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No.20278の一覧
[0] 【ネタ】世紀末悪魔伝【女神転生 ヒャッハー!】[モヒカンの人](2010/07/14 00:19)
[1] 【人類の】「親友がモヒカンになってた」改め世紀末世界で頑張る人たちのスレ 6年目 part185【黄昏ぜよ】[モヒカンの人](2010/07/15 00:00)
[2] 物資調達作戦[モヒカンの人](2010/07/16 03:56)
[3] アッーーーーーーーーー!![モヒカンの人](2010/07/18 02:32)
[4] オワタ式最終手段[モヒカンの人](2010/07/23 09:11)
[5] *お知らせ*[モヒカンの人](2010/07/27 22:27)
[6] [モヒカンの人](2010/09/22 16:20)
[7] ダークサモナー[モヒカンの人](2011/01/04 13:58)
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[20278] ダークサモナー
Name: モヒカンの人◆bf80796e ID:09effdfa 前を表示する
Date: 2011/01/04 13:58
 草木も眠る丑三つ時、というのはやや使い古されすぎて陳腐すぎるだろうか? いやしかし、古くから廃れないものにはただ新しいだけの表現には持ち得ない「重み」のようなものがある。
 そう一人納得して、朝狗羅由真は一つ頷いてから手元のPDAを操作して文章を打ち込む。街頭の明かりも入り込まない、再開発地区の薄汚い路地裏であるが、省電力モードのバックライトでも十分画面は見れた。
 由真はビルの合間から空を見上げ、その明るさの要因に目を凝らした。計らずも今晩は煌々と月明かりの照らす満月である。
 満月の光りに照らされた由真の服装は、昼日中に見せた制服姿とはかけ離れていた。頑丈なアラミド繊維のアーミーパンツとジャケット、飾り気の欠片もないオリーブドラブのコートは耐熱耐破片仕様の特注品、足元には薄い金属板で補強されたブーツ、そして武器にも使えそうな頑丈そのものの杖を右手に、刃渡り40センチはありそうな細身で取り回しのよいロングナイフは鞘に入ったまま太腿にベルトで固定されている。
 およそ、尋常な現役女子高生が真夜中にするような格好ではなく、果たして彼女は全く尋常な存在ではなかった。
 昼間の尋常な世界から深夜の異常な世界に踏み込む少女は、その両目でじっと頭上の満月を見つめる。
 月の満ち欠けは古来から神秘的なものと大きく関連付けられてきた。
 それらは近年になって月の引力と人間の体積の殆どが水分であることに何らかの関連付けをする科学者もいるが、彼女たちが今立ち向かっている事象は科学者たちが永遠に光を当てられない暗闇の論理と法則が支配する世界である。
 いや……当てられなかった、言うべきだろう。
 悪魔召喚プログラム……。
 その存在こそ、魔法の分野に科学の力を持って切り込んだ天才がこの世の何処かにいるという事実にほかならない。

「ふぅ……残留MAGが酷い……エネミーソナーの反応が強烈ね。そろそろ出番よ、お願い、侯爵」

 ポツリと呟いて、由真は手元のPDAを操作した。
 生体マグネタイトが吸いだされる感覚。軽い貧血にも似た症状に、彼女は右手の杖に寄りかかって息を整えると、目の前に開いた蒼白の召喚陣から悪魔が実体化する。
 彼女の生命力を糧にして顕界した悪魔は、ソロモン72柱の第43位。
 豊かなたてがみを風に流し、金色をした獅子の頭部と死体の色にも似た蒼白の鎧を身に纏い、50の悪霊軍団を指揮する勇壮なる将軍にして強烈無非なる戦士。
 堕天使サブナク、或いはサブノックと呼ばれる悪魔であった。
 将軍は完全に実体化すると彼女の前に跪き、恭しい仕草で頭を垂れた。

「堕天使サブナク、お呼びに従い参上した。我を呼び出すということは、戦か、主よ」
「ええ、食い意地の張った臭い奴が動き回っているの」青白い顔に怒りと軽蔑を浮かべ、由真は続けた。「……若者特有の恥ずかしい全能感に支配されて好き勝手やってるわ。お灸を据えないと」
「ほう、我が主はどうやら珍しくお冠のようだ」
「ええ、私怒ってるの、それも凄く。こんな厄介なものを世界中にばら蒔いたスティーブンにも腹が立つし、それを手に入れて好き勝手やって厄介ごとを更に増やす奴らも頭に来るわ。それに極めつけは、誰ひとりとして事件の根本的解決に手を出さないってこと、そして……」

