→1.冴子に付き添いを頼む
2.一人で行く
冴子についてきてもらって呆れの視線を浴びながら用を足したあたしは、職員室に戻ると冴子からありがたい説教をもらった。
全て冴子の方が正論なので何も言い返せない。でもね、女の子なんだからあたしも冴子も羞恥心って捨てちゃいけないと思うんだ。
「恥ずかしいなら物陰でペットボトルにでもすれば良かっただろうに」
ぐうの音も出ない。
最後に拳骨を頭に一発頂戴して説教は終わる。
皆が準備を終えたことを確認して、井豪が声を上げた。
「皆準備はいいな? 行くぞ!」
井豪を先頭に少し後ろに小室、冴子とあたしと平野、麗と鞠川先生、最後尾に高城という順番で、陣形を組んで進む。
武器が飛び道具である関係で遠目が利くあたしと平野が索敵を担当して<奴ら>をより早く発見し、先制を加えて冴子、小室、井豪、麗の四人で片付けるという形だ。
鞠川先生は救護役、高城は予備戦力兼鞠川先生の護衛となる。ぶっちゃけこの二人まで<奴ら>に襲われるようならあたしたちは全滅してるだろうから、この人選にあまり意味はない。
「最後に確認しておくぞ。無理に戦う必要はない、避けられるときは絶対に避けろ! 転がすだけでもいい!」
「連中、音にだけは敏感よ! それから普通のドアなら破るくらいの腕力があるから掴まれたら喰われるわ! 気を付けて!」
冴子と高城が皆を見回し、言い聞かせる。
些細なものも見逃さないように視線をあちこちに飛ばして回りに気を配っていたあたしは、階段の踊り場で<奴ら>が固まっているのに気付き眼を凝らす。
「人がいる! まだ生きてるわ!」
踊り場の壁際に、<奴ら>に囲まれて男子生徒三人と女子生徒二人が追い詰められていた。
「キャアアアアアアアアアア!」
逃げ場が無くなったことに気付いたのか、女子生徒の一人が悲鳴を上げる。
冴子たちが助けようと飛び出していった。
「平野! 皆の突撃を援護するよ!」
「は、はい!」
あたしはその場で八節を踏み、ギリギリと弓を引き絞った状態のまま叫んだ。
「いい加減見飽きたのよ、アンタたちは!」
射られた矢は真っ直ぐに飛翔し、過たず男子生徒に接近していた<奴ら>の側頭部を射抜く。
続いて平野の釘打ち機から発砲音が飛び出し、<奴ら>の何匹かが頭に釘を生やして倒れ付す。
平野に笑いかけた。
「ナイスショット!」
この一合で冴子たちは<奴ら>を排除したようで、手招きを受けてあたしたちも降りていく。
皆の会話を聞きながら、あたしは射た矢を回収し残量を確認していた。
ちなみに職員室に入る前に使った二本は無事だったのでちゃんと拾っている。数に限りがある以上、一本たりとも無駄にはできない。
現在矢筒に入っているのが金属シャフト矢十本で、今回回収したのが一本。バッグの残りが……やばい、金属シャフト矢も遠的用のカーボン矢も一パックずつしかない。うう、脱出まで持つかなぁ。
不安になってため息をつくあたしの他所では、男子生徒たちの同行が決まったようだった。
「どうした?」
あたしの様子を見咎めた冴子が尋ねてくる。
「ん、ちょっとね。ここに来るまでに矢を使い過ぎたかも」
「そうか。なら少し下がれ。戦えない者も増えた。彼らを見てくれると助かる」
「任されたわ」
冴子に手をひらひらと振ってあたしは後ろに下がった。
□ □ □
ようやく正面玄関に着いた。
そろそろと忍び足で一番左の下駄箱に身を隠したあたしたちは、ここをどう通るか頭を回らせる。
井豪が影からそっと身を乗り出して、驚いたようにすぐに身を隠す。
「……駄目だ。突破するには数が多すぎる」
「見えてないから隠れることなんて無いのに」
「じゃ、高城が証明しろよ」
小室に言われ、高城は身を竦ませた。
怖いよね、そりゃ。
腕を組んで思案していた冴子が口を開いた。
