「ッ――――!?」
ガシャン、と音を立てて“03の拳銃が床に落ちる”。
「この音は・・・・・・ッ!」
「キャパシティダウン。テレサが作った能力者の演算を司る分野を刺激する音だ。俺たち非能力者にとってはただの甲高い音だがな」
膝を折りそうになるが、寸でのところで踏みとどまる。
(集中がかき乱される・・・・・・音を出所は!?)
「スピーカーは外の車両に積んである。この病院は“ご丁寧に窓が全開”だからなあ、ここまでよく届くだろ?」
狙撃のために開けていたのが逆に仇となり、キャパシティダウンは03の頭によく響く。
「もう1人も今頃耳を押さえてうずくまってるだろうよ。後はもう1人居るはずだが――まあ終わってから回収すりゃあいいだけの話だ」
(此処には――ない。危険ですが上になら・・・・・・)
耳を押さえながら視線を左右に動かすが、目当ての物は見つからない。
当然だ、廊下に転がっているはずもない。
「とりあえずお前だけ連れてさっさと木山とガキ共を回収するか」
「ぐッ・・・・・・!」
どうにか拳銃を取ろうと背を向けたところを背後から蹴り飛ばされる。
「もしも尻向けて誘ってんなら悪ぃが、実験体に欲情する趣味はないんでな」
地面に這いつくばった03の髪を掴み、無理矢理に立ち上がらせる。
「テメェらはそこで這いつくばってろ。無能でも一応テレサの部下だから俺が殺すわけにもいかねえんだわ」
木原数多は床に伏せる2人の男に冷たく言い放ち、03を伴って最上階に繋がる階段を目指して歩き出した。
そうして木原数多は最上階へと辿り着く。
「・・・・・・」
扉が開いた音に木山春生が振り向く。
まず目に入ったのは新しい教え子である妹達の1人。
次に木原数多。
「・・・・・・同じ眼だな。あの時、私がその眼を知っていればこんなことにはならなかった」
「あのジジイと同じってのはちいと心外だな」
笑みを崩さず、数多は言う。それが本心からの言葉かどうか木山春生には分からなかった。
「で、お前はどうやったら大人しくついて来てくれるんだ? こいつを殺すと言えばいいのか――そのガキ共を殺すと言えばいいのか?」
「っ・・・・・・下衆が」
吐き捨てるように木山春生は言って、続けて口を開く。
「・・・・・・」
「馬鹿なことは考えないでください。あなたがすべきことは何か・・・・・・分かっているはずです」
苦しそうに顔を歪め、03が木山春生を促す。
「・・・・・・ああ、分かっているさ。今、私が抵抗したところでどうにもなりはしない――分かって、いるさ」
そう、どうにもならない。
下手に抵抗して、もしも子供たちを殺されたら?
そんなことはさせない、させるわけにはいかない。
なら、木山春生が取るべき選択肢はただ一つ。
「・・・・・・だが、たとえどうにもならなくても。どんな絶望の中でももう二度と――――諦めないと誓ったんだッ!」
木山春生は駆ける。
妹達や数多と比べればあまりにも遅く、直線的な動き。
「おーおー、吠えるねえ。感動的だ。だがよ――」
どうにもならないことはどうにもならない、そう言って数多は03に突きつけたものとは別の拳銃を木山春生へと向ける。
しかし、
――バチッ
「――そう。抵抗するのは、反逆するのは、私たちの役目――!」
レベル3程度の力しかない持たない03。キャパシティダウンの影響下ではその能力を発動することもままならないはずの彼女がこれだけ時間を掛けて漸く起こしたのは、日常でも起こり得る静電気による火花放電。
――03が知る由もないが、もしもこの時、数多がいつもと同じようにマイクロマニピュレータを手に着けていたならば結果は違った。
数多が妹達との戦闘でモーターが用いられているマイクロマニピュレータが役に立たないと外していなければ、静電気は何の結果も残さなかっただろう。
「――ちっ」
熱いものに触れば手を引くように、静電気が起きれば人間は反射的に手を引く。
数多もその例に漏れず、03に突きつけた銃ごと、手を引いた。
「ふッ――!」
振り向く力を利用した回し蹴りがもう一方の銃を弾く。それを見届けるよりも速く、03は後ろに跳び、懐から何かを取り出す。
「伏せて!」
それだけ叫び、木山春生の返事も待たずに03は取り出した何か――スタングレネードのピンを抜き、床へと落とす――はずだった。
「――はっ、テメェら妹達の考えることなんざ、全部把握してんだよ!」
背後から強い踏み込みの音が聞こえたかと思うと、次の瞬間には03の手からピンを抜く前のスタングレネードは奪われ、さらに03の体は数多の蹴りによってガシャンと派手な音を立ててキャスターラックに激突してラックの中身をぶちまけながら倒れ伏した。
「バァカ。テメェら妹達の思考パターンは完全に頭に入ってる。無駄だっつーの」
「ぐっ・・・・・・!」
数多は倒れ伏す03の背を踏みつけ、スタングレネードをその場で即座に分解してみせる。
「ただ、その女の行動は予想外って言えば予想外だ。そんな女だとは思わなかったぜ?」
「くっ・・・・・・」
再び銃口を向けられ、木山春生の動きが止まる。
「だがまあ、やることが分かってるとはいえ抵抗を続けられるのも面倒だ――達磨にして持ってくか?」
「・・・・・・」
03はもう静電気を起こすことすら容易ではない。
数多もこの状況で妹達が取る行動は投降することだ、と確信していた。
(確かにこの音のせいでまともに能力は使えない・・・・・・だからスタングレネードを使い、自分の耳を潰して捨て身で挑むつもりだった)
ギュッと手に力が入る。
03はまだ諦めてなどいない。
この状況になった時点で、03の頭には次の策が浮かんでいた――それがとんでもない愚策だと知りながらも、それしか思い浮かばない自身の頭を呪ったが、その策を実行に移すことに躊躇いはなかった。
「ああ――?」
数多が怪訝な声を上げると同時、03は床にぶちまけられた物の中からペンを二本手に取り、“迷うことなくそれを用いて己の鼓膜を潰した”。
「・・・・・・成る程な。確かにテメェらは違う。ンな手を妹達は使わねえ」
自ら耳を潰し、キャパシティダウンの影響下から脱する。
そんな愚策を他の妹達がするはずはない。
キャパシティダウンから解放されたところで、聴覚を失えば以降の戦闘は格段に不利になる。
――だが彼女たちは知っていた、耳が潰れた状態で最強の能力者 一方通行と戦った者を。
故に03にとってこの策を実行することに迷いなどなかった。
そしてそれは、02にとっても――――。
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03大活躍・・・?の回
とりあえず数多に一泡ふかせました。
木山せんせーも頑張りました。
次回は漸く軍曹登場。
そんでもって調子に乗って版移動。
いくら【ネタ?】とはいえ、割と続いてきたので色んな人の感想欲しさに負けました。