勝負は呆気なく終わりを告げた。
咲夜は地に落ち、霊夢は両隣りに浮かせた紅白の陰陽玉から出る弾幕を止める。
辺りは一層酷い有様で、廊下は崩れて階下が覗け、あたりに銀のナイフが突き刺さっている。
「答えなさい。魔理沙になんかしたの?」
「……強いのね。さすが博麗の巫女」
「さっさと答えないと本気で殺すわよ」
霊夢の眼光は鋭く、その威圧感は吸血鬼に仕える咲夜にさえ恐怖を与えるものだった。
ひとつ、ため息を吐く。
「別に、何もしてないわ」
「じゃあなんで陰陽玉をもってるのよ」
「魔理沙から預かっていただけ。霊夢に届けてくれって」
「……」
霊夢はジッと咲夜を睨みつけた。
嘘は言っていない。勘だが、そう思う。
「……そう。もういいわ」
だから霊夢は臨戦態勢を解き、咲夜を見逃すことにした。
「さあ、その異変の首謀者の所に案内しなさい」
「……もう動けないわよ。喋るのも億劫なんだから」
「容赦しなかったからね」
霊夢は陰陽玉の調子を整えるように撫でると、もう興味はないとばかりに咲夜に背を向けて飛び立っていった。
「まったく、恐ろしい巫女だわ。でも、お嬢様なら、あるいは」
怪我と疲労から、咲夜はゆっくりと目を閉じた。
ああ、起きたらお掃除しなきゃ。館の補修も大変だわ。
「あのメイド」
掠ったナイフで袖を切られ、陰陽玉を仕舞えず浮かせたままにしている霊夢は呟いた。
「結構、強いじゃない」
*
「ぱ、パチュリー先生……。やっぱ呼び方はどうでもいいんじゃあ」
「……あなたは私の弟子なんだから、なにがおかしいの?」
大図書館の、大きなテーブル。
いつまでも床に座っている訳にもいかないので、パチュリーに案内されて席につく。
落ちた3人を探しに行こうかと思ったら、3人とも無事だと言われて大人しく座っている。
パチュリーはこくこくと頷き、手に持つ本をパタンと閉じた。
おかしいなあ。
「マリサー」
「パチュリー様、お待たせしました」
「大丈夫だった?」
本棚の影からチルノ、ルーミア、小悪魔が現れる。
3人とも特に怪我はなく、元気な様子。
落ちて行った時は随分心配したが、やっぱり人間とは強度が違うみたいだ。
「悪かったわね。弾幕ごっことはいえ、ちょっと痛かったんじゃないかしら」
「弾幕ごっこなんだから当たり前よ!」
「平気だよ。それで、あなたは?」
ルーミアがいつもの両手を広げたポーズで聞く。
「私はこの図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。そっちのは小悪魔」
「よろしくパチュリー。私はルーミア」
「あたいはチルノ!」
「ええ、よろしく。小悪魔、紅茶を用意しなさい」
「はい! じゃあ、チルノさんとルーミアさんはこっちの席に」
「おっと、ありがたいがそんなにゆっくりしてる暇はないんだ」
まだ異変の解決は済んでない。
霊夢が向かっているので、何の問題もない事はわかっているんだけどな。
私は座っていたフワフワの椅子から立ち上がり、立て掛けていた箒を手に取った。
「……あなたの仲間はそう思ってないみたいよ」
「わー、ちょっと疲れてたんだよね」
「あたいもちょっと熱くって。少し涼みたい」
2人とも、けっこう疲れてる。
今まで付いて来てくれただけでも感謝すべきだ。
これ以上つき合ってもらうのも悪い。
ここで2人とは別れて、私一人で行こう。
「チルノとルーミアは休んでていいぜ。私1人でいく」
「えー、マリサも休もう?」
「あなた一人で行って何ができるのよ。道中の妖精に落とされるわよ?」
「む、マリサが行くならあたいも行くよ!」