 そう言って由真は麻痺のない方の足で、路地裏に倒れ伏してピクピクと断末魔の痙攣をしていたオークの局部を踏みつぶした。瀕死の重傷を負っていたオークはその一撃で悲鳴を上げて生き絶える。
 自分の倍近い体格を有する化け物を蹴り殺してMAGの霧に変えながら、《蹇(アシナエ)》と組織の中で呼ばれる少女は嫌悪感と焦燥に顔を歪めた。

「私も含めて、何一つ建設的なことなんて出来ていやしないってこと……。ホント、イライラする。私一人だけで出来ることなんて、殆ど無いに等しい。無力で、幼くて……」
「……」

 右手の杖を指先の血の気がなくなるまで握り締め、唇を噛みながら血を吐くような独白を、獅子頭の将軍はただじっと見つめながら沈黙した。
 やがて力を抜いて一つ息を吐くと、彼女はぎこちない微笑を浮かべて杖でアスファルトの地面を突いた。

「……ごめんね、こんな愚痴聞かせて。行こうか」
「主、あなたは一人ではないはずだ」

 唐突にかけられたその言葉に、由真は立ち止まって肩をすくめる。

「ファントムソサエティ? ダメよ、あの人達はどうやってお金を稼ぐかしか考えてないもの。スティーブンの警告も、最初から信じちゃいないわ。もしそうなったらそうなったで、それでどう上手く立ち回れるか、なんて事しか考えてない」
「……フッ」
「……? 何?」
「徹底頭尾自己中心な組織を相手に、それを手玉にとって良いように使う主も人のことは余り言えぬな」
「私はいいの」
「ほう? 何故?」
「ケン兄ちゃんが行ってたもの、クズとバカは放っておくと碌な事がないから、早いうちに潰しておけって」

 サブナクは爆笑した。

「仮にも自分の所属する組織の連中を屑馬鹿呼ばわりとはな! 全く恐れ入る! 其れでこそ我が主よ」
「褒めてもMAGは出ないわよ」

 さ、行きましょう。なんのてらいもなくそう言って、デビルサマナー朝狗羅由真はカツカツと杖を突きながら汚らしい路地裏を進む。
 いつの間にかその右手には抜き放ったロングナイフが握られている。
 少女が何かを小さく呟いてナイフを握りしめると、青白い光が刀身を覆う。月の光が集まったような様子のそれを二三度振ってから、慄然とした眼差しで彼女は暗く狭い路地の向こうを睨みつけた。

「さあ、害虫駆除の時間よ」



――――――――――――――――



「ッ!」

 短い裂帛の呼気と共に横一文字に振り抜かれた霊波刀から射出された横薙ぎの一閃は、触れるものを容易く切り裂く霊気の刃となって道を塞ぐコボルドの群れを切り裂いた。
 四肢を切り落とし、胴体を裂き、首を落とす霊波の刃。
 たった一呼吸の間に、廃ビルの狭い一室は血風と気化したMAGでむせ返った。
 悲鳴を上げて逃げる悪魔の群れに、長剣を振りかぶった獅子の将軍が追い打ちをかける。

「カァッ! ぬるいわ、雑魚どもが!」

 本能だけで戦う低級悪魔のグールやガキの群れを撫で斬りすると、まるで冗談のようにバタバタと悪魔が死んでいく。それも無理からぬ事で、例えるならば空手を習ったばかりの小学生に黒帯の師範代と戦えと言っているようなもので、そもそも最初からまともな戦いになるはずもない。
 しかし悪魔達は召喚主から命令されているのか、ただひたすら愚直なまでに突撃してくる。
 どうやらこの悪魔達を召喚したサモナーは、足りないオツムと技術をその有り余る保有MAGで補うタイプのようだ。
 由真の最も嫌うタイプである。

