199X年 東京は核の炎に包まれた!
地は裂け、海は枯れ、異界から溢れた悪魔たちによって地球は蹂躙された!
恐ろしい力を持った悪魔たちによって、あらゆる生命体は死滅したかのように思えた……
だが、人類は死滅していなかった!!
「ヒャッハー! 新鮮なMAGだぁー!!」
ビューネの主であるサモナーはもはや定型句と化した奇声を上げながら、大上段に構えた頑丈な消防斧を餓鬼の脳天に振り下ろした。
ぐしゃりと汚らしい血飛沫と脳みそをぶちまけながら、振り向く暇すらなく餓鬼は絶命した。
サモナーは斧を引き抜くと、突然の横槍に慌てふためく悪魔達の群れに何の躊躇もなく突っ込んでいく。
「しねェ! 悪魔ども!」
敵の陣容は餓鬼が13体とポルターガイストが6体、それにブラックドッグが数えきれないほど。
そしてその中心には今にも悪魔の群れに飲み込まれようとしていた人間たちの姿があった。
「やれやれ、狂っているのかどうなのか、そこがもんだいだよ」
そう彼女は独りごちて、目庇をガシャリと下ろしてから、世界がこんな状態になってからサモナーと一緒に西洋歴史博物館から頂戴したバルディッシュを振りかぶりながら跳躍する。
サモナーに向かって注意を引き付けられていた悪魔達は、その背後の崖上から突然降って湧いた半龍の悪魔に全くの無防備であった。
「南無!」
瞬く間すらない一瞬で、群がったブラックドッグを何匹も纏めて血煙にする。
ドスドスと暴力的な足音と共に全長2.8メートルの巨体が鋼鉄と厚皮に身を固めて迫ってくると、一山幾らの雑魚悪魔達は悲鳴を上げながら脱兎の如く逃げ出した。ついでに、殺されかけていた人間たちの顔色が死人同然の様相を呈する。
無理もない話だ、彼女が彼らの立場でも、死を覚悟するような状況だろう。
逃げ散った悪魔は戻ってこないだろうから無視して構わない驚異だが、彼女の主は背中を向けて逃げる敵には全く容赦のない輩である。
「ぎぇー! 逃がすかぁ!! しねぇぇぇ!!」
全身返り血で真っ赤になりながら、鋼鉄のブレストアーマーとトゲ付き肩・膝パット、そしてムースでがっちりとセットされたモヒカンで風を切りながら、ビューネの主であるテリーは逃げる悪魔を追いかけまわして高笑いを上げながら、敵の脳天に消防斧をぶち込んでいく。
「おーい、こっちはどうするんだい」
「うるせぇ! 今お楽しみ中だぁ! 見て分かんねぇのか!」
「はいはい……」
予想通りの返事に彼女は溜息を付いて、ボロ布で武器に付いた血飛沫を拭いとってから目庇を上げた。
その下から現れたのは、これだけ激しい殺戮を十も呼吸が終わらぬうちにしでかすような顔つきではなかった。柔和、或いは温厚とでも言えばいいのか、整った卵型の顔つきには困ったようにハの字に下がった眉と細い目が配置されている。
唯一、その荒事の気配を匂わせるのは固く閉じられたままの左目で、縦に走る傷跡からして失明かそれに準じる状態であることは明白であった。
ふと、視線を感じて斜め下に顔をやると、傷付いた人間たちが恐怖と緊張に震えながら彼女に剣を向けている。
先程の悪魔達の襲撃で散々に痛めつけられたのだろう、この集団で満足に戦える兵士はどうやら今現在彼女に剣を突きつけている五人ばかりのメシア教団兵だけのようである。
「剣を下ろしなさいよ。そんな事をするより後ろの怪我人を助けたほうがいいんじゃないの」
「黙れ、悪魔め!」
「メシア様に歯向かう邪悪の輩が!」
はぁ、と溜息を付いて、彼女は左手をスッと彼らの方につき出した。
「メディア」
複数の対象を選ぶことの出来る癒しの魔法が難民達を覆うと、一瞬の後に死人以外の全員が負傷から回復した。
突然の事に目を白黒させるメシア兵と難民に肩を竦めて見せてから、一瞬の隙をついて伸ばされた左手が彼らの武器を跳ね飛ばした。
ビューネの四肢は龍の甲皮と鋭い爪で守られている、この程度の芸当は素手で十分であった。
「あっ!」
「はいはい、無駄な足掻きは辞めときなさいな。少なくとも死にやしないから。あたしのサモナーは見た目はああだけどそれほど悪い奴じゃないよ」
「信じられるか!」
そう言って男が指さした先で、テリーは最後に残った餓鬼の胸に斧をぶち込んでから素手で胸骨を無理やりこじ開け、大小幾つもの血管をぶちぶちと引きちぎりながらまだ鼓動を刻む心臓を摘出していた。そしてついに餓鬼の体内から引きずり出した心臓を彼は頭上で左右に引き裂くと、ぼたぼたと流れ落ちる血潮を頭から浴びながら狂笑を上げた。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」
不気味な雄叫びと高笑いをBGMにして、難民たちと彼女たちの間に気まずい沈黙が漂った。
