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No.20336の一覧
[0] 【習作】がくえんもくしろく あなざー(オリ主・ちーと) 更新停止のお知らせ[磯狸](2010/08/19 12:29)
[1] ぷろろーぐ[磯狸](2010/07/24 10:28)
[2] 第一話[磯狸](2010/08/05 10:06)
[3] 第二話[磯狸](2010/07/16 04:28)
[4] 第三話[磯狸](2010/07/20 10:13)
[5] 第四話[磯狸](2010/08/12 16:04)
[8] 第五話・改訂[磯狸](2010/07/20 00:33)
[9] 六話[磯狸](2010/07/18 19:52)
[10] 七話[磯狸](2010/08/12 16:30)
[11] 八話[磯狸](2010/07/20 10:04)
[12] 第九話・微改訂[磯狸](2010/07/22 09:42)
[13] 第十話[磯狸](2010/07/22 19:28)
[14] 第十一話[磯狸](2010/07/23 10:36)
[15] 第十二話[磯狸](2010/07/24 22:50)
[16] 第十三話[磯狸](2010/07/27 18:02)
[17] 第十四話[磯狸](2010/08/03 09:00)
[18] 第十五話[磯狸](2010/08/04 12:35)
[19] 第十六話[磯狸](2010/08/10 21:26)
[20] 第十七話[磯狸](2010/08/12 23:43)
[21] 4話分岐…生存ルートぷろろーぐ。別名おふざけルート 注意書き追加[磯狸](2010/08/05 22:47)
[22] 一話[磯狸](2010/07/20 22:12)
[23] 第二話・あとがき少し追加[磯狸](2010/08/05 22:45)
[24] 第三話[磯狸](2010/08/08 04:44)
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[20336] ぷろろーぐ
Name: 磯狸◆b7a20b15 ID:9ed37a25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/24 10:28


 寝不足。霧慧飛鳥の体調を一語で表せば、現在進行形で睡眠不足であろう。
自室の、昨日しっかりと干した春の日差しを一杯浴びたふかふか布団で、気持ちよく惰眠を貪っていた飛鳥であったが、今日も何時ものように祖父の襲撃を受けた。
何時も計ったように同じ時間、同じ言葉で叩き起こされるようになって、既に8年の月日が流れた。



毎朝毎朝、朝の4時丁度。「朝稽古の時間じゃッ! さっさと起きろ!」 と言う喜色混じった怒声と共に叩き起こされ続けている訳だが、低血圧な飛鳥の身体は、一向に慣れてくれない。人は適応する生き物だと言うが、飛鳥は八年これを繰り返されていると言うのに未だ順応していなかった。
もうとっくに諦めの境地に達しているが、きついものはきつい。



尤も寝不足と言う点については祖父に叩き起こされる事よりも、朝早く叩き起こされると分かっていながら夜更かしするのが悪いのだが。
飛鳥の個人的意見としては、それは年頃の少年であれば仕方が無い事。何かに熱中しすぎて夜更かししたり、徹夜をするなど大抵の人であれば覚えがある事だろう。
飛鳥も昨日発売したばかりの新作ゲームに熱中するあまり、何時の間にか何とか起きれるボーダーラインである1時を2時間も超えて寝たのはつい一時間前。



もしかしたら祖父が寝坊するかもしれない。今日まで八年間、雨の日も、風の強い日も、雪の日もただの一度として遅れて来なかった祖父であるが、今日こそ寝坊してくれるかもしれないという、余りに儚く、甘ちゃんな期待を抱いて眠りに付いた訳だが、当然の如くその期待は打ち砕かれた。
そして何時ものように無駄な抵抗を拳骨で黙らされ、無理矢理着替えさせられて、襟首を掴まれ、子猫よろしく道場まで連行されるのだが、飛鳥とて剣術が嫌いな訳では無い。むしろ刀を振るっていると落ち着くし、祖父との立ち合いをするのも非常に楽しい。でも早朝は嫌だ。せめて後一時間。日の出と共にして欲しい。