「紅茶の用意、もうできているんですが……」
皆で喋るなよ、誰が何を言ったのか聞きとれないだろ。
パチュリーが言ったのが悪口なのは、何となく雰囲気でわかるけども。
「おいおい、一応言っておくが、この中で一番弾幕ごっこが強いのは私だぜ? なんで反対されなきゃならんのだ」
「……偶然とか言ってたくせに」
パチュリーが何か言ったが、聞こえないフリをする。
今は都合の悪い事は聞き流す。
「ふふふふふ。楽しそうね! ねえ、あなたが一番強いの?」
突然、後ろから知らない声が聞こえた。
振り返ると、変な翼が目に入る。
宝石のような、カラフルな鉱石をぶら下げた、歪な翼。
「フランっ!」
パチュリーが焦って本を手に取り、小悪魔はあっと口を覆って、両手で持っていたティーセットを割ってしまう。
私も、思わぬ相手との遭遇に心の中で悲鳴をあげた。
「おう、この中の全員に勝ったんだからな」
それでも、声は震えずに出せたと思う。むしろ不敵に、魔理沙っぽい雰囲気を意識して出せた。
横目で窺うと、チルノとルーミアも無言で身構えている。
「そっか。じゃあさ、次は私とやろうよ。弾幕ごっこ」
勘弁してほしいなぁ。
いつかやる事とはいえ、早すぎやしないか。
覚悟も準備も、全然できてない。
しかし、フランは何ボスだっけ? 覚えてない。紅霧異変では戦わなかったような気がする。
確かあれは、後日譚みたいな感じだった。
パチュリーが本を手に取り、私とそいつの間に割って入った。
「どきなさい。あなたに用はないわ」
「あなた、一体どうやってここに?」
「さあ? 上で暴れてる誰かさんのおかげかな」
「……恨むわよレミィ」
2人は互いに見つめ合いながら、穏やかではない雰囲気で会話の応酬を繰り広げている。
私は少し、異常事態で慌てている頭の中を整理しようと必死にぐるぐると考えを巡らせる。
ちっとも考えは浮かばないし、むしろ余計な焦りばかりが募る。
「マリサ。ここから離れて、この異変の主と博麗の巫女を呼んできて」
そんな私とは違い、パチュリーは冷静だった。
私は難しく考えるのをやめ、とりあえず指示に従う事にした。箒に乗って浮かぶ。
「小悪魔は、門番を呼んできて。チルノとルーミアはフランを抑えるのを手伝って」
「は、はい!」
チルノとルーミアは無言で頷く。妖怪としての本能なのか、余計な事を喋る余裕もないのか。
小悪魔は返事と同時にすっ飛んで行った。
私もその後に続き飛ぶ。
「マリサさん! こっちです!」
「おう!」
小悪魔に追従して図書館の扉を目指し飛ぶ。
「あなたはダメだよ、ここからいなくなったら。私と遊ぶんだから」
が、真後ろからフランドールの囁くような声が聞こえて思わず振り返ってしまう。
目に映るのは、先端に歪んだハート型のモチーフの付いた、曲がった杖を振りかぶるフランドールの姿。
冷や汗が背筋を伝い、悲鳴が喉まで出かかる。
「あら、私たちじゃ不満かしら? 土符『レイジィトリリトン』」
しかしその姿は真横に掻き消えた。
咄嗟に視線を横に、姿を追うと、轟音と共にフランは本棚に埋まった。
その体を押しつぶすように巨大な土塊が覆っている。
「本が傷ついちゃうわ。……マリサ、早く行きなさい」
「お、おう」
なにあのパチュリー超かっこいい。
「……逃がさないって!」
盛大に土煙を巻き上げ、両手で杖を持ちながら飛びあがってくる。
「凍符『パーフェクトフリーズ』」
「夜符『ナイトバード』」
しかしチルノとルーミアの弾幕がその行く手を遮った。
「っ、もう! 邪魔しないで!」
フランは手に持つ杖で一つ一つ叩き潰しながらこちらに迫ってくるが、時間は十分にできた。今のうちに小悪魔を追い、図書館を飛びだす。