ビューネは何とかフォローしようと、とりあえず本当のことを言った。
「あー、実は彼は少し頭がおかしいんだ」
「少し?」
「物事の大小は相対的な問題だよ」
「無礼を承知で言わせてもらうが、あの男より貴女の方がよほど人間らしいという時点で釈明の余地がないと思うのだが」
「うわぁ、本当に無礼だ。しかしメシア教団の人間に「悪魔のほうが人間らしい」なんて言葉を吐かせるなんて、やるなぁ」
そう言って愉快気に笑う彼女に向かって、齢10にも届かないほどの少女が歩み寄ってくる。
彼女が笑いを納めて興味深げにその様子を見ると、そこでようやく気がついた兵士たちが慌てて制止するが、少女はその両目に明らかな安堵と感謝の光を灯しながら数メートルほど離れたところでビューネに声をかけた。
「巨人のおねえさん、ありがとう!」
「どういたしまして。命があって何よりだ」
「お母さん! お母さん! ほら、怖い人じゃないよ、ちゃんと話せるよ!」
そこでようやく自分の娘が恐ろしい悪魔に話しかけていることを知った母親が、驚愕に両目を見開きながら走りよってくる。倒れ込むように娘を掻き抱くと、母親は恐怖の眼でビューネを見た。
人間の反応としてはむしろそちらの方が一般的であるから、物怖じしない少女の態度こそが異端である。
ビューネはからからと笑った。
「巨人のお姉さんって言うのは新しいなぁ、あたしはビューネって言う名前なんだよ、あなたの名前は?」
「キョウコ!」
「こ、コラ! 止めなさい、こっちに来なさい、早く!」
「なんで? お母さんも神父様もいつもいってるじゃない、「助けて貰ったらお礼を言いなさい」「感謝の気持ちを忘れてはならない」って。ビューネさんは私たちを助けてくれたのに、お礼も言っちゃだめなの?」
「キョウコっ!」
「お母さん、構いません」
そう言って、先ほどまで少女を制止していた年配のメシア兵が母親を立たせてこちらに向き直る。
灰色の頭髪と口ひげを蓄えたメシア兵は、制帽を取ってビューネに向かって頭を下げた。その行為に彼女は仰天したが、周りの人間はもっと仰天していた。
「隊長! 何をしているのですか!」
「そうです! こんな汚らわしい悪魔に頭を下げるなんて」
「あなたは一体何を考え――」
「黙れ」
ピンと、まるで細い鋼線が張り詰めたような鋭い声色だった。
隊長と呼ばれた男は鷹のように鋭い目付きで兵士たちを睥睨する。
「理由や経過がどうであれ、我々が彼女に助けられたことは間違いない。そのことに対してすら礼の言葉の一つも言えないようで、どうして我々が民の規範足りえるというのか」
どうやら本気でそう言っているらしく、ビューネは思わず口笛を吹いた。
「ああ、ごめん。馬鹿にしたわけじゃないよ。あなたはすごく柔軟な人みたいだね」
「……そんなふうに言われたのは初めてだ」
「じゃあ今までの人たちは人を見る眼がなかったのか、悪魔じゃないんだろうね」
それに対して男が口を開こうとしたところで、流血の儀式を終えたモヒカンがノシノシとやってきた。
これをみて男たちはあからさまに警戒心を呼び戻し、キョウコの母親は慌てて少女の手を引いて難民達の元へ駆け込んでいった。
今度はキョウコも抵抗しなかった。
「テリー、最後のアレは一体なんだったの」
「あのほうがよさそうだった」
「ああ、そう」
ビューネはそれ以上の会話を諦めた。どう頑張っても理解できそうにない。
「で、これからどうするの」
「ええと、ああー結構生き残ったな、ひ、ふ、み、よ」
指差しして全員を数え終わると、健康な成人男性が10人、労働に耐えられなさそうな老人病人怪我人が20人、男女あわせてそれなりに健康そうなのが18人、合計で48人の大所帯であった。
「どうする? 病人だけ車に載せる?」
「そうだな、そうするか」
そう言ってモヒカンは草むらに隠しておいたバックパックから無線機を取り出した。
「こちらテリー、応答せよ」
《こちらウォッチタワー テリーどうぞ》
「ポイントW-51-14で難民を保護した、傷病者多数、車がいる」
《ラージャ トラックを送ります メディックはいるか?》
「いらねぇー、相棒がいる」
《愚問だったな 通信終わり》
無線機をバッグに戻すと、テリーはついでに取り出したタオルで顔面の返り血を拭いながらメシア兵の隊長に話しかけた。
「つーわけで、アンタらは俺らと一緒に来てもらう。まさか嫌とか言わねーよな、あ?」
「……仕方あるまい。だが、彼ら難民達にはどうか慈悲のある対応を願えないか」
最後の言葉はテリーではなくビューネの方に向かって、まるで砂漠の中で遥か彼方の蜃気楼に祈るような様子であった。突然の信頼宣言とも取れるその言葉に、ビューネはどぎまぎしながら返事をした。