「たとえ高城君の説が正しいとしても、この人数では静かに進むことなどできん。校舎の中を進み続けても……襲われた時、身動きが取れない」
後続の視界を塞がないように肩膝を立てて中腰になっている麗が、緊張に満ちた声を出す。
「玄関を突破するしかないのね」
麗の方を見て頷いた冴子は、再び正面玄関がある方向に視線をやった。
「誰かが……確かめるしかあるまい」
一同の間に緊張が走る。
井豪が一度出ようとして、麗に泣きそうな顔で引き止められた。
それ以外は誰も名乗りを上げない。今まで<奴ら>と立ち向かってきたのとは訳が違う。出口が近いのだ。なまじ希望が見えているだけに、誰も命を賭けようとは思えないのだろう。
でも、冴子を始めとして責任感の強い人も多いから、これは多分言い出すタイミングを窺っているせいもある。きっと誰かが口を開けば連鎖的に口を開くはずだ。
あたし? あたしは冴子以外のことで危険に飛び込むつもりなんてこれっぽっちもありませんが、何か?
……って、ここって誰が言い出すんだっけ? まずい、思い出せないや。
周りを窺っていると、小室と眼が合った。しばし眼を彷徨わせたあと、何故か眼を瞑ってため息をついている。何ぞ?
「僕が行くよ」
冴子と井豪がぴくりと眉を動かし、麗が顔を小室に向けて驚愕の表情を浮かべる。
「待て孝、やっぱり俺が行く」
「私が先に出た方がいいな」
「いや、毒島先輩はいざという時のために控えていてください。永も、できれば皆のフォローに回ってくれ」
出て行こうとする孝に、麗が聞いた。
「孝……なんで? 何もかも面倒じゃなかったの?」
「なんでかな」
小室は麗を振り返った。
麗の隣にはいつも通り井豪が寄り添っていて、そこに小室が入る隙間は無い。
ずっと永の位置に座りたいと思っていたのだろう。永が嫌いなわけではなくとも、それでも嫉妬がないなんてことは有り得ない。
いや、本当は嫌いだったのかもしれない。
あるいは耐えられなくなったのか。これ以上、自分ではない誰かに寄り添う麗を見るのが。
「今でも面倒だよ」
遣る瀬無い笑顔で出ていく小室を見て、あたしには小室の気持ちが、少し分かった気がした。
思わず後を追おうとした麗が、厳しい表情の永に止められている。
想い届かず、独りで限りなく死に近い難事に挑む小室が哀れだった。
だからだろうか。
「いいえ、あたしが行くわ」
冴子に危険があるわけでもないのに、そんな馬鹿なことを言ってしまったのは。
□ □ □
皆に猛反対された。
衝動的に言ったのは確かだけど、そこまで反対されるとは思っていなかったあたしは、半ばムキになって下駄箱の陰から出た。
<奴ら>の後姿が、すぐ目の前にある。
勇ましかった気持ちはたちまち萎び、後悔が頭をもたげてくる。形振り構わず冴子のもとに逃げ帰りたくなるのを堪え、あたしはこれも冴子のためだと思い込む。そう思わないとやれそうにない。
──こわい。
震えて音が鳴りそうになる歯を強く噛み締め、一歩一歩、亀のような歩みで歩を進める。
ちょっと走って手を伸ばせば届くような位置に<奴ら>がいる。
緊張からか聴覚が異常に冴えていた。自分の呼吸の音さえ耳に障り、思わず唾を飲み込む。そんな音すら五月蝿い。
一番前の<奴ら>の足元に、誰かが脱ぎ捨てたのか、下駄箱の上に置きっぱなしにしていたのが落ちたのか、シューズが落ちている。あれを投げれば<奴ら>を誘導できるかもしれないけど、そこまで近付いたら気付かれるかもしれない。
弓で射ようにも近過ぎて、弦の音で絶対に気付かれる。
<奴ら>の目の前に着いた。もう身体が震えるのが止められない。恐ろしい。
──こわい。
ゆっくりとしゃがんで、<奴ら>から目を離さずにシューズを拾い上げる。
震える手で振りかぶって──投げた。
傘立てに当たって大きな音が響く。四方八方を向いていた<奴ら>が、皆あたしたちがいる方向とは逆の方向に一斉に振り向き、よろよろと向かい出した。