 祖父との稽古は、泊まりに来た友人がどん引きするくらい激しい物なのだが、如何せんもうそれが当たり前の物になってしまっている。
全ての始まりは、この屋敷に来たばかりの頃、両親を失いぴーぴーめそめそと泣いていたばかりだった飛鳥を、

『男ならそう簡単に涙を流すでないっ! その性根を叩き直してやるわ!』

と、あやす事ができずにおたおたとしていた祖父が苦し紛れに出した言葉。
やると決めたからには遠慮なぞせんっ! と文字通り、打撲擦り傷当たり前、時には骨折する程の激しい鍛練だった。

『打たれ、傷つく事で身体は丈夫になってゆく! 案ずるな、儂もお前の父さんも同じように小さい頃からこんな感じじゃった! 言わば我が家に伝わる健康法のようなもんじゃ! 強く、丈夫になって女にもてる! 良い事しかないじゃろ!? 嘘じゃないぞ、何せ儂の婆さんは儂の逞しい身体に惚れたんじゃからの! がはははははっ!』

と言うのが鍛練初日にぼろぼろになってぐずる飛鳥に向かって言った祖父のお言葉である。
こんなのが家伝の健康法何て嫌だ、と幼いながらに思う飛鳥だったが、これが本当に序の口で、これからもっと酷くなって行くと言う事をこの時の飛鳥はまだ知らなかった。



 夏休みや冬休みなど、長期休業の度に、友達と遊ぶ約束があるーと言う飛鳥の泣きの入った懇願を無視して山や海に連れて行き、そこでスポ根少年漫画やバトル物の漫画の影響としか思えないような事をやらされた。

「ではこっから飛び降りろ!」

山に行けば、度胸を付ける為、受け身の練習、足を鍛える為、と称しての崖からのダイブ。段階を踏んで高くなって行き、現在は七階建て相当の高さでも飛び降りれるように。無論、何度か骨折し、泣いた。そして怪我する度に速くなっていく回復速度にも泣いた。

「的確に敵の攻撃を捌く鍛練じゃ!」

蜂の巣を棒で突き、出て来る蜂を叩き落とす鍛練。刺されまくって虫が嫌いになった。大好きだったクワガタさえ見るのも嫌になった。

「時には逃げる事も大切じゃ。鬼ごっこと思って楽しみながらやるんじゃぞ。楽しみながらするというのは大切じゃからの!」

がははは! と笑いながら冬眠の為に食糧確保に勤しんでいる熊さんの前に放りだされ、散々追い回された。追って来る熊よりも笑いながら孫を熊の前に放りだす祖父の方が怖かった。そして何時の間にか、夕飯確保の為に熊を追いまわしている事に気づいた時、さめざめと涙した。

「暗くて見えない? 何を甘えた事ぬかしとるかっ! 暗いから戦えないなどと言う甘えが戦場で通用する物か! 明るくなるまでに降りて来んとお前の大事にしとる鯉は儂の朝飯じゃからの!」

真っ暗闇の中、山の山頂まで連れて来られ、その場に置き去りに。足を踏み外して崖から落ちたり、猿におしっこかけられたり…散々だった。
それ以上に辛かったのは、死に物狂いで家に帰った時にほかほかと煮つけになっていた鯉を見た時だった。絶望した。真っ白になった飛鳥に、祖父が慌ててこれは別の鯉でお前の鯉はちゃんと池におる、と声をかけたが何の慰めにもなりはしなかった。

「暗闇ではすっかり見えるようになったようじゃからの。今度は眼隠してして帰って来るんじゃ! 絶対に人に見つからないように帰って来るんじゃぞ! でなきゃ儂、児童虐待で捕まってしまうからの! うはははは!」

