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No.20277の一覧
[0] 【習作】「だぜ娘奮闘記!」(現実→東方)[クイックル](2012/04/05 23:35)
[1] プロローグ 紅霧から[クイックル](2010/07/16 14:11)
[2] 閑話1 少し過去の事[クイックル](2010/07/16 13:50)
[3] その1 vs霊夢[クイックル](2010/07/20 04:11)
[4] 閑話2 ツンデ霊夢[クイックル](2010/07/16 14:03)
[5] その2 vsチルノ[クイックル](2010/07/16 14:01)
[6] 閑話3 さいきょーの妖精[クイックル](2010/07/18 04:08)
[7] その3 vs美鈴[クイックル](2010/07/20 04:20)
[8] その4 vsパチュリー[クイックル](2010/07/20 04:28)
[9] その5 vsフランドール[クイックル](2010/08/03 11:05)
[10] その6 vsレミリア[クイックル](2010/08/04 05:57)
[11] 閑話4 かりすまは投げ捨てるモノ[クイックル](2010/09/06 10:28)
[12] 回顧話1 マスパができるまで(依頼編)[クイックル](2010/09/05 09:18)
[14] その7 目が覚めて[クイックル](2012/04/05 23:34)
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[20277] 回顧話1 マスパができるまで(依頼編)
Name: クイックル◆bad3b9bc ID:b764bb8a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/05 09:18
今年の夏の幻想郷は、例年よりも暑い。
特にここ最近はずっと暑い日が続いていた。
雨もしばらく降っていなく、日照りで農作物が枯れ、人里の方では何人も熱中症で倒れた。
人間よりも丈夫な妖怪すら元気がないので、静かな様子が今年の夏の異常な暑さを物語っている。
元気なのは妖精くらいだが、妖精たちは自然の発露なので、花が枯れている地域ではその妖精さえ元気がない。
しかしここ太陽の畑では、今年も満開のひまわりたちが一杯に日差しを受けて輝いていた。

「ふう、あっついわねぇ」

夏の間、畑を管理する風見幽香もさすがにこの暑さに参っている様だ。見た目には全くわからないが。
日傘を肩で支え、手に下げた桶の水を柄杓ですくって植物たちに少しずつ水をあたえる。
この広大な畑一杯の植物に、彼女は毎日1人で水を与えていた。
もう何日も休まずに、ずっと水を汲んできては撒いている。
朝水をまいた場所も、昼には乾いているけれど。
焼け石に水、という諺を体現しているような働きぶりだが、この畑は枯れる事がない。
風見幽香のような強力な妖怪が近くにいて世話を焼いているというだけで、植物たちは僅かに妖気を受けてエネルギーとし、なんとかその姿を保っているのだ。
しかし、今のままではいずれ枯れてしまうだろう。

「こうあっついと、さすがの私でも参ってくるわ。日差しが強すぎて、花たちも枯れそうになるし」

言葉とは裏腹に、その額に汗一つ掻かず、むしろ涼しげな様子で畑の中を進んでいる。
桶の水が無くなり、柄杓を桶に突っ込んで片手に下げる。
ふう、と一息ついて、日傘越しに広がる青空と太陽を見上げた。

「雨、降らないかしらね」

ここ二週間ほど、雨は降っていなかった。
人里でも対策を練っているが、井戸水が枯れるなど水不足に陥っている地域も多くあるようだ。
しかしそれは幽香にとってそれはどうでもいい事で、彼女の関心は人間よりも植物に向けられている。
彼女の献身的な水やりでこのひまわり畑は維持されているし、彼女自身が独自に掘り当てた水脈はまだ枯れることはないだろう。
いや、水やり自体は大した効果をあげていないが、それでも彼女のおかげでひまわり達は生き長らえていた。

「あら?」

幽香がその音を聞いたのは、恨みがましく太陽を見上げたその一瞬の時だった。
畑に誰かが、風を切って近づいてくる音。
空を飛んでいるのか、なかなか速い。
彼女自身の飛行速度が遅い為か、一定以上の速度ならみんな速いと感じるだろうが。

「なにかしら」

この幻想郷で彼女自身に近づいてくる者など、人妖含めてそうはいない。
人里で出回っている幻想郷縁起という書物によって、彼女は一応の平穏と、人々からの恐れを集めているからだ。
もちろん実力も伴なっていて、さらに本人も弱いものいぢめが好きという性分のため、妖怪も人間もこの時期の太陽の畑に踏み入ってくる事は、ほぼ無い。
しかしなぜか、今この畑に近づいて来る存在がいる。