その隙に、正面玄関のドアに手を掛けて、そっと外に開く。蝶番が軋む小さな音にさえ怯えた。
<奴ら>は戻ってこない。
やり遂げたことに安心して、涙が出てくる。
下駄箱の陰で息を潜めていた冴子たちに向かって、泣き笑いの表情になりながら頭の上で大きく丸印をつける。
冴子が真っ先にやってきた。井豪も飛び出そうとしたけど、傍にいた麗に袖を引かれて来れなかった。
皆が足を忍ばせて外に出て行く中、ドアの横に陣取った冴子があたしの頭をぽんぽんと撫でた。
その手がとても温かくて、あたしは少しだけ皆から視線を外して、冴子の手の温もりに身を委ねた。
それがいけなかった。
一番最後のさすまたを持った男子生徒が正面玄関を潜ろうとした瞬間、金属と金属をぶつけたような鋭い音が響く。
既に外にいた井豪と麗、あたしと一緒にドアの横にいた冴子と小室が、驚愕と焦燥に彩られた表情で振り返る。
あたしは、最悪のタイミングで原作の展開を思い出していた。
そうだ、あの男子生徒だ。あらかじめこれを予見できたあたしだけは、彼を見張っていなければならなかったのに。どうして忘れていたの!? こんな馬鹿なことで冴子を危険に巻き込むなんて!
あらぬ方向に歩いていた玄関内の<奴ら>がぴたりと止まり、一斉にあたしたちの方に振り向く。
外を見ていた小室が叫んだ。
「走れ!」
外からも中からも<奴ら>が近付いてくる中、一斉にあたしたちは地を蹴る。
冴子がすぐに横に飛び出し、手近にいた一体の顔面に木刀を薙ぐ。その<奴ら>は顎が折れ、歯が砕け、さらに余波によって転倒した。
すぐに冴子の後を追い、冴子の動きと同調するように動いて<奴ら>に矢を射掛ける。
頭に当たらなくてもいい。ちょっとでも牽制になってさえくれれば、その隙に冴子が動ける!
「なんで声だしたのよ! 黙っていれば手近な奴だけ倒してやり過ごせたかもしれないのに!」
走り出そうとする小室に怒鳴る高城に、モップの柄で<奴ら>の足を払って転ばせながら麗が叫んだ。
「あんなに音が響くんだもん無理よ!」
麗の隣でバールのようなものを<奴ら>に叩きつけた井豪が前方を見て言う。
「前からも来るぞ! 先に逃げた鞠川先生たちが危ない!」
先頭に飛び出しながら小室が叫んだ。
「話すより走れ!」
あたしと冴子はお互いに死角を補い合い、時には位置を入れ替えながら、マイクロバスへの道を作るのを小室と麗に任せ、殿として集団の最後尾に残り、<奴ら>の相手をする。
右を見ても左を見ても前を見ても<奴ら>だらけで、幸い誤射を気にする必要は無いが、如何せん数が多すぎる。
「冴子! 下がらないと囲まれるよ!」
「だが下がれば集団の横腹が<奴ら>に襲われる! もっと動いて<奴ら>を引き付けるぞ!」
「無茶言うなー!」
思わず叫ぶあたしの後ろから、冴子の鋭い気合が迸る。冴子の気配が一瞬ぐんと大きくなり、背後で動く速度がさらに上がった。
「ああもう! こうなったらとことんやってやるわよ!」
あたしは叫び、肩に背負っていたスクールバッグを邪魔だとばかりに振り上げ、遠くに見えるマイクロバスに向けて放り投げた。投げたスクールバッグは大きな放物線を描いて集団の先頭を通り過ぎ、マイクロバスの前に落ちる。大きな落下音がした。
段々興奮してきたのか、口元をにやりと釣り上げながら冴子が叫ぶ。
「相変わらずの馬鹿力だな! 凄い音がしたぞ!」
「うっさい茶化すな!」
冴子の後ろで、目に見える<奴ら>に片っ端から矢を射る。激しく動きながらでは射形に注意を払えず、中々狙った場所に矢が飛んでくれない。それでも<奴ら>の数が多いので外れることは少ないが。
先頭を行く誰かが叫んだ。
「もうすぐだ!」
その声が意味する事実にあたしは笑みを浮かべる。あとちょっとだ、頑張るぞ!
