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No.20336の一覧
[0] 【習作】がくえんもくしろく あなざー(オリ主・ちーと) 更新停止のお知らせ[磯狸](2010/08/19 12:29)
[1] ぷろろーぐ[磯狸](2010/07/24 10:28)
[2] 第一話[磯狸](2010/08/05 10:06)
[3] 第二話[磯狸](2010/07/16 04:28)
[4] 第三話[磯狸](2010/07/20 10:13)
[5] 第四話[磯狸](2010/08/12 16:04)
[8] 第五話・改訂[磯狸](2010/07/20 00:33)
[9] 六話[磯狸](2010/07/18 19:52)
[10] 七話[磯狸](2010/08/12 16:30)
[11] 八話[磯狸](2010/07/20 10:04)
[12] 第九話・微改訂[磯狸](2010/07/22 09:42)
[13] 第十話[磯狸](2010/07/22 19:28)
[14] 第十一話[磯狸](2010/07/23 10:36)
[15] 第十二話[磯狸](2010/07/24 22:50)
[16] 第十三話[磯狸](2010/07/27 18:02)
[17] 第十四話[磯狸](2010/08/03 09:00)
[18] 第十五話[磯狸](2010/08/04 12:35)
[19] 第十六話[磯狸](2010/08/10 21:26)
[20] 第十七話[磯狸](2010/08/12 23:43)
[21] 4話分岐…生存ルートぷろろーぐ。別名おふざけルート 注意書き追加[磯狸](2010/08/05 22:47)
[22] 一話[磯狸](2010/07/20 22:12)
[23] 第二話・あとがき少し追加[磯狸](2010/08/05 22:45)
[24] 第三話[磯狸](2010/08/08 04:44)
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[20336] 七話
Name: 磯狸◆b7a20b15 ID:9ed37a25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/12 16:30

 毒島冴子と飛鳥、そして健二は、6年前から交流があった。
現在は国外で道場を開いている彼女の父親が、宗十郎と知り合いであり、彼女の父親が宗十郎に剣の手解きをして貰いに、宗十郎の屋敷に訪れた時に、冴子も父に連れられてやって来たのが出会い。そしてその日も遊びに来ていた健二も、同時に知り合う事になったのだ。



この頃、飛鳥も健二も近所では有名な悪ガキだった。一人ではやらなくとも、複数になると一人ではやらないような事ができてしまうのは、子供も大人もあまり変わらないのかもしれない。具体的に飛鳥と健二がやって来た事をあげれば、近所の家で飼われていた大型犬、グレートピレニーズとセントバーナードを拝借し、背に乗って近所を乗り回したり、近所の壁に落書きをしたり、道路に爆竹をまいたり、テレビで見たキャンプファイヤーをしようと、近くの公園で実施し、ぼや騒ぎを起こしたり、生意気だ、と喧嘩を売って来た近所に住む子供達を、ぼこぼこにし、公園の砂場に首埋めて晒し首にし、更にその周りに蛇や蛙を放ち、中々戻らない息子達を心配して探しに来た奥様方がそれを目撃し、壮絶な絶叫を上げてえらい騒ぎになった…などなど様々な事をやらかしていた。

宗十郎はそれらに対し、

『まぁ、儂も子供の時はやんちゃだったしの。それに子供は元気があった方がえぇ』

などとむしろ推奨していた。
そして一緒に遊ぶ…と言う事で付いて来た冴子も、当然そういった馬鹿な事に付き合わされる羽目になったのである。

父の教育の賜物なのか、当時から気真面目で厳格とした性格だった冴子は、当然それ等の行動を非難し―――、それを煩わしく思った飛鳥と健二の連携プレイにより、スカートを捲られ、水の入った落とし穴に落とされた冴子が鬼となり――――以後、飛鳥達は冴子の前では比較的おとなしくなる。


それからも宗十郎の教育の賜物か、礼儀知らずで口の悪い飛鳥を会う度に叱り、躾けたのである。無論、健二も。
冴子の数年に渡る厳しい躾の甲斐もあり、飛鳥はとりあえず目上の人(祖父除く)に対しては一応の敬意を払うようになったのだ。
が、当然会う度にそんな事をされていれば当然苦手意識の一つや二つは持つ。高校一年になった今、二人にとって冴子は唯一頭の上がらない相手となっているのである。