「逃がさない!」
「いいえ、逃がすわ」
パチュリーの声が聞こえるのと同時に、扉が背後で音を立てて閉まる。パチュリーの魔法だろうか。
「こっちが出口です!」
「おう!」
考えるのは後にして、今は急いで上に向かう事にする。
*
「あーあ、行っちゃった」
「残念ね。扉はもう閉め切ってしまったわ」
「ふーん。妖精と妖怪と魔法使い、3人か。うん、すぐに倒して追うからいいわ」
「できるのかな? あたい達、ちょっと強いわよ」
*
1階につくと、小悪魔は門の方に飛んで行った。
門番の美鈴を呼んでくるのだそうだ。私は小悪魔から教えられた道を飛んで階段のある大ホールまで飛んでいく。
あたりは随分静かだ。
*
おかしい。
パチュリーが感じたのは僅かな違和感だった。
フランドールから感じる狂気が、いつもよりずっと少ない。
「パチュリー、なんであの妖怪は弾幕を撃ってこない?」
ルーミアがフランに向けて弾幕を撃ちながら、こちらに近づき尋ねる。
その目は先ほどまでと違い、冷静な光を湛えていた。
こいつ、マリサの前では猫被ってたわね。
パチュリーは気づかないが、ルーミアの髪のお札リボンは僅かに解けている。
こちらから撃つ弾幕すべてを叩き落としているフランドール。
感じる魔力はこの場の誰よりも強い。なのに、被弾箇所をできるだけ少なくし、力を温存するように戦っている様子だ。
「……やっぱりおかしいわよね」
急いで追うなら、力を温存するような相手ではないはずだ。再生力も不死と言えるくらい高いのに、なぜいつものように捨て身で戦ってこない?
「フラン、何を考えているの?」
「ふふふ、どうかした?」
「……」
それに、この余裕。
魔理沙と弾幕ごっこをしたいと言って、それが叶わなかったら大暴れするような性格のハズが、なぜこんなに落ち着いていられる?
パチュリーは考える。
「うん。そろそろいいかもね。もう十分だと思うし」
フランがそう言って空中で止まると、チルノの弾幕がすべて被弾する。
舞った冷気の煙が引き、無傷でその姿を現す。
「……なにを企んでいるの?」
「特別だよ? 特別に教えてあげるね?」
教えたくてたまらない、という様子のフラン。
その手にはスペルカードが1枚。
「禁忌『フォーオブアカインド』」
その影がズルリと3つに分断されると、それぞれからフランドールが姿を現した。
「……っ!」
パチュリーは、フランのそのスペルを初めて見た。
そして、その余裕のワケを理解した。
「まさか!」
「遅かったね! 禁忌『レーヴァテイン』」
フランの杖に炎が灯り、長く伸びたそれは図書館の扉を破壊して瓦礫で埋めた。
「これで誰も出られない。私は本体じゃないから、時間がたてば消えるけど」
完全にしてやられた。
パチュリーは、まさかフランが策を練って挑んでくるとは考えてもいなかった。
その油断が、魔理沙を今危険にさらしている。
パチュリーは苛立ち、ギリッと唇を強く噛んだ。
*
階段ホールを上がり、2階へ。
上の方から、轟音と、館を揺らす程の衝撃が響いている。
「霊夢、派手にやってるから場所がわかりやすくて良いぜ」
もっと上に行くのか、音は最上階か屋上付近から聞こえると思う。
「ちょっとそこ行くお嬢さん、そんなに急いでどこに行くの?」
2階の階段ホールの影から、なんでもないようにフランドールがひょいっと姿を現した。
「うおわ!」
「あはは!! 驚いた?」
驚いて思わず箒から落ちたが、低かったのと背中から落ちたので、そんなに痛くなかった。
それよりも、なんでここにフランが?