「いやねえ。ひまわり荒らしかしら?」

極稀にだが、力試しだとか、妖怪退治だとかで彼女に挑む人妖がいる。
しかし博麗の巫女である霊夢以外の人間など取るに足らないし、八雲紫などの強大な妖怪はそもそも彼女にちょっかいをかけない。
木端妖怪や貧弱な人間など、文字通り彼女は相手にしないし、突っかかって来た時に適当に相手をすると、相手は勝手に恐れて逃げ出す。
昔はそういった輩を殺していたが、八雲紫がうるさいので、戦いに来た雑魚は殺さない事にした。
ただ、二度と刃向かう事のないようにいぢめて適当に逃がし、しばらくはまた平穏な日々を過ごす。
戦いは好きだが、あくまでも強者との戦いが好きで、弱いもの苛めは好きだが、あまり弱いものをいぢめているのもつまらない。
彼女はそんな妖怪で、とりあえず友好的ではないが、とくに危険というわけではなかった。
日傘をくるりと回し、こちらから近づくためにふわりと浮かびあがる。
手に下げた桶をそのまま持っているのは、追い払うついでに水を入れてくるからだ。

「なんにせよ、早くお引き取り願わないと。まだ水をもらっていない花がかわいそうだものね」

彼女は妖怪。
長く生きて強力な力を得て、周囲に恐れられている、幻想郷でも上位の存在。
そんな彼女が動く理由は単純。
すべての花は彼女の庇護下にあるため、許可なく摘み取る愚か者に罰を与える。
具体的には、一つの命には一つの命の制裁を。
今この時期に、太陽の畑でひまわりを摘み取るような真似をする人妖はいない。
彼女が四季のフラワーマスターと呼ばれるのは、彼女が何よりも花の味方だからだ。



魔法の森、深部で八卦炉を掲げ、魔力をありったけ注いで術を発動させる。
八卦炉の中心から弱々しく細い光が生まれ、すーっと延びて勝手に消えた。
まずいなぁ、研究に行き詰った。
香霖からもらった八卦炉の性能は、私のポンコツっぷりを考えると身に余る贈り物だ。
うん。どうしてもマスパが撃てない。
ひんやりとした空気の満ちる森の中。
太陽の容赦ない日差しは木々の茂った葉が受け止めているので、今年の猛暑も関係なくこの森は過ごしやすい。
まあ、湿気は凄いから、過ごしやすいと感じるには慣れが必要だけど。

「おっかしいなー……」

私が魔法を勉強してから、ずっと考えていた理論。
もちろん、魔理沙の代名詞であるマスタースパークのものだ。
理論的には間違えてない、はず。
アリスだって専門ではないと言いながら、一応目を通してくれて太鼓判を押してくれた。
その際に言われた「でも魔理沙の魔力じゃ……」という言葉を無視して、こっそり練習しているのに。

「やっぱ、専門家に聞くしかないか」

この場合の専門家は、アリスみたいな魔法使いではない。
そう。元祖といわれる、あの妖怪に聞くのが一番手っ取り早いと思う。
風見幽香。
私が魔理沙になってから呼んだ幻想郷縁起によると、この時期はやっぱり太陽の畑にいるはずだ。
でも、太陽の畑周辺には行くなって霊夢に言われてるしなぁ。

「いや、このまま行き詰って立ち止まるのはもっとダメだ」

ずっとこんな森の中で研究してても、アリスのように頭の良くない私ではいつまで経ってもできない。
なら、少しでも動きまわって、足りない力を補わないと。
そろそろ紅魔郷が始まってもおかしくないし、その時にマスパを撃てないと、魔理沙としてどうかと思うし。
よし、行くか。太陽の畑。霊夢には黙って。

「よしっ!」

そういえば、今年の夏はすっごく暑い。地域によっては井戸が枯れて、水不足になっている所もあるらしい。
比べて、魔法の森はひんやり涼しいので、妖怪に絶好の避暑地となっている。
だから私の家にも今、何人か知り合いの妖怪が来ている。
そいつらに一応声をかけてから出かけないと。
私の家で涼んでいるはずなので、一度家に戻ってから出発だ。
そうだ、人里に氷水を届けないと。
あと、霊夢の家に行ってご飯を食べてから行っても遅くないよな。
立てかけていた箒を手に取り、足元の水桶を持つ。
少し歩いた先にある氷室として使っている洞窟で、アリスが切り分けてくれた氷を水桶に入れる。
これは私の家の分だから、あまり多くなくていい。
洞窟を出てから歩いて、5分もしないうちに私のボロい家が見えてきた。
傾いた看板には、『霧雨魔法店』の文字。

「おーい、戻ったぞー」

「あ、お帰り魔理沙ー」

「おかえりー」

テーブルに突っ伏すようにしているミスティアとルーミアを横目に、桶に入れて氷室からとってきた氷をキッチンに置く。

「あれ、リグルは?」

「魔理沙の様子見て来るって言ってたけど、会わなかった?」

「ふうん」

まあ、あいつなら別にほっといても大丈夫だろ。
少し原作と違ってかなり強いし。
氷をルーミアに砕かせて、半分を床下の収納に、半分を水瓶に入れる。
水瓶には溶けかけの細かい氷と、今入れた大きな氷がプカプカ浮いていた。
保温保冷の魔法をかけて、蓋を閉める。
こういう小手先の魔法はすっかり得意になった。空気を綺麗にする魔法とか。
アリスが念入りに教えてくれたからか、原作と違う私が魔理沙だからなのか。
攻撃性のある魔法はちっともできない癖に、どんどん小手先の魔法を習得していってしまう。
まずいよなぁ。今までは便利だから特に考えてなかったけど、なんだよ保温保冷の魔法って。
だから、今回のマスパ習得は結構本気だったりする。