虐待っつー自覚あるんかいっ! 力一杯突っ込み、いっその事、児童相談所に駆けこんでやろうかと思ったが、今更すぎてどうでも良かった。どうしてあの始まりの日に逃げ出さなかったんだと、手探りで動きながら、心底後悔した。

「阪から丸太を転がすからしっかり避けるか捌くかするんじゃぞー。避け損ねればお陀仏じゃ! 気を抜くで無いぞ」

ごろんごろんと同時に10本弱の丸太が阪から蹴り落とされる。死に物狂いで避けきれば、「おー良くかわした! 流石儂の孫じゃぁ!」と嬉しそうに笑って倍の数の丸太を落とされる。あらん限りの悪態を吐きながら避ける。この日まで、じいちゃんじいちゃんと呼んでいたのが、爺に変わり、その前に糞や死ねなどが付くようになった。
孫がぐれてもーた…などと漏らしていたが、良識ある人間が孫への数々の仕打ちを聞けば、誰もが当然だと言うだろう。そしておまわりさんを呼ぶだろう。

とまぁ上記のように剣術の鍛練以外にも様々な事をやらされて来たのである。
祖父との鍛練を思いだす度に、自分が良く五体満足で生きているな、と心から思った。途中から気付いた事だが、暗闇の中を移動する修行や、眼隠し修行の際には必ず祖父が気配を殺して、万が一の場合は手助けする為にすたんばっていた。
恐らく、鍛練を始めたばかりの頃は、そうやって本当に命に関わるような場合は助けてくれていたのだろう。だからと言って感謝する気など欠片も起きなかったが。



「ほれ、始めるぞ」
「…へいへい」

かなり古ぼけた、年季を感じさせる道場へと連行された飛鳥は、祖父…檜山宗十郎に投げ渡された通常の刀より幾分長い刀―――刃を潰した模擬刀―――を腰に差した。
宗十郎は齢80を超えているとは思えない程覇気に満ちた見た目厳格そうな老人――中身ははちゃらけた爺―――でその腰には通常の長さの模擬刀が収められている。
眠気眼で、飛鳥が柄に手をかけた瞬間、宗十郎が動いた。常人では、遠目から見ていても捉える事のできない鋭い踏み込み。それと共に神速と呼ぶに相応しい速さで抜刀、飛鳥の脇腹目掛けて振り抜かれた刃は、飛鳥が半分程、抜いた刃で受け流すように受け止めた。

道場内に金属同士がぶつかる鈍い音が響き、その音が鳴り終わるよりも早く二人は動き出していた。
飛鳥は刀を受けた状態で押し切るように、振り抜き、宗十郎はそれに合わせるように背後へ跳躍し、着地と同時に上段から袈裟切りに、斬りかかる。
振り下ろされる刀を、飛鳥はいなすようにかわし、更に刃を返して襲い来る宗十郎の刃を半身を捌いて避け、脇腹目掛けて斬り上げる。

半歩引いてその斬撃を完全に見切って避けて見せた宗十郎の動きを読んでいた飛鳥は、宗十郎が新たに攻撃を仕掛けるより早く宗十郎との間合いを詰め、宗十郎の右側頭部目掛けて震脚を存分に効かせた回し蹴りを放つ。当たれば頭蓋骨陥没間違い無しの凄まじい蹴りだが、宗十郎は楽しそうに笑いながら身を沈ませて避け、蹴りを放った事で無防備となった飛鳥の腹に斬撃を放とうとする。

「むっ!?」

が、それを放つ事はできなかった。
飛鳥がかわされた右足を、自身の身に巻き込むように引きつけ、蹴りの勢いも利用して身を捻り、軸足となっていた左足を振り上げ、宗十郎の脳天目掛けての変則踵落としを放ったのである。

虚を突かれ、攻撃に移ろうとしていたと言うのと、飛鳥の蹴りの速度もあってかわしきれないと判断した宗十郎はそれでも楽しそうな顔のまま首を逸らし、肩でその蹴りを受け止める。鈍い音が道場に響くが、宗十郎は僅かに顔を顰める程度で、衝撃のほとんどはインパクトの際に身を竦ませる事で床へと流していた。