「おいおい、パチュリー達はどうしたんだ?」
「ふふふ、どうしたと思う?」
にやにやと笑いながら、地面にあぐらをかいて座る私を見下ろすフラン。
どうしたって、いくら強くてもこんな短時間でここに来るのは不可能だろ。
なら、分身か? なんか、そういうスペル持ってたよなこいつ。
「驚いたな、吸血鬼は分身もできるのか」
「え! すごい、なんでわかったの!? パチュリーも騙せたのに!」
えらく驚かれた。
「あなたは人間よね?」
「おう、人間を見るのは初めてか?」
「咲夜以外の人間を見るのは初めてよ。いつもはお茶やケーキの形で出て来るから」
「引きこもりなのか」
「違うわ。お外に出してもらえないの」
「どうして?」
「危険なんですって」
「へえ。何が危険なんだ?」
「私、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持ってるんだ。私自身でも制御できない、強力な能力」
「そいつは危険だな」
「でも、閉じ込めるなんて酷いと思わない?」
ぷうっと頬を膨らませて怒る様子はとても可愛らしいが、油断ならない。
フランドールに関しては、テーマ曲がかっこよくて、『魔理沙』の友達で、狂気の妹だっていう印象はある。
でも、深く知ってるわけじゃない。
だからその境遇を、どうもよく理解できなかった。
「私にはよくわからないぜ」
だから、正直に話す事にした。
「なにが?」
「なんでも壊せるって、どんな気持ちだ?」
解らない事は尋ねる事にする。
「どんな気持ちって、別にどうも思わないわ」
「壊すのが自然だからか?」
「そうね。生まれてからずっとそうだったもの」
それは、なんか悲しい答えだった。
「たとえば、今お前が私を壊したとする」
「ええ」
「もうこうして話す事はずっとできなくなるし、いつか忘れるな」
「そうね」
「それって、悲しくないのか?」
「悲しい? なんで?」
「……私は悲しいと思うし、寂しいと思う」
「死ぬのが嫌だから?」
「違う。お前と友達になれないからだ」
フランドールは驚いたように目をぱちぱちと数度瞬かせた。
『魔理沙』は確か、フランドールの唯一の友達だったはずだ。
いま私が死ぬと、フランに友達ができなくなってしまう。
「友達?」
「うん。実は私、お前と友達になりたいんだ」
恥ずかしい事言ってる気がするなあ。
「お前が悲しいって思ってくれないのが悲しいから、私が友達になって教えてやるんだ」
「なにをいってるの?」
怪訝な顔をされた。
すごく恥ずかしくなる。けど、諦めない。
「お前が力を制御する方法を一緒に考えたいから、友達になりたいんだ」
「……」
「お前が閉じ込められてた時間を忘れるくらい、楽しい思いをさせたいから、友達になりたいんだ」
「……なら、弾幕ごっこにつきあって。勝ったら友達になってあげる」
「望むところだ、と言いたいが、それじゃだめだ」
勝てそうにないから、ってわけじゃないぞ。
「友達になるのに条件なんていらないだろ。お前がどう思ってるかが重要なんだよ。私と友達になんかなりたくないのか?」
「友達なんかいらないわ。しかも、人間の友達なんて。お姉さまが言ってた。人間は愚かで力も弱く、すぐに死ぬ脆い生き物だって」
「私は人間だけど、魔法使いだぜ?」
「同じよ。もう、いいわ。とにかくあなたは弾幕ごっこが強いんでしょ? 弾幕ごっこ以外に、あなたに興味なんてない」
「悲しいねえ」
うーん、紅魔郷では異変中は戦ってないんだよなー。まだ紅霧異変の最中だし。なんとか避けたい。
「弾幕ごっこが嫌なら、弾幕ごっこのルールで殺し合いでもいいわ」
私にとっては余計悪い。
「殺し合いは嫌だ」
「あは、禁忌『クランベリートラップ』!」
聞いちゃいない!
箒にも乗ってないのに、フランはスペルカードで弾幕を放ってきた。慌てて立ち上がる。
う、うわ! 箒は!? 何処だ!?