「ちょっと出かけるぜ」

「えー、遊ばないの?」

「マリサもゆっくりしようよー」

「また今度な。適当な時間に帰れよ?」

ここ最近はずっとこいつらがいるけど、夕方前にはきちんと帰るし、ただダラダラしているだけで邪魔にもならない。
だから特に私も何も言わないし、いつの間にか、居て当たり前みたいな顔をされている。
だからか、随分懐かれたような気がする。
でも兄弟が増えたみたいで楽しいし、1人暮らしの寂しさを感じなくなったから嬉しい。

「むー、わかった。じゃあルーミア、弾幕ごっこでもやる?」

「うん!」

「家の中ではダメだぞ? あと、アリスに迷惑かけるなよ?」

そういえば、ミスチー、ルーミア、リグル、これにチルノが加わればバカルテットだな。
ん、でもリグルは違うのかな?



高く飛んで、人目につかないように人里に入る。
大きな水瓶を箒にぶら下げているので、落とさないように慎重に進む。
しばらく進んで大きな通りに来ると、今年の猛暑の影響が見て取れた。
飲食系の店は水不足のためかどこも閉まっていて、歩いている人たちもみんな番傘をさしたり、手ぬぐいを頭に巻くなどして暑さに耐えている。
それでもこの人里は一番大きいだけあって、まだ人通りが途絶えることはないようだ。
箒に跨って浮かびながら、目的の家を探す。
探すといっても、大きい屋敷なのですごい目立つのだが。あ、ほらあった。
屋敷の塀を飛び越え、広い中庭からそうっと入り、箒にぶら下げていた水瓶を地面に降ろす。
箒にぶら下げているので重さを感じないが、とても大きな水瓶だ。
水瓶いっぱいに水と氷が入っているので、重量も凄い。
私の箒がただの箒なら、ぶら下げただけで折れてしまうだろう。
さすが香霖堂製の箒は格が違った。

「おーい、阿求! あきゅー!」

「はいはい、あんまり叫ばないでください魔理沙さん。余計暑くなるんで」

すぐに襖が開かれて、見知った顔がひょっこり覗く。
九代目阿礼乙女で稗田家当主、稗田阿求。
私とそう変わらない、むしろ私よりも小さなその子が、この屋敷の当主だ。
いつものように不機嫌そうな半眼でこちらを見ているけど、朝が弱いからこういう表情なだけで別に機嫌が悪いわけではない。
小さい頃から体が弱く、屋敷の外にあまり出歩かない引きこもりの少女。
私は縁側で靴を脱ぎすて、勝手に阿求の書斎に入ってその対面に用意されていた座布団に腰を下ろした。

「ごめんごめん。今日はちょっと少なめだけど、氷持ってきたから。また慧音先生に連絡してもらえないか?」

「慧音さんの方に直接行きなさいと、何度言えばわかるのですか。毎日持って来てくれるのは助かりますけど」

「だって、面識のない相手にいきなり水瓶渡されても困るだろ」

寺子屋に通ってたのは2カ月だけだ。それに、もう随分経った。
魔法の勉強を始めてすぐ、寺子屋に通わなくなったから。
いくら慧音先生でも、もう私を覚えていないと思う。

「それに、この暑さで阿求が倒れてないか心配だし」

「心配は無用です」

平気そうに強がっているけど、使用人の人から何度か暑さで倒れたと聞いている。
普段なら、もっと涼しい屋敷の奥の方の書斎に居るのだけど、最近は縁側近くの書斎にいるためだとか。

「いや、まあ何回も聞いてるけど。でも別に、ただ阿求に会いたいから来てるだけだし」

「……そういう言動で、今まで何人の人妖を誑かしてきたの?」

「え、なに言ってんだ?」

キッと睨まれ、首をすくめる。
阿求はひとつため息をつくと睨むのをやめてくれた。

「はぁ……。まったく。慧音さんの方には後で使用人の方に連絡を頼みます」

「おう。いっつも悪いな」

「いえ、むしろ少量とはいえ、感謝します。人里を代表して」

「おい、私が水を持ってきてるって内緒だぜ? 怪しい人間が持ってきた水なんて信用できないし」

「はいはい。そうだ、西瓜が冷えていますけど、ひとつどうです?」

「あー、今日は遠慮しておくぜ」

阿求の誘いを断って、座布団から腰を上げる。
これから太陽の畑に行くから、ここでゆっくりしてたら日が暮れてしまう。

「そうですか」

とちょっと残念そうな阿求。
悪いなぁと思うけど、毎日勝手に家に上がりこんで、いつもお菓子を頂いているので今回くらいは遠慮する。
誘ってくれるのは嬉しいんだけどな。

