とりあえず、箒を霧の湖に向けた。
紅魔郷本編では、たしか最初はルーミアと戦うんだっけ。
ルーミア……ゲームではあそこで初対面なんだけど、人里の近くにも出て来るから普通に面識あるんだよなあ。
本編では霧の湖にも行った事ないんだっけ?
私、紅魔館に入ってないけど、普通に門まで行ったことあるぜ。
うーんと、美鈴と咲夜とも一応面識あるし。
……まだ誤差の範囲内だよね?
そんなに原作から離れてないよね?
「あら、魔理沙じゃない」
「あれ? 霊夢?」
霧の湖へ行く道中、霊夢とばったり出会った。
「異変だぜ!」
「見ればわかるわ。まさか、あんた異変解決に向かってるの?」
「もちろん! 霊夢もそうだろ?」
「異変解決は巫女の役目よ。あんたは家で震えてなさい。弱いんだから」
「なにおう! 私だって努力はしてるんだぜ?」
「……知ってるわよ。でもあんたは来ちゃダメ」
「えー! 横暴だぜ」
「いいから! あんまり言う事聞かないんだったら……!」
「へへっ! いつまでも弱いままの私と思うなよ!」
揉め事はスペルカード決闘方で。
まだ幻想郷全体に浸透してないけど、私と霊夢は小さい頃からやってきた。
まあ、一度も勝ったことはないんだけど。
宙空に対峙して距離をとる。
同時に右手を動かし、それぞれのスペルカードを構えた。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
本家の威力には程遠いだろうが、私の魔力でも作り出せた『魔理沙』のスペル。
私の周囲に魔力が満ち、小さな星型の弾幕が無数に取り巻き四散される。
普通の妖怪なら、このスペル一枚で撃退できる。と思う。多分。
でも霊夢は難なく私の弾幕の隙間を低速で掻い潜り、まっすぐこっちに向かって飛んできた。
「霊符『夢想封印』!」
掲げられたスペルカードから、色とりどりの弾幕が生み出されていく。
一瞬、狙いを済ますように霊夢の周りをぐるりとまわってから、一気に私に殺到してきた。
「いつまでも同じスペルで私に勝てると思うなよ!」
箒を握り直し、殺到する前方の弾幕をキッと睨みつける。
*
「……ん?」
目が覚めた。
「……あ、負けちゃったのか」
また私の負け、みたいだ。
霊夢はホント、鬼のように強い巫女だ。いや、原作だと鬼以上に強いのか。
私が弱いのもあるけれど、まったく。
辺りをざっと確認すると、私は適当な大きさの木の根元に放置されていたみたいだ。
まだ紅霧が晴れていないことから、異変解決に間に合うと思って安堵した。
「あーあ。…霊夢は心配性だな」
倒れていた私の上に浮かぶ紅白の陰陽玉を見てつぶやく。
これ、博麗の秘宝じゃないっけ?
意識のない私のお守りとはいえ、異変の最中に秘宝を置いて行くなよ。
「って、これ置いて行くのはまずいんじゃないか?」
あの霊夢が負ける姿を想像もできないけど、それでも自分の武装の一つがないと苦戦するだろう。
急いで起き上がり、宙に浮く紅白の陰陽玉を手に取る。
私が手に取ると陰陽玉は力を失ってずっしりと重くなった。
急いだ方がいいだろうか。まだ遠くに行ってなければいいんだけど。
「あなたは食べても良い人類?」
と、後ろから声を掛けられた。
「なんだ、ルーミアじゃないか」
「あれ、マリサ? こんな所で何してるの?」
振り向くと、両手を横に広げたいつもの奇妙なポーズで宙に浮かぶルーミアが。
あの封印のお札を取ると、EX化すると噂の……。
よかった。普通にお札のリボンは付いてる。
「ちょっとこの、紅霧の異変を解決しに行くところだぜ。なあ、博麗の巫女を見なかったか?」
「巫女?」
「すっごい強い人間」
「あー。さっき私のこと弾幕ごっこでボコボコにした人間?」
「たぶんそうだ。どっちに行ったか知らないか?」
「うーん。霧の湖の方だから、多分あっち」
「あっちか。ありがとなルーミア」
なにかお礼できるものはないかとポケットに手を突っ込むと、自作の飴玉が数個でてきた。
砂糖水を煮詰めて丸めた簡単なものなのだが、頭を使う時などに重宝している。
「お礼だ。とっておけ」
「わー。ありがとー」
ルーミアに一個渡し、自分も一つ口に入れる。
ルーミアは口に含んだ途端にガリゴリ齧って食べていた。
「じゃあまたな!」
トレードマークの魔女帽子をかぶり、箒に乗って飛び立つ。
「ちょっと待って」
「ん、どうした? まだ飴欲しいのか?」
浮かび上がったところでルーミアに袖をひかれた。
「私も一緒に行っていい?」
ニコニコと純真そうな笑顔。
この顔だけ見ると、とてもこいつが人食いの妖怪だとは思えないな。
「異変の最中は妖精が騒いでいるから危ないぜ?」
「そーなのかー?」
「怪我するかもしれない」
しかしルーミアは袖を離そうとしなかった。
「マリサも危ないよ?」
「私はお前よりも強いからいいんだよ」
「聞き捨てならないなー」
ルーミアは笑顔だけど、ちょっと引き攣っているように見えた。
「まあ、付いてくるのは構わないぜ。帰りたくなったら勝手に帰れよ」
「うん!」
能天気そうな笑顔でにこーっとルーミアは笑った。
同行を拒否する理由もないので、好きにさせる。
ん? また原作と違う形になってないか?
「どうかしたー?」
……まあいいか。
「なんでもない。さ、行くぜ!」
「おー!」
* * *
原作のルーミアを意識して書いてみました。
違和感あったら書きなおします。
矛盾点などもあれば随時書きなおしていきます。