まぁ飛鳥の場合は、結構割と飛鳥の屋敷にやって来ては、宗十郎に剣の教えを請うていた冴子とは親しい関係になってはいるのだが、やはり幼少期より植えつけられた苦手意識は消えない。そして職員室に招き入れられた二人は、冴子の前で正座させられていた。その顔にはだらだらと汗が流れ、互いに前を向きながら目だけはそっぽを向いている。

「で、二人共。君達はどうしてこの学校にいる? 私は君達が私の学校にいる何て今まで聞いていなかったのだが。確か、私には三船学園に進むつもりだといっていたな」
「あれ…そうでしたっけ? 確かこないだ爺さんに稽古受けに来た時に教えた気がす、る…ようなしないような、いやっ、やっぱり言ったと思って忘れてたかな、あははは」

飛鳥の言い訳めいた口調は、冴子の虚偽は許さないとばかりの視線の強さにしどろもろとなり、結局笑って誤魔化す。
飛鳥も健二も、家から比較的近いと言う理由でこの学園を選んだ訳だ。無論、冴子がいるのも知っていた。冴子に教えていなかったのは、冴子に知られたら、悪さをしていないかなどと頻繁に様子を見られに来られそうで嫌だったのだ。そして、二人でばれるまでは内緒にしておこうと言う結論に至り、今日までは見つからずにすんでいたのだが、此処に来て遭えなく御用となったのである。


必死に目を逸らそうとする二人を、呆れ混じりの眼差しで見ていた冴子だが、この二人が何を考えているかなど、長い間二人を躾けて来た冴子にはお見通しであったので、疲れたように溜息を吐いた。それが冴子のお説教の終わりを示す溜息だと、少なくとも1000回以上こうして冴子にお説教されて来た二人は既に熟知しており、ふぅ、と此方も安堵の息を漏らす。

「まぁ今は長々と話している場合でも無い。二人共無事で良かったよ…。尤も、飛鳥君がいたなら心配は不要だったかもしれないが」

飛鳥の強さは、冴子も長年の付き合いなので良く知っている。
自分では歯が絶たない宗十郎とも互角に渡り合う程の剣の使い手であり、冴子が本気で挑んでも遊ばれてしまう程の強さの少年。
普段の行動と態度からは想像もつかない程の使い手なのである。尤も、それも冴子もどん引きする程の厳しく痛々しい研磨の果てに得た実力なので、その点に関しては心から凄いと思うのだ。本当に。


それだけに、普段の行動や言動が非常にあれなのと、初対面の日に起こった出来事のせいでつい印象が性質の悪い悪戯小僧のような感じで固定されてしまい、厳しく接してしまいがちになるのだ。一人っ子で兄妹が欲しいと思っていたのもあって、非常に手のかかる弟ができたように思い、今まで躾をして来たのである。
それだけに、こうして一緒の学園にいるのを教えてくれていなかったというのは、腹立たしいが、考えて見ればそれも実にこの二人らしい行動でもあった。

そして、そう思って冷静に見て見れば、二人は何処か憔悴したような、覇気が無いようにも見える。いや、確かに無い。
飛鳥はそう簡単に親しい相手だろうと、人に弱みなど見せないので、気持ち落ち込んでいるかな? と言う程度ではあるが、健二の方は明らかだ。
突然こんな事になったのだから、憔悴していてもおかしくは無いが、飛鳥がこの程度の事で堪えるとは考えにくい。何かあったのか、と思ってみれば、中学になってから二人に加わった、どうしてこんな子が、と冴子が不思議に思うくらい二人とは正反対の少年、熊井猛とその幼馴染である矢島佳代の姿が無い。

挨拶を交わす程度で、その二人とはあまりに交流の無かった冴子だが、飛鳥達と非常に仲が良かったのは知っている。
佳代の方はクラスこそ違うがこの学校に通っていたし、何度か見た事もある。飛鳥が自分の親しい者を見捨てて来るとも思えない。

