ぎと言う事もあるけど、それにあのまま紫藤にリーダーをさせていたら、それこそ紫藤教の始まりよ。私はそんな物に入りたくないし、そうなったらバスから出て行っただろうから、むしろ霧慧は私達を危険に晒さない為に正しい行動を取ったと思うわ」
「あんな奴死んで当然よ。でも、殺したのはどうかと思う……。だけどやっぱり私は霧慧君の行動は間違ってないと思うわ。あのまま紫藤を放置していたら、絶対に後悔する羽目になってた筈だわ。間違い無く」

健二が反論しようと立ち上がるが、それよりも早く冴子が口を開き、更に沙耶に先を越され、麗も飛鳥を庇うように彼の前に立ち、健二は苦笑を浮かべる。

「な、な、何だよそれ!? 人を殺したんだぞ!? そうなっていたとは限らねーじゃねぇか! あくまでお前等の想像だろ!?」

不良少年も言葉も間違ってはいない。
全ては予想に過ぎなかった。しかし、だからと言ってそれを容認し、その通りになってからでは遅すぎるのだ。

「今となっては予想に過ぎないだろうが、そうなる可能性はかなり高かった。飛鳥はそれを未然に防いだだけだ。なってからじゃ遅いんだからな。人に頼る事ばっか考えて、自分で何も考えて無いからお前達には想像もできなかった事だろうけどな。それに紫藤が一緒に逃げてた生徒の一人を踏み潰しても何とも思わなかったのか?」

健二が嘲笑を浮かべ、八重歯を剥き出しにして笑う。

「な、何だよそれっ! それに紫藤先生は俺達を連れ出してくれたんだ! あの人の言うとおり、噛まれたから紫藤先生が殺してやったのかもしれねぇじゃんかよ! 
 お前等みんな、紫藤を殺したそいつが正しいと思っているのか!?」

不良少年は、前の方に座っている紫藤に賛同しなかった者達を見渡すが、誰も彼の意見に反論しようとしないので、その答えは明らかだった。

「おかしいっ、お前等どーかしてるぜっ! お前等みたいな奴等と一緒に行動できるかっ!? なぁ皆!」
「えぇ、勿論だわ! 紫藤先生を殺した奴を庇う連中何かと一緒に行動できる筈が無いわっ! それに紫藤先生が生徒を見捨てたですって!? 殺人犯の言う事何か信じられる訳無いでしょ!」
「そ、そうだよ…。人殺しは犯罪だし。やっぱりさっきのコンビニへ行こうよ。距離もあんまり離れてないし、化け物もあんまり周りにいなかったし、食べ物もたくさんあるよ。助けが来るまで隠れてようよ」
「そうよっ! そうしましょう! どうせもうじき警察とかが事態を何とかしてくれるわっ! それまで閉じこもっていれば良いのよ!」


不良少年の言葉に、紫藤に連れられて来た生徒達と、さすまたを持っていた少年と箒を持つ少女が一斉に同意の声を上げる。
紫藤が生徒を見捨てた、と言う言葉に少なからず動揺した者もいたようだが、嘘だと言う皆の言葉に、思い直し、やはり殺人犯とは一緒にいられないと声を上げる。
賛同を得られて気を良くした不良少年は、飛鳥達へ向けて馬鹿にしたような笑みを浮かべて叫ぶ。

「お前等みたいないかれた連中に付き合ってらんねーよ! 街へ行くなんてのは自殺しにいくようなもんだぜ! 俺達は此処で降りさせて貰うぜ」

行こうぜっ皆と、彼等は次々とバスから車外へと出て行く。

「それが君達が選んだ事なら止めはしないがな。助けが来る何て甘い考えは抱かない方が良いぞ」
「はっ、言ってろよばーか!」

彼等が出て行く直前、冴子が彼等にかけた言葉に、嘲りを含んだ罵声として返って来た。
こうして、共に学園を抜け出たグループは二つに別れ、それぞれ自分達が信じる道を進むのだった。










紫藤先生は悩みましたがこういう形を取らせて貰いました。
ただ、紫藤先生を殺した後の主人公勢の反応があれなので、話の流れは変えませんが、主人公勢の反応は改訂するかもしれません。ただ今はこれ以上思いつかないorz 
7/21 少々改訂を加えました。冴子、麗、平野、沙耶、カップル組を多少訂正。健二の台詞もちょっと訂正。会話も少々訂正。紫藤派の会話も少し訂正。そして紫藤派の中にも飛鳥の言葉を聞いてちょっと迷いが出た者が出た事も加えました。


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