「悪いな。また明日来るから。あ、水瓶はまた広場に置いといてくれ。夜に回収するから」

「……明日は慧音さんの方に行けばいいでしょう?」

別れ際のその表情はいつも寂しそうで、心がズキっとする。
余計なお世話だってわかってはいるんだけど、やっぱり心配になる。
外見だって私より小さいのに、当主として稗田家を支えている阿求。
体も弱いし、少食だし、結構頑固だから無理するし。
だから、心配で。
頻繁に何度も、阿求の顔を見に来てしまう。
最近は水不足という事で、里の様子が心配なのも事実。
でも、それを口実に毎日阿求に会いに来ている。
私は酷いやつだ。

「へへ、明日は西瓜いただくぜ」

「もうなくなっているかもしれませんよ」

「そしたら、別の何かを頂くぜ」

「まったく。家に何もなかったら来なくなるんですか?」

「いやそれはないな、阿求が居るし。じゃあまた明日な!」

部屋の縁側から中庭に降り、箒に跨る。
体が弱くて、引きこもりがちで同年代の友達がいない。
寂しいよ、それは。
阿求を妹みたいに可愛がっている私からすれば、寂しいし心配だ。
後ろから阿求のため息が聞こえたけど、知らんぷりして飛び上った。
どうせまた明日も来るんだから。



「はぁ……」

彼女は、わかっているんでしょうか。
彼女が来てくれるのを、私がどれだけ心待ちにしているのか。
彼女の困った顔が可愛くて、何度も見たいから憎まれ口を叩いている事を。
彼女は朝のうちに来るので、頑張って早起きして、彼女を迎える。
使用人の方は、そんな私を微笑ましそうに見ていた。
一度、まだ私が眠っている内に来て、帰ってしまった事があるので、こっちとしては朝起きるのも必死なのだ。
彼女は優しいから、私が何を言っても毎日来てくれる。その事に、どれだけ安心している事か。
私の憎まれ口で、彼女が来なくなったらと想像するだけでどれだけ悲しいか。彼女は知っているんだろうか。
私が自ら対面に座布団を用意して、彼女との他愛もない話に興じるのがどれだけ好きか。
少しでも喜んでもらいたくて、少しでも長く居てほしくて、お菓子を用意して彼女の取り留めのない話を聞くのが、どれだけ楽しいか。
彼女の、また明日な、という言葉に、私がどれだけ嬉しく思っているのか。
どれだけ、救われているのか。

「失礼します。上白沢です」

「……慧音さんですか。どうぞ」

襖が開かれ、すっと入ってくる長身の女性。
上白沢慧音。寺子屋で教師を受け持つ半人半獣の里の守り人。
開かれっぱなしの縁側の襖を見て、ああ、と一人頷き、呟くように慧音さんは言葉をこぼした。

「今日も来てくれたのですね、彼女は」

優しげな表情で、まるで彼女自身を前にしているかのように。
元自分の教え子の、姿は見えない優しさを見て、慧音さんは誇らしそうに微笑んでいる。
慧音さんは彼女の事を鮮明に覚えているし、片時も忘れたことはないという。
どんな生徒も忘れないし、いくら時が経っても、慧音さんにとっては自分の教え子だ。
彼女は慧音さんの事をあまり知らないから、もう自分の事なんか忘れてるだろうって言うけれど。

「はい。また、運んでもらえますか?」

「ええ、後で広場の方に持っていきます。ところで、稗田の当主殿」

「なんでしょうか」

「彼女は……魔理沙は元気でしたか?」

魔理沙さんが私の家に訪れるようになってから、毎日聞く言葉。

「はい。彼女は元気でしたよ」

その問いに対する答えも、いつもと変わらないものだった。
底抜けに明るい、彼女の笑顔を思い出す。

「そうですか。いえ、元気ならいいんです。では、私はこれで」

「はい」

慧音さんが部屋を出て、しばらく経つと中庭に姿を現し、彼女が持ってきた水瓶の傍に立つ。
大人が4人がかりでも持てないような大きな水瓶で、ちょっとしたお風呂みたいな大きさだ。
慧音さんは二つずつ縛ってある水瓶の、間の縄を掴んで軽々と持ち上げて背負う。

「では、また」

慧音さんが去って、屋敷は再び静寂に包まれた。
また明日も、彼女は来てくれるだろうか。
来てくれたら、嬉しいな。



人里に水を運んだあと博麗神社に行くと、いつものように霊夢が縁側でお茶を啜っていた。

「おはよう魔理沙」

「よう、霊夢」

箒を傍に立てかけ、霊夢の隣に。
何も言ってないのに、既に湯呑が用意されていた。

「あれ、お茶……」

「ああ、そろそろ来るんじゃないかと思って、先に淹れておいたわ」

さすが巫女さん。
私が来る時間を予測しているなんて。
異変の時以外は勘が働かないって言ってたのに、こういう何でもない時も結構すごい奴だよな。

「ふう、ふう。はい」

「おう。サンキュー」

湯呑を受け取り、中を覗きこむと茶柱が立っていた。
おお、縁起がいい。

「霊夢、見てくれ、茶柱だぜ!」

「あら、よかったわね」

興味がなさそうにしながら、霊夢は空を見上げてお茶を飲み、ほうっと息をついていた。
今日のこれからを思うと、こういう縁起物が何となく嬉しい。

「あれ、でもこの湯呑、霊夢のじゃないか?」

「っえ、ああ、間違えてそっち渡しちゃったのね! でも良いじゃない別に! 変わらないわよ!」

まあ、いいか。
霊夢が気にしないんなら、別に気にすることないし。
少し一服して、靴を脱いで、縁側から家の中に入る。
霊夢の横を通り過ぎ、中途半端に近代化されている台所に向かう。
霊夢の家には、少し前に香霖から譲ってもらった電子ジャーがある。
電気で動くのでなく、霊力や魔力で動くように改造されているけど。
米はそれで炊くんだけど、冷蔵庫はなく、ガスも無い。
それでも随分便利だろうけど。