慌てて辺りを見回すが、落ちた時に結構離れてしまったみたいで、走っても取りにいけそうにない。
「……!」
ピンチ。
「どうしたの!? 避けないの!? 死んじゃうよ!? あははは!!」
とにかく地面を転がり、弾幕をできるだけ避ける。八卦炉にありったけ魔力を注ぎ込みバリアをはっておく。
肉体強化の魔法を使えたらいいんだけど、まだ知らない。
「って、無理だろ!」
もちろん避けきれるはずはない。
バリアに次々と弾幕がぶつかり、あっという間にバリアはガラスのようにはじけ飛んだ。
「っ……うぁ!」
体をできるだけ縮め、腕で庇う。衝撃を殺すために後ろに下がる。
両腕に焼けつくような痛みを感じ、衝撃が体中を駆け巡って一瞬意識が遠くなる。
「……いったぁ」
地面を転がり、うつぶせで止まる。
生きてる。奇跡だ!
体中痛いが、まだ全然動ける。
あ、帽子がどっかに飛んでった。
「ほらほら! 被弾しちゃった! 痛い? ねえ?」
悪魔の妹超怖い。
箒のところまで飛ばされたので、掴んでそれを杖に立ち上がる。
「次も生きてられるかな? 禁忌『カゴメカゴメ』」
容赦ない!
箒で飛びあがり、弾幕に備える。
いや、備えるだけじゃだめだ!
八卦炉を構える。
「偽恋符『マスタースパーク』」
強い光が辺りを包む。
「なにそれ! よわっちい弾幕ね!」
その光を突き抜けて迫るフランの弾幕。
いや、これでいいんだ。
その弾幕を抜けて、光を突き抜けてまだ目が眩んでいるフランの方へ。
「あ!」
完全に不意を突かれたのか、驚いた表情で私を見て固まるフラン。
「私は!」
大声で、後ろの弾幕が壁を破壊する音に負けないように。
「友達と殺し合いはしない!」
振り下ろされたフランの杖を、八卦炉で受け止める。
「なに言ってるの? 友達じゃないわよ!」
「お前がそう思ってなくても、私は勝手にそう思ってる!」
腕力はフランの方が圧倒的に強いので、こうして拮抗しているというのは、フランが私を撃つ気はないと言っているようなもの。
少し、話を聞いてくれるみたいだ。
「さっきから何なのあなた!」
「お前ホントは寂しいだけなんだろ! 知ってるんだぞ!」
互いに至近距離で叫び合う。
「外に出たいって言ってたのはなんでだよ! 寂しいんだろ!」
「違う! 寂しくなんてない! そんなものは知らない!」
「知らないフリするな! 外で友達が欲しかったんだろ!」
「いらない!」
「話し相手がほしいんだろ!」
「違う! なんなのよ! 妄想で変な事言わないで!」
「たしかに妄想かもしれないけど! じゃあなんでさっき私を殺さなかった!」
「殺そうとしたじゃない!」
「嘘だ! 最初の一回で私を殺せたはずだ!」
「……っ! 一回で終わったらつまらないじゃない!」
「今も私を殺せるのに、こうして話してる!!」
「っ!」
フランが杖を私に押しこんでくる。
八卦炉を持つ私の手がぶるぶると震える。
しばらく2人、無言でにらみ合う。
そろそろ腕が限界だし、フランに睨まれて実はすごく怖いので涙目になっていたが、フランもなぜか涙目だった。
涙目の少女が2人、空中でにらみ合う。すごいシュールだと思った。
「っもう!」
フランが杖を引き、私は前のめりに倒れかけて、何とか姿勢を戻す。
「……そりゃあ、寂しかったわよ」
「……ほらみろ」
フランはちょっと涙声で、ぐすっと鼻をすする。
私は疲れ切っていて、息を整えている。
「だから、言ったんだ。友達になろうぜ」
「……でも、みんな私を怖がったり閉じ込めたり」
「その皆の中に、私はいないだろ。そりゃ、怖がってたけどさ」
「やっぱ怖いんじゃないぃ……」
「だから友達になろうって言ってるんだよ」
「怖いのに?」
「怖いけど、怖くないぜ。信じてる」
フランはやっぱり驚いたような顔で、目を瞬かせている。
「信じてる?」