「まあ、暴れたり盗んだり殺したりしない限りは、あたしの権限でそれなりに」
「そのような事は絶対にしない」
「へっへっへ、絶対とは大きくでたなぁオッサン。人間なんざ一皮剥けばどいつもこいつもケダモノだぜ、人間ほど信用できない生き物もいねぇや」
ニヤニヤと笑いながらそう言い放つモヒカンのサモナーに、隊長はカッと頭に血が昇った様子で怒声を吐いた。
「貴様のような奴と一緒にするな、この悪辣外道のガイア教徒めが!!」
「?」
「?」
その怒鳴り声に、ビューネとテリーはぽかんと顔を見合わせた。
その様子に隊長も不審気な様子を隠せない。
「……隊長さん、一つ聞いてもいいかな」
「なんだ」
「ガイア教徒ってなに?」
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登場人物紹介
照井賢治[テルイ ケンジ]
渾名はテリー。もともとちょっと危険な感じの土方のあんちゃんであったが、自宅のPCに勝手に仕込まれた悪魔召喚プログラムを知らない間に起動させ、仕事から帰ってきたら自宅のコタツでビューネが勝手にチゲ鍋を作って食べていた。あ、ありのまま今起こったことを(ry 状態の彼に向かって、ビューネが懇切丁寧に彼の置かれた状況を説明。「何、世紀末がやって来るだと、こうしちゃいられん、今から準備だ!」
今のところ、最初に仲魔にしたビューネが強すぎるためにキャパシティがアップアップ。
現在の目標は生体マグネタイトの保有量を増やして新しい仲魔を手に入れること。
E 世紀末モヒカンヘッド
E 世紀末アーマー
E 世紀末ガントレット
E 世紀末ブーツ
E 世紀末革パンツ
E 世紀末消防斧(すごくがんじょう)
E 世紀末火炎瓶(じぶんももえる)
E 世紀末ショットガン(ソードオフ)
,,、,、、,,,’;i、,、
ヾ、’i,’;||i !}, ゙〃
゙、’;|i,! ’i , +
`、||i |i i l|,
+ ‘,||i }i | ;,〃,ミ
.}.|||| | ! l-’ミ +
/⌒ ⌒\;;;;:ミ
ヒャッハァ━━━//・\ ./・\\;;;;;;ミ ━━━━ッッ!!!!
+ /::⌒(__人__)⌒:::::\:ミ +
| ┬ トェェェイ |;;し
+ \│ `ー’´ /ヽ +
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l ..l .l ノ ――、 . l
―十―十十― く/..__|…―‐十―‐ ヽ| |ヽ ム ヒ | |
|.|__| ∠,_ゝ| ””’木””’ | ̄| ̄ 月 ヒ | |
|___ ィ |ヾ|__ノ /..| .\ ../ | ノ \ ノ L_い o o
ビューネ[龍神]
本人はヴィーヴル(半龍の妖精、或いはドラゴン)だと言っているが、自己申告な上に限りなく疑わしい。
非常に強靭な肉体と無尽蔵のスタミナの持ち主であり、接近戦で彼女に敵う相手は余りいない。魔法は苦手で、今のところメディア(複数回復魔法 小回復)とタルカジャ(複数補助魔法 攻撃アップ)しか使えない。が、その打たれ強さと強靭な肉体があればそれで十分とも言える。猛毒のブレスを吐くことが可能。
照井のPCに転送された悪魔召喚プログラムの中にデフォルトで登録されていた。本来ならば照井が召喚に値するレベルに達するまでは出てこれない筈だが、どんなインチキを使ったのか勝手に現れて彼の家の冷蔵庫をあさってモリモリと飯を食っていた。
世界崩壊前から狂気の片鱗を見せ始めていたサモナーに内心引きながらも、心のなかでスティーブンを100回ほど殺してから何とかかんとか良好な関係を築く。
災禍の中心である東京から随分離れていたため、核兵器の影響は受けずにほっとしていたが、照井がしきりに爆心地に行って見たがるのに辟易としている。
別に彼女は照井の支配から離れてもいいと思っているが(支配されなくても協力するつもり。その場合、照井のキャパシティは大幅に改善される)しかしながら照井が変なこだわり(最初の仲魔は絶対に外さない)を持っているために、今のところ彼女ひとりだけが照井の仲魔である。
E クルセイダーヘルム
E ブレストプレート
E ドラゴンアーム(装備なし)
E ドラゴンフッド(装備なし)
E ケブラーグリーヴズ
E バルディッシュ
E ドラゴンクロウ
E ドラゴンファング
E M-2重機関銃
*機関銃とケブラーグリーヴズ以外は全て照井が世界崩壊後の混乱期に近所の歴史博物館から盗んで手直しして使用している。