「今日は夕方来れないから、一人で食っててくれ」

「え、どうして?」

「ちょっと用事で、遠くに出かけるからな」

薪を入れ、魔法の炎で火を入れる。
鍋に水をいれて火にかけておく。

「出かけるって、どこ行くのよ?」

「えーっと、妖怪の山の方にな」

「また仕事?」

「おう。あれ、お味噌が少なくなってるじゃないか」

「あら、嫌ね」

「明日買ってくるぜ」

魔法を使って手早くご飯を作りながら、霊夢と会話する。
こういう簡単で便利な魔法ばっかり覚えるから、いつの間にか文に「一家に1人は欲しい魔法使い」なんて記事にされた事を思い出す。

「たまにはお肉が食べたいわ」

「贅沢言うなよ。高いんだぜ?」

霊夢の神社にお賽銭が入ることはないし、私が稼いだお金も研究とかですぐ無くなるから食事は質素だ。
たまに霊夢が妖怪退治の仕事を請けた時だけ、少し贅沢するけど。

「でも魔理沙のご飯は美味しいから、大好きよ」

「明日は霊夢の番な」

どちらも和食しか作れないけど、何となく味が2人とも違う。
私は霊夢のご飯が好きで、霊夢は私のご飯が好きだって言う。
多分、どちらも心の底では相手に食事当番を押し付けて楽したいから、そう言ってるんだけど。

「……ここに住めばいいじゃない」

「え、なんか言ったか?」

「……別に」

「夜の分も作ってあるから、ちゃんと自分であっためて食べろよ?」

「うん」

しばらく黙々とご飯を作り、ようやくできたので縁側の霊夢を呼ぶ。
ご飯とお味噌汁をよそい、焼いた魚と漬物を卓袱台に並べる。
お茶は霊夢が淹れてくれるから、他の事は私がやる。

「いただきます」

「はい、いただきます」

随分昔から、ずっと慣れ親しんできた食事風景。
これから異変が次々に起こって、宴会とかも増えてきて、こうして2人でご飯を食べる機会とかも減ってくるんだろうなぁ。
楽しみでもあり、少し寂しくもある。
腹ごしらえが済んだら、さっさと太陽の畑に向かうとしよう。



太陽の畑。
四季のフラワーマスター、風見幽香が夏の間滞在する、人も妖怪も寄り付かない花の聖域だ。
向かってる間に色々と考えたが、素直に教えてもらえるとは思えない。
けど、特に名案が浮かぶ訳でもない。
無い頭を絞っていてもしょうがないから、とにかく行動に出ることにした。

「おっ」

遠目に、黄色い絨毯が見えた。
見渡す限り一杯に広がる、一面のひまわり畑。
雨が降っていないからか、少し元気がなさそうだけど。他の地域のように、枯れている様子はない。
やっぱり幽香が居るからか、あたりには他の人妖の気配がない。
そのひまわり畑と私の中間あたりに浮かぶ人影。
遠目には見えないが、少し近づくとそれが風見幽香だと確認できた。

「あら、お客かしら? こんな辺境まで御苦労ねえ」

妖気なんか身に纏わず、物腰も柔らかに。
ふわふわと浮かびながらこちらに来る女性は、一見友好的に見えた。
けれど、雰囲気から伝わってくる、去れという圧力。
四季のフラワーマスターの、その圧倒的な存在感に全身から冷や汗が溢れた。

「よう。ちょっと聞きたい事があるんだが」

けれど、私は魔理沙だから。
冷や汗が流れるけれど、どんな強力な妖怪にも、神にだって、絶対に怯んだり逃げたりしない。
それに、ここには自分から来るって決めたんだ。
逃げたくなるのはわかっていた事だし、覚悟もきめてきたんだ。
こんな威圧感なんて、この先何度も受けることになるんだ。
だから、ここで逃げるわけにはいかないんだ。
震えそうになる体をしゃんとのばして、恐れが声に出ないように意識する。

「そう? 私はお花の水やりが忙しいの。できれば帰ってくれません?」

にこりと笑うその様は可憐。
しかし妖気や殺気などではない、滲みでる不穏な気配。
強者のみが身に纏う、独特の気配というか。
言葉で伝えるのは難しいけれど、威嚇や戦闘などする気配はないのに、こちらが勝手に怯んでしまう雰囲気を、風見幽香は持っている。
心中で、慣れない恐怖にすくみ上がる。