自分を鼓舞しながら背中の矢筒に回した手が空を切る。
「げ! もう矢がない!」
すぐ後ろで<奴ら>の頭を木刀で叩き割った冴子が、あたしにちらりと眼を向ける。
「充分だ。先頭集団が今バスに着いた。私たちも戻ろう」
「オッケー」
攻撃手段を失ったあたしは冴子に守られながら、少しずつ後退を始める。
後退しているうちに、タオルを首に巻いた男子生徒が<奴ら>を叩くのに夢中になって、何時の間にかあたしたちの前に取り残されているのを見つけた。
「ちょっと! あんたも戻らないと……」
「ぎゃあああああああ!」
あたしが言い終わる前に、男子生徒は<奴ら>にタオルを掴まれ、噛み付かれた。そのまま押し倒されて咀嚼される。
「卓造!」
目元にそばかすの残る女子生徒が、高城の制止を振り切って男子生徒のもとへ走っていく。
ちくしょう、あたしのせいだ! 矢が無くなったからって下手に下がるんじゃなかった!
「やああ!」
下がるのを止めて弓を棒のように振り回し始めたあたしを見て、冴子が目尻を釣り上げた。
「こら、粗末にするなとあれほど……! 君はもう下がれ!」
あたしは手を止めて冴子を振り返り、怒鳴る。
「命には代えられないわ! だいたい冴子が残ってるのに一人で戻れるわけないでしょうが!」
「嬌、前を見ろ!」
慌てて正面を向いたあたしに、<奴ら>が飛び掛ってきた。
反射的に避けようとして硬直する。
今後ろに冴子がいるから、避けたら冴子が襲われる!
「──!」
眼を見開いたあたしは死を覚悟した。
集中力が限界まで増し、一瞬が永遠に引き伸ばされる。
走馬灯は思い浮かばない。ただ絶対に冴子を死なせるものかと思っていた。
例え喰い殺されることになっても、それで冴子を守れるなら構わない。
──冴子に指一本触れられると思うな!
心の中でそう絶叫する。
だから、<奴ら>の額に突如ぽすと間抜けな音を立てて釘が生えた時、あたしは状況を理解できずまじまじとそれを見つめてしまった。
我に返り振り返って釘が飛んできた方向を確認する。
マイクロバスの方からだ!
「平野ぉ! ファインプレーだよ!」
腕を突き上げて快哉を上げた。
続けて援護射撃を受けてマイクロバスの前にようやく辿り着いたあたしと冴子は、小室と一緒に他の皆が乗り終わるまで大立ち回りを演じる。
「急げ!」
「急げ、急げ!」
冴子や他の誰かが叫ぶのを聞きながら、両手で弓を持って奴らの顔面に一閃する。
鞭で打ち据えたような鋭い音とともに<奴ら>が仰け反り、その隙に後退して反転する。入れ違いに飛び込んできた冴子が仰け反らせた<奴ら>の脳天に木刀を叩き込むのを見ながら、またすぐさま違う<奴ら>を弓で打ち払う。
ええい、さっきからうっとぉしい! こいつら全然減らない! というか弓が! 弓が壊れる!