「…君達と仲の良かった、二人はどうした?」
『ッ…』
「そうか…。すまない」

冴子の問いに、顔を俯かせ、唇を震わせる二人。
常にお気楽な二人が、このように表情を辛そうに歪めるのを見れば、どうなったかなど答えを聞かずとも分かった。

「あの、先輩…。その二人は?」
「ん、あぁ…私が良く教えを請う剣術の先生のお孫さんとその友人だ。ほら、ちゃんと立って自己紹介しろ。私と鞠川先生以外は皆二年生だからな」

つまり、ちゃんと敬語を使えと言う意味である。
座らせたのは誰だ、とでも言いたげな不満そうな顔を浮かべる二人だったが、冴子に鋭い目で見据えられてぶんぶんっと頷く。
実によく躾けられていた。

「……1-C、霧慧飛鳥です」
「同じく1-C、猫威健二っす」

二人の後に続いて、室内の者達が名乗る。
最初に飛鳥を迎え入れた、やせている方の少年が小室孝。眼鏡をかけた太り気味の体型をしているのが平野コータ、ぴんっと立った二本の触角のような頭髪が特徴的な―――飛鳥は失礼とは思いながらも大嫌いな黒いダイヤを連想してしまった―――整った顔立ちの少女、宮本麗、母性に溢れた凄い兵器の持ち主、机にだれているこの場で一番年長者の筈なのに果てしなく頼りなさそうな校医、鞠川静香、そして会った事は無い筈だが、何処となく見覚えのある眼鏡をかけた少女、高城沙耶である。

高城、と言う名を聞いて、もしやと思った飛鳥はちょっと躊躇いながらも口を開く。それ程珍しい名字では無いが、既知感を覚えたのだからその可能性は高いと思ったのだ。

「よろしくお願いします。それと―――高城先輩はもしやとは思いますが右翼団体会長の高城壮一郎さんのご息女では?」
「―――だったら何よ!?」

不機嫌全開で睨みつけて来る彼女に、飛鳥はあぁ、とその理由を察する。
右翼団体会長の娘と言う事で、今まで彼女が周囲の人間にどういう扱いを受けて来たかは想像するのは難しく無い。きっと飛鳥もその手の人間だと思われたのだろう。
だが、それは飛鳥の反応で戸惑いへと変わる。

「あぁ、やっぱり! 壮一郎先生にも娘さんがいるとは聞いてましたが、こんな所で会うとは……。いや、百合子さんに良く似てますねぇ」

お陰ですぐに気づいた、と笑う飛鳥からは何の含みも、悪意のような物は感じられない。むしろかなり好意的であったのだから、沙耶は戸惑った。
しかも、壮一郎”先生”と言ったのである。おまけに母まで知っているらしい。

「え、あ……あんた、あたしのパパとママを知ってるの? それに先生って何よ」
「半年程ご自宅に通わせて貰って、稽古を付けて貰った事がありまして。高城先輩には顔を会わす事は無かったですがね」
「稽古って…あぁ、剣術ね。それ、真剣よね? あんた、学校にまでそんなの持って来てる訳? まぁ今日に限って言えば持ってて良かったとは思うけど」
「何時もは持ち歩いてませんよ……。今日は偶々です」

飛鳥の腰の刀に目を向け、沙耶が何処か呆れ気味に口を開く。とりあえず納得してくれたようで、険のある雰囲気は払拭されたので、安堵する。
冴子の方は飛鳥のしっかりとした口調にうむと頷きながら腰の刀に目を向け、おぉ、それは……。などと目を輝かせる。
当然冴子も、飛鳥の刀がどれだけの物か知っている。しかし、刀を目にして瞳を輝かせる女子高生と言うのはどうなのだろう、青春的な意味で。

「君がそれを持って来ていたとはな。偶然とは恐ろしいな……」
「あ、いや。爺さんが不吉な予感がするから持って行けと」

その言葉に、冴子はあぁ、とすぐさま納得する。
あの色んな意味で人間止めている破天荒な飛鳥の祖父であれば、騒ぎを起こる事を予感しても全く不思議は無い。
ちなみに、冴子の宗十郎の評価は、真面目にしている時の人となりは尊敬できるし、剣の腕も凄まじい人であるが、普段の態度から―――それは飛鳥もだが―――いまいち尊敬を抱けない人、というものである。