「ちぃっ、化け物爺め!」

威力をほとんど殺された事に、飛鳥は悪態を付きながら宗十郎の肩を足場に飛び退る。
そんな飛鳥に宗十郎は呆れた眼差しで見やり、溜息を吐く。

「ほんにお前は足癖が悪いの。何じゃあの蹴りは。曲芸師にでもなるつもりか? あんな軽い蹴りじゃ虫も殺せんぞ」
「馬鹿言うな。普通じゃ脳天かち割れてるか、首が圧し折れてるっつーの。あのタイミングでかわせて衝撃を分散できる爺が異常何だよ」
「き、貴様、敬愛すべきおじい様に向かってそんな蹴りを放つとは何事じゃ! その性根を叩き直してくれる!」
「馬鹿言うんじゃねぇ! 爺が俺に今までしてきた仕打ちに比べりゃ可愛いもんだ! 死ねっ、この糞爺!」

怒声と共に刀を身体の斜め前に下げ、飛鳥は宗十郎へ向けて一気に踏み込む。
一瞬にして自身の間合いに踏み込んだ飛鳥は、下段から斬り上げる。宗十郎はそれを容易く弾き返すが、弾いた飛鳥の刀が弾かれた勢いも上乗せされ、今度は袈裟斬りとなって襲いかかる。宗十郎は余裕でそれにも反応して防ぎ、飛鳥が羅刹のような勢いで連続して振るう刀を楽しそうな顔のまま捌き続ける。

道場内には凄まじい剣戟の音が響き渡り、二つの影がめまぐるしく位置を変えながら動き続けている。
どちらも当たればただですまない、刃が潰れている事を除けば、時代劇など真っ青な本物の殺陣が行われていて、二人がぶつかり合うたびに金属同士の衝突により火花が散る。二人の動きは、常人はおろかそれなりに武の道を志した者でも捉える事ができる者では無く、真の達人や超人と言った者達でなければ動く二人を視認する事さえ不可能な速さでの打ち合いだった。

「せぁっ!」
「ぬぅっ!」

これまでの音など比べ物にならない剣戟の音が道場に響き、二人が鍔迫り合いの状態で激しく刃を重ね合う。
これだけ激しい動きをしたと言うのに、飛鳥は薄く汗をかいている程度で呼吸も乱しておらず、宗十郎に至っては汗さえかいていない。

「やれやれ…相変わらず苛烈な剣よの。もっと儂のように柔らかく戦えんもんかね」

飛鳥の剣術…いや、戦い方を一語で現すなら、それは攻撃一辺倒の”苛烈”の一語に尽きる。
相手を喰らい尽くさんばかりの凶暴な剣や、避けるにしろ捌くにしろ、ほとんどの動きが攻撃へ繋がっており、相手に弾かれた攻撃などを、すぐさま次の攻撃へと変じさせる飛鳥の戦い方は、攻撃は絶対の防御とでも言うかのように、とにかく攻撃的だ。
しかし、我が孫ながら凄まじい剣士になったものだと思う。元々剣の才能…いや、戦いの才能と言うべきだろう。飛鳥は生まれて来た時代を間違えているのでは? と真剣に思う程、飛鳥の戦う才能は優れていた。

今まで武神などと謳われ、様々な者に教えを請われて来たが、この息子の忘れ形見程、戦う才能に溢れた者はいなかった。
始めたばかりの時こそ、ちょっとした事でぴーぴー泣いて、こりゃ才能無いかもしれんと思った宗十郎だったが、それはすぐに間違いだったと気付く事になった。
初日に散々痛めつけた翌日も、同じようにし始めた宗十郎は、すぐにそれに気付いた。何と、飛鳥は宗十郎の攻撃を最小限の威力に抑えるような動きをし始めたのだ。
無論、八歳だった飛鳥に避ける事などできなかったが、宗十郎の攻撃に反応し、当たった瞬間に当たった個所を引いたり、自ら当たりに行ったり、身を沈めたりと、無意識だろうが確かに宗十郎の攻撃に対処していたのだ。いや、対処と言うにはお粗末に過ぎたが、それでも驚くべき事だった。