「へえ、そうなのか」

この猛暑のなか、彼女自身は気温を感じているのかいないのか、汗一つ流していなかった。
その手に枯れない花を持ち、二コリと可憐な花を持つ、人間友好度最悪の妖怪。

「ええ。素直に帰れば一撃で許してあげるけど、戦おうっていうんなら、困っちゃうわね」

うーん、と口元に人差し指をあてて悩むような仕草。

「見たところ、あんまり栄養にならなそうだけど」

と前置きしてから、彼女はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべた。

「この日照りでひまわりが参っているの。少しでも良いから栄養になってもらうわ」

やっぱり来るんじゃなかった。
こいつ、すっごい怖いって。
寒くもないのに、歯がカタカタ鳴りそうになる。
グッと奥歯を噛んで、それに耐える。

「別にあんたの水やりを邪魔しに来たんじゃないぜ。あんたの用事が終わるまで待つから、少し話を聞いてもらえないか?」

「あら、信用されると思う?」

「……そうだな。じゃあ、花の水やりを手伝うっていうのは?」

「ふうん。素直に帰るつもりはないの?」

ブワッと、その存在感が膨れ上がる。
僅かに妖気が含まれているのは、本格的に私を排除しようとしているからか。

「ちょ、ちょっと待てって!」

「生憎、あんまりゆっくりしてる暇はないの」

時間がない?
って!

「うおわぁ!」

目の前に、閉じられた日傘を突きつけられる。
予備動作なんてなくて、全く関知できなかった。

「帰りなさい。ね?」

言葉使いはあくまで優しい。
それなのに、冷汗は止まらない。本能の警鐘が、鳴りやまない。
ゴクリと生唾を飲み込む。

「……っ!」

「ふふふ、それとも、いぢめて欲しいのかしら?」

栄養になるつもりはない!
今は退くべきだ!
本能の警鐘。
膝は震えそうになり、目には涙が浮かんできた。

「そ、それでもっ」

「あら?」

でも、私は、魔理沙は、こんな所で素直に退くような、そんな人じゃない。
しつこいくらい食い下がって、何度もぶつかって怪我をしても、懲りずに食い下がって。
そして、どれくらい時間をかけても、颯爽と目的を完遂するような、そんな人だから!

「む、むりやり、にでも、手伝うぜ……っ!」

怖いけど、震えそうになる膝に、力を入れた。
涙で視界がぼやけるけど、力強く睨みつけた。
喉がひくついて声を出し辛いけど、精一杯声をあげた。

「ふうん。人間の癖に、強がりだけで、この私から逃げないのね」

「な、なめるなよぅ……!」

けど私の強がりなんて、すぐ見透かされて。
余裕そうな笑みを浮かべている幽香の前には、やっぱり意味なんてないんだろう。
でも、それでも私はここを離れようとは思わなかった。
殺されるかもしれないけど、無傷でここを出て行くつもりなんてない。

「いいわよ」

無理を承知でここに来たんだ。
アリスみたいに頭が良くなくて、霊夢みたいに強くないから。
私にできることなんて、こうして直接赴いて、力を借してもらいたいって伝えるだけだ。

「……え?」

ってあれ?

「水やり、手伝わせてあげるわ」

「……ホントに?」

なんで?

「あなたから言ったのよ。嫌なのかしら?」

「い、いや! 手伝うぜ!」

とりあえず、一歩前進、か?
え、でもなんでだ?
いや、理由なんてどうでもいい。
今はいい。

「あ、ありがとう!」

どうせ聞いても答えてくれないだろうし、考えてもわからない。
今はただ一生懸命、幽香を手伝って、早く水やりを済ませる事。
それが終わってからマスタースパークを教えてもらえばいい。
教えてくれるかわからないけど、その時にまた考えよう。



まだ信用されてないだろうけど、今は2人でひまわり畑の上を、幽香の先導で飛んでいた。

「あのさ、日照りが続いているのに、水はどこから調達しているんだ?」

さっきから幽香の手に持つ小さな桶と、中に入った柄杓が気になる。
まさか、あれで?
いやいや、まさかなぁ。
それこそ一日中やっても終わらないぜ。

「少し畑から離れた所に、井戸を作ってあるわ」

「い、井戸を?」

自分で作ったんだろうか。
なんか、想像しづらいなぁ。

「そ。ここら辺で一番大きな水脈じゃないかしら。そこから水を汲んでるわ」

やっぱ自分で掘ったんだろうな。
なんか幽香のイメージちょっと変わるな。
っていうか、やっぱりその桶と柄杓で水やりかよ!