マイクロバスを振り返った。
「急ぎなさいよ! まだなの!?」
「いつまでも支えられんぞ!」
横で奮戦する冴子の声にも焦りが出ている。
最後の一人がバスに乗り込むのを見て、冴子が小室に叫んだ。
「小室君、全員乗った! 君も戻れ!」
「御澄先輩から先に!」
「冴子が先よ!」
奇しくもこの状況で譲り合いになって、バスから固唾を飲んで見ていた高城がヒステリックに絶叫する。
「誰からでもいいから早く乗りなさいよ!」
あたしたちは顔を見合わせる。
結局冴子、あたし、小室の順でバスに乗り込んだ。
小室がバスのドアを閉めようとする時、あたしは今まで切り開いた道を通って、集団が走ってくるのを見つけた。
その先頭を走る人物を見て、あたしは冴子に声をかける。
「ねえ、あれ紫藤じゃない? うちの担任の」
「そうだな」
あたしたちの背後で、麗の低い声がした。
「……紫藤」
運転席で発進の準備をしていた鞠川先生が運転席近くに来た小室を振り仰ぐ。
「もう出せるわよ!」
「もう少し待ってください!」
「前にも来てる! 集まりすぎると動かせなくなる!」
「踏み潰せばいいじゃないですか!」
口論する鞠川先生と小室の後ろから、冷静な声で高城が鞠川先生の言いたいことを補足した。
「先生の言う通りよ。この車じゃ何人も踏んだら横転するわ」
「……仕方ない。永、出るぞ!」
小室が井豪に声をかけて金属バットを片手に飛び出そうとするのを、麗が後ろから抱き付いて止める。
「助けることないわ! あんな奴死んじゃえばいいのよ!」
「何だってんだよ一体!」
「孝、待て! 麗には事情があるんだ!」
あたしは彼らのやりとりを聞きながら、強い既視感に襲われていた。あたしの手は無意識のうちに彷徨い、誰かが持ち込んでいてくれていたらしいスクールバッグを探し当てる。
どこか夢見心地のまま、あたしは矢を取り出してフラフラと歩いていく。
「……嬌?」
横にいた冴子が、不思議そうな表情であたしを見ている。
まだ空いていたドアの前に立ち、矢を持ったまま遠くの紫藤先生を見つめる。
「何をしている?」
冴子の声が耳に入らない。
代わりに感じる強烈な既視感。あたしはこの場面を知っている? どうして?
……決まっている。あの忌々しい前世の記憶のせいだ。
前世の記憶が、あたしにまだ知らない場面を幻視させた。
大きな屋敷で、皆が束の間の安息を得ていた。高城が誰か、両親らしき男女と一緒にいた。着物を着た冴子が、刀を手に捧げ持っていた。
そこから先はまだ不明瞭でよく分からない。
ブレーキが利かなくなったバスがバリケードに突っ込んだ。運転席の紫藤先生が鼻と口から血を流している。大人数の<奴ら>に鉄門が破られ、安息の場だった屋敷が、<奴ら>によって汚されていく。
誰かが<奴ら>に突っ込んでいった。彼と行動を共にした結果、<奴ら>に埋没して見えなくなる長い髪。
それがあたしには何故か、小室と冴子に見えた。
一瞬で脳が沸騰した。血液が泡立った。身体中の血管が燃え上がって、今まで感じたことのない怒りがあたしを満たす。
させない。そんなことはさせない。許せない。他の誰が許しても、冴子を守ると決めたこのあたしが許さない。
それがもし本当に起きるのだとしたら、例え人殺しと罵られることになるとしても、その原因を生かしてはおけない。
もしかしたらあたしの勘違いで、それは冴子ではなかったのかもしれない。別の誰かだったのかもしれない。それでもあたしは己の衝動が命じるままに行動した。
外に飛び出して八節を踏む。
「っ! 止せ!」
どこか遠くから冴子の声が聞こえる。
紫藤先生があたしに気付いた。
あたしは──
1.紫藤先生を射る
2.紫藤先生を射ない