「……遅い」

 天井に張り付いて様子を伺っていた妖鬼イヒカが飛び掛ってくるが、素早い切り返しで霊波刀を振るうと、真っ二つになった悪魔が上半身と下半身を別々にして床に飛び散った。
 工事途中で放棄されたコンクリートの壁に大穴をあけて、一つしかない目を血走らせたサイクロップスが唸り声を上げて迫る。
 すぐさま霊気刃を飛ばして斬りかかるが、敵は両腕で急所を庇いながら突っ込んでくる。全身を霊波の刃で切り裂かれながら、一つ目の巨人は人血の染み付いた鉄の棍棒を振りかぶって由真に迫る。
 流血を飛び散らせながら巨人が必勝の間合いに着いたとき、少女は唯一言「アギラオ」と力ある言葉を口にした。
 その瞬間、虚空に突如出現した業火の塊は暗い室内にオレンジ色の曳光を残し、巨人の胴体、心臓の脈打つ体幹中心に直撃した。
 がくん、とその突進を滞らせ、驚愕の視線で自らの身体にぶち込まれた燃え盛る火球を見た瞬間に、悪鬼の体の中心で火球は爆発した。
 口から絶叫の代わりに炎を吹き出しながら、一つ目巨人の身体は爆散する。
 四方に飛び散った肉片が彼女の方にも飛び掛ってくるが、煩そうにしながら焼け焦げた肉片を打ち払った彼女は小さく鼻を鳴らして室内の惨状を落ち着いて眺めた。
 死屍累々といった有様の室内は、彼女の眺めているそばから悪魔の死体が現実世界の頚木を離れてMAGの霧となる。
 室内にゆらゆらと漂うMAGの霧を深呼吸と共に吸い込んで、朝狗羅由真は顔を顰めた。

「三流の味がするわ」
「片付けよう」
「ええ」

 満月の輝く深夜の廃ビルに、かつりかつりと金属の杖がコンクリートを突く音が響く。
 最近頻繁に誰かが使用した形跡のある扉の前に来て、由真はそのドアノブに無造作に手をかけ、その手を横からサブなくに掴まれて眉を顰めた。

「何?」
「……ここは、我が」
「……余計な気遣いよ、あなたは外を見張っていて」
「……」
「返事はどうしたの、悪魔」
「御意」

 勇壮な獅子頭に苦悩をのぞかせながら、堕天使サブナクは小さく頷いて扉に背を向けた。
 そうして彼女がゆっくりと扉を開け放つと、そこには彼女の予想通りの光景が広がっていた。
 胃の腑が裏返りそうな悪臭。
 獣舎の中のような臭気の中に、血と汚物と情交の臭いが渾然一体となって漂っている。
 怒りと嫌悪で真っ白になった少女は、COMPを取り出しながら小さく悪態を付いた。

「暗き森に住まう妖樹の王よ、我が呼び声に応えよ」

 召喚陣の発する燐光に浮かび上がる室内の凄惨な有様に、しかし彼女は能面のような無表情を崩さない。
 新たに現れた悪魔は、古代から中世にかけてドイツのシュヴァルツシルト全土を恐怖と魔力で支配した「榛の木の王」と呼ばれる妖樹の王。アールキングである。
 濃緑色のローブに包まれた四肢は捻くれた黒い木の枝で構成され、その頭部には茨で編まれた王冠をかぶった彫りの深い欧風の顔が両目を怪しく光らせながら睥睨している。
 右手に握られた王笏を一振りし、悪魔は彼女を覗き込んだ。

「さて、要件は何だ」
「彼女たちを癒して、それと、記憶も消して」
「ははははっはっは、このわしに癒しの奇跡を求めるか! これだから人間は面白い」
「できるの、出来ないの」

 イライラと詰問され、アールキングはニヤリと笑って王笏で床を打った。

「出来るとも。ああ、やってやろう」
「なら、早くとりかかって」
「よかろう……ああ、対象は、この、中の人間だな」

 そう言って、悪魔は入り口から数歩入った所から部屋の中に向かって杖を振って「この」と強調した。
 悪魔がこういう言い方をする時には注意するべきであると経験から知っていたが、由真は特に何の疑いも持たずに「ええ」と頷いた。

「ただし、この後も被害者を見つけたら頼むわよ」
「ああ、承知した」

 ギシギシと木々の軋み鳴る音を立てながらアールキングが部屋のなかに入っていくのを見送って、少女はその毅然とした顔を焦燥に歪めて入口近くのパイプ椅子に腰をおろす。
 フィンガーグローブに包まれた右手で両目を覆って項垂れるその姿は、先程まで強大な悪魔に命令を下していた腕利きサモナーの面影は、ない。
 そこにはただ、世界の不条理と理不尽な暴力に怒り、そしてそれに対して余りにもちっぽけで無力な自分に憤る、一人の少女がいるだけ。
 意味不明な呻きと狂笑、そして恐怖に引き攣った叫び声。
 悪趣味なアールキングはその反応を楽しんでいるようだが、背後から睨みつける主の圧力に感づいたのか、悪乗りして被害者たちを驚かすようなことを控えているようだった。
 溜息を一つ付き安物の壊れかけたパイプ椅子に背中を預け、何処か倦んだような目でナイフの手入れをする少女は、入口近くのボロ布の山の中から驚愕と恐怖の視線で自分を見つめる一対の両目に気付くことはなかった。
 そのボロ布の山は、アールキングの言うところの「この」中には含まれていない……。