「な、なあ」

「なにかしら?」

「まさか、その桶と柄杓でやってるなんて言わないよな」

「……他にどうやるのかしら?」

信じられない。
どれだけ広いと思っているんだ、このひまわり畑。
最初に水をあげた所はすぐに乾くじゃないか。

「妖怪って、随分気が長いんだな」

「まあ、短命の人間と比べたら、そうなんじゃない?」

「ここ最近、ずっと水やりをしてるって言ってたよな。ちゃんと休みながらだよな?」

「妖怪は寝なくてもいいのよ、人間と違ってね」

こいつ、何日も休まずに水を与え続けていたのか。
ちょっと自慢げに言ってるけど、呆れてしまった。
普通の妖怪ですら、暑さで参ってるのに、ひまわりを優先して、自分は何日も休まずに。
その癖少しも疲れた様子がないのは、さすが風見幽香といったところか。
でも、ちょっと威圧感が凄くて、妖怪の中でもトップクラスに力が強くても。
この風見幽香という妖怪は、ちょっと頭が悪いんだと思う。
いや、悪いっていうか、考えてない。天然って言った方が近い感じか。

「その小さい桶じゃダメだって。いつかこの畑も枯れちゃうぜ。いいか、ちょっと考えを言わせてもらうぜ」

信用されてないと思うから、私の考えを聞いてもらえるかわからないけど。

「もっと大きい桶を用意するんだ。なんなら、私が持ってきてもいい」

香霖堂に行けばあるだろうし、なかったら作ればいい。
そもそもそんな小さい桶を使って何往復もする事ないんだ。

「それで、底に穴を開けて畑の上を飛びまわれば、こうして柄杓で水をかける必要なんてないだろ」

「ふうん。でも、それだと最初はうまくいっても、奥の方に水をあげられないわ」

おお、ちゃんと聞いてくれた。
ちょっと得意になって話を続ける。

「おいおい。私はただの人間じゃないぜ?」

「そうかしら。ちょっと魔力のある、普通の人間にしか見えないけど」

「その通り、私は普通の魔法使い。霧雨魔理沙だ」

「魔法使い?」

「得意な魔法は、地味なものばっかりなんだけどな。でも、役に立つ魔法だ」

水漏れを防ぐ魔法とか、結構使うんだぜ。
雨漏りしてる屋根とかに。

「桶に魔法をかけるから、お前はそれを力ずくで破ればいいだけだ。できるだろ?」

「……へえ。なるほどね」

幽香も、一応納得しているみたいだ。
不可能な事ではないし、たぶん、このペースで続けるのにもいい加減うんざりしてる筈。
だから、ただの気まぐれでも良い。
気まぐれで私の考えを受け入れてくれたら、私はそれを実行するだけだ。

「じゃあ、大きい桶持ってくるぜ!」

「待ちなさい、その必要はないわ」

急いで香霖堂に向かおうとしたのに、幽香が呼び止めてきた。
このまま逃げると思ったのだろうか。
それとも、やっぱり私の話なんて信用できなかったんだろうか。
恐る恐る振り向く。

「あなた、私を何だと思っているのかしら」

「え?」

問いの意味がわからない。
風見幽香だろ?
四季のフラワーマスター。

「まあ見てなさい。大きな桶があればいいのね」

言って、ひまわり畑の上空から少し離れた地面に降り立つ幽香。
私もその後を追って地面に降りるが、辺りにはなにもない。
一体何をしようとしているのか、見当もつかない。

「そうね。これで良いかしら」

軽くつま先で地面を掘って、ポケットに手を入れている。
取り出したのは、青々とした緑の葉っぱ。
それを浅く掘った地面に埋めると、軽く手をかざす。

「私の能力は、植物を操る程度のもの」

葉っぱを埋めた地面が、不自然に隆起する。
土を掻き分けて姿を見せているのは、さっき埋めた葉。
ただし、形と大きさが全く違う。

「これくらいの事はできて当然」

完全に姿を現した葉は、勝手にくねくねと動いて組み合わさり、あっという間に大きな葉の桶が姿を現した。
……すごい。
幻想郷縁起には、この能力は幽香にとって大した価値のないものだって書いてあったけど、そんなことはない。
葉っぱ1枚あれば何でも作れるんじゃないか?

「す、すごい……」

驚きで声を出せないでいた私が見ている間に、幽香はさっさと同じ桶をさらに5つ創り出していた。
最初に出来上がった一つを持ち上げてみると、木でできた桶よりもずっと軽い。
幽香の妖気によるものなのか、見た目よりずっと頑丈だ。

「これで桶はできたわね。じゃあ、早く始めましょう」

やっぱり、こいつは凄い妖怪だ。
マスパを習う前に、個人的にはその植物を操る方法を教えてほしいくらい。
あれ、でもじゃあ、幽香はなんで木の桶と柄杓でずっと水やりしてたんだろう。
もっと大きい桶がないからだと思ってたけど、作れるじゃんか。
……やっぱり、何も考えてないんだろうな。



水やりは順調に進み、日が落ちる少し前になんとか地面全体を潤すことが出来た。

「ふうん、あっという間に終わったわね」

「ああ……。ちょっと疲れたぜ」

太陽の畑の中、地面が盛り上がって丘になっている所で夕日が沈む様子を見ながら、幽香は日傘をくるりとまわした。
半日以上飛んでいたので、魔力も底を尽きかけたし、クタクタに疲れた。
それでも幽香にとっては劇的な速度で水やりが終わったようで、素直に驚かれた。