これはもしかたしたら物凄い原石なのでは…と。はたしてそれは当たっていた。
やればやる程、飛鳥の稚拙だった飛鳥の攻撃への対処は的確に、より有効的に、それも一手毎にと言える程驚異的な速度で成長…いや、進化していったし、それに答えるように身体の方もそう言った動きに慣れようとするかのように回復速度などが上がって行くのだ。

ついつい面白くてやるにはまだまだ早かった無茶な修行をさせても、何も教えずとも。身体の効率的な身体の使い方や、脅威に対する最善の対処を無意識レベルで収め、実戦レベルまで持って行くのだ。それを楽しみながら見守り…今でこそ武神と呼ばれているが、若い頃は才能の無さに嘆いた事を思いだし、飛鳥の才能にちょっと嫉妬した。

で、

『才能あるんじゃからそれに驕らぬようもっと厳しい鍛練をさせねばの! 苦労を知らんと将来碌な大人にならんわい! 儂の苦労を思い知れ! がはははは!』

などと八つ当たり6割、嫉妬3割、飛鳥の将来の為1割と、人間らしい汚い思考の元、尚更飛鳥の鍛練の内容はエスカレート。
飛鳥が聞けば、苦労した割に碌でもない爺になってるんですけどーっ! と激怒した事だろう。ちなみに、宗十郎は自分を孫思いの優しいおじいちゃんだと心から信じて疑っていない。孫が攻撃的な性格になったのは、自身のスパルタが8割り近く原因になっているとは微塵も思っていなかった。



それが大体4年間。基礎を仕込み終え、飛鳥に戦い方を教え始めてからは、今まで散々厳しい鍛練をさせて良かった! と宗十郎は自身のやって来た事に満足した。
飛鳥は腹立たしい事に、それこそ憎たらしいくらい腹立たしい事に、次々と剣術や体術、戦略などを吸収して行き、めきめきと腕を上げて行く。無論、4年間にも及ぶ下地もあったからだろうが、それにしても異常すぎた。



しかも自分の人生のほぼ全てをかけて編み出した技術などを、次々と習得して行き、あまつさえそれを自分好みに昇華させ、最適化させて行くのを見た時は殺意さえ沸いた。
その日、宗十郎は泣きながら道場を飛び出し、旧友の家で泣きながら呑み明かした。孫に自分の技を教えるのは嬉しい、でも悔しい…ぐすんぐすんっと。
突然涙して飛び出した宗十郎に、その孫はついに呆け始めたかな…。おむつとか買っといた方が良いのだろうかと、真剣に悩んでいた。

僅か一年足らずで宗十郎が飛鳥に仕込む事は無くなり、後はひたすら二人での立ち合いが主となった。
当然、実際に打ち合いとなれば如何に才能があろうが、経験が皆無な飛鳥と百戦錬磨の宗十郎では勝負になる筈が無く、飛鳥は良いように遊ばれるだけだった。
宗十郎、才能ありすぎる孫をいたぶるのは非常に快感で、始終ご機嫌だったがそれは長く続かなかった。



飛鳥も今までの宗十郎の数々の扱きで鬱憤が溜まりに溜まっていたのである。そこへ来て、立ち合いでずたぼろに打ちのめされ、その時の宗十郎の顔と来たらにやにやと非常にご機嫌ご満悦なのだ。腹が立つに決まっている。打倒糞爺を胸に、自分に足りないのは経験だ! 
と言う事で、色んな武術の道場に見学に行き、その武術の動きで自分の中に組み込めそうなのは取り入れ、昇華していったのである。そうして様々な武術を見て、自分にプラスになりそうな所を次々と収めて行ったのである。