「冴子さんその刀お気に入りですもんね…。俺は怖いんですけど」
「ん、あぁ…そう感じるのは実に大事な事だ、健二君。飛鳥君の刀には、確かに人を狂わす力がある。何も考えずに手に取れば、狂わされてしまうだろうからな」

今まで黙って飛鳥が話すのを見ていた健二が、苦笑しながら口を開く。
それに冴子が感心したように頷いて、飛鳥に刀を見せてくれとせがんだ。飛鳥は苦笑して刀を抜き放ち、冴子に手渡す。
その魔性の輝きを放つ刀身に、冴子がうっとりと頬を染めて見惚れ、他の面々も魅入られるようにその刀に視線を送る。大変綺麗で色っぽいのだが、刀を手にうっとりするする冴子に、健二はちょっと引いた。まぁこれは飛鳥の刀を目にする度にこんな感じだったので、もう慣れていたが。


昔はもっとちゃんとした人だったのに…と思う健二。宗十郎や飛鳥の家に頻繁にやって来ていた事で、彼女も少なからずあの戦闘一族に戦闘面以外も染まってしまったのかもしれない、戦いぶりも十分人外に含まれるし、と健二は劇画チックな顔で戦慄するのであった。






「そうえば君達は職員室に何をしに?」
「車の鍵を拝借に。冴子さん達は何時から此処に?」
「君等もか。君達が来るちょっと前だよ」
「鞠川先生、車のキィは?」

二人の会話を聞いていた孝が、思い出したように静香に声をかける。
健二は麗がテレビを見ているのに気付き、健二もまたこの事件が報道されているのか気にかかっていたようで、テレビの前へ向かう。

「あ、バッグの中に……」

バックの中身をごそごそと漁り始めた静香に、飛鳥に水の入ったペットボトルを渡しながら冴子が尋ねた。

「全員を乗せられる車なのか?」

「うっ」

車の鍵を探す静香の動きがピタッと停止する。

「そういえば無理だわ……コペンですっ」

それを聞いた皆は、そりゃ無理だと苦笑を浮かべる。

「部活遠征用のマイクロバスはどうだ? 壁の鍵掛けにキィがあるが」
「本当だ、あれなら全員乗っても余裕そうですね」

冴子の言葉に窓の近くにいたコータが外を確認し、マイクロバスを見つけて指差す。平野の隣にいて外を眺めていた飛鳥も、バスに目を向けて頷いた。

「バスはいいけど、どこへ?」

静香の言葉に、座り込んで水を呑んでいた孝が答えた。

「家族の無事を確かめに行きます。近い順に家を回って家族を助けて、その後は安全な場所を探して……」
「見つかるはずよ。警察や自衛隊が動いてるはずだもの。地震の時みたいに避難所とかが……どうしたの?」

孝の言葉に頷き、沙耶がテレビを見てうわーっと引き攣ったような声を漏らす健二へと問いかける。
健二の隣でテレビを見ている麗は、呆然とテレビを凝視していて、健二が黙ってテレビを指差した。
冴子が手近にあったテレビのチャンネルでボリュームを上げ、室内に緊迫したアナウンサーの声が響く。

【―――です。各地で頻発するこの暴動に対し政府は緊急対策の検討に入りました。しかし自衛隊の治安出動にちういては与野党を問わず慎重論が強く……】
「ぼ、暴動!? 暴動って何よ暴動って!」
「混乱を恐れてるんでしょうね。死体が生きた人間を襲う何てパニックになって然るべきですから……無駄な事を」

憤る孝に、飛鳥が嘲笑を浮かべて答える。ニュースを見るに、この現象は各地で起こっているのだろう。ならば、こんな騒ぎを隠し切れる筈が無い。

【……ません。既に地域住民の被害は1000名を超えたとの見方もあります。知事により非常事態宣言と災害出動要請は……】

テレビの中では、何処かの避難所のようで、ストレッチャーに乗った黒い布で覆われた死体が運ばれていく姿などが映し出されており、その手前でそれなりに美人なキャスターが喋っている。その顔は蒼褪めていて、できれば今すぐこの場から逃げ出したいと強く思っている事が、飛鳥には見て取れた。そのキャスターの言葉を遮るように、銃声による発砲音が上がる。