――――――――――――――――



「主よ、終わったぞ」
「ええ、有難う。一応、このまま付いてきて」
「承知した」

 アールキングを伴って部屋の外に出ると、黙然と佇むサブナクが二人を迎えた。
 彼女が頷きかけると、獅子頭の将軍もやはり頷きかけ、二人を先導するように先陣を切って歩き出す。
 三人が向かう先はこの廃ビルの最上階。
 当然、強硬な抵抗を予想していた由真は、予想に反して全く悪魔が現れないことに首をかしげた。もしや最上階にすべての悪魔を集めているのか、或いは悪魔はさっきので打ち止めなのか。
 その疑問は、最上階への階段を上がり、敵召喚士が篭っているはずの中央ホールの扉の前まで来た時に解消した。
 物理的、魔術的なバリケードが築かれていたであろうその鉄製の扉は、外部から力任せの一撃で木っ端微塵に粉砕されている。
 そして、扉の中からは聞くに耐えない人間の悲鳴がフロア中に響きわたっていた。

「これは……」

 思わず息を詰めるサブナクをよそに、由真はその悲鳴を挙げさせている人物の正体に思い至ったのか、溜息を付いて扉の跡をくぐった。

「オラァ! 痛いか! このクソカスがぁ! どうだ! どうだ! おい!」
「ヒギィィィィイイイイイィィイイl!! ガ、アァッ! イダイ! や、やめ、が、アアアァァアアア!」

 まず目の前に飛び込んできたのは、コンクリートの壁に鉄杭で磔にされた男。
 そしてその男を挟むように左右に立つ人影。
 右側には金属製の小手、胴鎧、臑当を身につけて、両手でよく使い込まれたポールアックスを握りしめた男。焦げ茶色のざんばら髪はろくに手入れもされていないのか、水気を失ってバサバサで、猛禽類を思わせる痩せぎすで彫りの深い、鷲鼻の特徴的な鋭い顔貌は一見して堅気の仕事をしている人間とは思えぬ気迫に満ちている。
 そして、その反対側には筋骨隆々とした身長190センチはある大男が身構えている。簡略化したロリカ・セグメンタタを身につけ、腰にはローマ軍団兵が身につけていた標準的な刺突剣のグラディウスと、獅子の顔を象嵌した円形盾、両手には自らの身長を追い越すような長槍、そしてその頭部は完全に首元までを覆う鉄兜によって防御されていた。

「ハハハハハハ、は? あ、おお、蹇。チィース」
「チィースじゃ、ないですよ、こ……ゴホン」

 近藤さん、と言いかけ、由真は思わず空咳をしてごまかす。

「……ここで何をしているのです? レガトゥス」
「なにって……。」

 そう言って、レガトゥスと呼ばれた男は磔にされた男をちらりと見て肩を竦めた。

「歴史再現ごっこ。よし、ロンギヌス、やれ」
「ハッ! 司令官(レガトゥス・レギオニス)!」

 止めるまもなく、猛将ロンギヌスはその槍を男の脇腹に突き刺した。
 ズブリと穂先が身体の中に沈むと、聞くに耐えない金切り声がまたしてもフロア中に響き渡る。
 サブナクはその悪趣味な見世物に顔をしかめているが、アールキングはその悲鳴にゾクゾクと身を震わせて、あの癇に障るニヤニヤ笑いを浮かべている。
 努めて無表情にして由真がレガトゥスの前までやって来ると、ちょうどロンギヌスはその穂先を男の脇腹から抜き去っているところであった。

「おいおい、そこは泣き叫ぶんじゃなくて、腹から葡萄酒を溢れさすシーンだろうが! ああ? オラァ!」
「司令官、それはお伽話であります。実際にはその時すでにアレは死んでおりましたゆえ、葡萄酒どころか流血すら殆どありませんでした」
「へぇ。今度歴史学者の前で言ってみたらどうだ。それか神父か」
「学者は悪魔など信じませぬし、神父はなおさらです。いや、逆説的に言えば、彼らはどうしようもなく「悪魔を信じている」と言ってもいいかも知れませぬが」
「神の奇跡には悪魔の悪行が必要ってか? 皮肉だねぇ」