「おう。友達だろ? 友達だから信じるんだ」
「ふふ、さっきから意味不明よ」
クスクスと口元に手をあてて笑う。
ずっと一杯一杯だから、そりゃ意味不明だろうよ。
考える前に喋ってるからな。
「さあ、自分でも何を言ってるのか分かんないぜ。でも、言い忘れてた事があった」
「なに?」
「私の名前。霧雨魔理沙だ。よろしくな」
「マリサ? マリサ……。わ、私はフランドール・スカーレット」
「そうか、フランって呼んでいいか?」
「う、うん。いいいいいよ?」
「なんだお前、急にどうしたんだ?」
見ると、顔を紅潮させて左手でスカートの端を、右手で帽子をギュッと握っている。
その体は小刻みに震えており、見ているこっちにも緊張が伝わってきそうなほどだ。
「べべべべべ、別に? なん、なんでも、ないわよ?」
「声、裏返ってるぞ」
「うりゃがえってにゃ、なんか、ないわよ?」
「噛んだな」
うー、っとうなりながら両手で帽子を目深にかぶっている。
なんだこいつ。
すっごい可愛い。
「緊張するなって。自然にしようぜ」
「し、自然、よ?」
「喧嘩もした仲だろ?」
「あ、そうだ。マリサ、怪我は大丈夫? ごめんね……」
一転してしょんぼりとした表情。
「いいんだよ、大した怪我はないし」
ホントに大した怪我はなかった。
軽く痣がついたのと、腕を切って血が出たくらいで、やけど一つない。
瓦礫で腕を切ったのが一番の怪我って、どれだけ手加減して弾幕を撃ってくれてたのか。
それよりも、箒の方がやばい。
結構ボロボロで、折れそう。
「でも、血が出てる……」
フランがそっと私の腕に触れる。
壊れ物を扱うように、優しい手つきだった。
「く、くすぐったいぜ」
身をよじって避けようとするが、意外とギュッと握っていて離してくれなかった。
フランが、傷口にそっと顔を近づける。
「ごめんね、マリサ……」
「ちょ、フラン……!」
そっと、その舌が傷口に触れる。
ちょ、ちょっとまて吸血鬼! 吸われる!
「ん……!」
と思ったが、牙を突き立てられる事はなく、子犬のようにペロペロと傷口を舐めてくるだけだった。
「……くすぐったいぜ」
「マリサの血、おいしい……」
幼い外見の癖に、やけに色っぽい恍惚とした表情で、呟かれる。
そういえば、帽子どこ飛んでったんだろう。
関係のない事を思いながら、私はフランにされるがままになるのだった。
*
図書館にて、遠見の水晶越しに様子を見たパチュリーが見たのは、犬のように魔理沙の傷口を舐めるフランと、くすぐったそうに身をよじる魔理沙の姿だった。
急に分身体が消えたので、何があったのかと慌てて様子を見た結果、パチュリーは多大な疲労感に襲われた。
「どう? マリサ大丈夫だった?」
チルノが魔理沙の様子を聞きながらパチュリーの水晶を覗く。
そしてパチュリーと同じような表情をして、隣の椅子にドカッと腰を下ろした。
「心配させておいてこれだよ!」
「……なにが起こったのかしら」
もとより魔理沙を心配していなかったルーミアは、瓦礫の山を一人で崩しながらその様子を見て、魔理沙らしいと苦笑する。
「どうせまた変な友人を作ってるんだろうな。魔理沙らしい」
その頭のお札のリボンはほとんど解けかけていた。
* * *
何度も何度も書き直し、やっと完成できました。
フラマリ! フラマリ!
このSSのスタンスは、基本的にほのぼのです。
原作の世界観のため何度か戦闘はありますが、シリアスにはならないと思います。
ガチバトルは霊夢の役目なんで、魔理沙視点ではこういう感じに話が進んでいきます。
今後もつきあって頂けたら嬉しいです。
‐チラ裏‐
創作掲示板でこの作品の紹介を見つけましたb
すごい嬉しかったです!
名前は出しませんが、この場を借りて紹介者の方にお礼申し上げます!
この書き込みが余計な事でしたらすぐに消します。