【発砲です! ついに警察が発砲を開始しましたっ! 状況は分かりませんが…。きゃぁあああああっ! 嘘、いやっ、なに!? うそっ、たすけ… うあっ うあああああああああぁぁぁぁあ!】

突然カメラがぶれ、キャスターの悲鳴が上がる。その背後では、黒い布が被せられていたストレッチャーが大きく盛り上がり、蠢いていた。
キャスターの戸惑うような声は、途中で断末魔のそれへと変わり、悲痛な声とぶしゃーと言う何かが噴き出す音と共に、映像は途切れた。そして【しばらくお待ちください】
と言う花畑をバックにしたテロップが流れ、室内が重苦しい沈黙に包まれた後、中年と30代の男性のいるスタジオへと切り替わった。

【……何か問題が起きたようです。こ、ここからはスタジオよりお送りします】
「それだけ!? 何でそれだけなんだよ!?」
「さっきと同じ。混乱を恐れてるんでしょうね」
「今更? 何処もかしこもパニックじゃない」
「今更だからこそ、よ! 恐怖は混乱を生み出し混乱は秩序の崩壊を招くわ。そして秩序が崩壊したらどうやって動く死体に立ち迎えると言うの? つまりはそういう事よ」

再び憤る孝に、飛鳥が言葉を返す。
その言葉に、今度は麗が疑問符を浮かべて飛鳥を見る。飛鳥が答えるより先に、沙耶がそれに答えた。そして再びテレビを注視する。

【屋外は大変危険な状況になっているため可能な限り自宅から出ないで下さい。また、自宅の窓・入口はしっかりと施錠し窓などは可能な限り施錠して下さい。何らかの理由により自宅にいられなくなった場合は各自治体の指定した避難場所に…】

これ以上このニュースは聞いていても意味が無いと判断した沙耶が、チャンネルを切り替える。
今度映し出されたのは国外の状況を報道している番組のようだった。ゾンビで溢れかえるニューヨークの映像をバックに、金髪のキャスターが読み上げている。
そして読み上げられたニュースは信じがたい事ばかりだった。

【全米に拡がったこの異常事態は収拾する見込みは立っておらず、合衆国首脳部はホワイトハウスを放棄。洋上の空母へ政府機能を移転させるとの発表がありました。なお、これは戦術核兵器使用に備えた措置であるとの観測も流れております。なお現在の時点でモスクワとの通信途絶。北京は全市が炎上。ロンドンは比較的治安は保たれていますが、パリ、ローマは略奪が横行……】

たったの数時間。朝は普通の、何時も通りの日常だった。それなのにたったの数時間で世界中が大混乱に陥っている。

「朝…ネットを覗いた時は何時も通りだったのに……」
「信じない……信じられない…たった数時間で世界中がこんな事になる何て……」
「なんとまぁ…流石に驚いたな」
「こんな状況…どうしろってんだ……」

顔を俯かせるコータに、信じられないと悪夢のような現実を否定する麗、世界規模で起こっている騒ぎに驚愕する飛鳥、呆然とテレビを見て呟く健二。
冴子は厳しい顔でテレビを睨みつけ、沙耶は黙ってテレビを見据えている。
皆がこの状況を此処まで大きく考えていなかった。こんな事態が世界中で起きているとは思っておらず、そのうち元通りになるのではないかと心のどこかで思っていた。
だが、この現実を目の当たりにすれば、冗談でもすぐに何時も通りになる何て言えない。思えない。だが、そう分かっていても口に出さずにいられないのが人間と言う物だ。

「ね、そうでしょ? きっと大丈夫な場所、あるわよね? きっとすぐ何時も通りに…」
「なるワケないしー」
「そんな言い方する事ないだろ!」
「パンデミックなのよ? 仕方ないじゃない」
「パンデミック……」