同時に、他流試合を挑み、素手、武器問わず戦いまくり、経験を積んで行った。
無論、そうしているのは宗十郎も知っていた。苦労するのは良い事じゃ、精々頑張れと応援していたが、日に日に強くなっていく飛鳥にこれちょっとやばいんじゃね、と思いつつも孫の成長は嬉しかった。


そして3年。飛鳥は宗十郎から未だ一本も取れていないが、逆に宗十郎からも中々取られなくなるまでに腕を上げていた。
既に、飛鳥の動きは我流と言って良い程他の武術の動きを取り込んでいて、完全に自分の物としていた。身体も飛鳥の戦い方に合わせるよう変化していき、獅子を思わせるようなしなやかで強靭で敏捷性に富んだ身体になっていた。



宗十郎も手本気でやっても互角になるまでに成長した飛鳥を、心から嬉しく、誇りに思った。
そして更に一年立った現在。飛鳥に完全な一本こそ貰っていない物の、先の蹴りのように攻撃を受けるしかない攻撃もするようになってきていて、一本とられるのももはや時間の問題だった。宗十郎の方も飛鳥には攻撃を当てるのは至難の業であり、何時間もの間互いに有効打を与えられず戦いが続くようになっていた。



 ぎしぎしと刀が軋む音が響く中、互いに鍔迫り合いの最中に相手の隙を窺うも、どちらも隙を見出す事ができない。
ほんの一年前までなら、鍔迫り合いになったら、飛鳥の攻撃的な性情のおかげで、ちょっと挑発すればすぐに自分から隙を晒すように動いてくれたものだが、今は全く挑発などにも乗って来ない。それは、心技体全てにおいて宗十郎に匹敵する剣士になった事を意味していた。が、宗十郎はもう教える事も無くなって立派になったと嬉しく思う反面、寂しさも感じた。

「ぼうっと考え事とは余裕だなっ!?」
「ぬぉっ!?」

鍔迫り合いの最中に、ちょっと思い出に浸って哀愁漂う宗十郎。
そんなちょっとセンチメンタル入ったしゃいで小粋(自称)な84歳の様子を好機と見た飛鳥はふっと一瞬だけ腕の力を緩め、考え事をしていたせいで反応が遅れた宗十郎がバランスを崩し所へ、連続して斬り込んでいく。
突き・逆袈裟・左切り上げ・逆胴からなる四連撃。そのどれもが神速の名に相応しい速さで放たれた同時攻撃。余程の達人でもこれを捌くのは難しいだろう。
しかしこれを、宗十郎はバランスを崩していたと言うのに当たり前のように捌いて見せた。

「ほほ、まだまだ甘いのっ。お前さんの攻撃なんぞ隙を突かれた所でどうってことないわ!」
「ぬかせっ!」

実際はかなりぎりぎりの所で捌けたのだが、宗十郎は厭らしい笑みを浮かべて飛鳥を挑発する。
額に冷や汗が出る程の攻撃だったが、爺様の隙を突こうなど、不届きな行いをする孫には灸を据えねばならないのだ! 怒ってくれた方がやりやすい。
ちなみに、逆に飛鳥が注意を逸らした時には「敵と相対している時に考え事をするなど愚か者のする事じゃ! お前は技術も身体も駄目だが心はもっと駄目じゃ! そんな調子じゃ儂のような心技体三拍子揃った男になれんぞ! だいたいじゃな…」と倒れ伏す飛鳥を前に散々偉そうに講釈を垂れたりしたのだが、そんな事は当然自分が不意を突かれた時には頭から綺麗さっぱり消えている。

その後も一進一退の攻防が続き、朝日が顔を出して二時間近く立っても、道場から剣撃の音が途切れる事は無かった。






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