「ふう。さすがに、少し疲れたわ」

「そう、か。少しか」

今まで休みなしでずーっと水やりをしていて、それでやっと少し疲れるって。
やっぱり、妖怪の中でも規格外の存在なんだな。
何も考えてないんだろうけど。

「一応、ひまわり達に代わってお礼は言っておくわね」

「別にいいよ。むしろお前が感謝されてる立場だろ」

1人でずーっと枯れない様に水をあげていたんだから。
ひまわりにとっては、幽香は聖母みたいな存在じゃないか。

「私はお前に用があったから手伝っただけだぜ。だから、感謝されても困る」

「ああ、そういえばそうね。話だけは聞いてあげるわ」

夕日を見ていた幽香が、こちらに顔を向ける。
ハッとするような美貌、知り合いの人妖はみんな美人ばかりだ。
地面に降ろしていた腰を上げ、幽香に向かい合う。
こうして向かい合ってみると、結構身長差があることに気づく。
普段は飛んでばかりいるので、そういう事は気にしないんだけど。
幽香を、キッと見上げる。

「教えてほしいことがあるんだ」

「何かしら。自慢じゃないけど、花の知識以外になにか教えられるものは少ないわよ。それに、素直に教えるかしら」

幽香がクスクスと笑いながら聞いてくる。
思っていたより友好的な態度に面食らいながら、私は口を開きかけ、閉じた。
いや、マスタースパーク教えてって言っても、幽香には何の事かわかんないよね?

「言いづらい事? それとも、妖怪退治に来たとか?」

今までずっと手伝ってたのに、まだ信用されてないのか。
それとも、単純に私をいぢめたいのか。
どっちか判断できないけど、後者は勘弁してほしい。

「えーっと、スペルカードルールって知ってるか?」

「知らない」

「えーっとな」

だから、あたりさわりのない部分から話を進めて行く。
そんなに興味はなさそうだったが、一応聞いてくれた。

「それで、強い妖怪に、強力な技をな、教えてもらいたいんだよ!」

うん、我ながら、即興で作った理由にしては、なかなか立派じゃないだろうか。

「へえ」

でも、反応は淡泊。
がっくりと肩を落とす私を見て、ニヤニヤと笑っている。

「お願いします! 一個でいいから!」

「だーめ」

「なんで!?」

「嫌だからよ」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、こちらの頼みを断る幽香。
はあ、やっぱりこうなるよな。
素直に教えてくれるとは思わなかったし、むしろ今こうして話せるだけで大した進歩だと思う。

「はあ。でも、どうしてもお前に教えてほしい事があったんだよなぁ」

「残念ね」

「お願い! お願いします!」

もう一度、頼み込む。
何度も何度も頼む。
何度も断られて、いい加減涙目になってきたけど、その様子を幽香は楽しそうに見ているだけで、首を縦に振ることはない。
日はとっくに沈んで、月が中天にかかる頃。
いい加減諦めて、今日は帰ろうかと思った時。
ざぁっと風が吹いた。帽子が飛びそうになって、慌てて頭を抑えて顔をあげると、幽香はひまわりの方を見ていた。
私もつられて、ひまわりを見る。
僅かに濡れたひまわりが風に揺れ、一斉に頭を垂れている。
視界一杯のひまわりが、一斉に。
その様子は幻想的でもあり、そんなに強くない風の中で、その体勢を維持するひまわり達は不気味でもあった。

「……わかったわ」

「え?」

幽香が、口を開く。

「いいわよ。とびっきり強力な技、教えてあげる」

「え、なんで?」

さっきまで、嫌だからとか面倒だからとか言って教える気も無かったのに。
一体どうして。

「どうでもいいじゃない。嫌なの?」

「い、いや。よろしくお願いするぜ!」

そうだ。今は理由なんてどうでもいい。
幽香の気が変わらないうちに、慌てて頭を下げた。

「明日もひまわりの水やりに来なさい。終わったら教えてあげるから」

まさか、一日で約束を取り付けられるとは思わなかった。
マスパ完成の道が、一気に近づく。

「やった……っ」

小さくガッツポーズ。
幽香は相変わらずひまわり畑に視線を向けていて、私の方を見ていない。
風が止み、ひまわりの方を見ると、日中となんら変わらずにまっすぐ凛とした姿勢で立っていた。

「明日も来るから、よろしく頼むぜ」

ひまわりの方にも頭を下げ、スカートの埃を払って箒を掴む。

「じゃあ、また明日な!」

幽香から返事はなかったけれど、なんとなく雰囲気を察して私は飛び立った。
明日からの特訓に、思いを馳せて。


* * *


何度か推敲してますけど、なんだか不安。
依頼編と書いてますけど、単発です。

AQNを出せて満足。
AQN可愛いよAQN。

魔理沙と霊夢は、もう結婚しちゃえよと。
異変や妖怪退治以外の霊夢はけっこうヘタレイムなイメージです。
そして稼ぎのない霊夢の世話をすることになんの疑問も抱いていない。
もう結婚しちゃえよと。
霊夢はお茶を淹れる時、茶柱が立った方を魔理沙に渡してます。

そして、みんな大好きゆうかりん。
Sっ気の強い彼女ですけど、他キャラとの絡みが少ないですよね。
電波、ゴホンッ。天然っぽくて可愛らしいし、どっちかって言うと強者との戦いの方が好きそう。


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