孝に縋り付く麗の言葉を、沙耶があっさりと否定し、その言い方に孝が喰ってかかる。
それでも沙耶は冷静に返し、パンデミックと言う言葉に静香が顔を蒼褪めさせる。

「感染爆発の事よ! 世界中で同じ病気が広まってるって事!」
「インフルエンザみたいなもんか?」
「ですかね?」

疑問符を浮かべ、隣の飛鳥に尋ねる孝に、飛鳥も疑問符を浮かべて沙耶に尋ねる。

「1919年のスペイン風邪はまさしくそう。最近だと鳥インフルエンザにその可能性があると言われてたわ。インフルエンザをなめちゃいけないのは分かってるわよね?
 スペイン風邪なんか感染者が6億以上。死者は5000万になったんだから」
「それより14世紀の黒死病に近いかも……」
「その時はヨーロッパの三分の一が死んだわ」

淀みなく語る沙耶に、飛鳥は流石はあの二人の娘さんだなぁと感想を抱きながら聞いていた。

「どうやって病気の流行は終わったんだ?」
「色々考えられるけど…人間が死に過ぎると大抵は終わりよ。感染すべき人がいなくなるから」
「でも…死んだ奴は皆、動いて襲いかかってくるよ」
「拡大が止まる理由が無いということか」
「厄介っすね…」

孝が尋ね、何か頼りなさそうな印象を飛鳥に与えていた静香だったが、流石校医と言うべきか、孝の疑問にしっかり答える。
それに、コータが外を歩き回る奴等を見ながら呟き、冴子が纏め、健二が感想を口にする。

「これから暑くなるし、肉が腐って骨だけになれば動かなくなるかも」
「どれくらいでそうなるのだ?」
「夏なら20日程度で一部は白骨化するわ。冬だと何ヵ月もかかる…でもそう遠くないうちには……」
「腐るかどうか分かったもんじゃないわよ。動き回って人を襲う死体なんて医学の対象じゃないわ。ヘタすると、いつまでも…」

静香の言葉に、沙耶が自分の意見を口にし、飛鳥もそれは尤もだと思う。
本当に厄介だと思っていると、おもむろに健二が口を開いた。

「……感染爆発って、こんなに早く世界中に広まるもんですかね? 人為的に行われたテロ、とかは無いですか? 科学的に動く死体を作りだす、何て想像もできやしないんで感染爆発の方がしっくり来ますが、それにしても広まるのが早すぎますよ。そういうウィルスだったらそれまでですけど、感染爆発だったら気象などで地域にばらつきが出る筈ですし、これは世界中で突然起こってますからね…。いや、テロでも無理か。幾ら何でも世界中は……って俺等じゃ原因何か考えた所で無意味ですね。こういった物を調査するには専門の研究施設が無ければ意味が無いし、そっち方面の知識もありませんし。そう言った研究のできる学者が生き残ってて原因解明をしてワクチンでも何でも作ってくれるのを祈るしかないですよね」

仮にそれができたとしてもどれだけ時間がかかるか知りませんがね、と健二が締めくくる。
病原菌の原因解明や、ワクチンを作るなど短時間でできる事ではないし、万全の状況でもそうだと言うのにこの状況である。縋るには、あまりに儚い希望だ。

「テロ…か。こんな事を同じ人間が引き起こした何て考えたく無いものだな。だが確かに今は考えても仕方が無い事だ。
 家族の無事を確認した後、どこに逃げ込むかが重要だな。好き勝手に動いていては生き残れまい。チームだ。チームを組むのだ。生き残りも拾っていこう」

冴子の言葉に、全員が頷き、学校を脱出する為に行動を開始するのであった。





あとがき
この作品の冴子さんは、宗十郎に稽古を付けて貰っている事もあり、原作に輪をかけてチートになっております。
それから前回出て来たカラスですが、この作品内では奴等となった物の肉を食べた動物は凶暴化するとなっています。しかし、奴等になっておらず、あくまで凶暴化だけなので、口で突かれたり、噛まれたりしてもゾンビ化する事は無いと言う設定になっていますので、ご了承ください。




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