 近づいた彼女をほとんど無視して、悲鳴をバックにどうでもいい四方山話をする二人。
 由真は頭痛を堪えながらゆっくりと噛んで含めるように話しかけた。

「レガトゥス。この任務は、私の管轄だったはずですが」
「ああ? 固いこと言うなよ。最近なんでか仕事が少なくてよぉ、暇で暇で仕方ねぇんだわ。それに俺だってなけなしの勤労精神が疼くことだってある。ああ、ロンギヌス、次は脾臓をグラディウスでいけ」
「ハッ! 司令官!」
「ちょっと! 待ちなさいロンギヌス、その男は生かしたまま連行するように言われているのよ。その短剣をしまいなさい。あと、レガトゥス、あなたが干されているのはこう行ったことを何度もするからでしょうが!」

 今にも取り出した短剣で男の脇腹を突こうとしていたロンギヌスの腕を、由真は慌てて抑えた。
 抑えられたロンギヌスは、無理やりそれを振りほどくことも出来たが、止められるままに刃を戻してその顔を彼女の方に向け直した。

「しかし、プリミピルス(筆頭百人隊長)殿、このような唾棄すべき悪党は後腐れなく殺すが世のためであります。それに、敵を殺さず背後に残すのは戦略上非常に不味い対応であると言わざるを得ません」

 困ったような、それでいて引き下がるつもりのない口調でロンギヌスが答える。

「我が主よ、今度ばかりは我もそやつの言葉に賛意を示させて頂く。上には抵抗の末やむなく殺したと報告すればよかろう。……大帝国の英霊よ、とっとと殺してしまえ、そやつの吐く息は獣臭くて叶わぬ。反吐が出そうだ」

 厳しい顔付きのサブナクがそう進言する。

「クククク……召喚師よ、この男の、腐った汚泥のような魂はわしに取って非常に心地よい……うむ、そうさな、最近人間たちの間では「エコ」とか言うものが流行っているではないか? わしがこの男の魂と体を有効に「リユース」してしんぜようではないか」

 そう言って、アールキングは由真の傍らに身を屈めて彼女の肩や首や腰をなでさすった。といっても、性的な意味があるわけではなく、撫でられたところから凝りや疲れが引いていくのが分かる。
 顔と地位に似合わず、この榛の木の王は人を宥め賺して懐柔する手腕に長けていた。
 人を誑かして欺いては黒い森の奥深くに拐かしたという伝説があるくらいで、それくらいは朝飯前なのかも知れない。
 自分以外の全員がじっとこちらを見つめる中、この日一番の溜息を付いて由真は肩を竦めた。

「もう、好きにして」



――――――――――――――――



「召喚士は死亡……か」
「はい、申し訳ありません」
「いや……たまにはこう言うこともあるだろう。ご苦労だった」

 そう言って、由真の目の前でフィネガンは葉巻に火をつけた。
 天海市での仕事が一段落して暫くのあいだ手のあいたフィネガンは、こうして地方支部での外回りという名の休暇を消化しているところだった。
 当然、名目上は仕事中であるので、時々こう行った連絡員紛いの簡単な仕事を回されるが、それについて特に彼自身不満はなかった。むしろ、今まで殆ど交流のなかったほかの機関員との繋ぎが持てるということで、逆に重宝している点もある。
 今回はじめて顔合わせをした、蹇こと朝狗羅由真もその一人だ。
 組織の処理班が慌ただしく駆けまわる中、小型指揮車の暖房が効いた車内でホットココアをすするこの少女が、サモナーとしての腕前ではフィネガンと並ぶほどのものだという噂は彼自身度々耳にしていた。
 そのたびに眉唾ものだと思っていたが、こうして実際に顔を合わせてみればその噂も事実無根というわけではないようだ。
 引き連れていた悪魔も強大で、忠誠心も高い。
 しかしそうなると、彼には当然の疑問も沸き上がってくるのだった。

「蹇、なぜこんな地方都市の支部でくすぶっている? しかも一介の現地サモナーとして? お前ほどの腕なら幹部にもなれるはずだ」
「……私は」

 じっと両手の中で熱を失いつつあるマグカップを覗き込み、そして彼女は彼の両目を真正面から見返した。

「私は、この街が好きだからです。故郷の為に働きたいと思うのは、それほどおかしなものですか」
「……」

 フィネガンは黙ってサングラスをかけると、ゆっくり首を横に振った。

「若いな」

 そう呟いて、彼は一人指揮車から降りた、葉巻の紫煙を冷え込んできた夜空に漂わせながら、男は一人、誰にも聞かれぬ呟きを漏らした。

「だが……それは俺は失ってしまったものだ」

 ふと腕時計に目をやる。
 時刻はすでに日を跨いでいた……。















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明けましておめでとう
仕事やめちまおうかな……


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